【刑事事件】被害者から高額な示談金を示された|折り合わないときの進め方

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

この記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法・刑法・民法の規定と、一般的な刑事弁護の実務をもとに作成しています。2025年6月施行の改正刑法により懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されているため、法定刑は改正後の表記で記載しています。


「示談をお願いしたら、想定していた金額の何倍もの額を示された」「払える額ではないが、断れば起訴されてしまうのではないか」。刑事事件で被害者との示談を進めている方やそのご家族から、このようなご相談をいただくことがあります。一方で、金額を示した被害者の側では、受けた被害や続いている不安の大きさを考えれば当然の額だと受け止めていることも少なくありません。

 刑事事件の示談金には目安となる水準があり、それを大きく超える部分は払う必要がない、という説明を目にすることがあります。目安を知ること自体は交渉の役に立ちます。ただ、示談は被害者が同意しなければ成立しない合意であり、目安を示しただけで相手が金額を下げてくれるとは限りません。金額の開きが埋まらないまま処分の時期が近づいてくる場面で何をすればよいのかは、相場の一覧からは見えにくい部分です。

 この記事では、被害者から高額な示談金を示され、話し合いが折り合わないときの進め方に絞って解説します。示された金額そのものが妥当かどうかを検証する視点は示談金の水準をどう判断するか|提示額を検証する4つの視点で、示談の申入れ自体を断られた場合の対応は示談を申し入れたが断られた|そのあとに残る手段で取り上げていますので、あわせてご覧ください。

高額な提示を受けたとき、最初に整理すること

示談金が何の対価として示されているのかを分ける

 刑事事件の示談金は、法律上は被害者が受けた損害の賠償(民法709条・710条)を中心としたものです。治療費や修理費のように金額が比較的はっきりしている損害と、精神的な苦痛に対する慰謝料とでは、金額の決まり方が大きく異なります。さらに刑事事件の示談では、被害者が加害者を許すという宥恕の意思表示や、今後の接触禁止、口外しない約束など、金銭以外の条件もあわせて話し合われるのが一般的です。

 被害者側から示された金額が一つの数字だけの場合、その中に何がどれだけ含まれているのかは分かりません。まずは提示額を「実際の損害」「慰謝料」「宥恕や条件への上乗せ」に分けて考え、どの部分で開きが生じているのかを確かめることが、交渉を進める出発点になります。実際の損害の部分に争いがなく、慰謝料の評価だけが離れているのであれば、話し合う対象はかなり絞られます。

被害者がその金額を示す背景を考える

 高額な提示の背景には、さまざまな事情があります。被害による不安が続いていて、転居や通院の費用を見込んでいる場合もあれば、加害者を許す気持ちになれず、金額の形で示談に応じにくい意思を表している場合もあります。被害者に代理人の弁護士が付いているのか、本人やご家族が直接対応しているのかによっても、話し合いの進み方は変わります。

 背景が違えば、有効な対応も異なります。不安が理由であれば、接触禁止や移動経路に関する条件を手厚くすることで、金額の開きが縮まる場合があります。処罰を求める気持ちが強い場合には、金額を上げても合意に至らないことがあり、その場合は後で述べる別の手段を並行して考えることになります。

交渉の相手が被害者本人またはその正当な代理人かを確かめる

 事件によっては、被害者本人ではなく、知人や関係者を名乗る第三者が示談金の話を持ち込んでくることがあります。被害者の意思と関わりのない人に金銭を支払っても、被害者との示談としての効果は得られません。被害者が未成年の場合は親権者が当事者になるなど、誰と合意すべきかは事件ごとに確認が必要です(未成年の被害者と示談する|親権者の同意と書面の当事者)。被害者の連絡先は、通常、弁護人が捜査機関を通じ、被害者の了承を得たうえで知らされるため、この経路で交渉の相手を確かめることが基本になります。

金額が折り合わないときの進め方

金額だけでなく、条件の組み合わせで調整する

 示談の交渉は、金額の上げ下げだけで進むものではありません。支払方法や支払時期、接触禁止の範囲、謝罪文の差入れ、宥恕の文言を入れるかどうかなど、組み合わせ次第で被害者にとっての受け止め方は変わります。たとえば、次のような調整が考えられます。

  • 一括払いとし、支払時期を早めることで金額の調整をお願いする。
  • 提示額に近い金額とする代わりに、頭金と分割払いを組み合わせる。
  • 接触禁止や通勤経路の変更など、被害者の不安に応える条件を加える。
  • 宥恕の文言は求めず、被害弁償として受け取ってもらうようお願いする。


 どの組み合わせを選ぶかは、本人の資力と、被害者が何を重視しているかによって決まります。分割払いを選ぶ場合には、支払いが滞ったときの扱いを条項で定めておく必要があります(分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書)。

根拠を添えた対案を示す

 提示額を受け入れられないときに、金額だけを返して「この額でお願いします」と伝えても、被害者からは誠意がないと受け止められやすくなります。治療費や修理費の領収書をもとにした実際の損害額、通院期間や被害の内容を踏まえた慰謝料の考え方、同種の事案での一般的な水準などを添えて、なぜその金額を示すのかを説明することが大切です。

 また、対案は口頭だけでなく書面でも示しておくと、後に交渉の経過を検察官や裁判所に報告するときの資料になります。どのような提案をし、どのような理由で合意に至らなかったのかが記録に残っていれば、本人が被害の回復に誠実に取り組んだことを示しやすくなります。

処分の時期から逆算して、交渉の区切りを考える

 刑事事件の示談には、事件の段階に応じた時間の制約があります。逮捕・勾留されている事件では、勾留は原則10日間、延長されても最大20日間であり(刑事訴訟法208条)、その間に検察官が起訴するかどうかを判断します。在宅事件には同じような期限はありませんが、捜査が進めばいずれ検察官が処分を判断する時期が訪れます。

事件の段階交渉の区切りを考える目安
逮捕・勾留中(起訴前)勾留の満期までに検察官が処分を判断するため、残りの日数を確認しながら提案の順序を決める
在宅事件(起訴前)明確な期限はないため、検察官の処分の見込みを弁護人を通じて確認しながら進める
起訴後判決までに示談や被害弁償ができれば量刑で考慮されうるため、公判期日を見据えて進める


 交渉が長引くと、示談がまとまる前に処分が決まってしまうことがあります。弁護人が交渉の状況を検察官に伝え、処分の判断について相談することもありますが、いつまでも待ってもらえるわけではありません。どの時点までに合意を目指し、どの時点で次の手段に移るのかをあらかじめ考えておくことが、折り合わないときの進め方の要になります。

合意に至らない場合に残る手段

受け取ってもらえる範囲で被害弁償をする

 示談書の取り交わしや宥恕には応じられないが、損害の賠償としてであれば金銭を受け取る、という被害者もいます。この場合、示談の成立には至らなくても、被害の一部または全部が回復されたことは、起訴・不起訴の判断や量刑で考慮される事情になります。検察官は起訴するかどうかを判断する際、犯罪後の情況も考慮するとされているためです(刑事訴訟法248条)。財産犯での被害弁償の位置づけは弁償すれば終わるのか|財産犯で被害弁償が処分に与える影響で取り上げています。

受け取りを拒まれたときの供託

 相当と考える金額を用意して支払いを申し出ても、被害者が受け取りを拒む場合には、法務局に金銭を預ける弁済供託という方法があります(民法494条1項1号)。供託は、被害者が受け取らなくても、賠償のための金銭を実際に差し出したことを形として残す手段です。

 ただし、供託をするには、事前に支払いの申出をしていることなどの法律上の要件を満たす必要があります。損害額に争いがある事件では、供託した金額で賠償が済んだと扱われるとは限りません。供託書の作成には法務局との調整も必要になるため、弁護人と相談しながら進めることになります。

贖罪寄付と、交渉経過の報告

 被害者への賠償がどうしてもできない場合には、弁護士会などの団体に寄付をする贖罪寄付という方法もあります(贖罪寄付の申込み方と領収書の扱い)。被害者への賠償に代わるものではありませんが、反省の気持ちを形にした事情として、処分や量刑の判断で考慮されることがあります。

 これらの手段と並行して、弁護人は交渉の経過を書面にまとめ、検察官や裁判所に報告します。どの程度の金額を用意し、どのような提案をしたのかが伝われば、示談が成立しなかった理由が本人の不誠実さによるものではないことを説明できます。検察官が処分を判断する際に見ている材料については起訴猶予を得るために積み上げる材料|検察官が見ているものもご参照ください。

対応処分の判断での一般的な受け止められ方
示談成立(宥恕あり)被害の回復と、被害者が処罰を求めない意思が示され、有利な事情として評価されやすい
示談成立(宥恕なし)被害の回復は評価されるが、処罰を求める気持ちが残っている点もあわせて考慮される
被害弁償のみ被害の回復として考慮されるが、示談の成立と比べると評価は限られやすい
供託賠償の意思と準備を示す事情として考慮されるが、被害者が受け取っていない点で評価は限られる
贖罪寄付反省を示す事情として考慮されることがあるが、被害の回復にはあたらない


 どの対応がどの程度考慮されるかは、事件の内容や前科・前歴の有無によって異なります。表は一般的な傾向を示したものであり、個別の事件の結果を示すものではありません。

折り合わないときに避けたい対応

本人やご家族が直接被害者に連絡する

 話し合いが進まないと、本人やご家族が直接被害者に連絡して事情を説明したいと考えることがあります。しかし、事件の当事者からの連絡は、被害者に強い不安を与え、示談の可能性をかえって遠ざけることがあります。捜査中の事件では、被害者への働きかけが証拠隠滅のおそれと受け取られ、勾留や保釈の判断で不利に扱われることもあります。性犯罪の事件で特に注意すべき点は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で取り上げています。

処分を急ぐあまり、払えない金額で合意する

 処分の時期が迫ると、提示された金額をそのまま受け入れたくなることがあります。しかし、示談は法律上の和解にあたり、いったん合意した後で、金額が高すぎたことを理由に内容を覆すことは難しいのが原則です(民法696条)。支払いの見込みが立たない金額で合意し、途中で支払いが止まれば、被害者の信頼を再び損ね、残額の請求を受けることにもなります。合意する金額は、実際に用意できる資金の範囲で考える必要があります(返済原資をどう作るか|一括・分割と示談成立の可能性)。

高額であることだけを理由に、不当な要求と決めつける

 被害者が損害の賠償を求めることは正当な権利の行使であり、金額が高いというだけで違法になるわけではありません。一方で、本来の損害とかけ離れた金額を、家族や勤務先に知らせるなどと告げて支払わせようとする場合には、恐喝罪(刑法249条、10年以下の拘禁刑)にあたるかどうかが問題になることもあります(恐喝・強要・脅迫はどう違うのか|言い方で罪名が変わる)。

 ただ、こうした判断は慎重に行う必要があり、相手を責める姿勢を示すと、示談の可能性そのものを閉ざしてしまうことがあります。要求の内容に疑問がある場合は、本人が直接反論するのではなく、弁護人を通じて対応を検討することが望ましいといえます。

よくあるご質問

示談金を全額支払えば、不起訴になりますか

 示談が成立しても、必ず不起訴になるわけではありません。検察官は、事件の内容や悪質さ、前科・前歴の有無などを総合して起訴するかどうかを判断するため、示談はその中の重要な事情の一つという位置づけです。詳しくは示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由をご覧ください。

一度合意した示談金を、後から減らしてもらうことはできますか

 合意した内容は、原則として後から覆すことはできません(民法696条)。ただし、重要な事実について勘違いがあった場合や、脅されて合意させられた場合などには、取消しが問題になることがあります(民法95条・96条)。脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いもあわせてご参照ください。

家族が示談金を立て替えて支払ってもよいですか

 ご家族が本人に代わって示談金を支払うことはでき、実務でもよく見られます(民法474条)。ただし、成人した本人の事件について、ご家族に支払いの法的な義務があるわけではありません。立て替える場合の考え方は【親子問題】示談金を親が払うべきか|払う場合の条件で取り上げています。

まとめ


  1. 刑事事件の示談金は損害の賠償(民法709条・710条)が中心であり、提示額を実際の損害・慰謝料・条件への上乗せに分けて、どこに開きがあるかを確かめる。
  2. 被害者が高額を示す背景を考え、不安が理由であれば接触禁止などの条件で開きを縮める余地を探る。
  3. 金額だけでなく、支払方法や時期、宥恕の有無などの組み合わせで調整し、根拠を添えた対案を書面で示す。
  4. 勾留期間(刑事訴訟法208条)など処分の時期から逆算して、交渉の区切りと次の手段に移る時点を考えておく。
  5. 合意に至らない場合は、被害弁償、供託(民法494条)、贖罪寄付を検討し、交渉の経過を検察官に報告する。
  6. 示談は和解にあたり、合意後に覆すことは難しいため(民法696条)、支払える範囲で合意する。
  7. 本人やご家族による直接の連絡は避け、要求に疑問がある場合も弁護人を通じて対応する。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。被害者との示談交渉の進め方や、示された金額への対応についても、事件の段階に応じてご説明します。
被害者から高額な示談金を示されて交渉が止まっている方、ご家族の事件で示談をどう進めればよいか迷っている方は、処分の時期を迎える前にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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