自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味
自宅に捜査機関が来るかもしれない、と考えたときに多くの人が最初に思い浮かべるのは、事件そのものよりも「家族にどう説明するか」です。風俗店でのトラブルが刑事事件として動き出したとき、同居する家族の反応のほうが重く感じられる、という声は少なくありません。
この記事は、捜索を避ける方法や、家族に事実を伏せ続ける方法を説明するものではありません。捜索は裁判官の発する令状に基づく強制処分であり、こちらの都合で止めたり延期したりできる手続ではないからです。また、トラブルには相手方となる人が現実に存在し、その人の申告が手続を動かしています。伏せることそれ自体を目的にした行動は、後の段階で不利に評価されやすいという現実もあります。
そのうえで、実際に何が家族に伝わり、何は伝わらないのかは、多くの人が想像している内容とかなりずれています。ここでは、捜索の場面で同居家族がどこまで知ることになるのかを、条文と手続に沿って整理します。
家族に伝わる情報は四つに分かれる
「家族に知られる」と一言で言っても、伝わる情報にはいくつかの層があります。層ごとに、こちらで選べる余地がまったく違います。
| 家族に伝わる情報 | 主な経路 | こちらで選べる余地 |
|---|---|---|
| 捜査機関が来たという事実 | 捜索そのもの | ほとんどない |
| 捜査が進んでいる罪名 | 令状の呈示 | ほとんどない |
| 何が持って行かれたか | 押収された物の目録 | ほとんどない |
| 出来事の中身 | 本人の説明・その後の手続 | 大きい |
同居している以上、上の三つは捜索が行われれば同時に伝わると考えておくのが現実的です。これに対して四つ目の「出来事の中身」は、令状にも書面にも書かれていません。つまり、家族が最初に受け取るのは断片的な情報であり、その空白をどう埋めるかが本人の側に残される、という構造になっています。
令状に書かれていること・書かれていないこと
捜索差押許可状の記載事項は、刑事訴訟法219条1項に定められています。被疑者の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、有効期間、発付の年月日などです。
ここで見落とされやすいのが、令状には被疑事実の要旨が書かれていないという点です。憲法35条1項が令状に求めているのは「捜索する場所及び押収する物」を明示することまでで、最高裁も昭和33年の大法廷の判断で、令状が正当な理由に基づいて発せられたことを明示することまでは憲法は求めていないとしています。罪名についても、適用条文まで示す必要はないとされています。
被疑事実の要旨が書かれない理由としては、捜査の秘密を保つことに加え、捜索が被疑者以外の人の場所に対して行われることもあるため、そのプライバシーを保護する趣旨だと説明されています。
これに対して、逮捕状には被疑事実の要旨を記載しなければなりません(刑事訴訟法200条1項)。同じ「令状」でも、書かれている情報の量が違います。
| 書面 | 罪名 | 被疑事実の要旨 | 差し押さえるべき物 |
|---|---|---|---|
| 捜索差押許可状 | 記載される | 記載されない | 記載される |
| 逮捕状 | 記載される | 記載される | 記載されない |
したがって、家族が令状を目にしたとしても、そこから読み取れるのは「どの罪名で捜査が進んでいるか」までです。いつ、どこで、誰との間に何があったのかは書かれていません。
もっとも、罪名だけでも事柄の性質はかなり伝わります。性的な姿態の撮影に関する罪名や、不同意わいせつ・不同意性交等といった罪名は、それ自体が事件の性格を示します。「詳しいことは書かれていないから伝わらない」という前提で構えるのは現実的ではありません。
同居家族が立会人になる場面
刑事訴訟法114条2項は、人の住居などで捜索差押許可状を執行するときは、住居主もしくは看守者またはこれらの者に代わるべき者を立ち会わせなければならないと定めています。これは捜査機関に課された義務であり、同居している家族は「これらの者に代わるべき者」に当たり得ます。
令状は処分を受ける者に示されます(刑事訴訟法110条)。家族が立会人になれば、その家族が令状の記載を目にすることになります。
立会人になること自体を家族が断ることはできますが、その場合には隣人または地方公共団体の職員を立ち会わせることになります(114条2項後段)。家族に見られない代わりに、近隣の人や自治体の職員に伝わる、という入れ替えが起きる形です。なお、立ち会いの場で何ができて何ができないのかは、それ自体が一つのテーマになるため、ここでは扱いません。
執行中は、捜査機関は許可を受けない出入りを禁止することができます(112条1項)。家族が外出しようとしても、手続が終わるまで待つよう求められることがあります。
犯罪捜査規範9条は捜査上の秘密の保持と関係者の名誉への配慮を、10条は必要な限度を超えて迷惑を及ぼさないことを定めています。ただしこれらは捜査機関の側の行動準則であり、同居家族に知られないという結果を保証する規定ではありません。
本人が不在のときに起きること
捜索は、本人が在宅しているかどうかにかかわらず行うことができます。本人が不在で家族が在宅していれば、家族に令状を示し、家族の立ち会いのもとで捜索が進みます。
実務では、捜査機関が本人に連絡を取り、帰宅を求めたうえで捜索を行うこともあります。仕事中に呼び戻される形になれば、勤務先に対しても何らかの説明が必要になります。
また、その日のうちに身柄を拘束されない場合には、身元引受に関する書面の記入を家族が求められることもあります。この場面で家族が受け取るのは、「捜索があった」という事実だけでなく、「これからも手続が続く」という見通しまで含まれることになります。
持って行かれた物から伝わること
押収をしたときは、目録を作って交付しなければならないとされています(刑事訴訟法120条)。実務では押収品目録交付書と呼ばれる書面です。何が持って行かれたのかは、品目のリストという形で自宅に残ります。
風俗店でのトラブルが背景にある事件では、スマートフォン、パソコン、外付けの記録媒体、カメラなどが対象になりやすい類型です。ここで問題になりやすいのが、家族と共用している機器です。差押えの対象になるかどうかは、令状に記載された「差し押さえるべき物」に当たるかどうかで判断されるものであり、名義が誰かによって自動的に決まるわけではありません。家族が使っているパソコンや、家族の写真が入った記録媒体が対象になることもあります。
押収された物の返還については刑事訴訟法123条に定めがありますが、手続と時期は別のテーマになるため、ここでは触れません。生活面では、しばらく戻ってこない前提で考えておくほうが、家庭内の混乱は小さくなります。
同居家族が「聞かれる側」になることがある
捜査機関は、被疑者以外の人からも話を聞くことができます(刑事訴訟法223条1項)。同居家族は生活の状況を知る立場にあるため、事情を聞かれる対象になり得ます。
ここで知っておきたいのは、参考人としての取調べが任意の手続だという点です。刑事訴訟法223条2項は198条1項ただし書を準用しており、出頭を拒むこともできますし、出頭した後にいつでも退去することもできます。一方で、被疑者に対する黙秘権の告知に関する規定は準用されていません。
家族が話をすれば、その内容は書面に残ります。家族の側も、聞かれる過程で事件の中身を少しずつ知っていくことになります。
家族に「知らないと言ってほしい」と頼むことの危うさ
この場面で避けたいのが、家族に口裏を合わせてもらうという発想です。証拠隠滅罪(刑法104条)は「他人の刑事事件」を対象とするため、自分の事件について自分で行った行為は同条では処罰されないと解されています。しかし、家族に頼んで行わせた場合は話が変わります。
刑法105条は、犯人の親族が犯人の利益のためにこれらの罪を犯したときは、その刑を免除することができると定めています。「免除することができる」という定め方であり、当然に免除されるわけではありません。そのうえで、本人が家族に働きかけた場合には、本人の側に教唆の責任が問われ得るとした裁判例もあります。
家族を守ろうとした行動が、かえって家族を手続の中に引き込む結果になりかねない、ということです。
家族に先に話しておくべきか
「事前に家族へ説明しておくとよい」という解説を見かけますが、実際には両面があります。
先に話すことで得られるもの
- 当日に家族が状況を理解できず混乱する場面を減らせる。
- 身元引受や生活面の調整について、事前に相談できる。
- 弁護士に依頼する場合の費用や連絡方法を、家庭内で整理しておける。
- 家族が別の経路から断片的に知る、という形を避けられる。
先に話すときに気をつけたいこと
伝え方によっては、口裏合わせを求めたと受け取られることがあります。次の三つを分けて話すと、そのずれが起きにくくなります。
- 事実として自分が把握していること
- これから起きる可能性がある手続の流れ
- 家族に頼みたいこと(隠すことではなく、落ち着いて対応してほしいという趣旨に限る)
なお、先に話しても話さなくても、捜索が行われるかどうかやその時期が変わるわけではありません。話すかどうかは、家庭内の準備の問題として考えることになります。
知られた後にできること
家族が知った後の課題は、伏せることではなく、情報の出所を整えることに変わります。
- 家族への説明と手続の窓口を一本にし、断片的な情報が家庭内で行き交う状態を避ける。
- 「今後どうなるのか」「いつまで続くのか」という家族の疑問に、見通しの形で答えられるようにする。
- 身柄拘束の可能性がある場面では、家族が身元引受を担えるかどうかを早めに確認する。
- 家族が捜査機関から連絡を受けたときの対応を、あらかじめ整理しておく。
弁護士が入っている場合は、家族への説明の場に同席して手続の見通しを伝えることもできます。本人が一人で説明するより、第三者から手続として説明されたほうが、家庭内の混乱が小さくなることがあります。
やめておいたほうがよいこと
- 家族に、捜査機関に対して事実と違う説明をするよう頼むこと。
- 家族名義の場所や機器に、記録を移して保管すること。
- 捜索の当日になってから、その場で説明を組み立てようとすること。
- 家族に代わりに応対させ、本人が連絡を絶つこと。
- 家族に伏せることを優先して、出頭日や書面の期限を落とすこと。
いずれも、その場では負担が減ったように見えて、後の評価では不利に働きやすい行動です。
弁護士に相談する意味
- 令状の記載を確認し、捜査がどの範囲で動いているのかを読み取る。
- 押収された物の内容と、返還に向けた手続を整理する。
- 家族に説明する内容と時期を、手続の流れに合わせて組み立てる。
- 相手方とのやり取りの窓口を引き受け、家庭に直接届く連絡を減らす。
もっとも、弁護士が入ることで家族に知られないという結果が約束されるわけではありません。捜索は裁判官の判断に基づく手続であり、こちらの希望で止まるものではないからです。できるのは、伝わる情報の順序と中身を整えることと、その後の手続で選べる幅を残しておくことです。
まとめ
- 捜索差押許可状には罪名は記載されますが、被疑事実の要旨は記載されません。家族が受け取る情報は断片になります。
- 同居家族は刑事訴訟法114条2項の立会人になり得ます。断った場合は隣人や地方公共団体の職員が立ち会うことになります。
- 押収された物の目録は自宅に残り、家族と共用の機器が対象になることもあります。
- 同居家族は参考人として事情を聞かれることがありますが、出頭も供述も任意の手続です。
- 家族に口裏合わせを頼むことは、家族と本人の双方に責任の問題を生じさせます。
- 家族に知られた後の課題は、伏せることではなく、説明の順序と情報の出所を整えることに移ります。


