壊すつもりはなかった|器物損壊罪の故意はどこで認定されるか
「淫行条例違反」と呼ばれる青少年健全育成条例違反のご相談では、「相手とは真剣に付き合っていた」というご説明が出てくることが少なくありません。インターネット上でも、「真摯な交際であれば処罰されない」という趣旨の記述を目にすることがあります。
この「真摯な交際」という言葉は、昭和60年10月23日の最高裁判所大法廷判決に由来します。ただし、その言葉が判決文のどこに、どのような形で置かれているのかまで確認すると、広く流通している理解とはずれがあることが分かります。
この記事では、この言葉の出どころと、その主張がどこまで届き、どこから先は別の議論になるのかを、条文と判決文の構造に沿って整理します。個別の事案でどう評価されるかは事情によって変わりますので、一般的な考え方の説明としてお読みください。
「真摯な交際」という言葉はどこから来たのか
この言葉の出どころは、福岡県青少年保護育成条例違反の事件について出された、昭和60年10月23日の最高裁判所大法廷判決です。
当時の福岡県の条例は、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない」と定めていました。この「淫行」という文言が不明確で、罪刑法定主義に反するのではないかという点が争われ、最高裁は文言を限定して解釈する立場を示しました。
現在、各都道府県の条例に置かれている「みだらな性交」「淫らな性行為」といった規定の読み方は、この判決を出発点として説明されています。東京都の担当部署による解説でも、判決が示した内容がそのまま掲げられています。
最高裁が示した二つの類型
判決は、条例にいう「淫行」を、青少年に対する性行為一般を指すものとは解さず、次の二つの類型として説明しました。
| 類型 | 判決が示した内容 |
|---|---|
| 第1類型 | 青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等、その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為 |
| 第2類型 | 青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為 |
判決は、この規定の趣旨についても述べています。青少年は心身の未成熟や発育程度の不均衡から精神的に安定していないことが多く、性行為等によって精神的な痛手を受けやすく、その回復も困難となりがちであることから、育成を阻害するおそれがあり社会通念上非難を受けるべき性質の行為を禁止したものである、という説明です。
実務で条例違反が問題になる場面では、指摘されている事実がこの二つのどちらに向けられたものなのかが、議論の入口になります。
「婚約中の青少年」は例外規定ではなく例示である
「真摯な交際」という言葉は、この判決の中に確かに登場します。ただし、置かれている場所は、二つの類型を示した部分ではありません。
判決は、限定して解釈すべき理由を「けだし」という言葉に続けて述べており、その中で、性行為一般と広く解するならば、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものまで含むことになり、解釈が広きに失する、という趣旨を示しています。
つまり「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年」という記述は、処罰されない場合を定めた例外規定ではなく、文言を限定して解釈すべき理由を説明する中で挙げられた一つの例です。
後の裁判例でも、この部分は当罰性が認められないことが明らかな行為を例示したものであって、処罰の対象とならない場合を婚約に準ずる関係に限定したものではない、という読み方が示されています。例示である以上、そこに当てはまらないから直ちに処罰されるという関係にもなりません。
その判決で被告人は有罪とされている
見落とされやすい点がもう一つあります。
この大法廷判決は、「淫行」の意味を限定して解釈する立場を示したうえで、上告を棄却しており、被告人の有罪は維持されています。
事案は、26歳の被告人が、18歳未満であることを知りながら16歳の青少年と性交したというものでした。第一審、控訴審ともに有罪とし、最高裁もこれを覆していません。
判決は、当てはめにあたって考慮すべき事情として、当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情を挙げています。交際と呼べる関係があったことが直ちに結論を左右する、という構造ではないことが、判決そのものから読み取れます。
どちらの類型に向けた主張なのかを見分ける
交際の性質に関する説明は、二つの類型のうち第2類型、すなわち「単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない」かどうかという評価に向けられたものです。
一方、第1類型が問題とされている場面、たとえば相手の困惑や立場の弱さに乗じたと指摘されている場面では、交際の真摯さを述べるだけでは、指摘された事実そのものへの反論になりません。
捜査機関から示されている事実関係が、手段の不当性に向けられているのか、扱い方の評価に向けられているのかによって、説明すべき内容は変わります。ご自身の説明がどちらに向けたものになっているかを確認しておくことは、初期段階で意味を持ちます。
「としか認められない」という書きぶりの意味
第2類型は、「〜としか認められないような性交又は性交類似行為」という書き方になっています。
この書きぶりからは、交際が真摯であったことを積極的に立証できなければ成立する、という構造ではないことが読み取れます。性的欲望を満たす対象として扱っていたとしか見られない、という評価に至るかどうかが問われているためです。
もっとも、これは説明の負担が軽いことを意味するものでもありません。知り合った経緯や連絡のやり取りの内容など、外形的な事情から見て、ほかの見方が成り立ちにくい状況になっている場合には、その評価を動かすために相応の事情が必要になります。
判断に使われるのは外から確認できる事実
評価の材料になるのは、当事者の内心そのものではなく、それぞれの年齢、知り合った経緯、性交渉に至るまでの経過、関係の続き方といった、外から確認できる事実です。
このため、「真剣だった」という言葉そのものよりも、当時のやり取りや行動が、その説明と食い違っていないかどうかが問われます。
なお、捜査が始まった後になって作成された説明や記録については、その作成の時期や経緯自体が問われることがあります。手元にある記録の扱いを含め、進め方については早い段階で弁護士に相談しておくことをおすすめします。
本人が同意していたことの位置づけ
青少年健全育成条例は、青少年の健全な育成を目的として、大人の側の行為を規制する仕組みになっています。東京都では30条、大阪府では61条というように、違反行為をした者が青少年であるときは罰則を適用しないという規定も置かれています。
そのため、相手が同意していたという事情は、それだけで規定の適用を否定する理由にはなりません。同意の有無は、刑法の性犯罪の規定では中心的な要素ですが、条例の規定はそれとは別の考え方で組み立てられています。
「婚約」という言葉の前提は変わっている
判決が出された昭和60年当時、婚姻適齢は男性18歳、女性16歳であり、未成年者は父母の同意を得て婚姻することができました。「婚約中の青少年」という例示は、この状況を前提としています。
現在は民法731条により、婚姻は18歳にならなければすることができないと定められ、未成年者の婚姻に関する父母の同意の規定も削除されています。
条例上の青少年は18歳未満とされていますので、現行法のもとでは、青少年が法律上の婚姻をすることは想定されていません。判決当時に念頭に置かれていた状況とは、前提が変わっています。
この点は、判決の言葉をそのまま現在の事案に当てはめる際に、留意しておきたい部分です。
条例の作り方で主張の向かう先が変わる
条例は都道府県ごとに定められており、条文の立て方にも違いがあります。
| 条例 | 条文の立て方 |
|---|---|
| 東京都 | 18条の6で「青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない」と包括的に禁止し、24条の3に罰則を置く |
| 大阪府 | 39条で行為を3つの号に分け、1号が対償型、2号が不当な手段・性的欲望の対象型、3号が一定の目的による類型とし、52条に罰則を置く |
東京都のように包括的な文言が置かれている場合、判例の限定解釈は、その文言をどう読むかという形で働きます。
これに対して大阪府の条例は、平成期の改正を経て、判例の示した内容が主に2号の文言として書き込まれた形になっています。
この立て方の違いから、大阪府の条例では、判例の限定解釈に対応するのは2号であり、対償を伴う1号や、一定の目的による3号は、それとは別の要件として定められていることになります。
どの都道府県の条例が適用される事案なのかによって、交際の性質に関する説明が向かう先も変わります。
金品や利益が介在する場合
金品その他の財産上の利益や役務の供与、あるいはその約束が介在している場合には、議論の枠組みが変わります。
大阪府の条例では、対償を供与し、又は供与する約束をして性行為等を行うことが1号として独立に定められています。1号に該当するかどうかは、交際の性質そのものではなく、対償の授受や約束があったかどうかで判断されます。
また、対償を供与し、又はその供与の約束をして性交等をした場合には、児童買春・児童ポルノ禁止法4条の児童買春が問題になり、条例よりも重い法定刑が定められています。
金銭のやり取りが、生活費の援助や貸し借りといった形で説明されることもありますが、その位置づけ自体が争点になる場面があります。
年齢を知らなかったという説明との関係
条例には、年齢を知らなかったことを理由に処罰を免れることができない旨の規定が置かれていることがあります。
東京都の条例では28条にこの規定がありますが、対象として列挙されている条文の中に18条の6は含まれていません。一方、大阪府の条例では59条が39条を列挙したうえで、過失がないときはこの限りでないという例外を設けています。
つまり、年齢の不知をどう扱うかについても、条例ごとの作りを確認する必要があります。
なお、真摯な交際であったという説明と、18歳未満であることを知らなかったという説明を同時に述べる場合、関係の深さについての説明と、相手の年齢を把握していなかったという説明との整合性が問われることがあります。どちらを軸にするかは、事実関係を確認したうえで判断すべき事柄です。
条例で問題にならない場合でも残るもの
条例の解釈上は問題にならないと考えられる場合でも、他の法令が別の要件で適用される場面があります。
| 法令 | 要件の中心 |
|---|---|
| 刑法176条3項・177条3項 | 相手が16歳未満の場合。13歳以上16歳未満については、5年以上年長の者が対象 |
| 児童買春・児童ポルノ禁止法4条 | 対償を供与し、又はその供与を約束して性交等をした場合 |
| 児童福祉法34条1項6号 | 児童に淫行をさせる行為に当たる場合 |
| 刑法182条ほか | 16歳未満の者に対する面会要求等、性的な姿態の撮影に関する規定に触れる場合 |
これらの規定は、交際の性質とは別の要件で成否が決まります。相手の年齢や、対償の有無、撮影の有無といった事情によっては、条例の議論とは切り離して検討する必要があります。
とくに相手が16歳未満である場合、刑法の規定は交際の実態を理由に適用が外れる仕組みにはなっていません。
手続の面で知っておきたいこと
条例違反は親告罪ではないため、告訴がなくても捜査や起訴が行われます。相手の側が処罰を望んでいないという意向だけで手続が終わるわけではありません。
一方で、保護者からの相談をきっかけに捜査が始まる例もあり、その後の対応が処分の判断に影響することはあります。
また、条例は青少年自身に罰則を適用しない仕組みになっています。相手も同意していたという説明が、双方の責任を分け合う形にはならない点は、押さえておきたいところです。
連絡が来た段階で整理しておきたいこと
警察から連絡があった段階では、次のような点を整理しておくと、方針を検討しやすくなります。
・どの都道府県の、どの条文が問題とされているのか
・不当な手段があったと指摘されているのか、扱い方の評価が問題にされているのか
・金品や利益のやり取りがあったとされているのか
・相手方やその保護者と直接連絡を取ってよい状況なのか
・すでに述べた説明の内容と、記憶している事実にずれがないか
・関係するやり取りの記録が、そのままの状態で残っているか
弁護士に確認できること
弁護士に相談する場面では、次のような点を確認できます。
・適用が想定される条例の規定と、他の法令との関係
・述べようとしている説明が、どの要件に向けた主張になるのか
・捜査機関に対する説明の進め方と、その時点で述べる範囲
・相手方や保護者への対応を代理人が担う場合の進め方
・勤務先や学校への影響として、現時点で見込まれる範囲
まとめ
この記事の内容を整理します。
・「真摯な交際」は、条例にも判例にも、例外規定として置かれた言葉ではない
・昭和60年の大法廷判決は、文言を限定して解釈すべき理由を述べる中で、処罰の対象として考え難い例の一つとして挙げた
・同じ判決は、限定解釈を示したうえで被告人の有罪を維持している
・交際の性質に関する説明は、二つの類型のどちらが問題とされているかで届き方が変わる
・条例の条文の立て方によって、その説明が向かう先も変わる
・条例上問題にならない場合でも、刑法や児童買春・児童ポルノ禁止法などは別の要件で判断される
「真摯な交際だった」という説明は、事案によって意味を持つことがあります。ただし、それは例外規定に当てはめる作業ではなく、指摘されている事実がどの要件に向けられているかを踏まえて、外形的な事情とともに説明していく作業です。捜査機関から連絡があった段階で、どの点をどう説明するかを含めて、早めに弁護士にご相談ください。


