【風俗トラブル】分割の最後の支払いを終えたら、本当にこれで終わりと言える?

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月施行の債権法改正後の規定)、民事執行法、刑法・刑事訴訟法(2023年7月施行の性犯罪規定の改正後の規定)に基づいて記載しています。個別の事案での見通しは、示談書の文言や支払いの経過によって変わります。


「示談金を毎月振り込んできて、次が最後の支払いです。払い終えたら、もう何もしなくていいのでしょうか」。風俗の場面で起きたトラブルを分割払いの示談で収めた方から、こうしたご相談をいただくことがあります。できれば店や相手とはもう関わりたくない、連絡もしたくない、というお気持ちが添えられていることも少なくありません。

 インターネットで調べると、「示談書に清算条項があれば、示談金を払い終えた後に追加で請求されることはない」という説明が多く見つかります。これ自体は誤りではありません。ただ、分割払いの場合は、最後の振込の前後で確かめておくべきことや、完済の後に手元に残しておくべき書面があり、そこが抜けていると「終わったはずなのに、終わったと示せない」状態になることがあります。

 この記事では、分割払いの示談で最後の支払いを迎える方に向けて、完済によって法律上何が終わり、何が終わらないのか、最後の振込の前後に何を確かめ、何を残しておくかを整理します。分割払いの示談に応じるかどうかを検討している段階の方は、【風俗トラブル】分割払いの示談に応じる場合|風俗トラブル固有の注意点をあわせてご覧ください。

最後の振込が済んだ時点で、法律上は何が終わるのか

示談書で約束した支払義務は、全額の支払いで消える

 示談書で「総額〇〇万円を、毎月〇万円ずつ支払う」と約束した場合、その約束どおりに全額を支払えば、示談金を支払う義務は消滅します(民法473条)。最後の支払いを終えたあとに、同じ示談書を根拠として「まだ足りない」と求められても、示談書に定めた金額を払い終えている限り、応じる義務はありません。

 ただし、ここで消えるのは「示談書で約束した支払義務」です。支払いが終わったことによって、それ以外のすべての問題が自動的に片づくわけではありません。何が一緒に終わるのかは、次に述べる清算条項の書き方と、示談の当事者が誰だったかによって決まります。

「終わる」範囲を決めるのは、清算条項の書き方と当事者

 示談は法律上「和解」にあたり、合意した内容で争いを終わらせる効力があります(民法695条、同法696条)。示談書に「本件に関し、本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項があれば、完済後に同じ件で別の名目の請求を受けても、合意で終わった範囲の話として扱えることが多くなります。

 一方で、清算条項の効力が及ぶのは、示談書に名前を連ねた当事者の間に限られるのが原則です。店との間だけで示談書を作り、女性本人が当事者になっていない場合、本人との関係まで清算されたとは言い切れないことがあります。示談書の当事者欄と署名欄を、最後の支払いの前にもう一度見直しておくと、完済後の見通しが立てやすくなります。この点は、示談したのに再度請求された|清算条項と蒸し返しへの対応で詳しく整理しています。

刑事の手続は、支払いの完了とは別の線で動く

 示談金の支払いは民事上の約束の履行であり、刑事手続の扱いはそれとは別に決まります。不同意性交等罪(刑法177条)や不同意わいせつ罪(同法176条)は、被害者の告訴がなくても起訴できる罪であるため、示談が成立し支払いを終えたことで、捜査や処分の可能性が法律上なくなるわけではありません。

 もっとも、実務では、示談が成立していること、示談書に「処罰を求めない」という宥恕の文言があること、示談金を約束どおり払い終えていることは、捜査機関が処分を判断する際に重く考慮される事情です。完済した事実そのものが、後で必要になったときの大切な材料になります。示談後に被害届が出された場合の考え方は、【風俗トラブル】示談金を払ったのに被害届を出された|合意の効果と刑事手続をご覧ください。

最後の支払いの前後で確かめておきたいこと

最後の金額が残額と一致しているか

 分割払いが長く続くと、途中で一度だけ金額を変えた月や、振込手数料を差し引いて送った月があったことを忘れてしまうことがあります。最後の振込の前に、これまでの振込記録を一回分ずつ並べ、示談書の総額から既払い額を差し引いた残額と、最後に振り込む金額が一致しているかを確かめておくと安心です。

 示談書に振込手数料をどちらが負担するかの定めがあれば、それに沿っているかも確認します。万一、計算上すでに払い過ぎていた場合は、その分の返還を求めることができる場合があります(民法703条)。

完済を条件にした約束が示談書にないか

 風俗トラブルの示談書では、支払いの完了と引き換えに相手が何かをする、という約束が入っていることがあります。たとえば、次のような定めです。

  • 完済後に、被害届を取り下げる、または処罰を求めない旨の書面を差し入れる。
  • 預けていた身分証のコピーや、撮影された身分証の画像を返還・削除する。
  • その場で書かされた借用書や念書を返還する。
  • 完済後は、本人・家族・勤務先に連絡しない。


 こうした定めがある場合、最後の支払いは、相手にこれらの約束を果たしてもらう時期の始まりでもあります。示談書の控えが手元にない方は、【風俗トラブル】示談書の原本を店しか持っていない|控えを求めるべき理由も参考にしてください。

最後の振込は、期日どおりに記録が残る方法で

 最後の1回だからと気を緩めず、示談書の期日までに振り込むことが大切です。分割払いの示談書には、支払いが遅れた場合の遅延損害金や違約金の定めが置かれていることが多く、最後の1回の遅れをきっかけに、相手から新たな請求の口実を作られることもあります。

 振込の方法は、これまでと同じ口座へ、振込記録が残る形で行うのが基本です。「最後は現金で持ってきてほしい」と求められた場合でも、受け取りの記録が残らない方法は避け、応じる場合は受領書と引き換えにすることを検討してください。示談金の渡し方については、示談金の渡し方|振込名義・領収・受領証で残すべきもので整理しています。

完済の後に手元に残しておくもの

領収書や完済確認書は、支払いと引き換えに求められる

 お金を支払う側は、支払いと引き換えに、受け取った側に対して受取証書(領収書)の交付を求めることができます(民法486条1項)。分割払いの場合、毎回の振込記録も支払いの証拠になりますが、最後の支払いの際には「示談書に基づく示談金全額の支払いを受けた」ことが分かる完済確認書を一通もらっておくと、後から「全額は受け取っていない」と言われたときに説明がしやすくなります。

 完済確認書には、示談書の日付、示談金の総額、支払いが完了した日、受け取った側の署名を入れておくのが一般的です。書き方の例は、【風俗トラブル】示談金の領収書・受領書をどう作るか|後日の否認に備えるで紹介しています。

借用書など債務を認めた書面は、返還を求められる

 トラブルの現場で借用書や「〇〇万円を支払います」という念書を書かされ、それをもとに分割払いをしてきた場合、全額を支払い終えた後は、その書面の返還を求めることができます(民法487条)。書面が相手の手元に残ったままだと、後になって「これはまだ払われていない分の借用書だ」と持ち出される余地を残すことになります。

 返還を受けられない場合でも、「完済したため、〇年〇月〇日付の借用書に基づく債務は存在しない」と確認する書面を受け取っておくと、同じ役割を果たします。

公正証書で示談書を作っていた場合

 分割払いの示談では、相手方の求めで、強制執行を受けても異議を述べない旨の文言が入った公正証書を作ることがあります。公正証書は完済後も相手の手元に残るため、万一、完済後にそれをもとに差押えの申立てがされた場合には、完済したことを理由に請求異議の訴えで争うことになります(民事執行法35条1項)。そのときに決め手になるのは、全回分の振込記録と完済確認書です。公正証書の仕組みは、分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書で解説しています。

 完済後に手元に残しておきたいものを整理すると、次のとおりです。

残しておくもの後で果たす役割
示談書の控え何を約束し、何が清算されたかを示す
全回分の振込記録(通帳・振込明細)約束どおりに払い終えたことを示す
完済確認書・領収書相手が全額の受領を認めたことを示す
返還を受けた借用書・念書同じ書面で請求される余地をなくす
削除・返還の約束が果たされたことの記録身分証の画像などが手元から消えたことを示す
相手とのやり取りの記録示談の経緯や、完済後の連絡の有無を示す


 これらは、完済から時間がたってから必要になることもあるため、紙とデータの両方で、家族の目に触れにくい場所に保管しておくとよいでしょう。

「連絡せずにそのまま」で終えてよいのか

完済を報告する法律上の義務はない

 弁護士ドットコムにも、「次が最後の支払い。払い終えたら、関わりたくないので連絡せずに放置してよいか」という趣旨の質問が寄せられています。法律上、示談金を払い終えたことを相手に報告しなければならない義務はありません。振込記録が残っていれば、払い終えたこと自体は後からでも示すことができます。

 ただ、前に述べたとおり、完済と引き換えに相手が果たすべき約束がある場合や、完済確認書をもらっておきたい場合には、一度だけ連絡をとる意味があります。関わりを最小限にしたいというお気持ちと、終わったことを書面で示せる状態にしておくことは、両立させることができます。

連絡をとるなら、一度だけ・書面で

 完済確認書の送付をお願いする場合は、電話で長く話すよりも、示談書の日付と総額、最後の支払日を書いた短い書面やメッセージで依頼するほうが、余計なやり取りが生まれにくくなります。会って受け取る必要がある場合でも、店の事務所など相手の領域に一人で出向くことは避け、郵送でのやり取りを提案するのが無難です。

 ご自身で連絡をとることに抵抗がある場合は、弁護士が代わりに完済の確認と書面の受領を行うこともできます。示談の当初から弁護士が関わっていない場合でも、完済の段階から依頼することは可能です。

振込先が使えない・店が見つからないとき

 最後の支払いの直前になって、振込先の口座が使えなくなっていた、店が閉店していた、担当者と連絡がとれない、ということもあります。支払いをしないまま放置すると、相手から「最後の支払いがなかった」と主張される余地が残ります。相手が受け取りを拒む場合や、受け取れない状態にある場合などには、法務局に供託することで支払いを済ませたのと同じ扱いにできることがあります(民法494条)。

 供託ができるかどうかは事情によって異なるため、まずは状況を整理したうえで判断します。店の閉店や名称の変更があった場合の考え方は、【風俗トラブル】示談の後に店が閉店・名前を変えた|合意は誰に対して有効かで紹介しています。

完済の後に連絡が来たときの考え方

同じ件の追加請求か、別の相手からの請求か

 完済から時間がたって連絡が来た場合、まず確かめたいのは、それが示談書の当事者からの請求なのか、示談書に名前のない別の人からの請求なのか、という点です。示談書の当事者から同じ件について別の名目で求められているのであれば、清算条項で終わった範囲の話として対応できることが多くなります。示談書に名前のない人からの請求であれば、その人との関係が示談でどう扱われていたかを、改めて整理する必要があります。

 風俗の場面で「これで最後」が繰り返されやすい背景は、「これで最後」が繰り返される構造|追加請求が止まらない理由で解説しています。

その場で払わず、示談書と振込記録を手元に

 完済後の請求に対しては、その場で支払いや新しい書面への署名に応じず、「示談書に基づく支払いはすべて終えている」ことを示す資料を手元にそろえてから対応を決めることが大切です。焦って追加で支払うと、それが新たな合意と受け取られ、かえって終わりが遠のくことがあります。

警察から連絡が来た場合

 完済後に警察から連絡が来ることは多くはありませんが、相手が別に相談をしていた場合などには起こりえます。その場合も、示談書、宥恕の文言がある書面、全回分の振込記録、完済確認書は、示談が成立し約束どおりに履行されたことを示す重要な資料になります。呼び出しに応じる前に、どの資料をどう示すかを弁護士と確認しておくと落ち着いて対応できます。

よくあるご質問

相手の署名や押印がない示談書で払い続けてきました。完済しても意味がないのでしょうか。

 示談が成立したかどうかは、署名や押印の有無だけで決まるものではありません。書面の内容、相手が毎月の振込を受け取り続けてきたこと、やり取りの記録などから、合意があったと評価できる場合も多くあります。ただ、相手が「その書面には同意していない」と言い出す余地を減らすため、完済の段階で、相手の署名入りの完済確認書を受け取っておくことをおすすめします。

完済したら、預けた身分証のコピーや撮影された画像は返してもらえますか。

 示談書に返還や削除の定めがあれば、その約束に基づいて求めることができます。定めがない場合でも、完済の際に返還や削除をお願いし、応じてもらえたことを書面に残しておくことが考えられます。身分証の扱いについては、身分証の提示・撮影を求められた場合|応じる義務と拒否の帰結もあわせてご覧ください。

完済からどれくらいたてば、心配しなくてよくなりますか。

 民事上の請求については、清算条項が入った示談書で終えていれば、完済の時点で同じ件の請求は原則として終わっています。刑事手続については、罪ごとに法律で定められた公訴時効の期間があり、性犯罪については2023年の改正で期間が延長されています。期間の目安は、風俗トラブルの時効早見表|公訴時効と民事の消滅時効はいつ終わるのかで整理しています。いずれにしても、示談書と完済の記録を保管しておくことが、時間がたってからの備えになります。

まとめ


  1. 示談書で約束した金額を払い終えれば、示談金の支払義務は消滅する(民法473条)。
  2. 同じ件で何が一緒に終わるかは、清算条項の書き方と示談書の当事者によって決まる(民法695条、同法696条)。
  3. 不同意性交等罪などは告訴がなくても起訴できる罪であり、完済は刑事手続を法律上終わらせるものではないが、処分の判断では重く考慮される事情になる(刑法177条)。
  4. 最後の振込の前に、残額との一致、完済を条件にした約束の有無、期日と振込方法を確かめておく。
  5. 支払いと引き換えに領収書・完済確認書を求めることができ(民法486条1項)、借用書などは返還を求めることができる(同法487条)。
  6. 公正証書を作っている場合は、完済後の差押えに備えて全回分の振込記録と完済確認書を保管しておく(民事執行法35条1項)。
  7. 完済後に連絡が来ても、その場で払ったり署名したりせず、示談書と振込記録をそろえてから対応を決める。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。分割払いの示談の途中で不安がある方、最後の支払いを前に完済の手続をどう進めればよいか迷っている方は、示談書の控えと振込記録をお手元にご用意のうえ、お気軽にご相談ください。
完済後に改めて連絡が来た方、ご自身で相手に連絡をとることに抵抗がある方からのご相談もお受けしています。示談書の内容を確認したうえで、これからの対応を一緒に整理します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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