【親子問題】子がホストクラブの売掛で多額の債務を負った|親が関わるときの順序と改正風営法
この記事は、2026年10月時点の刑法・刑事訴訟法・少年法(2022年4月施行の改正により、18歳・19歳を「特定少年」とする特例を含みます)と、検索結果の削除に関する最高裁判所の判断をもとに書いています。個別の事件で報道がされるかどうかは、事件の内容や報道機関の判断によって異なります。
「息子が逮捕された。ニュースに名前が出たら、家族はこの先どう暮らせばいいのか」「娘の事件で、きょうだいの学校や夫の勤務先にまで知られてしまうのではないか」。子の逮捕をきっかけにご相談に来られる親御さんからは、事件そのものの見通しと同じくらい、家族の生活が壊れてしまうことへの不安をお聞きします。
逮捕報道については「実名報道を避けるには早く弁護士に依頼すること」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、報道の判断をするのはあくまで報道機関であり、弁護人が働きかけても結果を約束することはできません。そして、報道がされるかどうかにかかわらず、家族の側には「取材が来たらどうするか」「誰に、いつ、何を伝えるか」「子の部屋や仕事をどう扱うか」といった、決めておくべきことが数多く残ります。
この記事では、子の逮捕が報道されるかもしれない場面で、親を中心とした家族が自分たちの生活を守るために準備できることを整理します。報道を避けるために弁護人が行う活動については実名報道は避けられるのか|報道の判断と弁護人ができることで、逮捕直後に親がすべきことは【親子問題】子が逮捕された|親が最初にすべきことで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
報道されるかどうかは家族には決められない|決まり方を知っておく
報道の判断をするのは報道機関
逮捕された事実を報じるかどうか、実名で報じるかどうかは、警察の広報の内容を受けて各報道機関がそれぞれ判断します。事件の重大さ、被害の大きさ、本人の職業や立場、社会的な関心の高さなどが考慮されているといわれますが、統一された基準が公表されているわけではありません。
また、刑法は、まだ起訴されていない人の犯罪行為に関する事実を「公共の利害に関する事実」とみなしています(刑法230条の2第2項)。そのため、逮捕の事実を正確に伝える報道を、後から違法だと争うことは一般に難しいと考えておく必要があります。家族としては、報道を止められるかどうかよりも、報道された場合に生活をどう保つかに目を向けるほうが、現実的な準備につながります。
なお、逮捕されずに捜査が進む在宅事件でも報道されることはあります。この点は在宅事件・書類送検でも報道されるのかで解説しています。
子が17歳以下の場合
少年法は、家庭裁判所の審判に付された少年などについて、氏名・年齢・職業・住居・容貌などから本人と推知できるような記事や写真を掲載してはならないと定めています(少年法61条)。報道機関はこの趣旨に沿って、逮捕の段階から匿名で報じる運用をとってきました。
ただし、この規定は報道機関に向けたものであり、SNSや掲示板での書き込みまで直接止めるものではありません。学校や地域の中で事件が知られている場合には、ネット上で名前や家族の情報が広まることもあるため、後の章で触れる準備は少年事件でも必要です。少年事件の手続の流れは【親子問題】少年事件の流れ|家庭裁判所送致から審判までをご覧ください。
子が18歳・19歳の場合(特定少年)
2022年4月施行の改正少年法により、18歳・19歳は「特定少年」とされました。特定少年のときに犯した罪については、家庭裁判所から検察官に送致され、正式な裁判を求める形で起訴された段階で、推知報道の禁止が外れます(少年法68条)。略式命令の請求(書面だけで罰金を科す手続)の場合は、この解除の対象になりません。
つまり、18歳・19歳の子については、逮捕の時点では匿名でも、起訴の段階で実名が報じられる可能性があるということです。手続のどの段階で報道の可能性が変わるのかを、弁護人に確認しておくと見通しが立てやすくなります。
報道の前に家族で決めておくこと
取材や問い合わせの窓口を一つにする
報道がされると、自宅への訪問、電話、親族や近所への聞き込みなど、家族それぞれのもとに別々に連絡が入ることがあります。そのたびに家族の誰かがその場で答えてしまうと、内容がばらばらになり、後で訂正することも難しくなります。
まず、家族の中で「取材や問い合わせには自分たちから答えない」「対応は誰か一人がまとめて受ける」と決めておくことが大切です。弁護士に依頼している場合は、問い合わせはすべて代理人の弁護士に回すと決めておくと、家族が直接やり取りをする負担を減らせます。
家族それぞれのSNSと連絡先を見直す
報道をきっかけに、家族のSNSアカウントが探し出され、過去の投稿や写真が転載されることがあります。次のような点を、報道の前に家族全員で確認しておくと安心です。
- 家族の写真や自宅周辺が写った投稿を、非公開にするか整理する。
- 子の名前や学校・勤務先が分かる投稿がないかを確認する。
- 事件について家族自身が投稿やコメントをしない。
- 知らない番号やアカウントからの連絡には、その場で応じない。
投稿をすべて削除する必要はありませんが、家族の生活圏が分かる情報は、一度見直しておく価値があります。
きょうだいの学校や家族の勤務先に先に話すか
報道がされる可能性が高い場合、きょうだいの通う学校や、親・きょうだいの勤務先に、報道より前に事情を伝えておくかどうかは悩ましいところです。先に伝えておけば、学校や職場が問い合わせや周囲の反応に備えられる一方で、報道されなかった場合には、知られなくてよかったはずの事実を伝えたことになります。
家族の事件は、勤務先の従業員本人の行為ではありません。家族が逮捕されたことだけを理由に不利益な扱いを受けることは、通常考えにくいところです(労働契約法15条・16条)。ただ、職場や学校の受け止め方には差があるため、報道の見通しを弁護人に確認したうえで、伝える相手と範囲を絞って判断するのが現実的です。家族の事件が勤務先に伝わる経路については会社・学校に知られるのはどの段階か|通知の仕組みと事実上の経路も参考になります。
取材や自宅周辺の動きにどう向き合うか
取材に応じる義務はない
報道機関からの取材やコメントの求めに、家族が応じる法律上の義務はありません。「親として何か一言」と求められることもありますが、その場で話した内容が見出しや映像として切り取られることもあります。
謝罪や心境を伝えたいと考える場合でも、その場で答えるのではなく、弁護人を通じて短い文書で出すという方法があります。事件の内容や子の言い分には触れず、捜査や裁判に影響しない範囲にとどめることが、子の手続にとっても家族にとっても安全です。
自宅に入られる・敷地から出ていかないとき
取材であっても、家族の承諾なく敷地や建物に立ち入ることや、退去を求めたのに居座ることは、住居侵入・不退去にあたる可能性があります(刑法130条)。インターホン越しに「取材には応じません。敷地から出てください」とはっきり伝え、それでも離れない場合は警察に相談することができます。
訪問の日時、社名や氏名、やり取りの内容は、簡単でよいので記録しておくと、後で報道機関に申し入れをするときの材料になります。
一時的に家を離れるという選択
大きく報道される事件では、自宅周辺に報道関係者が集まり、通勤や通学に支障が出ることもあります。そのような場合には、親族の家やホテルなどに一時的に移ることも選択肢の一つです。
家を離れる際は、郵便物の受け取り、ペットや高齢の家族の世話、警察や弁護人からの連絡先をあらかじめ整えておくと、混乱を減らせます。家族が一時的に家を離れる場面の考え方は、【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択でも取り上げています。
逮捕された子の生活をどう扱うか
一人暮らしの部屋と郵便物
成人した子が一人で暮らしている場合、身柄の拘束が続くと、家賃の支払い、郵便物、公共料金などがそのままになります。親が代わりに対応する場合でも、子の部屋に入ることや契約を動かすことは、本人の了承を得てから行うのが原則です。
接見禁止がついて家族が面会できない場合は、弁護人を通じて本人の意向を確認できます。了承がないまま解約や処分を進めると、後で本人との間で争いになることがあるため注意が必要です。
子の勤務先への連絡
子が働いている場合、無断欠勤が続くことで勤務先に事情が知られることがあります。勤務先に何をどこまで伝えるかは、子の雇用だけでなく、報道との関係にも影響するため、弁護人と相談しながら決めることをおすすめします。勤務先に伝わる経路の整理は勤務先に伝わる経路|通知制度と事実上の伝達を分けるで解説しています。
親が引き受けることと引き受けないことを分ける
子の事件では、被害者への謝罪や示談金、借金の整理など、親に多くの役割が求められているように感じられることがあります。しかし、成人した子の事件について、親が法律上の責任を当然に負うわけではありません。
家族の生活を守るためには、親が引き受けることと引き受けないことを最初に分けておくことが大切です。被害者への対応や示談金の負担については、【親子問題】示談金を親が払うべきか|払う場合の条件と【親子問題】被害者側への対応を親が担う場面の注意点をご覧ください。成人した子の事件で親にできることの全体像は【親子問題】成人した子の刑事事件で親ができること・できないことで整理しています。
報道の後に残るもの|ネット上の記事と検索結果
報道機関への申し入れ
報道の内容に事実と異なる点がある場合や、事件と関係のない家族の住まいや顔が分かる形で報じられた場合には、報道機関に訂正や配慮を申し入れることができます。テレビの放送による権利侵害については、放送局に申し入れたうえで、放送倫理・番組向上機構(BPO)に申し立てる仕組みもあります。
申し入れは家族が直接行うこともできますが、感情的なやり取りになると話が進みにくくなります。記録した事実をもとに、弁護士を通じて書面で行うほうが、相手方も対応を検討しやすくなります。
検索結果やSNS投稿の削除の考え方
報道機関が記事を取り下げても、ネット上に転載された記事や検索結果が残ることがあります。逮捕歴が表示される検索結果の削除について、最高裁判所は、その事実を公表されない利益が、検索結果を提供する理由に優越することが明らかな場合に削除を認めるという判断を示しました(最高裁平成29年1月31日決定)。また、SNS上の逮捕歴の投稿については、公表されない利益が優越する場合に削除を求められるとした判断があります(最高裁令和4年6月24日判決)。
いずれも、事件の性質、経過した時間、子の現在の立場などを踏まえて判断されるため、事件直後に削除を求めることは難しい場合が多いと考えておくのが現実的です。削除の考え方は検索結果からの削除はどこまで認められるかで詳しく解説しています。
家族の名前や住所が晒されたとき
事件と関係のない家族の氏名や住所、勤務先などがSNSや掲示板に書き込まれた場合は、逮捕の事実の報道とは別に、プライバシーの侵害として削除を求められる可能性があります。書き込みを見つけたら、URLと画面をそのまま保存してから、削除の申出や弁護士への相談を検討してください。名前が特定・拡散された場合の対応はSNSで名前が特定・拡散された|加害者側からできる対応も参考になります。
家族の生活を守ることと、子を支えることの両立
事件の前から続いていた問題に目を向ける
子の事件の背景に、家庭内での暴力、お金の無心、ひきこもりなど、以前から続いていた問題があることも少なくありません。事件の対応に追われる中で、こうした問題が置き去りにされると、釈放や判決の後に同じ状況へ戻ってしまうおそれがあります。
身元引受人を求められた場合も、引き受けるかどうかは、事件後に家族がどのような形で子と関わるかと合わせて考える必要があります。身元引受人の意味と責任については【親子問題】身元引受人になることの意味と責任をご覧ください。
親子の距離を整えるという考え方
当事務所では、親子の問題について、弁護士が親御さんの代理人として子との窓口を担い、民間の自立支援カウンセラーが子の住まい探しや仕事探し、日々の生活を支えるという形で取り組んでいます。子の事件を機に、親子が適切な距離を取り、それぞれが生活を立て直す方向に進めるかどうかが、事件後の家族の暮らしを左右することもあります。
事件の弁護と並行して、事件後の生活をどう組み立てるかについてもご相談いただけます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
よくあるご質問
子は成人して別に暮らしています。それでも親の家に取材は来ますか。
別に暮らしていても、実家として親の家が取材の対象になることはあります。特に、子の住まいに本人がいない状況では、家族の話を求めて親の家を訪ねることがあります。応じる義務はありませんので、窓口を決め、答えないという方針を家族で共有しておくことが大切です。
報道しないよう、家族から報道機関に直接頼んでもよいですか。
頼むこと自体は禁止されていませんが、家族が直接連絡することで、かえって家族の存在や連絡先が知られることもあります。報道への働きかけは、事件の見通しを踏まえて弁護人が行うほうが、子の手続との整合性も取りやすくなります。
事件のことを、きょうだいの学校に伝えるべきですか。
必ず伝えなければならないものではありません。報道の可能性や、地域で事件が知られているかどうかによって判断が分かれます。報道される見込みが高い場合は、担任や管理職など限られた相手に、きょうだいの安全と心身への配慮をお願いする形で伝えることが考えられます。
まとめ
- 報道するかどうか、実名にするかどうかは報道機関が判断し、起訴前の犯罪行為に関する事実は「公共の利害に関する事実」とみなされる(刑法230条の2第2項)。
- 17歳以下の子は推知報道が禁止されるが(少年法61条)、SNS上の書き込みまでは止められない。
- 18歳・19歳の特定少年は、正式な裁判を求める起訴の段階で推知報道の禁止が外れる(少年法68条)。
- 取材や問い合わせの窓口を一つにし、家族それぞれのSNSと連絡先を報道の前に見直しておく。
- 取材に応じる義務はなく、敷地への立ち入りや居座りは住居侵入・不退去にあたる可能性がある(刑法130条)。
- 逮捕された子の部屋や契約は本人の了承を得て動かし、親が引き受けることと引き受けないことを最初に分ける。
- 検索結果や投稿の削除は、公表されない利益が優越するかどうかで判断される(最高裁平成29年1月31日決定、最高裁令和4年6月24日判決)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の逮捕や報道への不安を含め、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方にお住まいの方からのご相談にも対応しています。
子の事件の弁護だけでなく、報道への備えや、事件の後に家族がどのように生活を立て直していくかについても、ご家庭の事情を伺いながら一緒に考えます。お一人で抱え込まず、早めにご相談ください。


