【男女トラブル】未婚の交際相手の浮気相手に慰謝料を請求できるか|婚約・内縁との分かれ目と、請求する前に考えること
この記事は、2026年10月時点の民法(令和8年4月1日施行の改正を反映)、母体保護法、刑法と、公表されている裁判例の傾向をもとに作成しています。言葉の評価は前後の経緯によって変わるため、具体的な対応は専門家にご確認ください。
「交際相手から妊娠を告げられ、動揺してきつい言い方をしてしまった。あのLINEは後で問題になるのか」というご相談があります。妊娠を伝えた側からも、「相手の返事を読み返すたびにつらくなる。あの言葉は法的にどう評価されるのか」という声が寄せられます。
妊娠を告げられた場面については、「まず落ち着いて話を聞く」「相手を責めない」といった心構えがよく語られます。それ自体は誤りではありませんが、心構えだけでは、どの言葉が、なぜ後で不利になるのかという仕組みまでは見えてきません。
この記事では、妊娠を告げられた直後の言葉が後からどのように評価されるのかを、法律上の前提と裁判例の傾向から整理し、代わりに伝えられる言葉までをまとめます。中絶費用の分担や、認知・養育費の手続そのものは、それぞれの記事に委ねます。
妊娠を告げられた直後の言葉は、後から読み返される
言葉は記録として残り、時系列で並べられる
妊娠の報告は、LINEや電話、対面での話し合いで行われることが多いものです。その場では感情のぶつかり合いに見えても、メッセージは画面に残り、話し合いが録音されていることもあります。後に話し合いがまとまらず、慰謝料や費用の分担が問題になったとき、これらの記録は「妊娠を知ってから、相手がどう対応したか」を示す材料として、日付順に並べて検討されます。
交際を終える場面での記録の考え方は、【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方でも整理しています。
裁判例が見ているのは「告げられてから決断までの対応」
合意のうえでの性行為による妊娠であれば、妊娠したこと自体を理由として、男性に慰謝料の支払義務が当然に生じるわけではないと考えられています。一方で、妊娠から中絶に至るまでの男性の対応が問題とされた裁判例は複数あります。
東京高等裁判所の平成21年10月15日判決は、中絶に伴う不利益は共同の性行為に由来するものであり、男女が等しく分担すべきだという考え方を示しました。その後の東京地方裁判所の裁判例でも、妊娠した女性は、男性から不利益を軽くし、あるいは等しく分担する行為の提供を受ける法的な利益を持ち、男性はそれに応じる義務を負うという枠組みが用いられています。問われているのは「妊娠させたこと」よりも「妊娠を知った後の向き合い方」であり、その中心にあるのが、告げられた直後からの言葉と態度です。
言葉を選ぶ前に押さえておきたい法律上の前提
後で不利になる言葉の多くは、法律上の前提と食い違っています。まず、妊娠をめぐって法律がどう整理しているかを確認しておきます。
| 事項 | 法律上の整理 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 出産するかどうか | 決めるのは妊娠している本人。婚姻していない場合、交際相手の同意は法律上求められていない | 母体保護法14条 |
| 結婚するかどうか | 妊娠を理由に、結婚する義務が生じるわけではない | 憲法24条1項 |
| 父子関係 | 婚姻していない父母の間では、認知によって法律上の父子関係が生じる。出生前の認知には母の承諾が必要 | 民法779条、783条1項 |
| 子の養育 | 父母は婚姻関係の有無にかかわらず、子を養育し扶養する責務を負う | 民法817条の12(令和8年4月1日施行) |
| 認知を求める権利 | 子の側の権利であり、お金と引き換えに放棄させることはできないとされている | 最高裁昭和37年4月10日判決 |
| 中絶させる行為 | 本人の承諾を得ずに堕胎させれば犯罪となる | 刑法215条 |
この前提に照らすと、「産むなら勝手にしろ、自分には関係ない」「同意書にはサインしない」といった言葉は、相手の決定を左右する力を持ちません。それどころか、相手を思いどおりに動かそうとした言葉として記録に残ります。法律上自分に決定権のない事柄について、決定権があるかのように振る舞う言葉ほど、後で不利に評価されやすい傾向があります。
認知・養育費・中絶同意書の基本は交際・パパ活相手の妊娠|認知・養育費・中絶同意書の基礎知識で、ご自身が既婚の場合に生じる問題は【不貞慰謝料】不貞相手が妊娠した場合に生じる問題で解説しています。
後で不利になりやすい言葉|選択と話し合いに関わるもの
選択肢を一つに絞る言葉
「堕ろすしかない」「産むなら一切関わらない」といった言葉は、妊娠を告げられた直後に出やすいものです。東京地方裁判所の裁判例として、中絶以外の選択肢はない、出産しても協力しないという趣旨の発言を繰り返したことが、中絶の選択を強いたものと評価され、慰謝料が認められた例が紹介されています。
この例で注目されるのは、暴力や脅しがなくても、言葉の積み重ねが事実上の強要と見られることがある点です。「中絶してほしい」という自分の希望を伝えることと、それ以外の道を閉ざしてしまうことは、法的な評価の上でも区別されています。
話し合いを打ち切る言葉と、返事をしないこと
「もう連絡してこないで」「そっちで決めて」と突き放したり、メッセージを読んだまま返信しなかったりする対応も、後で問題になりやすいものです。産むか中絶するかを決めなければならない局面で具体的な対応を示さず、話し合いに応じなくなったことや、連絡を避ける態度に終始したことが、相手の法的な利益を侵害したと判断された裁判例があります。
何も言わないことは中立ではなく、記録の上では「向き合わなかった」と読まれることがあります。すぐに答えが出せないときは、そのこと自体を言葉で伝えておくことが大切です。妊娠を伝えた側から見たときの流れは、妊娠を告げたら逃げられた・音信不通|相手を特定して認知・養育費にたどり着くまでで扱っています。
本心と違う約束をする言葉
相手を落ち着かせたい一心で、「結婚しよう」「ずっとそばにいる」「全部払う」と口にしてしまうことがあります。交際を続ける意思がないのに続けると述べ、その言葉を信じた女性が中絶を決意したところ、中絶後は会おうとしなかったという事案で、真意と異なる言葉が出産するかどうかの自己決定を侵害したとして、不法行為と判断された裁判例があります。
また、「結婚しよう」という言葉は婚約が成立していたと主張される材料に、「全部払う」という言葉は支払の約束として扱われる材料になりえます。その場をしのぐための約束は、後から「信じて決断した」という主張の根拠として返ってくることがあります。
後で不利になりやすい言葉|責める・迫る・お金で区切るもの
相手を疑い、責める言葉
「本当に自分の子なのか」「わざとだろう」「避妊していると言っていたはずだ」といった言葉も、思わず出てしまいがちです。父親が誰かを確認したいという気持ちは正当なものですが、相手を責める形で伝えると、妊娠に向き合う前に相手を攻撃した記録として残ります。
確認したいことがあるなら、受診への同行や、出生後の確認の方法を一緒に相談したいという形で伝えるほうが、後の評価の上でも無理がありません。避妊をめぐって主張が食い違う場面は避妊の有無が争点になる場面|感染・妊娠の主張と請求で、妊娠そのものに疑いがある場合は「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方で整理しています。
圧力をかける言葉
「産んだら職場に言いふらす」「親にばらす」といった言葉は、相手の名誉などに害を加える旨を告げるものとして脅迫罪(刑法222条)が、その言葉で義務のないことをさせれば強要罪(同法223条)が問題になりえます。民事の上でも、中絶を強いた事情として評価される材料になります。
「同意書にはサインしない」「サインするから早く決めろ」と、同意書を交換条件のように使う言葉にも注意が必要です。婚姻していない交際相手の同意は法律上求められていないため、こうした言葉は相手の決定を縛る効果を持たず、圧力をかけた記録としてだけ残ることになります。
お金で関係を区切ろうとする言葉
「お金は払うから認知はしない」「養育費は請求しないと一筆書いてほしい」という言葉は、解決を急ぎたい気持ちから出ることが多いものです。しかし、認知を求める権利は放棄できないとされ(最高裁昭和37年4月10日判決)、子が扶養を受ける権利も処分できないとされています(民法881条)。こうした約束は、期待した効果を持たない可能性が高いと考えられます。
お金を払う意思があること自体は大切ですが、その意思を「関係を断つ条件」として示すと、評価が逆向きに働くことがあります。費用の分担の考え方は中絶費用は相手に請求できる?男女の費用負担と【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方で解説しています。
代わりに伝えられること
後で不利になりやすい言葉には、たいてい、同じ気持ちを別の形で伝える言い方があります。代表的な言葉と、置き換えの例を並べます。
| 言いがちな言葉 | 後で問題になる点 | 代わりの伝え方の例 |
|---|---|---|
| 堕ろすしかない | 選択を一方的に決めたと読まれる | 自分の気持ちはこう考えている。ただ、決めるのはあなたなので一緒に考えたい |
| そっちで決めて/返信しない | 話し合いを避けたと読まれる | すぐには答えが出せない。何日までに考えをまとめて連絡する |
| 結婚する、全部払う(本心でない場合) | 真意と違う約束になる | いま約束できることと、まだ決められないことを分けて伝える |
| 本当に自分の子なのか | 相手を責めた記録になる | 大切なことなので、確認の方法も一緒に相談したい |
| 産んだら周りにばらす | 脅迫・強要が問題になりうる | 伝えない。不安は弁護士など第三者に相談する |
| お金は払うから認知はしない | 約束の効果が乏しく、不誠実さの材料になる | 費用の分担は話し合いたい。認知や養育費は別に整理したい |
自分の考えを伝えることは禁じられていない
「言ってはいけない言葉がある」と聞くと、何も言わないほうが安全だと感じるかもしれません。しかし、先に見たとおり、黙ることも一つの対応として評価されます。「いまは育てられる状況にない」「結婚は考えていない」といった自分の考えを伝えることは、それだけで問題になるわけではありません。分かれ目は、考えを伝えることと、相手の決定を自分の考えで置き換えようとすることの違いにあります。
即答しないための一言を用意しておく
妊娠をめぐる判断には時間の制約があるため、返事を先延ばしにし続けることも避けたいところです。「今日は気持ちの整理がつかないので、明日の夜にもう一度話したい」のように、いつ話すかを区切って伝えると、即答を避けながら話し合いを続ける姿勢を示すことができます。
すでに言ってしまった場合
訂正と謝罪は、早めに言葉で残す
強い言葉を送ってしまった場合でも、その後の対応で評価が変わる余地はあります。「あのときは動揺して強い言い方をした。決めつけるつもりはなかった。もう一度話をさせてほしい」と、言い方を改める意思を早めに伝えておくことが考えられます。
このとき、謝罪は言い方や態度についてのものにとどめ、その場の勢いで新たな約束を重ねないことが大切です。訂正のつもりの言葉が、次の「本心と違う約束」になってしまうことがあるためです。
送ったメッセージは消さない
後悔している言葉ほど消したくなるものですが、相手の手元にはやり取りが残っています。自分の側だけを消すと、その後に送った訂正や謝罪との前後関係が分かりにくくなります。記録の残し方は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするを参考にしてください。
直接のやり取りが難しくなったとき
弁護士を窓口にするという選択
話し合いのたびに感情がぶつかり、言葉を選ぶ余裕がなくなってしまうこともあります。そうしたときは、弁護士を窓口にして、伝える内容と伝え方を整えるという方法があります。【解決事例】交際相手の妊娠をめぐり100万円超を請求された事例|直接の面談に応じず解決金30万円で合意書を締結は、本人どうしが直接会わない形で話し合いをまとめた例です。
決まったことは書面にまとめる
話し合いで決まった内容は、口頭のやり取りのままにせず、書面にまとめておくことが考えられます。ただし、先に見たとおり、認知や子の扶養に関する権利は合意で放棄させることができないため、書面に何を書けるかには限りがあります。交際相手との書面の効力は【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で解説しています。
よくあるご質問
「本当に自分の子か」を確かめたいと思うのは、いけないことですか
確かめたいと思うこと自体は、いけないことではありません。認知や養育費は法律上の父子関係を前提とするため、確認には正当な理由があります。問題になりやすいのは確認したいという気持ちではなく、相手を責め、疑いを突きつける伝え方です。確認の方法を一緒に考えたいという形で伝えることをおすすめします。
「中絶してほしい」と伝えること自体が違法になりますか
自分の希望として伝えること自体が、直ちに違法になるわけではないと考えられます。ただし、それ以外の選択肢を認めない言葉を繰り返したり、協力しないことを条件のように示したりすると、中絶の選択を強いたと評価されることがあります。最終的に決めるのは妊娠している本人であることを、言葉の上でも示しておくことが大切です。
相手の親から「責任を取れ」と連絡が来ました。どう答えればよいですか
相手の親の怒りはもっともなものですが、その場で結婚や金額を約束するのは避けたいところです。話し合いの当事者はあくまで相手本人であり、親が本人の代わりに決められる範囲には限りがあります。確かめ方は【男女トラブル】相手の家族が代わりに交渉に出てきた|代理権の有無の確かめ方で整理しています。
まとめ
- 妊娠を告げられた直後の言葉は記録として残り、後に「妊娠を知った後の対応」として時系列で検討されます。
- 出産するかどうかを決めるのは本人であり、婚姻していない交際相手の同意は法律上求められていません(母体保護法14条)。
- 選択肢を一つに絞る言葉や、話し合いを打ち切る言葉・沈黙は、相手の法的な利益を侵害したと評価されることがあります。
- 本心と違う約束は、後から「信じて決断した」という主張の根拠になりえます。
- 職場や家族にばらすといった言葉は、脅迫罪(刑法222条)や強要罪(同法223条)が問題になりえます。
- 認知を求める権利や子が扶養を受ける権利は、お金と引き換えに放棄させられないとされています(民法881条、最高裁昭和37年4月10日判決)。
- すでに強い言葉を送ってしまった場合は、メッセージを消さず、言い方を改める意思を早めに伝えることが考えられます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。妊娠を告げられてどう返事をすればよいか迷っている方、すでに送ってしまった言葉が気になっている方は、話し合いが進む前にご相談ください。
妊娠を伝えたのに、相手の言葉や対応に傷ついている方からのご相談もお受けしています。どちらの立場であっても、記録をもとに状況を整理し、次に何を伝えるかを一緒に考えます。


