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風俗店でのトラブルで支払う金額がまとまったものの、一度には用意できず、分割払いを申し入れる。あるいは相手から分割での支払いを提案される。こうした場面は珍しくありません。分割払いそのものについては、刑事事件一般や不倫慰謝料の解説記事が数多く出ています。
ただ、風俗トラブルの分割払いには、それらの解説にはあまり出てこない事情があります。相手を源氏名でしか把握していないこと、店とキャスト個人のどちらが相手なのかがはっきりしないこと、家族や勤務先に知られたくないという事情が絡むことです。
分割にするということは、完済するまでの期間、相手との関係が続くということでもあります。この記事では、条項の書き方そのものではなく、風俗トラブルで分割払いに応じるときに固有に問題となりやすい点を整理します。
この記事で扱うこと・扱わないこと
- 支払う金額そのものが妥当かどうかは、金額の考え方を扱った記事に譲ります。
- 期限の利益喪失条項・遅延損害金・充当の順序・公正証書・支払いが滞ったときの手続は、条項ごとの解説記事に譲ります。
- 店とキャスト個人のどちらに支払うのかという問題、本名を伏せられるのかという問題も、それぞれ別の記事で扱っています。
- すでに警察から連絡が来ている場合や、身柄を拘束されている場合は、状況によって取るべき対応が変わるため、個別にご相談ください。
ここでは、金額と条項がおおむね固まったあとに、「分割にすること」自体が何を生むのかに絞って説明します。
分割払いは支払い方法だけの選択ではない
一括で支払う場合、書面を交わし、入金し、受領の記録を受け取れば、そこで相手とのやり取りは終わります。分割にすると、完済するまでの間、相手との関係が続きます。連絡が取れる状態を保ち、期日ごとに入金し、記録を残していく期間が生まれます。
この点は刑事事件一般の示談でも同じです。ただ風俗トラブルでは、次の3つの事情が重なるため、期間が延びることの意味が大きくなりがちです。
相手が誰なのかを特定しきれていないことがある
相手を源氏名・店舗名・在籍という形でしか把握していない状態で、話し合いが始まることがあります。一括であれば、その日の相手に支払って終えられます。分割では、完済までの間に相手側の事情が変わることを織り込む必要があります。
知られたくない事情を抱えたまま関係が続く
その場で身分証を示した、勤務先や自宅を伝えた、家族の連絡先を書いた。こうした資料が相手の手元にある状態で、支払いのやり取りだけが続く形になります。期間が長くなるほど、連絡の経路も、その連絡が誰かの目に触れる場面も増えます。
どこで話が終わるのかが見えにくい
示談は、その出来事について当事者が争わないことを確認する合意です。分割の場合、その確認がいつから効くのか(合意した時点なのか、完済した時点なのか)を取り決めで分けておかないと、支払っている途中の位置づけがはっきりしません。
一括の場合と分割の場合で変わること
| 場面 | 一括で支払う場合 | 分割で支払う場合 |
|---|---|---|
| 相手方の特定 | 支払いの時点で相手を確認できればよい | 完済までの間に退店や担当者の交代が起こり得る |
| 渡した資料 | 早い段階で返還や廃棄を求めやすい | 完済まで相手の手元に残りやすい |
| 連絡の経路 | 一度きりで済むことが多い | 期日ごとに接点が生じる |
| 清算の効力 | 支払いと同時に効き始める形にしやすい | いつから効くのかを取り決めで分ける必要がある |
| 刑事手続との関係 | 完済を前提とした書面を整えやすい | 完済前の段階での書面の内容を詰める必要がある |
表の右側は、分割にすると生じる「宿題」の一覧でもあります。裏を返せば、これらを書面と記録で先に埋めておけば、分割であることの不利は小さくできます。
相手方が固まらないまま始まりやすい
源氏名だけの書面が残る
その場で作られた書面に、相手方として源氏名しか書かれていないことがあります。一括であればその場で支払いと引き換えに終わりますが、分割では数か月にわたって「誰に対する債務なのか」が曖昧なまま残ることになります。書面を作り直す、あるいは本名と住所を記載した合意書に整える形を検討する余地があります。
店への支払いか、キャスト個人への支払いか
店が受ける損害と、キャスト個人が受ける損害は、法律上は別のものとして扱われます。まとめて一つの金額として提示されることも多いのですが、受け取る権限のある相手に支払ったかどうかは、後から支払いの効力が問題になったときに効いてきます。民法478条は、受け取る権限のない相手への支払いが有効になる場面を限定的にしか認めていません。誰に払うのかという論点そのものは別の記事で扱っていますが、分割の場合は同じ判断を毎回繰り返すことになる、という点だけ意識しておくとよいでしょう。
途中で相手と連絡が取れなくなったとき
キャストが退店した、担当者が変わった、店の連絡先が変わったといった事態は起こり得ます。支払う義務は相手の在籍と連動するものではないため、「連絡が取れないので払わなくてよい」とは言いにくい状況になります。連絡が取れなくなった場合の窓口をどこに置くのかを、あらかじめ書面で決めておく意味があります。
完済までの間、秘密を保てるかどうかが続く
相手の手元に残る資料
その場の流れで、免許証やマイナンバーカードを撮影された、勤務先を伝えた、実家の住所を書いた、というご相談は多くあります。分割にすると、それらが相手の手元にある期間が完済まで延びます。完済時に何を返してもらうのか、何を廃棄してもらうのかを、支払いを始める前に決めておく形が考えられます。
連絡の経路をどこに置くか
期日ごとの連絡が個人の携帯電話に入る形にしておくと、その通知が誰かの目に触れる場面が繰り返し訪れます。連絡は書面でのやり取りに限る、窓口を代理人に一本化する、といった設計は、分割の場合ほど効いてきます。
連帯保証人を求められた場合
分割に応じる条件として、連帯保証人を立てるよう求められることがあります。ここで難しいのは、保証人を立てるということが、事情を誰かに説明することとほぼ同義になる点です。秘密を守りたいという当初の目的と正面から衝突するため、期間を短くする・頭金を厚くするなど、別の形で相手の不安に応えられないかを先に検討する余地があります。
「終わったのかどうか」が完済まで確定しにくい
清算の確認がいつから効くのか
合意した時点で清算を確認する形にするのか、完済した時点で確認する形にするのかで、途中の位置づけが変わります。どちらが有利かは立場によって異なり、一律に決まるものではありません。条項の文言そのものは別の記事に譲りますが、分割では「いつから」という一語が加わることは押さえておいてください。
一部を支払うことが持つ意味
支払いを始めるということは、その債務があることを認めた行為と受け止められるのが通常です。民法152条1項は、債務の承認によって時効の進行が新たに始まると定めています。金額や請求の根拠そのものに疑問がある段階では、先に払ってしまうのではなく、疑問の点を書面で確認してから合意に進む順序が大切になります。
刑事手続が動いている場合
被害届の取り下げや宥恕(許すという意思の表明)を、完済と結び付けた内容にするよう求められることがあります。この場合、刑事手続の側の判断は完済を待ってくれるとは限らないため、支払いの期間と手続の進み方が噛み合わないことがあります。刑事事件が絡んでいる場面では、分割にすること自体の可否を含めて、早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。
毎回の支払いで残しておくもの
分割では、記録が回数分だけ必要になります。次の点を毎回そろえておくと、後から「払った・払っていない」の食い違いが起きにくくなります。
- 振込で支払い、振込人の名義と着金日が分かる形にしておく。
- 何回目の支払いか、残額がいくらかを、相手とのやり取りの中で確認しておく。
- 現金で渡した場合は、その場で受領の書面を受け取る。民法486条1項は、支払いと引き換えに受取証書の交付を請求できると定めています。
- 受け取った人が、店とキャストのどちらの立場で受け取ったのかを記載してもらう。
- 完済したときに、返してもらう書類・廃棄してもらうデータを確認する。
支払いの記録の残し方そのものについては、渡し方を扱った記事で詳しく説明しています。
期間はできるだけ短く設計する
ここまで挙げた問題は、いずれも期間が長いほど重くなる性質のものです。分割か一括かという二択で考える前に、その中間にあたる形を検討してみてください。
- 支払期日を少し先に置いたうえで一括にする。
- 頭金を厚くして、残りを短い期間で払い切る。
- 賞与の時期に合わせて回数を減らす。
- 総額そのものを詰め直したうえで、一括に近い形にする。
相手が分割を渋る理由は、多くの場合、途中で支払いが止まることへの不安です。期間が短い形ほど、条件として求められるものも軽くなりやすい関係にあります。
途中で払えなくなりそうなとき
収入の変動や体調の問題で、当初の計画どおりに払えなくなることはあります。このとき避けたいのは、期日を黙って過ぎさせることです。
- 期日が来る前に連絡する。事後の説明より受け止められ方が違います。
- 口頭ではなく、書面やメッセージなど記録が残る形で申し入れる。
- 支払える金額と時期を、こちらから具体的に示す。
- やり取りが難しくなった段階で、弁護士に窓口を移すことを検討する。
分割に応じる前に決めておきたいこと
- 相手方は誰なのか(店か、キャスト個人か、その両方か)。
- 書面に本名と住所が記載されているか。源氏名だけになっていないか。
- 連絡はどの経路で行うのか。窓口を一本化できるか。
- 渡してしまった資料について、完済時にどう扱うのか。
- 清算の確認は、合意時と完済時のどちらから効く形にするのか。
- その期間、支払いを続けられる見通しがあるか。難しければどの形に変えられるか。
よくあるご質問
分割にすると総額が上がると言われました
分割は、受け取る側にとっては回収できない可能性を抱えることを意味するため、その分の上乗せを求められることがあります。もっとも、これは交渉の中での求めであって、応じる義務があるものではありません。金額の話と払い方の話は、いったん分けて考えてください。
毎月お店に持参するよう言われています
来店を前提とした支払い方法は、その都度の接触が生じるうえ、記録も残りにくくなります。振込に切り替えられないか、あるいは代理人を通じた支払いにできないかを申し入れる余地があります。
分割の途中でキャストが辞めたら、支払いは終わりますか
支払う義務は、相手の在籍とは切り離して考えられるのが通常です。ただし、誰に払えばよいのかという問題は生じますので、その段階で相手側に窓口の確認を求めるのが穏当です。
まとめ
- 分割払いは、支払い方法の選択であると同時に、完済まで相手との関係が続くという選択でもあります。
- 風俗トラブルでは、相手方の特定・秘密の保持・話の終わり方という3点が、期間の長さによって影響を受けます。
- 源氏名だけの書面のまま分割を始めると、誰に対する債務なのかが曖昧なまま残ります。
- 受け取る権限のある相手に支払ったかどうかは、分割では回数分だけ問題になります。
- 渡してしまった資料は、完済までの間、相手の手元に残りやすくなります。
- 連帯保証人を求められた場面では、秘密を守るという目的との衝突が起きます。
- 支払いを始めることは、債務を認めた行為と受け止められるのが通常です。疑問は先に確認してください。
- 一括か分割かの二択ではなく、その中間の形を検討する余地があります。
風俗トラブルの示談でお悩みの方へ
分割払いに応じるかどうかは、金額の問題であると同時に、その後の数か月をどう過ごすかの問題でもあります。書面の形を整えておけば防げたはずの負担が、後から生じてしまうことも少なくありません。
当事務所では、風俗トラブルに関するご相談をお受けしています。すでに書面に署名してしまった場合や、支払いが始まってしまった場合でも、取り得る手段が残っていることがあります。お一人で判断される前に、一度ご相談ください。


