交際関係解消時のトラブル|別れ話でもめたときの対処法を弁護士が解説
この記事は、2026年10月時点の民法・刑法・民事訴訟法などをもとに作成しています。刑法の「懲役」は2025年6月から「拘禁刑」に改められており、本文は改正後の表記で記載しています。個別の事案での見通しは、お金を渡した経緯や残っている記録によって変わります。
「入院費が足りないと言われて何度か振り込んだのに、後から入院していなかったと分かった」「親の手術費用だと聞いて渡したお金が、別のことに使われていたようだ」。交際相手の病気や家族の不幸を信じてお金を渡した方からは、こうしたご相談が寄せられます。反対に、受け取った側から「事情を大きめに話したのは確かだが、渡されたお金を全部返せと言われて困っている」というご相談をいただくこともあります。
「嘘をついてお金を受け取ったのなら詐欺だから返してもらえる」という説明はよく見かけますし、それ自体が誤りというわけではありません。ただ、実際には「そのお金は貸したのか、あげたのか」「嘘だったのは病気そのものか、金額か、使い道か」によって、使える法的な根拠も、求められる立証の重さも変わります。この点が整理されないまま相手に詰め寄ると、話がこじれたり、相手と連絡が取れなくなったりすることもあります。
この記事では、交際相手の病気や不幸の話を信じて渡したお金について、嘘だと分かった後に返還を求める道筋を、渡したときのやり取りと嘘の中身から整理します。結婚を前提にした金銭の要求は結婚詐欺に遭ったかも|結婚詐欺の立証と損害賠償請求で、SNSだけでやり取りしていた相手への送金は国際ロマンス詐欺で送金してしまった|被害回復の可能性と限界で、相手から「あなたのせいで病気になった」と金銭を求められている場合は「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方で扱っていますので、あわせてご覧ください。
まず確かめたいのは、そのお金を「何として」渡したのか
返還を求める理屈は、お金を渡したときに二人の間でどのような話になっていたかによって変わります。病気の話に嘘があったかどうかを考える前に、渡したときのやり取りを思い出すところから始めます。
「治ったら返す」と言われていた場合
「治療費が足りないので貸してほしい」「保険が下りたら返す」といったやり取りがあった場合、そのお金は貸したお金(民法587条の消費貸借)として扱える可能性があります。貸したお金であれば、病気の話が嘘だったかどうかにかかわらず、約束どおり返すよう求めることができます。返す時期を決めていなかったときは、相当の期間を定めて返すよう求めることになります(同法591条1項)。借用書がなくても、LINEのやり取りや送金の記録から返す約束を示せることがあります。詳しくは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で解説しています。
「返さなくていい」と渡した場合
「治療に使って」「返さなくていいから」と渡した場合は、贈与(同法549条)と評価されるのが通常です。贈与したお金は、別れたからといって返してもらえるものではありません。それでも、贈与を決めた理由そのものが相手の嘘によって作られていたのであれば、後で述べる詐欺による取消しなどの道があります。
返すかどうかを決めていなかった場合
実際のご相談で多いのは、返すかどうかを話し合わないまま、相手の窮状を聞いて振り込んだというケースです。この場合、受け取った側は「もらったものだ」と主張することが多く、貸したことを示すのは簡単ではありません。返す約束がはっきりしないときは、貸したお金としての請求と、嘘を理由とする請求の両方を視野に入れて組み立てることが現実的です。整理すると、次のようになります。
| 渡したときのやり取り | 法的な位置づけ | 返還を求める主な根拠 |
|---|---|---|
| 「治ったら返す」「必ず返す」 | 貸したお金(消費貸借) | 返す約束(民法587条・591条1項) |
| 「使って」「返さなくていい」 | 贈与 | 詐欺による取消し(同法96条1項)、損害賠償(同法709条) |
| 返すかどうかの話がない | どちらにあたるか争いになりやすい | 貸したお金としての請求と、嘘を理由とする請求を併せて検討 |
嘘だったのは何か|4つの型で見通しが変わる
「嘘だと分かった」といっても、何が嘘だったのかはご相談ごとに異なります。詐欺を理由に返還を求めるには、相手の嘘がなければお金を渡さなかったという関係が必要です。そのため、嘘の中身によって見通しが変わります。
| 嘘の中身 | 例 | 見通しの目安 |
|---|---|---|
| 病気や不幸そのものが作り話 | 入院していなかった、亡くなったはずの親族が健在だった | 嘘と送金のつながりが見えやすく、返還を求めやすい型 |
| 病気は事実だが、金額を膨らませていた | 10万円ほどの治療費を50万円と伝えていた | 膨らませた部分について返還を求める余地がある |
| 病気は事実だが、使い道が違った | 治療費として受け取り、別の支払いに充てていた | 受け取った時点で騙す意図があったかどうかが争点になりやすい |
| 説明の一部だけが事実と異なる | 入院先や日付の説明が食い違う | 食い違いがお金を渡す判断に関わったかで評価が分かれる |
作り話だった場合と、使い道が違った場合の違い
病気そのものが作り話であれば、「病気だと信じたから渡した」という関係が比較的見えやすくなります。これに対し、病気は本当で、受け取ったお金を別のことに使っていたという場合は、受け取った時点で騙すつもりがあったのか、受け取った後に気が変わったのかが問題になります。後者であれば、贈与としては有効に成立しており、使い道が違ったことだけを理由に返還を求めるのは難しいことがあります。詐欺かどうかは、お金を渡した時点で相手が事実と違う説明をしていたかどうかで判断されるためです。
騙す意図まで示せない場合
相手が「本当に病気だと思っていた」「検査結果を勘違いしていた」と説明する場合のように、騙す意図までは示しにくいこともあります。そのようなときでも、治療費に充てるという事情が前提として相手に示されたうえで渡していたのであれば、錯誤(民法95条1項2号・2項)を理由に取り消せないかを検討する余地があります。どの主張を組み立てられるかは、残っているやり取りによって変わります。
贈与として渡したお金を取り戻す道筋
返す約束のないお金でも、次のような道筋で返還を求められる場合があります。
口約束の贈与の解除は、渡し終えたお金には使えない
書面によらない贈与は解除できますが、すでに渡し終えた部分は解除の対象になりません(民法550条)。そのため、振り込んだ後のお金をこの規定で取り戻すことはできません。「来月も渡す」と約束していた分を断る根拠にはなりますが、既に渡したお金については、次の詐欺による取消しなどを検討することになります。
詐欺による取消しと返還の範囲
相手の嘘によってお金を渡す判断をした場合、その贈与は取り消すことができます(同法96条1項)。取り消された贈与は初めから無効だったものとみなされ(同法121条)、受け取った側は受け取ったお金を返す義務を負います(同法121条の2第1項)。無償で受け取った人が取り消せる事情を知らなかった場合は、手元に残っている範囲で返せばよいとされていますが(同条2項)、自ら嘘をついていた相手はその事情を知っているため、この限定は及ばないと考えられます。「もう使ってしまったから返せない」という言い分は、嘘をついて受け取った相手にはそのまま通るものではありません。
不法行為としての損害賠償
騙されてお金を渡したことは、不法行為として損害賠償を求める根拠にもなります(同法709条)。取消しと損害賠償はどちらか一方に限られるものではなく、事案に応じて併せて主張することがあります。裁判では、渡したお金に加えて弁護士費用の一部が損害として認められることもありますが、精神的な苦痛についての慰謝料が認められる範囲は限られることが多いです。
「嘘だった」をどう示すか|立証の組み立て
返還を求める側は、相手が事実と違う説明をしたこと、そしてその説明を信じてお金を渡したことを示す必要があります。病気や家族の事情は相手側の情報であるため、ここが最も手間のかかる部分です。
話の記録と送金の記録を一本の時系列にする
まずは、相手がどのような事情を話し、それを受けていつ、いくら渡したかを並べます。手元で確認したいのは、次のような記録です。
- 病気や不幸について相手が話したLINE・メール・通話の録音。
- 「入院費」「手術代」など、お金が必要な理由を述べたメッセージ。
- 振込明細・送金アプリの履歴・ATMの記録と、手渡しした日の記録。
- 相手が見せてきた診断書や領収書などの画像。
振込の記録だけでは、お金が移ったことしか示せません。「なぜ渡したのか」が分かるメッセージと組み合わせることで、嘘と送金のつながりが見えてきます。記録の残し方は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするもご参照ください。
嘘だったことを示す材料
病気が作り話だったことは、相手の他の言動との食い違いから示すことが多くなります。入院していたはずの期間にSNSへ旅行の写真を投稿していた、別の人には違う説明をしていた、見せられた診断書の病院名や書式に不自然な点がある、といった事情です。共通の知人から聞いた話も材料になりますが、伝え聞いた話にとどまるため、それだけで足りるとは限りません。
確かめ方には限度がある
病院に問い合わせても、患者の情報が第三者に伝えられることは通常ありません。家族を名乗って聞き出そうとしたり、相手のSNSやメールに無断でログインしたりすると、その行為自体が問題になります(不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条など)。事実を確かめるための行動が、新たなトラブルの原因にならないよう注意が必要です。相手が見せてきた資料に疑問がある場合は、訴訟の中で原本や裏づけとなる資料の提出を求めるなど、手続の中で確かめる方法も考えられます。
嘘だと分かった後の進め方と期間
気づいた直後の動き方によって、その後の交渉のしやすさが変わります。
問い詰める前に、記録の保全と送金の停止を
嘘に気づいた直後に相手を問い詰めると、メッセージを消されたり、連絡が取れなくなったりすることがあります。まずは手元のやり取りを保存し、追加の送金には応じないようにします。関係を続けるかどうかと、お金の整理は切り離して考えることができます。相手と連絡が取れなくなった場合の進め方は【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法で解説しています。
請求の進め方
返還の求め方は、話し合い、書面での請求、裁判所の手続と段階を踏むのが一般的です。
- 渡した日・金額・理由を一覧にし、返還を求める金額を確定させる。
- 書面で返還を求め、回答の期限を示す。
- 返還に応じる場合は、金額・支払方法・期限を合意書にまとめる。
- 応じない場合は、60万円以下であれば少額訴訟(民事訴訟法368条1項)、それを超える場合は通常の訴訟を検討する。
相手が分割での返還を申し出ることもあります。その場合は、支払いが滞ったときの扱いまで合意書に入れておくことが大切です。
刑事手続との関係
嘘をついてお金を受け取る行為は、詐欺罪(刑法246条1項、10年以下の拘禁刑)にあたる可能性があります。ただ、警察の捜査は犯罪を処罰するためのもので、お金を取り戻す手続は民事で別に進める必要があります。交際中の金銭のやり取りは騙す意図の立証が難しいことから、相談しても直ちに捜査に進まないこともあります。また、「返さなければ警察に行く」「職場に知らせる」などと強く迫ると、請求する側の言動が問題になることがあります。伝え方については「金を返せ」と強く迫った|正当な債権回収と恐喝の境界をご参照ください。
期間の制限
返還を求める権利には期間の制限があります。詐欺による取消しは、騙されたと気づいて取り消せることを知った時から5年、お金を渡した時から20年を過ぎると行使できなくなります(民法126条)。不法行為による損害賠償は、損害と相手を知った時から3年が原則です(同法724条)。貸したお金の返還請求は、原則として請求できることを知った時から5年で時効にかかります(同法166条1項)。期間の数え方は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで整理しています。
よくあるご質問
相手が「あのお金はもらったものだ」と言っています。返してもらうことはできませんか。
もらったもの、つまり贈与だったとしても、贈与の理由が相手の嘘によって作られていたのであれば、詐欺を理由に取り消して返還を求める道があります。一方で、病気が事実で使い道だけが違った場合など、取り消す理由が認められにくいこともあります。贈与と貸したお金の違いは別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いでも解説しています。
相手は「必ず返す」と言ったまま、返済が進みません。どうすればよいですか。
相手が返すと認めていることは、時効の更新にもつながります(民法152条1項)。口約束のままにせず、返す金額と期限をメッセージや書面で確認しておくことが大切です。分割で返す約束をする場合は合意書を作っておくと、その後の請求がしやすくなります。
渡したのが何年も前で、合計額がはっきりしません。請求できますか。
通帳の記録や送金アプリの履歴は、一定期間さかのぼって確認できることが多いため、まずは手元の記録で分かる範囲を集計します。手渡しの分は、メッセージや手帳の記述から金額を推し量ることになります。請求する金額は、記録で裏づけられる部分を中心に組み立てるのが現実的です。あわせて、上で述べた期間の制限にかかっていないかも確認します。
まとめ
- 渡したお金が貸したもの(民法587条)か贈与(同法549条)かで、返還を求める根拠が変わる。
- 貸したお金であれば、病気の話が嘘だったかどうかにかかわらず返還を求められる(同法591条1項)。
- 贈与でも、相手の嘘によって渡したのであれば詐欺を理由に取り消し、返還を求められる(同法96条1項・121条・121条の2)。
- 病気は事実で使い道だけが違った場合は、渡した時点で騙す意図があったかが争点になりやすい。
- 口約束の贈与の解除は、渡し終えたお金には使えない(同法550条)。
- 嘘と送金のつながりは、話の記録と送金の記録を時系列で並べて示す。
- 取消しは気づいた時から5年、損害賠償は原則3年など、期間の制限がある(同法126条・724条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。交際相手の病気や家族の事情を信じて渡したお金について、渡したときのやり取りや送金の記録をもとに、返還を求められるかどうか、どの根拠で進めるかを一緒に整理します。
交際中に受け取ったお金の返還を求められて対応に迷っている方からのご相談もお受けしています。お一人で相手と向き合う前に、まずはお気軽にご相談ください。


