置き忘れの財布を拾って使った|遺失物横領と窃盗の分かれ目
薬物を持っていたわけではないのに、尿検査の結果をきっかけに取調べや逮捕に至ることがあります。「物が出ていないのだから、大きな話にはならないのではないか」と受け止める方は少なくありません。
しかし、薬物の「使用」は、所持とは別に規定された犯罪です。体内から成分が検出されたという一点から手続が進むことがあり、争点も、所持の事件とは異なる場所に移ります。この記事では、使用のみで問われる場合に何が根拠とされ、どこが争いになりやすいのかを整理します。
「所持」と「使用」は別々に規定された犯罪
覚醒剤取締法19条は、法律で認められた場合を除いて覚醒剤を使用してはならないと定め、これに違反した場合の罰則を41条の3第1項1号が定めています。法定刑は10年以下の拘禁刑です。単純所持の罪(41条の2第1項)も10年以下の拘禁刑ですので、覚醒剤については、単純所持と使用とで法定刑に差はありません。
薬物の種類によって、使用にあたる行為の呼び方も、根拠となる条文も異なります。
| 薬物 | 使用にあたる行為 | 根拠となる主な条文 | 法定刑(営利目的でない場合) |
|---|---|---|---|
| 覚醒剤 | 使用 | 覚醒剤取締法19条・41条の3第1項1号 | 10年以下の拘禁刑 |
| 大麻(2024年12月12日以降) | 施用 | 麻薬及び向精神薬取締法27条・66条の2第1項 | 7年以下の拘禁刑 |
| ヘロイン以外の麻薬 | 施用 | 麻薬及び向精神薬取締法27条・66条の2第1項 | 7年以下の拘禁刑 |
| ヘロイン(ジアセチルモルヒネ等) | 施用 | 麻薬及び向精神薬取締法64条の3第1項 | 10年以下の拘禁刑 |
| 指定薬物(いわゆる危険ドラッグ) | 使用 | 医薬品医療機器等法76条の4(罰則は84条) | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
使用そのものを処罰する規定がない薬物もある
向精神薬については、譲渡しや譲渡し目的の所持などが処罰の対象とされている一方で、使用そのものを処罰する規定は置かれていません。大麻も、2024年12月12日より前は、使用を処罰する規定がありませんでした。薬物であれば使用が当然に犯罪になるわけではなく、どの法律のどの条文で問われているのかを、最初に確認しておく必要があります。
自分に使う場合に限られない
「使用」は、自分の体に用いる場合に限られません。他人に注射するなど、他人に対して用いる行為も含まれ得ます。麻薬及び向精神薬取締法では「施用」という言葉が使われ、施用のために交付する行為なども併せて禁止されています。
物が押収されていなくても、何を根拠に立件されるのか
使用のみの事件で中心になるのは、尿の鑑定結果です。採取された尿は簡易検査にかけられ、陽性であれば正式な鑑定に回されます。
身柄がどうなるかは事案によって幅があります。簡易検査の結果を踏まえてその場で逮捕されることもあれば、正式な鑑定結果を待って後日に逮捕状で逮捕されることも、身柄を拘束されないまま在宅で捜査が進むこともあります。
鑑定結果から使用が推認される仕組み
尿から成分が検出されたという事実は、厳密にいえば「体内に成分があった」ことを示すにすぎません。それでも立件され、有罪となり得るのは、次の二段階の推認が働くと考えられているためです。
・規制薬物の成分は体内で作られるものではないため、検出された以上、体外から取り込まれたと考えられる
・日常生活の中で、知らないうちに規制薬物を取り込むことは通常考えにくいため、自らの意思で取り込んだと考えられる
裁判例も、被告人の尿から覚醒剤成分が検出されている以上、特段の事情のない限り、被告人が自らの意思により何らかの方法で摂取したものと認めるのが相当である、という判断を示しています(高松高裁平成8年10月8日判決)。「身に覚えがない」という説明だけでは、この推認は崩れにくいという前提で手続が進みます。
「特段の事情」として何が問題になるか
推認が崩れるのは、自分の意思によらずに体内に入った可能性を示す具体的な事情がある場合です。無理に注射された、飲み物に入れられていたといった経緯が典型ですが、抽象的な可能性を述べるだけでは足りず、その場にいた人、時間、前後の状況といった裏づけが求められます。思い当たる事情があるのであれば、記憶が薄れる前に、日時や同席者を含めて具体的に書き残しておくことが役に立ちます。
服用していた薬がある場合
市販薬やサプリメントの成分が簡易検査の結果に影響し得ると指摘されることがあります。正式な鑑定では成分が区別されますが、いずれにしても、服用していた薬や通院先は早い段階で申告しておいたほうが、後の確認が進めやすくなります。
「規制されている物とは知らなかった」という説明
どの物質が規制対象かを正確に知っていた必要はありません。危険ドラッグの事案では、指定薬物であることまでは知らなくても、規制の理由となっている作用のある物だと認識していた以上、事実の認識に欠けるところはないとした裁判例があります(福岡高裁平成28年6月24日判決)。名称や成分を知らなかったという説明だけでは、故意は否定されにくいのが実情です。
日時や場所が特定されないまま起訴されることがある
刑事訴訟法256条3項は、起訴状には、できる限り日時・場所・方法を示して罪となるべき事実を特定しなければならないと定めています。ところが、使用のみの事件で本人が否認している場合、いつ、どこで使ったのかを示す材料がありません。
この点について最高裁は、日時と場所の表示にある程度の幅があり、使用量や使用方法の表示に明確を欠くところがあるとしても、検察官が起訴当時の証拠に基づいてできる限り特定したものである以上、覚醒剤使用罪の訴因の特定に欠けるところはない、と判断しています(最高裁昭和56年4月25日決定)。実際の起訴状も、「◯月◯日ころから◯月◯日までの間、◯◯市内及びその周辺において」といった記載になることがあります。
幅があることが防御に与える影響
日時や場所に幅があると、「その日は別の場所にいた」という形の反論が機能しにくくなります。争点は、特定の日の行動よりも、体内に成分が入った経緯そのものに移ります。
もっとも、示された期間は無限定ではありません。その期間がいつからいつまでとされているかは、前の事件との関係や、執行猶予期間中の行為かどうかといった点に関わることもあります。届いた書面の記載は、細かい部分まで確認しておくべきです。
取調べで聞かれることが所持の事件とは異なる
押収された薬物がないため、取調べは「いつ、どこで、誰から手に入れ、どのように使ったのか」という点に集中しやすくなります。理由は二つあります。
・起訴状に記載する事実を、できる限り特定する必要があるため
・入手先をたどることが、譲り渡した側の捜査につながるため
入手先に関する質問は、共犯者や背後関係の解明に向けられていることが多く、答え方によっては捜査の範囲が広がります。話すかどうかの判断は、その影響を踏まえて決めるべきもので、取調べが本格化する前に方針を整理しておくことが現実的な備えになります。
説明が途中で変わることの重さ
尿の鑑定という客観的な資料がある一方で、経緯についての説明は本人の話に頼らざるを得ません。そのため、説明が途中で変わると、変わったこと自体が信用性の評価に影響します。記憶があいまいな部分を、その場の雰囲気で埋めてしまわないことが大切です。
所持がないことは処分にどう影響するのか
所持の証拠がないことは、事件がそのぶん軽く扱われることを当然には意味しません。前述のとおり法定刑は変わらず、押収された薬物の量や純度といった事情が出てこない代わりに、使用に至った経緯、これまでの経過、再び使わない状態をどう作るかという点が、判断の中心になります。
他方で、所持も併せて立件されれば、使用とは別の罪として扱われます。物が見つかっていないことは、その分だけ問われる罪の数が増えていないという意味を持ちます。
身柄の拘束が続きやすいと言われる理由
入手先の解明が本人の供述に依存しやすいこと、関係者への働きかけが懸念されやすいことから、勾留が続きやすい類型とされています。ただし、見通しは経歴や生活状況によって差があり、一律に決まるものではありません。
事情を聴かれる前に整理しておきたいこと
次のような点は、記憶が新しいうちに書き出しておくと、後の説明が整理しやすくなります。
・いつ、どこで、誰から何を求められたか(採尿を求められた経緯を含む)
・どの書面に署名したか、控えを受け取ったか
・服用していた薬やサプリメント、通院している医療機関
・その前後の行動と、同席していた人
・自宅や車から何が持ち出されたか
弁護士に相談する意味
使用のみの事件では、争える部分と争えない部分の切り分けが、早い段階で必要になります。尿の鑑定結果そのものを覆すのは容易ではない一方で、採尿に至る手続の適法性、故意の有無、起訴状に示された期間の当てはめなど、確認すべき点は残ります。認めるにしても争うにしても、何を根拠に何が言われているのかを把握したうえで方針を決めることが出発点になります。
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けしており、24時間体制でご相談を受け付けています。逮捕されている方への即日の接見にも対応しています。出頭や自首に弁護士が同行する対応は全国で可能ですが、移動にかかる費用は別途必要となります。深夜・早朝についても、状況によって対応できる場合があります。
まとめ
・使用は所持とは別に規定された犯罪で、覚醒剤では法定刑にも差がない
・薬物の種類によって根拠条文と刑の重さが異なり、使用を処罰する規定がない薬物もある
・尿の鑑定結果からは、自らの意思で摂取したと推認される構造がある
・推認を崩すには、具体的な裏づけのある事情を示す必要がある
・日時や場所に幅があっても訴因の特定に欠けないとされ、争点は摂取の経緯に移る
・取調べは入手先に集中しやすく、説明の一貫性が重く見られる
・物が押収されていないことは、処分が軽くなることを当然には意味しない


