既婚者が風俗トラブル|家庭への影響を抑える秘匿の実務

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

 性風俗店でトラブルになったとき、既婚の方から最初に出てくる言葉は、たいてい「妻に知られたくない」です。刑事責任がどうなるかよりも先に、家庭がどうなるかが頭に浮かぶ。これは相談の現場でよくあることです。

 一方で、インターネット上で「風俗」と「既婚」を組み合わせて検索すると、出てくるのは配偶者の側から書かれた記事――「夫の風俗通いで離婚できるか」「慰謝料は取れるか」――がほとんどです。利用した側が、実際にどこから家庭に伝わるのか、手続きの中で何を選べるのかを整理した情報は多くありません。

 この記事では、性風俗を利用してトラブルを抱えた既婚男性の立場から、家庭への影響を抑えるために何ができて、何ができないのかを整理します。なお、離婚手続そのものは本稿では扱いません。

1. 「バレたくない」を3つに分ける

 同じ「バレたくない」でも、中身は次の3つに分かれます。実務上、打てる手が違います。

  1. 風俗を利用したという事実そのもの
  2. トラブルの中身(高額な請求を受けている、警察が関与している など)
  3. 手続きの過程で家庭に届く情報(電話、郵便物、不在、報道 など)

 このうち、弁護士が関与して現実に影響を与えられるのは、主に2と3です。1については、すでに起きたことを消す手立てはありません。ここを最初にはっきりさせておかないと、「弁護士に頼めば全部なかったことにできる」という期待とのずれが生まれます。

 逆に言えば、2と3は放置すると急速に広がる部分でもあります。店から自宅の固定電話に連絡が入る、内容証明が自宅に届く、身柄を拘束されて何日も帰れない――これらは、初動の選択によって結果が変わりうる領域です。

2. 前提:風俗の利用は、家庭内で法的にどう評価されるか

 秘匿の話に入る前に、「もし伝わったら何が起きるのか」を押さえておきます。ここを知らないまま隠すことだけに走ると、判断を誤りやすくなります。

不貞行為にあたりうる

 判例は、不貞行為を「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」としています(最高裁昭和48年11月15日判決)。相手方が自由な意思に基づいていたかどうかは問わない、という点も示されています。

 この「性的関係」には、性交だけでなく、手淫・口淫といった性交類似行為も含まれうると考えられています。下級審の裁判例にも、デリバリーヘルスで受けた口淫等の性的サービスを不貞行為として扱い、性器の挿入の有無は結論を左右しないとしたものがあります。「本番がなかったから不貞ではない」とは言い切れない、ということです。

ただし、結論は事案によって分かれる

 他方で、風俗の利用を一律に「離婚事由に至る不貞行為」と評価しているわけではありません。下級審には、利用が1回にとどまり、発覚後に配偶者へ謝罪して今後利用しない旨を約束していた事案について、その点だけで離婚事由に当たる不貞行為があったとは評価できない、としたものもあります。

 一般に、利用の回数、特定の相手との関係の深さ、夫婦関係が現に破綻しているか、発覚後の対応といった事情が総合的に見られます。慰謝料が認められる場合でも、恋愛関係を伴う不貞に比べて低額にとどまる傾向があると説明されることが多い分野です。もっとも、これは傾向であって、結論を保証するものではありません。

配偶者が「店」や「相手の女性」に請求できるかは、別の話

 配偶者から見て請求先は2方向あります。夫本人と、相手の女性・店です。

 このうち後者は、実務上はハードルが高いと考えられています。不法行為に基づく請求をするには、相手が「既婚者であると知っていた、または知ることができた」ことを請求する側が立証しなければなりません。風俗店では客が既婚かどうかを確認することが前提とされておらず、この立証は難しいためです。

 ただし、店を介さず個人的に連絡先を交換し、業務外で会う関係になっていた場合は評価が変わります。ここは「店の中で完結していたかどうか」が実質的な分かれ目になります。

3. 家庭に伝わる典型的なルート

 トラブルが起点になる場合、家庭に情報が届く経路は、おおむね次のように整理できます。

ルート何が届くか主に効く内容
①店・相手方からの直接連絡自宅への電話、私物端末への着信、SNSのメッセージ窓口の一本化
②自宅へ届く書面請求書、内容証明、代理人名義の通知送付先の切り替え、早期の委任
③警察からの連絡・訪問出頭要請の電話、捜索出頭日程の調整、早期の弁護人選任
④身柄拘束による不在数日〜最長23日の不在、勾留の通知逮捕・勾留の回避に向けた活動
⑤報道・インターネット実名報道、まとめサイト、SNS事件化・逮捕の回避、削除の検討
⑥金銭の動き示談金の出金、弁護士費用、カード明細支払方法・口座の選択

 このうち④は、影響がもっとも大きいルートです。会社への影響を含めた発覚経路については、別記事「風俗トラブルが原因の失職・懲戒|会社にバレる典型ルートと防止策」で扱っています。実名報道の決まり方は「風俗トラブルで実名報道はされる?」を、店やキャストに握られた個人情報の問題は「風俗店・キャストに個人情報を握られた|悪用・晒しを防ぐには」をご覧ください。

4. 入口でできること――連絡の窓口を一本化する

 トラブルの直後、その場で高額の請求を受けている段階で選択肢がもっとも広く残ります。

 原則として、その場で払わない・書面にサインしない・身分証を渡さない。この3点は、金銭の問題としてだけでなく、秘匿の観点からも重要です。身分証のコピーや勤務先を渡してしまうと、以後の連絡が自宅や職場に向かう余地を自分から作ってしまうことになります(この場面での対応は「誓約書の『罰金100万円』は本当に払う義務があるのか」「風俗トラブルで店の『顧問弁護士』が出てきたら」で詳しく扱っています)。

 そのうえで、家庭への影響という観点から現実的にもっとも効くのは、連絡の窓口を弁護士に一本化することです。代理人が就いたことを相手方に通知すれば、以後の連絡先は法律事務所になります。自宅や私物の携帯に直接かかってくる状態を止められる可能性があるという意味で、これは秘匿のための特別な裏技ではなく、通常の交渉手続がもたらす副次的な効果です。

 なお、「家族にバラす」といった言葉を伴う請求は、その内容によっては脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(同249条)の問題になりえます。一度応じても要求が続くことは珍しくありません。この点は「風俗店・キャストに個人情報を握られた」で詳述しています。

5. 弁護士に依頼する場合の「連絡方法の設計」

 意外に知られていないのですが、依頼者の側から連絡方法の希望を伝えて構いません。相談の段階から遠慮なく伝えていただいて差し支えない事項として、たとえば次のようなものがあります。

  • 郵便物の送付先(自宅以外を指定できないか、事務所で預かれないか)
  • 封筒の差出人表記(事務所名を出さない形にできないか)
  • 電話の時間帯と発信番号(日中の特定の時間帯だけ、携帯にのみ など)
  • メール・メッセージアプリの可否(端末を共有していれば避ける必要があります)
  • 委任契約書や請求書の宛先・交付方法

 弁護士には守秘義務があります。弁護士法23条が職務上知り得た秘密の保持を定めており、弁護士職務基本規程23条にも規定があります。刑法134条1項には秘密漏示罪も置かれています(6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)。この義務は、正式に依頼する前の相談段階から及びます。

 ただし、「絶対に漏れない」と言い切ることはできません。弁護士がコントロールできるのは自分の側の連絡だけだからです。裁判所や捜査機関から本人あてに送られる書類は住所地に届くのが原則ですし、相手方が独自に取る行動まで止められるわけではありません。ここは正直にお伝えしておく必要があります。

 費用の支払方法も、実務的には見落とされがちな点です。家計を共有している口座やカードから支出すれば、明細に痕跡が残ります。支払方法をどうするかは、依頼の段階で相談していただいて構いません(費用の内訳そのものは「風俗トラブルを弁護士に依頼した場合の費用相場と流れ」をご覧ください)。

6. 刑事手続に入った場合

在宅で進むか、身柄を拘束されるか

 家庭への影響という観点では、この分岐がもっとも大きく効きます。在宅のまま捜査が進む事案では、家庭に届く情報は限定的です。警察から出頭を求められた場合も、日程の調整自体は珍しいことではありません。

 一方、逮捕・勾留となれば、逮捕後最長72時間に加えて勾留が原則10日、延長で最長20日、あわせて最長23日の身体拘束がありえます。この期間の不在を説明せずに済ませることは、現実には困難です。

勾留の通知はどこへ行くのか

 条文の作りを正確に押さえておきます。刑事訴訟法79条は、勾留したときは直ちに弁護人に通知しなければならないと定め、弁護人がないときに限り、法定代理人・保佐人・配偶者・直系親族・兄弟姉妹のうち本人が指定する者一人に通知するとしています。起訴前の勾留についても207条1項によりこの規定が準用されます。

 つまり、弁護人が選任されていれば、通知は弁護人あてに行われます。また、弁護人がいない場合でも、通知先は本人が指定する一人です。

 加えて、警察が家族に連絡しなければならないという法律上の義務は定められていません。実際に家族へ連絡が及ぶ典型的な場面は、釈放にあたって身元引受人が必要になる場合や、本人が連絡を希望した場合、本人が未成年である場合などです。

 もっとも、これは「知られずに済む」という意味ではありません。前述のとおり、身体拘束が長引けば不在という事実そのものが残ります。通知の経路を整えることと、拘束を避けることは別の問題です。

 なお、刑事訴訟法290条の2などの秘匿の仕組みは被害者を保護するための制度であり、被疑者・被告人の側が自分の事情を秘匿するための制度ではありません。混同されやすい点なので付言します。

 実名報道と勤務先への影響については、それぞれ別記事に譲ります。

7. 示談書に入れられること・入れられないこと

 示談がまとまる段階では、書面に次のような条項を設けることが検討されます。

  • 口外禁止(秘密保持)条項:本件の内容を第三者に口外しない
  • 接触禁止条項:以後、直接連絡を取らない
  • 清算条項:本件に関して他に債権債務がないことを確認する

 これらは有用ですが、性質を誤解しないことが大切です。示談は民法695条の和解契約であり、条項が拘束するのは契約の当事者だけです。口外禁止条項があっても、相手が破ったときに違約金や損害賠償の問題になるにとどまり、いったん伝わってしまった事実を消せるわけではありません。物理的な保証ではなく、抑止と事後の請求根拠だと理解しておくのが正確です。

 また、店に支払っても、被害を訴えている本人との間で清算したことにはなりません。誰との間の合意なのか、清算条項が誰に及ぶのかは、必ず確認すべき点です(詳細は「風俗トラブルで店の『顧問弁護士』が出てきたら」)。

8. 秘匿を目的にすると、かえって家庭に響きやすい行動

 隠すことを最優先にした結果、事態が悪化する例は少なくありません。

  1. データや記録を消す:自分の刑事事件の証拠を隠す行為は証拠隠滅罪の対象外ですが、削除した事実は、罪証を隠滅するおそれの判断において不利に働くおそれがあります。身柄拘束につながれば、家庭への影響はむしろ大きくなります。不利に見える記録ほど、消さずに保管するのが原則です。
  2. 相手方に直接連絡して謝る・示談を持ちかける:接触自体が新たな問題を生むことがあります。連絡は捜査機関を通じた取次ぎによるのが基本です。
  3. 出頭を拒む、連絡を絶つ:逃亡のおそれがあると評価されれば、逮捕・勾留に近づきます。
  4. 借金をしてでも即金で払う:任意に支払った金銭の回収は容易ではなく、要求が続くこともあります。
  5. 弁護士にも不利な事実を隠す:見通しが実態とずれ、途中で方針を変えることになれば、時間も費用も余計にかかります(「弁護士に不利な事実を隠すとどうなる」)。

9. 秘匿には限界がある、という前提で組み立てる

 法律は「配偶者に知られない権利」を保証していません。弁護士にできるのは、情報が伝わる経路と時期について、こちらで選べる範囲を広げることです。それ以上でも以下でもありません。

 そして、選べる範囲は時間とともに狭くなります。その場で払ってしまった後、身分証を渡してしまった後、書面にサインした後、身柄を拘束された後――どの段階でも打てる手はありますが、選択肢の数は明らかに違います。早い段階での相談に意味があるのは、結果が良くなると保証できるからではなく、複数の選択肢が残っているうちに選べるからです(「風俗トラブルは相談のタイミングで結果が変わる理由」)。

 なお、事案によっては、配偶者に自分から説明したほうが結果的に穏当に収まることもあります。どちらを選ぶかは最終的にご本人の判断ですが、法的な見通しを持ったうえで判断するのと、不安のまま隠し続けるのとでは、選択の質が変わります。

よくあるご質問

Q. 妻に知られずに示談まで進められますか。

 事案によります。相手方との連絡を弁護士が引き受け、書面の送付先を調整することはできますが、捜査機関や裁判所から本人あてに送られる書類、身体拘束の有無など、こちらで動かせない要素があります。「できる限りの配慮はするが、保証はできない」というのが正確な回答です。

Q. 店は、妻からの問い合わせに利用歴を答えるのでしょうか。

 個人情報保護法は、本人の同意なく個人データを第三者に提供することを原則として制限しています(27条)。もっとも、法令を守らない事業者が存在しないとは言えず、制度上そうなっているということと、現実に起きないということは別です。また、弁護士会照会は、事実関係の調査目的で自由に使える制度ではありません。

Q. 弁護士に相談したこと自体が家族に伝わりませんか。

 相談段階から守秘義務が及びます。そのうえで、連絡方法についての希望は、最初の相談時に遠慮なくお伝えください。

まとめ

  • 「バレたくない」は、①利用の事実 ②トラブルの中身 ③手続き上の情報、に分けて考える。手を打てるのは主に②③
  • 風俗の利用も不貞行為にあたりうるが、回数や事後の対応を含めて評価は事案ごとに分かれる
  • 家庭に伝わる経路は限られている。連絡の窓口を一本化し、書面の送付先と支払方法を設計することで、抑えられる部分はある
  • 勾留の通知は、弁護人がいれば弁護人へ。ただし身体拘束そのものが最大の発覚要因である
  • 口外禁止条項は当事者間の約束にとどまり、物理的な保証ではない
  • 隠すことを目的にした削除・逃走・直接連絡は、かえって影響を広げやすい

 その場の請求に即答してしまう前、書面にサインしてしまう前の段階であれば、選べる手は多く残っています。判断に迷う場合は、早い段階でご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼