会社・学校に知られるのはどの段階か|通知の仕組みと事実上の経路
薬物事件で「営利目的」という言葉が出てくると、事件の見え方が大きく変わります。同じように「持っていた」という事実であっても、自分で使うために持っていたのか、人に渡して利益を得るために持っていたのかによって、適用される条文も刑の枠も別のものになるからです。
もっとも、目的は本人の内心にあるものですから、捜査機関がそれを直接に見ることはできません。実際には、押収された薬物の量、包装のされ方、一緒に見つかった現金や器具、端末に残っていた記録といった外側の事実を組み合わせて、目的が見立てられていきます。この記事では、営利目的がどのような要素から認定されるのかを、量・小分け・現金・メモの4つに分けて整理します。
「営利の目的」は量刑の材料ではなく罪名そのもの
覚醒剤取締法は、みだりに覚醒剤を所持し、譲り渡し、または譲り受けた者を10年以下の拘禁刑と定め(41条の2第1項)、営利の目的でこれらの行為をした場合については1年以上の有期拘禁刑とし、情状により500万円以下の罰金を併科すると定めています(同条2項)。麻薬及び向精神薬取締法でも同じ構造がとられており、大麻を含む麻薬の所持等は7年以下の拘禁刑(66条1項)、営利の目的がある場合は1年以上10年以下の拘禁刑と300万円以下の罰金の併科(同条2項)とされています。
ここで押さえておきたいのは、営利の目的が刑の重さを決めるときの参考事情ではなく、条文上の要件そのものだという点です。起訴されるときには、起訴状の訴因に「営利の目的で」という文言が入り、裁判では、薬物を所持していた事実を認めるかどうかとは別に、この点を認めるかどうかが問われます。裏を返せば、営利の目的までは認められないと判断された場合には、より軽い枠、つまり各条の第1項の限度で有罪とされることがあります。実務では「罪名が落ちる」といった言い方をすることもあります。
「もうけていない」ことと「営利の目的がない」ことは別
営利の目的とは財産上の利益を得る目的をいい、自分が利益を得る場合だけでなく、第三者に利益を得させる目的も含むと理解されています。また、行為が繰り返されている必要もなく、1回限りの行為であっても問題になり得ます。
最高裁昭和42年3月3日決定は、麻薬取締法の営利目的について、行為の動機が財産上の利益を得る目的から出たことで足りるとしたうえで、被告人の動機が共犯者に融通していた金員の回収にあったという事案で、被告人自身の営利目的を認めています。代金を受け取っていないという事情は、それだけで営利の目的を否定する事情にはならない、ということです。
4つの要素は、それぞれ何を示す事実として扱われるのか
営利目的が問題になる事件では、目的を直接に示す証拠が最初からそろっていることはむしろ多くありません。そのため捜査は、押収された物やデータの状態を手がかりに、目的を推し量る形で進みます。しかもこれらの事実は捜索や職務質問の時点で固定され、あとから状態を変えられません。営利目的の見立てが事件の早い段階でおおよそ形づくられるのは、このためです。
実務で集められる事実は、大きく次の4種類に整理できます。
| 要素 | どのような事実として扱われるか | それだけでは決め手にならない理由 |
|---|---|---|
| 量 | 自分で使う分としては説明しにくい量かどうか | 入手の機会や使用の頻度によって、手元に置く量は人ごとに幅がある |
| 小分け・器具 | 人に渡すための準備が整っているかどうか | 自分で使う分を分けて保管する例もあるため、包装の状態や器具の有無まで見られる |
| 現金 | 薬物の対価として動いた金銭ではないか | 現金があること自体ではなく、収入や生活状況と噛み合うかどうかが問われる |
| メモ・通信履歴 | 相手方・数量・金額といった取引の内容が残っていないか | 記録の内容や前後のやり取り次第で、意味の読み取り方が変わる |
いずれの要素も、単独で結論を決めるものとしては扱われません。実際の判断は、これらを組み合わせたうえで、自分で使うためだったという説明と全体として噛み合うかどうかという一点に集約されていきます。以下、4つを順に見ていきます。
量|自己使用としての説明と噛み合うか
最も分かりやすい要素が、押収された薬物の量です。一度に使う量に比べて手元にある量が大きいほど、自分で消費しきる前に人に渡すことが予定されていたのではないか、という見方が出てきます。
ただし、量が多いこと自体が営利の目的を意味するわけではありません。量は目的を推し量るための材料の一つにすぎず、実際には、どのくらいの頻度で使っていたのか、いつどのような経緯で手に入れたのかといった点と合わせて見られます。量が比較的多い事案でも、保管の状況などから自分で使う目的であった可能性を否定できないとして、営利の目的までは認められないと判断された例もあります。
小分け|渡す準備とみられる態様かどうか
量と並んで重く見られるのが、包装のされ方です。小さな袋に分けられた状態でまとまった数が見つかった場合、1包あたりの分量がおおむねそろっている場合などは、渡すための準備が整っていた形跡として扱われます。
あわせて、量りやスプーン、未使用のままの器具などが一緒に押収されていれば、小分けの目的について説明を求められることになります。
自分の分を分けて保管することもある
もっとも、使う分をあらかじめ分けて持ち歩く人もいますし、購入した時点で既に小分けされていたという経過もあり得ます。そのため、袋の数や1包の量だけでなく、包装の仕方がそろっているか、使用した形跡があるか、分けるための器具が本人の手元にあったかといった点まで含めて検討されます。
現金|出どころの説明がつくかどうか
押収された現金も、営利目的を裏づける事実として位置づけられることがあります。ここで問題になるのは、現金を持っていたことそのものではなく、その出どころが説明できるかどうかです。
収入や預貯金の状況、直前の出金の記録と照らして説明がつかない現金が手元にある場合、薬物の対価ではないかという見方につながります。逆に、給与や借入れなど、金銭の動きが客観的な記録で説明できる場合には、この要素の重みは小さくなります。
メモ・通信履歴|取引の記録として最も直接に近い
4つの中で目的に最も近いところにあるのが、メモや通信履歴です。相手方、数量、金額、日付といった内容が並んでいれば、それ自体が取引の記録として読まれます。手書きのメモに限らず、メッセージアプリのやり取り、通話履歴、送金の記録なども対象になります。
端末は押収後に解析され、削除された履歴が復元されることもあります。また、同じ薬物をめぐって別の人物が摘発されている場合には、その人物の供述や端末に残った記録が判断の材料として使われることもあります。営利目的が争点になる事件で、捜査が本人だけにとどまらず周囲へ広がりやすいのは、このためです。
営利目的が認定されると何が変わるのか
まず、刑の枠が変わります。前記のとおり、営利の目的がある場合には下限が定められ、罰金についても、拘禁刑に代えて科されるのではなく、拘禁刑に加えて科される(併科)という形になります。
次に、薬物の対価として得た金銭がある場合には、麻薬特例法に基づく没収や、費消されているときの追徴が問題になります。これは罰金とは別に判断されるものです。
さらに、争点が「持っていたかどうか」から「何のために持っていたのか」に移るため、取引の相手方や共犯者の取調べ、端末の解析が捜査の中心になり、事件が長引きやすくなります。
一緒にいた人に営利目的があっても、自分の刑の枠は別
複数人がかかわる事件では、この点が実務上とても重要になります。最高裁昭和42年3月7日判決は、営利の目的の有無によって科すべき刑に区別を設けている規定について、これは刑法65条2項にいう「身分によって特に刑の軽重があるとき」に当たるとしたうえで、営利の目的をもつ者ともたない者とが共同して行為をした場合には、目的をもたない者には軽い方の項の刑を科すべきであるとしました。
同判決は、共犯者に営利の目的があったことを知っていたというだけで、その人にも営利の目的があったとすることは相当でない、という考え方に立っています。一緒に行動していた人が密売にかかわっていたとしても、そのことから自動的に自分にも営利の目的が認められるわけではない、ということです。
取調べで説明を求められること
営利目的が疑われている場合、取調べでは、次のような点について繰り返し確認されることになります。
・押収された薬物を、いつ、どこで、どのような経緯で手に入れたのか
・どのくらいの頻度で、一度にどの程度使っていたのか
・小分けされた状態や、一緒に押収された器具が何のためのものだったのか
・手元にあった現金がどこから入ったものか
・端末に残っているやり取りの相手が誰で、どういう関係なのか
これらはいずれも、4つの要素と直接に結びつく質問です。記憶があいまいなまま答えた内容が調書に残ると、後から訂正することは簡単ではありません。早い段階で方針を整理しておくことが大切です。
弁護士に相談する意味
営利目的の有無は、量刑の場面で調整される事情ではなく、どの条文で処罰されるかという入口の問題です。そして判断の材料となる事実は、捜索や職務質問の時点でほぼ固まっています。押収された物が何を意味するのか、取調べで何が問われようとしているのかを早い段階で把握しておくことが、その後の進み方に影響します。
若井綜合法律事務所では、刑事事件について初回無料での相談をお受けしており、ご相談の受付は24時間対応しています。逮捕されている場合には即日の接見も可能です。出頭や自首に弁護士が同行する対応は全国で行っており(移動にかかる費用は別途必要です)、深夜・早朝についても状況により対応できる場合があります。
まとめ
・営利の目的は刑の重さを決める参考事情ではなく、条文上の要件そのもので、起訴状の訴因に明示される
・財産上の利益は自分が得る場合に限らず、第三者に得させる目的も含み、1回限りの行為でも問題になり得る
・代金を受け取っていないことは、それだけで営利の目的を否定する事情にはならない
・認定の材料は主に量・小分け・現金・メモの4つで、いずれも単独では決め手にならない
・量が多いこと自体が営利の目的を意味するわけではなく、使用状況や入手の経緯と合わせて見られる
・現金は、持っていたことではなく出どころの説明がつくかどうかが問われる
・営利目的が認められると、刑の枠が変わり、罰金は拘禁刑に加えて科され、没収・追徴も問題になる
・共犯者に営利の目的があったことを知っていただけでは、自分にも営利の目的があるとはされない


