顧客名簿・予約履歴が押収された場合|どこまで特定されるのか

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

風俗店に警察が入ったという話を耳にしたとき、あるいは自分が利用した店が摘発されたと知ったとき、最初に頭をよぎるのは「店に自分の記録が残っているのではないか」という不安ではないでしょうか。予約のときに伝えた電話番号、利用した日時、指名した相手、支払いの控え。思い当たるものを数え始めると、そこから自分にどこまでたどり着けるのかが分からず、落ち着かない時間が続きます。

 先に整理しておくと、店の記録に自分の情報が残っていることと、自分が捜査の対象になることとは、別の段階の話です。店への捜索や押収は、その店がどのような営業をしていたのかを明らかにするために行われるもので、利用した人を一人ずつ調べ上げるために行われるものではありません。ただし、残っている記録の中身によっては、後から連絡が来る道筋が開くことはあります。

 この記事では、押収の対象になる「名簿」が実際には何を指すのか、そこから身元がどこまで結びつくのか、連絡が来た場合に何が起きるのかを順に見ていきます。記録を消す方法や特定を避ける方法は扱いません。後から記録に手を加えることは、それ自体が説明を求められる事情になり得るためです。店側が押収された物を取り戻す手続についても、ここでは触れません。

「顧客名簿」と呼ばれているものの正体

 法律が作成を義務づけているのは、客の名簿ではなく、そこで働く人の名簿です。風営法は、対象となる営業について、営業所ごとに従業者名簿を備え、住所や氏名などを記載しておくことを求めています。退職後も一定の期間は保存しておく必要があり、警察の立入りの際にまず確認される書類のひとつだといわれています。

 これに対して、客の情報をまとめたリストについては、法律が作成や保存を義務づけているわけではありません。予約を受け付け、次の来店につなげ、過去にトラブルのあった相手を把握するために、店が営業上の必要から自分で作っているものです。義務ではないということは、様式も保存期間も店ごとにばらばらだということでもあります。何年分も丁寧に残している店もあれば、一定の期間で消している店もあります。

 押収の場面で「顧客名簿」と一括りに呼ばれるものは、性格の違う記録が混ざったものだと考えたほうが、実際に近いといえます。

記録の呼び方誰の情報か作られている理由
従業者名簿そこで働く人法律が備付けを義務づけている
顧客リスト・会員データ利用した人店が営業のために任意に作っている
予約や受付の記録利用した人と受け付けた従業員店が営業のために任意に作っている


 気にかかるのは下の二つのほうです。ここに何がどこまで書かれているかは、店の作り方次第で大きく変わります。

押収される記録は一種類ではない

 店に捜索が入るとき、押収の対象になるのは一冊の帳面とは限りません。裁判官が出す令状には差し押さえるべき物が書かれていますが、営業の実態を示す記録は、形を変えて分散しているのが通常だからです。

紙の形で残っているもの

 受付簿、予約票、日報、送迎の記録、料金の控え、従業員の手書きのメモなどが典型です。紙は書き換えた跡が残りやすく、内容をそのまま読み取れるため、資料としての価値が高いとされています。

店の機器の中にあるもの

 パソコンやタブレット、業務用の携帯電話に入っている予約管理のデータ、通話やメッセージの履歴などです。機器そのものを持ち帰る方法のほかに、記録の内容を別の媒体に複写させたり印刷させたりしたうえで、その媒体を差し押さえるという方法も法律上用意されています。営業に使っている機器を丸ごと持って行くと店の業務が止まってしまうため、こうした方法がとられることもあります。データを保管している人に対して、必要な記録を媒体に記録させたうえで、それを差し押さえるという手続もあります。

店の外に置かれているもの

 予約の管理を外部のサービスで行っている場合、データは店の中ではなく、事業者のサーバーにあります。この場合についても、店の機器から回線でつながっている保管先のデータを複写したうえで差し押さえる、という方法が定められています。ただし、これを行うには複写する範囲があらかじめ令状に記載されている必要があり、つながってさえいれば何でも見られるという仕組みではありません

押収されなくても記録が渡ることがある

 記録が捜査機関の手に渡る経路は、押収だけではありません。捜査機関は、公私の団体に対して書面で必要な事項の報告を求めることができるとされており、実務では捜査関係事項照会と呼ばれています。照会を受けた側は報告すべき義務を負うと解されていますが、応じない場合にその義務を強制する方法があるわけではありません。

 この照会に応じて顧客の情報を答えることは、個人情報の取扱いのうえでも、本人の同意を得なくてよい場合にあたるとされています。個人情報保護委員会も、こうした照会には一般に回答すべきものと考えられるという見解を示しています。つまり、店が客の情報を捜査機関に伝えることは、それ自体としては情報の漏えいにあたりません

 照会の相手は店だけではありません。予約に使った電話番号が分かれば、通信事業者に対して契約者を尋ねることもできます。店に名前を伝えていなかった場合でも、連絡の経路が自分名義であれば、そこから結びつくことはあります。また、通信の履歴について、期間を定めて消さないよう求める仕組みも設けられています。

どこまで特定されるのか

 身元に結びつくかどうかは、名簿に名前が書いてあるかどうかというより、その記録が別の情報とつなぐ手がかりを含んでいるかで決まります。項目ごとに整理すると、次のようになります。

よく残っている項目そこから読み取れること他の情報とのつながり方
電話番号連絡の経路契約者を尋ねる照会につながりやすい
会員番号やポイントの記録同じ人の利用がまとめられる単独では身元に届かないが他の項目と結びつく
予約の日時と利用時間その日にいた人の絞り込み防犯カメラや従業員の記憶と照らし合わされる
派遣先の住所や部屋番号どこにいたか自宅を伝えていた場合は直接つながる
支払いの記録決済の経路名義が残っていれば結びつく
やり取りの文面依頼の内容や言葉づかい人物像の推測に使われることがある


 逆に、名前らしきものだけが残っていて他に手がかりがない場合、同姓同名との区別がつかず、そこから先へ進みにくいこともあります。どこまで特定されるかは、記録の量ではなく、記録どうしが結びつくかどうかで決まると考えると、見通しが立てやすくなります。

「消しておけばよい」という発想にならないほうがよい理由

 自分の端末から履歴を消しても、店側に残っている記録は自分では消せません。相手方の手元にある以上、こちらの操作では届かないからです。そのうえ、後から消した形跡が残っていると、なぜその時期に消したのかを尋ねられたときに、答えにくい状況が生まれます。手を加えないまま置いておくほうが、説明の筋は通しやすくなります。

名簿に載っていた人全員に連絡が来るのか

 店に対する捜査の目的は、その店がどのような営業をしていたかを明らかにすることにあります。何人を何回接客し、どのような内容だったのか。個々の利用者の情報は、それを裏づけるために必要な限度で意味を持ちます。記録に残っている人を端から呼び出していくという進み方は、通常は想定しにくいものです。

 押収についても、証拠になり得る物であればどこまで押収してもよいというわけではありません。事案の内容や証拠としての価値、押収される側が受ける不利益などを考えて、押収の必要がないと明らかに認められる場合にまで押収を認める理由はない、という考え方が示されています。

 そのうえで、連絡が来る可能性が上がるのは、次のような場合です。

  • 特定の日時の営業内容を裏づける必要があり、その日の利用者として記録に残っている場合。
  • 相手が18歳未満だった疑いが持たれている場合。
  • 自分自身の行為について、別に問題が指摘されている場合。
  • 店との間の金銭のやり取りやトラブルが記録に残っている場合。


 なお、必要な手続をしていない店を利用したという事実そのものによって客が処罰される、という仕組みにはなっていません。この点は別の記事で扱っています。

連絡が来た場合に何が起きるか

 記録をきっかけに連絡が来る場合、多くは、事情を知っている人として話を聞かせてほしい、という形をとります。この段階での聴取は任意であり、応じる義務があるわけではありません。ただし、任意であることと、話した内容が残らないこととは別です。話した内容は書面にまとめられ、住所や氏名も記載されます。

 このとき確かめておきたいのは、聞かれているのが店の営業についてなのか、自分自身の行為についてなのか、という点です。同じ「事情を聞かせてほしい」という言葉でも、この二つでは意味合いが変わります。何を聞かれるのか、どう答えるのかについては、別の記事で詳しく扱っています。

押収された記録が外に出ることはあるか

 押収された物は、事件の記録として管理されます。捜査に関わる公務員には職務上知り得た秘密を守る義務があり、訴訟に関する書類は公判が開かれる前に公にしてはならないという原則も置かれています。名簿の内容がそのまま外部に公開されるという仕組みは、用意されていません。

 もっとも、これは「誰にも知られる心配がない」という意味ではありません。家族や勤務先に伝わるかどうかは、また別の経路の話になります。そちらについては別の記事で整理しています。

記録はいつまで残るのか

 従業者名簿については、退職などから一定の期間は保存しておくことが法律上求められています。一方、客の情報については保存期間の定めがなく、店の運用に委ねられています。数年前の利用が記録として残っていることもあれば、半年前の記録がもう残っていないこともあります。

 押収された物は、事件の処理が終わるまで捜査機関の手元に置かれるのが通常です。時間が経てば自然に消えていく、と考えるのは実際には合いません。

連絡が来たときに落ち着いてやること


  1. どこの誰からの連絡なのかを確認する。所属と担当者の名前、連絡先を控えておく。
  2. どういう立場で話を聞かれるのかを尋ねる。店の営業についてなのか、自分の行為についてなのかで、身構え方が変わる。
  3. 覚えていること、覚えていないこと、推測でしかないことを、手元で分けて書き出しておく。
  4. その場で日時や回数を断定しない。記憶があいまいなまま数字を答えると、後から訂正しにくくなる。
  5. 記録を消したり、店に問い合わせたりしない。どちらも後から説明を求められる行動になる。
  6. 早い段階で弁護士に相談する。何をどこまで話すかを決める前に相談できると、選べる幅が広くなる。


まとめ


  • 客の名簿は法律で作成を義務づけられたものではなく、中身も保存期間も店ごとに異なる。
  • 押収の対象は紙・店の機器・外部のサーバーに分かれており、機器を持ち帰らずに内容だけを取得する方法も用意されている。
  • 押収のほかに、書面で報告を求める照会という経路があり、店が客の情報を答えることは漏えいにはあたらない。
  • どこまで特定されるかは、記録の量ではなく、記録どうしが結びつくかどうかで決まる。
  • 記録に名前があることと、捜査の対象になることとは別の段階である。
  • 連絡が来た場合の聴取は任意だが、話した内容は書面として残る。
  • 後から記録を消すことは、状況をよくする方向には働きにくい。


 利用した店の話を人に打ち明けるのは気が重いものですが、弁護士には守秘義務があり、相談したこと自体が外に伝わることはありません。連絡が来てから慌てるよりも、気になった段階で状況を整理しておくほうが、選べる手立ては多く残ります。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 顧客名簿・予約履歴が押収された場合|どこまで特定されるのか

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼