性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由
謝罪と賠償の意思を伝え、示談を申し入れた。しかし、被害者の方から「示談はするつもりはない」と返ってきた——。刑事事件では、決して珍しいことではありません。
示談が成立していれば処分が軽い方向に傾きやすいことは事実です。ただ、示談は相手のある話ですから、こちらが望んでも必ず成立するものではありません。そして、断られたあとに何をするかによって、その後の見通しが変わることもあります。
この記事では、示談を断られた場合に何が残っているのかを、被疑者・被告人となった方とそのご家族に向けて整理します。男女を問わず当てはまる内容です。なお、以下は一般的な説明であり、実際の見通しは事案の内容によって大きく異なります。
まず「どう断られたのか」を切り分ける
ひとことで「断られた」といっても、中身は同じではありません。次のどれに当たるかで、残っている手段は変わってきます。
- 連絡先の開示そのものを断られ、交渉の入口に立てていない
- 被害者と連絡はついたが、会いたくない、話をしたくないと言われた
- 交渉自体は始まったが、金額の折り合いがつかない
- 被害者が法人や店舗で、組織として「示談には応じない」という方針が決まっている
- 被害者が未成年で、親権者が強く拒んでいる
たとえば一つ目は、そもそも相手の意思を直接確認できていないだけかもしれません。捜査機関が被害者に意向を尋ね、その回答が伝えられた段階であれば、伝わり方や時期によって結論が変わる余地は残っています。
これに対して四つ目は、担当者個人の感情ではなく組織の方針の問題ですから、粘っても動かないことが多く、早めに別の手段へ切り替えたほうが合理的です。
「誰が、どの段階で、どういう理由で断ったのか」を確かめるところが出発点になります。
断られても、申し入れた事実まで消えるわけではない
検察官が起訴・不起訴を決めるにあたっての規定が、刑事訴訟法248条です。犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる、と定められています。
ここで見られているのは示談の有無だけではありません。示談は、処罰の必要性を判断するための材料の一つです。したがって、示談が成立しなかった場合でも、「謝罪と賠償を申し入れたが、被害者の意向により成立しなかった」という経過は、犯罪後の情況として説明できる事情になります。
なお、不起訴には、大きく嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予という区分があります。示談が主に効いてくるのは起訴猶予の方向です。事実そのものを争っている事案では、証拠が足りるかどうかという別の軸で判断されますので、示談を軸にした活動とは方向性が変わります。自分の事件がどちらの土俵にあるのかを見誤らないことが大切です。
時期と条件を変えて、もう一度検討する
断られたのが一度だけであれば、そこで打ち切るのは早いといえます。
事件の直後は感情が高ぶっていて当然ですが、時間が経つにつれて落ち着いてくることもあります。また、警察の段階と、事件が検察庁へ送られたあとの段階とでは、被害者への伝わり方が変わることもあります。実務上も、警察段階では断られた案件について、送検後に検察官を通じて改めて意向を確認したところ、「話を聞くだけなら」と姿勢が変わることがあります。
さらに、被害者が示談を避ける理由が、金額ではなく「加害者に住所や連絡先を知られたくない」「二度と関わりたくない」という不安であることも少なくありません。この場合は、条件の設計が鍵になります。やり取りは弁護人だけが行う、直接会う場は設けない、今後一切連絡しないことを条項として明記する、といった形にすることで、応じてもらえる余地が生まれることがあります。
| 手続の段階 | 示談についてできること |
|---|---|
| 逮捕・勾留中(送検前) | 捜査機関を通じて意向を確認する。断られた経過も記録に残る |
| 送検後・処分決定前 | 検察官を通じて再度打診する。条件を変えて提案し直す |
| 起訴後・判決まで | 成立すれば量刑で考慮され得る。被害弁償だけでも意味がある |
| 判決確定後 | 刑事処分への影響はなくなり、民事上の解決の問題として残る |
相手が受け取らない場合に残る手段
申し入れの経過を記録として残す
もっとも基本的でありながら、見落とされやすいのがこれです。いつ、どのような内容で申し入れ、どのような理由で断られたのかを、弁護人から検察官に報告します。口頭の説明で足りることもあれば、書面の提出を求められることもあります。
被害が比較的軽微で、こちらは誠実に対応したものの相手方の事情で成立しなかったといえる事案では、この報告が処分の判断に反映されることがあります。逆に、何もしないまま「断られたので終わり」としてしまえば、その経過は判断する側に伝わりません。
被害弁償だけを申し出る
示談書を交わすところまでは応じられなくても、賠償金の受取だけなら応じる、という被害者の方もいます。この場合、宥恕(許すという意思の表明)の文言や、これ以上請求しないという清算条項は入りませんので、示談が成立した場合と比べれば効果は小さくなります。
それでも、損害が現実に回復されたという事実は残ります。受け取ってもらえない場合でも、支払う意思と資金があることを示すために、示談金相当額を弁護人が預かって保管し、その状態を検察官に説明するという方法もあります。
供託を検討する
被害者が受取を拒んでいる場合に、法務局へ金銭を預ける弁済供託という制度があります(民法494条)。ただし、刑事事件で使える場面は限られます。
まず、供託には被供託者、つまり被害者の氏名と住所が必要で、供託する場所も原則として被害者の住所地を管轄する供託所です。相手の住所がわからなければ、そもそも手続に乗りません。
ここで注意が必要なのが、2024年2月15日から施行されている個人特定事項の秘匿制度です。性犯罪の被害者などについては、氏名や住所といった個人を特定させる事項を被疑者・被告人に明らかにしない措置がとられることがあります(刑事訴訟法201条の2ほか)。この場合、弁護人に対しても、本人に知らせないという条件付きでしか伝えられないことがあり、供託の実行は事実上難しくなります。
加えて、慰謝料が中心となる事案では適正額の判断が難しく、金額が低ければかえって相手の感情を害するおそれもあります。供託は相手の意思に反して一方的に預けるという性質を持ちますので、使いどころを誤ると逆に働きかねません。財産的な損害の額がはっきりしている事案のほうが向いている手段だといえます。
贖罪寄付を行う
弁護士会や被害者支援団体などへ寄付を行い、証明書の交付を受けて提出する方法です。被害者がいない事件や、示談ができなかった事件で用いられます。
ただし、寄付をしてもその金銭が被害者のもとに届くわけではありませんので、示談や被害弁償と比べれば影響は小さくなります。ほかにできることを尽くしたうえで、補足的に検討するものと考えたほうが正確です。
効果の大きさは、おおまかにいえば、示談(宥恕あり)、被害弁償、供託、贖罪寄付という順序になります。上から順に検討し、できないものについては、なぜできないのかを説明できる状態にしておく、という進め方が現実的です。
示談以外に積み上げられる事情
示談が成立しないときほど、それ以外の事情の比重が上がります。
- 二度と繰り返さないための具体的な手立て(住まいや生活習慣の見直し、必要な治療や専門機関への通院など)
- 家族や勤務先による監督の体制と、身元引受人の確保
- 被害者に届くかどうかにかかわらず、自分の言葉で書いた反省文
- 事件に至った原因を、自分で説明できるまで整理しておくこと
注意したいのは、形だけ揃えても意味が薄いということです。何が問題だったのか、どうすれば繰り返さずに済むのかを自分の言葉で説明できないままでは、提出する書面の枚数が増えても評価にはつながりにくいといえます。
避けたい対応
- 自分で被害者を探し、直接連絡を取ろうとすること。証拠隠滅や接触のおそれがあるとみられ、身柄拘束が長引く要因になるほか、事案によっては新たな事件を生むことにもなりかねません
- 断られた腹立ちから、SNSや共通の知人をたどって相手を特定しようとすること
- 提示された金額が明らかに過大であるのに、家族に無理をさせてまで即座に応じてしまうこと
- 「示談をまとめてやる」と持ちかけてくる第三者に頼ること。弁護士でない者が報酬を得る目的で示談交渉を行うことは、弁護士法に触れるおそれがあります
断られたという事実は、こちらの落ち度ではありません。焦って動くほど選択肢が狭まる、という点だけは意識しておいてください。
刑事の手続が終わっても、民事は残る
示談が成立していない以上、清算条項はありません。つまり、仮に不起訴となった場合でも、被害者から損害賠償を請求される可能性は残ります。
不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から原則として3年(生命・身体を害する不法行為の場合は5年)、行為の時から20年で時効にかかります(民法724条、724条の2)。刑事処分が決まったあとになって請求が届くことも十分にあり得ますので、そのときに初めて考えるのではなく、あらかじめ想定しておくほうが安全です。
まとめ
示談を断られたことは、それ自体で結論が決まる出来事ではありません。まず断られ方を切り分け、時期と条件を変えて再度検討し、それでも難しければ、被害弁償・供託・贖罪寄付といった手段と、示談以外の事情の積み上げへ切り替えていくことになります。
一方で、示談がなくても不起訴になった例がある、というだけの話でもありません。事案が重いほど、示談なしでの見通しは厳しくなります。「こうすれば必ず不起訴になる」と言い切れる方法は存在しない、というのが正直なところです。
だからこそ、判断の時間が残っているうちに、何ができて何ができないのかを整理しておくことに意味があります。処分が決まってしまえば、選べる手段は確実に減ります。断られたまま止まっているという方は、その段階で一度、刑事事件の経験のある弁護士に事案を見てもらうことをおすすめします。


