会計前に開封して食べた|店内飲食と窃盗の成立時期
薬物の使用を疑われて尿を提出し、結果が「陰性」だったとき、それで事件は終わったと考えてよいのか。ご相談の場面で最初に聞かれることの多い点です。
尿の検査は薬物事件の捜査で中心的な位置を占めますが、そこで出る結果が示しているのは「提出した尿から、決められた基準を超える成分が検出されたかどうか」にとどまります。使っていないことを証明する検査ではなく、また捜査機関が集める証拠が尿だけとも限りません。この記事では、陰性という結果が何を意味しているのか、検出できる期間がなぜ人によって変わるのか、そして尿以外にどのような証拠が問題になるのかを、公表されている資料をもとに整理します。
「陰性」という結果が意味していること
調べているのは「提出したその尿」だけ
尿の検査は、提出された尿に含まれる成分を調べるものです。したがって結果が示すのは、採取した時点で、体内から尿に排泄されていた成分がどれだけあったかということに尽きます。過去に使ったことがあるかどうかを直接判定する検査ではありません。
この点は、陽性の場合と対比すると分かりやすくなります。尿から成分が検出された場合には、特段の事情がない限り自らの意思で摂取したものと認めるのが相当だ、という考え方を示した裁判例があります(高松高裁平成8年10月8日判決)。陰性であればこの推認は働きませんが、それは「使用の立証が難しくなる」という意味であって、捜査そのものが止まることを意味するわけではありません。
基準値を下回ると「検出せず」と扱われる
現場で行われる簡易な検査キットは、薬物ごとにあらかじめ定められた基準値(カットオフ値)を超えたかどうかで判定する仕組みになっています。基準値を下回れば反応なしと扱われますが、それは成分がまったく存在しないことまでを示すものではありません。
また、簡易検査はふるい分けのための検査であり、科学捜査研究所などで行われる精密な鑑定とは、対象とする物質も感度も異なります。厚生労働省の審議会に提出された資料でも、現場でのスクリーニング法と、一定の感度をもった精密な検証試験とを分けて論じる整理がされています。簡易検査の結果だけで捜査の見通しが決まるわけではないと考えておいた方が、実際の運用に近いといえます。
検査の対象になっていない薬物は出てこない
検査は、あらかじめ対象とされた薬物について反応を見るものです。対象に含まれていない物質であれば、その検査では検出されません。とくに、成分の構造が次々と変えられる指定薬物(いわゆる危険ドラッグ)では、この点が問題になることがあります。
検出できる期間には幅がある
「いつまで尿に残るのか」は関心の高い点ですが、公表されている資料を見る限り、一律の日数を示せる性質のものではありません。
| 薬物 | 尿で調べている成分 | 期間について示されている内容 |
|---|---|---|
| 大麻 | THCの代謝物(THC-COOH) | 摂取後おおむね1週間程度は検査可能な量が排泄される。常習者では3か月を超えて検出された例が知られている |
| 覚醒剤 | メタンフェタミンと、その代謝物のアンフェタミン | 排泄の速さが尿の性状に左右され、消失にかかる時間に大きな個人差がある |
大麻についての記載は、厚生労働省の大麻規制検討小委員会に提出された資料「大麻由来製品の使用とTHCによる使用の立証について」(令和4年)によります。THCは体内で代謝され、THC-COOHという代謝物として尿に排泄されるため、使用の立証はこの代謝物を定量して行うと説明されています。
同じ量を使っても結果は一致しない
日本中毒学会が公開している資料では、メタンフェタミンについて、血液中の半減期がおよそ8.5時間、尿への消失半減期は尿が酸性寄りのとき7〜14時間、そうでないときは18〜34時間とされています。つまり体外へ出ていく速さは、尿の性状だけでも二倍以上の開きが生じ得るということです。
これに使用量、回数、体格、水分の取り方といった要素が重なります。同じ日に同じ量を使ったとしても、翌日の検査結果が同じになるとは限りません。
期間から逆算する発想が成り立たない理由
幅がこれだけ大きいということは、検査を受ける側から見れば見通しが立てにくいということでもあります。加えて、すでに警察から呼び出しを受けている状況で日程を先延ばしにすれば、その経緯自体が、逃亡や証拠隠滅のおそれを疑わせる事情として受け止められることがあります。時間の経過を当てにした対応は、身柄をめぐる判断をかえって不利な方向に動かしかねません。
尿のほかに何が証拠として使われるのか
押収された物と、そこに残った微量の成分
自宅や車の捜索で薬物そのものが見つかれば、使用とは別に所持の問題になります。薬物が見つからなくても、パケ、注射器、吸引に用いる器具などが押収されれば、そこに残った微量の成分が鑑定に回されます。
押収物の鑑定には一定の日数がかかるため、尿の結果が先に出たとしても、それで手続が完了するとは限りません。
毛髪など、尿以外の資料
尿から成分が検出されなかった場合に、毛髪の提出を求められることがあります。毛髪は尿より長い期間をさかのぼれる可能性がある一方で、学会での報告では、毛髪に薬物が取り込まれる仕組みには未解明の部分が残っていること、外部から付着した可能性も考慮する必要があることから、分析結果の解釈には注意を要すると指摘されています。
毛髪から成分が検出されれば直ちに使用が認定される、という関係にはありません。いつの時点の使用かという点も、争いになり得ます。
やり取りの記録と、関係者の供述
携帯電話やSNSの履歴、送金の記録、同席していた人や譲り渡したとされる人の供述も、証拠として集められます。売人側の捜査から名前が挙がり、そこから捜査が始まる例もあります。尿が陰性であることは、これらの捜査が行われない理由にはなりません。
本人が認めただけでは有罪にできない
補強法則という決まり
憲法38条3項は、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には有罪とされないと定めています。刑事訴訟法319条2項も、公判廷における自白であるかどうかを問わず同じ趣旨を規定しています。これを補強法則といいます。
どれだけ詳しい供述があっても、それを裏づける別の証拠がなければ有罪の認定はできません。尿が陰性で、押収された物もないという場面では、この点が実際上の分かれ目になることがあります。
ただし量刑の材料にはなり得る
最高裁昭和42年7月5日大法廷判決は、起訴されていない事実について本人の自白しか証拠がないものを、実質的に処罰する趣旨で重い刑を科すことは許されないとしました。もっとも、そうした事実を情状の一つとして考慮すること自体までは禁じられていない、とも整理されています。
取調べで話した内容が、直接の有罪認定には使えない場合でも、量刑の場面で意味を持つことはあるということです。何を話すかを整理しないまま応じることには、この意味でも慎重であってよいと考えます。
陰性でも別の罪名で問われる場面
使用と所持・譲受けは別の罪
覚醒剤取締法では、使用が19条・41条の3第1項1号に、所持や譲り渡し・譲り受けが41条の2第1項に定められており、いずれも法定刑は10年以下の拘禁刑です。大麻を含む麻薬については、麻薬及び向精神薬取締法に施用や所持等の規定が置かれています。
尿から検出されなかったとしても、押収された薬物があれば所持の問題として、入手の経緯が明らかになれば譲り受けの問題として扱われる可能性があります。「使用の証拠がない」ことと「立件されない」ことは、同じではありません。
別の日、別の事実に話が移ることもある
捜査機関は、同じ端末や同じ関係者から別の事実が出てこないかを確認していきます。陰性という結果が出た後に、別の日の行為や別の罪名について説明を求められることもあります。その場合、以前に説明した内容との整合性が問われますので、記憶があいまいなまま断定的に答えてしまうと、後の段階で修正が難しくなります。
検査の前後で伝えておきたいこと
服用している薬は先に申告する
体内で代謝されてメタンフェタミンを生じる医薬品が知られています。パーキンソン病の治療に用いられるセレギリン(l-デプレニル)がその例で、都道府県警察の科学捜査研究所による研究報告でも、分析上の注意点として挙げられています。国内で流通する覚醒剤の多くとは光学異性体が異なるため、精密な鑑定では区別が可能とされていますが、そのためには服用歴が分かっていることが前提になります。
市販の風邪薬や漢方薬に含まれる成分が簡易検査に影響し得ることも指摘されています。お薬手帳、処方箋、薬の外箱をすぐ示せる状態にしておくことには、それだけの意味があります。
手元に残しておきたい情報
後から事実関係を確認するために、次の点は書き留めておくことをおすすめします。
・いつ、どこで、どのような検査を受けたか
・その場で署名した書面の名称と、控えを受け取ったかどうか
・押収された物の品目と数
・服用中の薬、市販薬、サプリメント、CBD製品などの入手時期と入手先
・警察から次に何を求められているか(呼び出しの日時、提出を求められている物)
早い段階で弁護士に相談する意味
尿が陰性であっても、押収物の鑑定や関係者の取調べが進んでいれば、手続はそのまま続きます。逆に、陰性という結果が処分の判断に効いてくる場面もあります。どちらに向かっているのかは、外から見ているだけでは分かりません。
弁護人が付けば、捜査の進み方について警察や検察に確認し、服用薬などの説明資料を早い段階で提出することができます。取調べにどう臨むかを事前に整理しておくことも可能です。身柄を取られている場合には、接見を通じて状況を伝え、釈放に向けた働きかけを行います。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件について初回の相談を無料でお受けしています。ご相談の受付は24時間対応で、逮捕されている場合の即日接見にも対応しています。出頭や自首への同行は全国で対応可能です(移動にかかる費用は別途申し受けます)。深夜・早朝についても、状況により対応できる場合があります。ご本人からのご相談のほか、ご家族からのご相談も承っています。
まとめ
・尿の検査の結果は、提出した尿についてのものであり、使用がなかったことを証明するものではない
・簡易検査は基準値を超えたかどうかで判定するふるい分けであり、精密な鑑定とは対象も感度も異なる
・検出できる期間には大きな幅があり、大麻では常習者で3か月を超えて検出された例が知られている
・覚醒剤の排泄の速さは尿の性状に左右され、個人差が大きい
・尿以外に、押収物の付着成分、毛髪、通信や送金の記録、関係者の供述が証拠になり得る
・毛髪の分析は外部からの付着の可能性も考慮する必要があり、結果の解釈には注意を要するとされる
・本人が認めただけでは有罪にできない(憲法38条3項、刑事訴訟法319条2項)
・使用と所持・譲受けは別の罪であり、尿が陰性でも別の罪名で問われることがある
・服用している薬は早い段階で申告し、資料を示せるようにしておく


