【不貞慰謝料】別居していれば破綻と言えるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「別居していたのだから、婚姻関係はもう終わっていたはずだ」。不貞慰謝料をめぐるやり取りでは、請求する側からも請求を受けた側からも、この言葉が出てきます。調べてみると「別居3年」「別居5年」といった数字が並んでおり、自分の別居期間を当てはめて見通しを立てたくなるかもしれません。

 もっとも、別居という事実がそのまま「破綻」という評価につながるわけではありません。実務で問われるのは、別居しているかどうかよりも、その別居がいつ始まり、どのような中身のものだったのかという点です。この記事では、「別居していれば破綻と言えるのか」という問いを、(1)どの場面の話なのか、(2)年数の目安はどこから来たのか、(3)いつからを別居と数えるのか、という順に分けて整理します。

別居は破綻そのものではなく、破綻を推し量る事情の一つ

 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないとされています(民法752条)。別居はこの状態から外れた事実ですが、別居をしても法律上の婚姻が終わるわけではなく、離婚が成立するまで夫婦であることに変わりはありません。

 不貞慰謝料の場面で「破綻」が問題になるのは、最高裁が、不貞行為の当時すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情がない限り、不貞の相手方は他方配偶者に対して不法行為責任を負わないと判断しているためです(最判平成8年3月26日)。慰謝料によって守られるのは婚姻共同生活の平和であり、それが既に失われていたのであれば侵害される利益もない、という考え方です。

 ここで見られているのは「別居していたか」という一点ではなく、夫婦としての共同生活の実体が失われ、回復の見込みがない状態だったかという評価です。別居はその評価を支える有力な事情ですが、あくまで事情の一つにとどまります。

同じ問いでも、2つの別の場面が混ざっている

 「別居 破綻 認められる」で調べると、性質の異なる2つの場面の解説が並んで表示されます。一つは離婚を認めてもらうために破綻を主張する場面、もう一つは不貞慰謝料の請求を退けるために破綻を主張する場面です。同じ「破綻」という言葉でも、よりどころとなる規定も、判断される時点も異なります。

比べる点離婚を認めてもらう場面慰謝料の請求を退ける場面
よりどころ民法770条1項4号民法709条・最判平成8年3月26日
主張する人離婚を求める配偶者慰謝料を請求された側
いつの状態を見るか審理している現在までの経過不貞行為があった時点
別居年数の目安語られることが多いそのまま当てはまらない
通ったときの結果離婚が認められる請求が退けられる


 民法770条1項4号は「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」を裁判上の離婚事由として定めた規定です。なお、この事由は2026年4月1日に施行された改正の前は同項5号に置かれていました。現在も「5号」と説明したままの解説が残っているため、条文を確認するときは施行日にご注意ください。

年数の目安が語られているのは主に離婚の場面

 混同が起きやすいのはここです。「別居3年」「別居5年」という数字は、離婚を認めてよいかどうかを判断する場面で語られてきた目安であり、不貞慰謝料の場面にそのまま持ち込めるものではありません。慰謝料の場面で問われるのは不貞行為があった時点の状態ですから、その後に別居がどれだけ続いたかは、直接の答えにはなりません。

「3年」「5年」という数字はどこから来たのか

 現在の民法には、別居期間について定めた規定はありません。それにもかかわらず具体的な年数が語られてきた背景には、成立しなかった改正案があります。

 平成8年2月に法制審議会総会が決定した「民法の一部を改正する法律案要綱」では、裁判上の離婚事由の一つとして「夫婦が五年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき」を加えることが提案されていました。この要綱は法律にはならず、現在の民法にこの規定は入っていません。ただ、議論の際に示された年数が目安として語り継がれ、裁判例の傾向を説明するときの物差しとしても使われてきた、という経緯があります。

 あわせて見ておきたいのは、提案の段階でも「婚姻の本旨に反する別居」と限定が付けられていたことです。単に離れて暮らしている期間を数えるのではなく、夫婦としての共同生活を営む意思が失われた状態での別居が想定されていました。年数だけを取り出して当てはめると、この限定が抜け落ちてしまいます。

先に問われるのは「いつからを別居と数えるのか」

 別居年数を計算する前に、実務でしばしば争いになるのが起算点です。「何年別居していたか」という数字は、いつからを別居と見るかによって大きく変わります。

別居の始まりは当事者の間でずれやすい

 荷物を運び出した日、住民票を移した日、新しい住居の賃貸借契約を結んだ日、生活費の入金が止まった日。これらは一致しないことのほうが多く、当事者の受け止め方もずれます。一方は「あのときから別居だった」と考え、他方は「一時的に離れていただけ」と理解している、という食い違いは珍しくありません。

事情があっての別居は、そのままでは年数に数えにくい

 単身赴任、入院や療養、親の介護、就学や資格取得のための転居など、婚姻関係とは別の事情で離れて暮らしている場合、その期間は破綻を示す別居として評価されにくいと考えられています。一緒に住んでいないという外形は同じでも、夫婦としての共同生活を続ける意思が失われているとは限らないためです。

「離婚に向けた別居」に切り替わる時点

 事情があっての別居が、途中から離婚に向けた別居に変わることもあります。切り替わりを示す事実としては、離婚を申し入れた時点、離婚条件の協議を始めた時点、離婚調停を申し立てた時点、弁護士から受任通知が届いた時点などが挙げられます。裁判では、こうした事実のある時点を起点として別居期間をとらえることがあります。

残りやすい資料そこから言えることそこまでは言えないこと
住民票の異動日生活の本拠を移した時期夫婦の意思が離れた時期
賃貸借契約書別の住居を確保した時期一時的な別居かどうか
生活費の振込履歴家計を分けた時期と支払の継続交流が途絶えたこと
調停の申立てや受任通知離婚に向けて動き出した時期それ以前の夫婦の状態


同じ年数でも評価が分かれる理由

 別居期間が同じでも結論が分かれるのは、別居の中身が事案ごとに違うためです。裁判では、次のような事情があわせて見られます。

  • 同居していた期間と別居期間の長さの対比。
  • 別居後も行き来や連絡があったか、行事などを通じた関わりにとどまるか。
  • 離婚に向けた具体的な協議や手続が進んでいたか。
  • 未成熟の子どもの養育を通じた関わりが続いていたか。
  • 関係を修復しようとする働きかけが双方にあったか。


 なお、別居中に生活費(婚姻費用)が支払われていたことをもって「関係は続いていた」と言われることがありますが、婚姻費用の分担は法律上の義務です(民法760条)。支払があった事実だけで破綻が否定されるとは限らず、他の事情とあわせて評価されます。

別居していなくても、別居していても

 別居の有無と破綻の有無は、常に重なるわけではありません。長く別居していても、交流が続き修復に向けた動きがあれば破綻とは評価されにくく、逆に同居していても夫婦としての実体が失われていると主張される場合があります。

家庭内別居の説明が食い違って見える理由

 同居しながら生活を分けている、いわゆる家庭内別居については、解説によって「破綻が認められやすい」とも「認められにくい」とも書かれており、読む側は判断に迷いがちです。これは、離婚の場面と慰謝料の場面が区別されないまま説明されていることに加え、家庭内別居は外から見えにくく、どの程度の状態だったのかを示す資料が残りにくいという事情が重なっているためです。同じ「家庭内別居」という言葉でも、食事も会話も何年もない状態と、会話が減っている状態とでは評価が変わります。

「認められる」のは誰が、いつ判断することか

 もう一つ押さえておきたいのが、「認められる」という言葉の主語です。破綻していたかどうかを最終的に判断するのは裁判所であり、その判断は後から、提出された資料に基づいて行われます。

  • 交渉の段階では「破綻が認められた」という状態は生じません。合意ができるか、できないかがあるだけです。
  • 配偶者が「もう終わっていた」と述べていても、第三者との関係でその評価が定まるわけではありません。
  • 破綻とまでは評価されなくても、関係が悪化していた事情として金額の判断に影響することがあります。


「破綻していると思っていた」は別の問題

 実際に破綻していたかどうかとは別に、「破綻していると信じていた」という言い分が問題になることがあります。この点については、破綻していると信じたことに相当の理由があったかを検討すべきだとした最高裁判決(最判令和8年6月5日)があり、事件は差し戻されて結論はまだ確定していません。判断の枠組みが動きうる領域ですので、実際の主張は個別の事情を踏まえて組み立てる必要があります。

立場ごとに、別居について整理しておきたいこと


慰謝料を請求する側


  1. 別居の開始日について、自分がいつからと考えているかを日付で書き出す。
  2. 別居後の行き来・連絡・行事への参加など、関わりを示す記録を残しておく。
  3. 別居に至った事情(転勤、看護、一時的に距離を置いたことなど)を説明できるようにしておく。
  4. 不貞行為があった時期と、別居の経過との前後関係を整理する。


慰謝料を請求された側


  1. 自分が把握していた別居の状況を、いつ・何によって知ったかとあわせて書き出す。
  2. 当時のやり取りを自分から消さずに保存しておく。
  3. 別居の年数だけを根拠にせず、その別居がどういうものだったかを説明できるかを確認する。
  4. 述べ方によっては前提となる事実を認めたと受け取られることがあるため、回答の内容と時期は慎重に検討する。


よくあるご質問


別居が5年を超えていれば、慰謝料は請求できないのでしょうか

 年数だけで決まるものではありません。5年という数字は成立しなかった改正案に由来する目安であり、しかも離婚を認めるかどうかの場面で語られてきたものです。別居期間が長い場合に破綻が認められやすい傾向はありますが、別居後の関わりや修復に向けた動きなど、他の事情とあわせて判断されます。

単身赴任中の不貞にも慰謝料を請求できますか

 単身赴任は仕事の事情による別居であり、それだけで夫婦としての共同生活の実体が失われたとは評価されにくいと考えられます。もっとも、赴任をきっかけに関係が変わっていたと主張されることもあるため、当時の連絡や帰省の状況を示せるようにしておくとよいでしょう。

相手から「別居していたから破綻していた」と言われました。認めなければならないのでしょうか

 別居していた事実と、破綻していたという評価は別のものです。別居の事実自体に争いがなくても、その別居がいつからのもので、どのような中身だったのかは、あらためて示される必要があります。回答を返す前に、日付と資料を整理しておくことをおすすめします。

まとめ


  1. 別居は破綻を推し量る事情の一つであり、別居している事実がそのまま破綻を意味するわけではありません。
  2. 「別居 破綻」の解説には、離婚を認める場面と慰謝料を退ける場面が混ざっています。
  3. 慰謝料の場面で問われるのは、不貞行為があった時点の状態です。
  4. 「3年」「5年」という数字は現在の民法の規定ではなく、成立しなかった改正案に由来する目安です。
  5. その改正案でも「婚姻の本旨に反する別居」と限定が付けられていました。
  6. 年数を数える前に、いつからを別居と見るのかが問題になります。
  7. 事情があっての別居は、そのままでは破綻を示す別居として評価されにくいと考えられています。
  8. 破綻していたかを最終的に判断するのは裁判所であり、交渉の段階で定まるものではありません。


ご相談について

 別居をめぐる評価は、期間の長さよりも、いつから、どのような別居だったのかという中身によって左右されます。ご自身の状況が「別居していれば破綻」に当てはまるのかどうかは、手元にある資料と時系列を確認しながら組み立てていく作業になります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、池袋と新橋の事務所で、不貞慰謝料に関するご相談をお受けしています。請求する立場の方も、請求を受けた立場の方も、まずはお持ちの資料とこれまでの経緯をお聞かせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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