【男女トラブル】中絶費用を支払ったのに、さらに慰謝料を求められたら?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

交際相手の妊娠がわかり、話し合いのうえで中絶を選び、手術費用もこちらで負担した。それで一区切りついたと思っていたところ、しばらくしてから「心の傷に対する慰謝料も払ってほしい」と求められる。男女トラブルの中でも、このようなご相談は少なくありません。

この記事は、交際相手など関係のあった女性の中絶にあたって費用を支払った男性が、後から慰謝料を求められた場面を想定しています。相手が未成年の場合や、どちらかが既婚の場合は考え方が変わる部分があるため、個別にご相談ください。


 費用を払った以上もう何も払う必要はない、と言い切れるわけではありません。一方で、求められた金額をそのまま払わなければならないわけでもありません。この記事では、すでに支払ったお金の位置づけと、慰謝料が問題になる事情とを分けて、追加の請求を受けたときの考え方を整理します。

中絶費用と慰謝料は性質の違うお金

 中絶費用は、手術代や事前の診察料、術後の通院費など、中絶によって実際に生じた支出です。これに対して慰謝料は、相手の行為によって受けた精神的な苦痛を金銭で償うものです。

 このため、「費用を払ったから慰謝料の話は終わった」とは当然にはいえません。ただ反対に、中絶をしたという事実だけで慰謝料が当然に発生するわけでもありません。慰謝料を求めるには、男性の側に、法的に責任を問われる行為(不法行為)があったといえることが前提になります。

 中絶費用の分け方そのものについては、【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方で詳しく解説しています。

合意のうえでの妊娠・中絶で慰謝料が問題になる場面

 お互いの合意で性交渉をし、話し合って中絶を選んだ場合、慰謝料は認められにくいと考えられています。妊娠も中絶の判断も、二人がそれぞれ関わった結果だからです。

 もっとも、合意があれば一切認められないというわけではありません。東京高等裁判所平成21年10月15日判決は、妊娠させた男性には、中絶によって女性が受ける身体的・精神的な負担を軽くし、経済的な負担も分かち合う義務があると述べたうえで、判断を女性に任せきりにして十分な話し合いや支援をしなかった男性の対応を不法行為にあたると判断しました。

 つまり、問われやすいのは妊娠や中絶そのものよりも、その前後に男性がどのように対応したかです。

慰謝料が問題になりやすい事情


  • 妊娠を伝えられた後に連絡を絶ち、話し合いに応じなかったこと。
  • 費用の負担や手術への付き添いを一切断ったこと。
  • 既婚であることなどを偽って交際していたこと。
  • 威圧的な言葉で中絶を迫ったこと。
  • 結婚の約束をしていながら、妊娠をきっかけに一方的に関係を解消したこと。


 これらにあたる事情がなければ、追加で慰謝料を払う法的な義務は認められにくいといえます。反対に、あたる事情がある場合は、すでに払った金額とのバランスを見ながら、どの程度の解決が妥当かを検討することになります。既婚であることを伏せていた場合の考え方は、既婚を隠されて妊娠|貞操権侵害の慰謝料はいくら請求できるもご覧ください。

費用を全額負担していたことの意味

 中絶費用を全額負担し、通院の付き添いや連絡にも誠実に対応していた場合、それ自体が「負担を分かち合う」義務を果たしていた事情として評価されることがあります。また、本来の分担を超えて支払った分は、慰謝料の有無や金額を考える際に考慮される事情の一つになり得ます。

 振込の記録、領収書、話し合いの経過がわかるメッセージは、こうした事情を示す材料になります。消さずに保存しておいてください。

すでに支払ったお金が何の名目だったかを確かめる

 追加の請求に応じる必要があるかを考えるうえで、最初に確かめたいのは、すでに払ったお金がどのような約束のもとで支払われたかです。特に、書面を作っていたかどうかで状況が大きく変わります。

これまでの経過追加の請求との関係
清算条項付きの合意書を交わしている合意書に定めたもの以外に債権債務がないと確認しているため、追加の請求は原則として認められにくい
合意書はあるが清算条項がない何について合意したかの範囲が問題になる。中絶費用だけの合意であれば、慰謝料は別に話し合う余地が残る
書面はなく、メッセージで名目をやり取りした「これで全部」「費用として」など、やり取りの文言が判断の材料になる
口頭のやり取りだけで記録がない名目について双方の認識が食い違いやすい


 清算条項とは、「本件に関し、本合意書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった、これですべて終わりにすることを確認する条項です。これがあれば、後から慰謝料という別の名目を持ち出されても、合意によって解決済みであると主張しやすくなります。

 一方、書面がない場合や、合意書に「中絶費用として〇円を支払う」とだけ書かれている場合は、相手から「費用は受け取ったが、慰謝料の話はしていない」と言われることがあります。前回の合意がどこまでを含んでいたかの見分け方は、【男女トラブル】一度は合意したのに相手が追加の要求をしてきた|前回の合意で終わっている範囲の見分け方で解説しています。

追加の請求に含まれている項目を分けて見る

 「慰謝料」として一つの金額を示されていても、中身をたどると性質の違う項目が混ざっていることがあります。

  • 術後の通院費や薬代など、後から生じた実費。
  • 体調を崩して仕事を休んだことによる収入の減少。
  • 将来の妊娠への影響など、後遺症を理由とする請求。
  • 精神的な苦痛に対する慰謝料。


 実費や休業の分は、領収書や診断書、勤務先の証明などで裏付けを確認したうえで、負担の割合を話し合う対象になります。後遺症を理由とする請求は、中絶との因果関係が医学的に裏付けられるかが問題になり、本人の申告だけで判断できるものではありません。慰謝料の部分は、前の章で見た事情があるかどうかで考えます。

 項目ごとに分けて考えると、応じる余地のある部分と、根拠を確かめるべき部分が見えてきます。中絶後の体調不良をめぐる費用の考え方は、【男女トラブル】中絶の後に体調を崩した|治療費・休業の負担を求めるも参考になります。

追加の請求を受けたときに控えたい対応

 相手の体や気持ちを思うと、強く求められるほど「払って終わりにしたい」と考えてしまうかもしれません。ただ、その場の判断で動くと、後から整理しにくくなることがあります。

  • その場で金額を約束したり、追加で振り込んだりすることは避けましょう。
  • 謝罪の言葉と、責任や支払いを全面的に認める言葉を同じメッセージに書くことは控えましょう。
  • 相手が用意した念書や誓約書には、内容を確かめずに署名しないようにしましょう。
  • 相手からのメッセージは削除せず、日付がわかる形で保存しておきましょう。
  • 弁護士名の書面が届いた場合は、放置せずに回答の期限を確認しましょう。


 相手を気遣う言葉を伝えること自体は問題ありませんが、「全部自分が悪い」「いくらでも払う」といった言葉は、後で慰謝料の根拠として扱われることがあります。発言の注意点は【男女トラブル】妊娠を告げられたときに言ってはいけない言葉|後で不利になる発言でまとめています。

勤務先や家族に伝えると言われた場合

 追加の請求とあわせて、「払わないなら会社に言う」「親に全部話す」と告げられることがあります。慰謝料を求めること自体は権利の行使ですが、その手段として勤務先や家族に知らせることをほのめかし、支払いを迫る方法は、社会的に相当といえる範囲を超えると恐喝にあたるおそれがあります。

 こうした言葉を受けたときは、言われた内容と日時を記録し、ご自身で反論や交渉を重ねるよりも、弁護士を窓口にして連絡の経路を整えることを検討してください。職場に話が及んだ場合の対応は、【男女トラブル】別れを告げたら相手が自分の上司に話した|職場への影響を抑えるで解説しています。

弁護士が間に入ることでできること

 弁護士が代理人になると、受任通知によって以後の連絡を弁護士に集約し、ご本人が相手と直接やり取りする負担を減らすことができます。

 そのうえで、すでに支払った金額とその名目、相手の請求の中身を一つずつ確認し、根拠のある部分とそうでない部分を仕分けて交渉します。話がまとまった場合は、清算条項に加えて接触禁止や口外禁止の条項を入れた合意書を作り、同じ問題が蒸し返されないように整えます。合意書の作り方は手切れ金を払って関係を終わらせる|口外禁止・清算条項付き合意書の作り方を、当事務所が扱った例は【解決事例】交際相手の妊娠をめぐり100万円超を請求された事例|直接の面談に応じず解決金30万円で合意書を締結をご覧ください。

よくあるご質問


相手の親から慰謝料を求められました。親に払う必要はありますか?

 相手の女性が成人している場合、慰謝料を請求できるのは原則として女性本人であり、親が自分自身の慰謝料として請求することは認められにくいと考えられます。相手が未成年の場合は、親が法定代理人として本人の請求を行うことがあります。未成年との関係では刑事上の問題が生じる場合もあるため、早めにご相談ください。

何年も前の中絶について、今になって請求されました

 不法行為による損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年(人の生命・身体を害する不法行為の場合は5年)で、時効により消滅します(民法724条、724条の2)。もっとも、いつから数えるかや、時効の進行が止まる事情があるかは事案によって異なり、時効は主張しなければ効果が生じません。返答する前に確認しておくと安心です。

妊娠や中絶が本当にあったのか分かりません

 中絶の事実を確認できないまま費用を払っていた場合、追加の請求に応じる前に、相手の心情に配慮しながら、手術の領収書など事実を確かめる資料の提示を求めることが考えられます。見極め方は「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方で解説しています。

追加の請求に迷ったら

 中絶費用を支払った後の慰謝料の請求は、すでに支払ったお金の名目、妊娠から中絶までの対応、書面の有無によって結論が変わります。払うか払わないかを急いで決める前にこれまでの経過を整理しておくことが、双方にとって納得のいく終わり方につながります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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