【親子問題】子が宗教・自己啓発団体に多額の支払いをしている|親が守れるものと、本人が取り戻す道を残す備え

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の法令(民法、消費者契約法、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律〔以下「不当寄附勧誘防止法」〕、特定商取引法)と、最高裁判所令和6年7月11日判決、内閣官房・法務省などが公表している「お悩みの解決のヒントとなるQ&A(詳細版、令和6年5月21日)」をもとに作成しています。個別の事案での結論は、事情によって異なります。


成人した子が宗教団体や自己啓発の団体にのめり込み、貯金を使い果たしたうえで親にも送金を求めてくる。ご相談の現場では、こうした親御さんの声を伺います。一方で、子の側から「自分のお金をどう使おうと自由だ」「親に口を出される筋合いはない」と強く反発され、話し合いの糸口すら見つからないという声も少なくありません。

 宗教団体への献金を取り戻す方法については、すでに多くの解説があります。その説明自体は誤りではありませんが、多くは献金をした本人が手続をとる前提で書かれており、本人が支払いを続けたいと考えているときに、親の立場で何ができるのかは見えにくくなっています。

 この記事では、成人した子が団体に多額の支払いをしている場面について、親が口を出せる範囲、支払いが法的に問題になる場合、親が守るべきもの、そして本人がいつか取り戻そうと考えたときのための備えを整理します。団体からの寄付の要求そのものへの対応は【不当要求対応】宗教・団体を背景とする寄付の要求|不当寄附勧誘防止法で解説しています。

成人した子のお金の使い方に、親はどこまで口を出せるのか

自分の財産の使い道は本人が決めるという原則

 まず押さえておきたいのは、成人した子が自分の財産をどう使うかは、原則として本人の自由だという点です。政府のQ&Aでも、財産権(憲法29条1項)と自己決定権(憲法13条)を挙げ、自分の財産の使い方は原則として個人の自由であると説明しています。信仰を持つこと自体も、信教の自由として保障されています。

 そのため、親が子に代わって団体との契約や寄附を取り消すことは、原則としてできません。親が向き合うべきなのは「子の支払いを止めさせる権限」ではなく、「親自身が巻き込まれない線」と「子が後で引き返せる道」の二つです。成人した子の問題に親が関われる範囲の全体像は【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。

18歳を境に変わること|未成年者取消権

 子がまだ18歳未満であれば、事情は大きく異なります。未成年者が親権者などの同意を得ずにした契約は、原則として取り消すことができます(民法5条2項)。親権者は法定代理人として、この取消しを主張できます。

 2022年4月から成年年齢は18歳に引き下げられています。18歳・19歳の子にはこの取消権が使えないため、年齢を確認したうえで、使える手段を見極めることが出発点になります。

「親族の生活」も考慮される|不当寄附勧誘防止法3条

 不当寄附勧誘防止法は、寄附を勧誘する法人等に対し、寄附によって本人やその配偶者、扶養義務を負う親族の生活の維持を困難にしないよう十分に配慮することを求めています(同法3条2号)。直系血族である親もこの「親族」に含まれます。

 この配慮義務に違反したことで、ただちに寄附が無効になるわけではありません。ただ、法律に義務として定められたことで、不法行為の判断がしやすくなると政府のQ&Aは説明しています。親の生活にまで影響が及んでいるという事実は、記録しておく意味があります。

支払いが法的に問題になるのはどのような場合か

取消しの対象になる勧誘の方法

 寄附や契約が、次のような勧誘によって困惑した結果としてされたものであれば、本人は取り消すことができます(不当寄附勧誘防止法4条・8条1項、契約に当たる場合は消費者契約法4条3項)。

  • 帰ってほしいと伝えても帰らない、または帰りたいと伝えても帰してくれない。
  • 勧誘目的を告げずに、退出しにくい場所へ連れて行く。
  • 誰かに相談したいと伝えたのに、威迫するような言動で連絡を妨げる。
  • 恋愛感情などに乗じて、寄附しなければ関係が終わると告げる。
  • 霊感などの特別な能力を示して、寄附しなければ本人や親族に重大な不利益が生じると不安をあおる。


 このほか、寄附の資金を借入れや住んでいる家の処分などで用意するよう求めることも禁止されています(不当寄附勧誘防止法5条)。子が消費者金融で借りてまで支払っている、親に実家の売却を持ちかけてくるといった事情は、勧誘の在り方を考えるうえで重要な手がかりになります。

最高裁が示した判断の枠組み

 最高裁判所令和6年7月11日判決は、献金の勧誘が不法行為として違法になるかどうかについて、本人が献金するかどうかを適切に判断できない状態になった事情の有無と程度、献金によって本人や配偶者などの生活の維持に支障が生じた事情の有無と程度などを総合的に考慮して判断する、という枠組みを示しました。

 この事案では、高齢の信者が団体に対して作成した「返金を求める訴えを起こさない」という念書についても、作成の経緯などから公序良俗に反し無効とされています。「本人が納得して払った」「念書を書いた」という形式だけで、法的な評価が決まるわけではないということです。

自己啓発セミナーの場合は契約として見直す

 自己啓発のセミナーや講座は、多くの場合、事業者との契約です。不実の説明や不安をあおる勧誘があれば、消費者契約法による取消しを検討できます。また、勧誘の形によっては特定商取引法の対象となり、訪問販売や電話勧誘販売であれば8日間、受講者に新たな受講者の勧誘を求めるいわゆるマルチ型の取引であれば20日間のクーリング・オフが定められています。

 いずれの手続も、行使するのは契約をした本人です。親としては、契約書や領収書、勧誘の経緯が後から確認できる状態にしておくことが、本人の選択肢を残すことにつながります。

親の側で守るべきもの

子からの送金の求めを断ることは問題にならない

 団体への支払いのために子から送金を求められても、親に応じる法的な義務はありません。成人した子に対する親の扶養義務は、生活に困窮しているときに、親自身の生活に余裕がある範囲で援助するという程度のものと考えられており、献金や受講料を負担する義務までは含まれません。扶養義務の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。

 断り続けることに心苦しさを感じる親御さんも多いのですが、親の資金が流れ続けることは、結果として支払いの継続を支えることにもなります。断り方や記録の残し方は【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけも参考にしてください。

親の口座・カード・実印の管理

 同居している場合、親の通帳やキャッシュカード、実印が持ち出されて支払いに充てられることがあります。こうした財産は子のものではなく親のものです。政府のQ&Aでも、団体に唆されて本人が家族の財産を無断で寄附した場合などには、家族が団体に損害賠償を求められる場合があると説明されています。

 ただし、同居の親族間の窃盗などは刑が免除される特例があり(刑法244条1項)、警察が動きにくい面があります。まずは保管場所を変える、暗証番号を変えるといった管理の見直しが先になります。詳しくは【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道をご覧ください。

保証人や名義の求めには応じない

 子が借入れをする際に保証人を頼まれたり、親名義で契約を結ぶよう求められたりすることもあります。保証人になると、子が返済できなくなった場合に親が返済を求められます。すでに親名義で契約されてしまった場合は【親子問題】子が親名義で契約した|追認しないという選択を、子の借金については【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのかをご参照ください。

子との関わり方と、後で引き返せる道を残す備え

信仰や価値観ではなく、お金の動きを話題にする

 子の信仰や団体の教えそのものを否定すると、子は親を「理解しない人」と受け止め、団体との結びつきをかえって強めることがあります。話し合いの入口としては、教えの正しさではなく、毎月いくら支払っているのか、借入れはあるのか、生活は成り立っているのかといった、お金と生活の事実を話題にするほうが対話は続きやすくなります。

 親が冷静に話せる状態でない場合や、話すたびに衝突してしまう場合は、第三者が間に入ることも一つの方法です。

本人の同意なく連れ出すことはできない

 団体から引き離したいという気持ちから、本人を説得の場に連れ出したり、一定期間とどめ置いたりすることを考える方もいるかもしれません。しかし、成人した本人の同意なく連れ出すことは、親の依頼があっても違法と判断されるおそれがあります。この点は【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないで解説しています。

本人がいつか取り戻すときのための記録

 いま子が支払いを続けたいと考えていても、時間がたってから考えが変わることは珍しくありません。そのときに備えて、取消しの期間を知っておくことに意味があります。

手続期間
消費者契約法・不当寄附勧誘防止法による取消し追認できる時から1年、または契約や寄附の時から5年
上記のうち、霊感などを用いた勧誘による取消し追認できる時から3年、または契約や寄附の時から10年
民法の詐欺・強迫などによる取消し追認できる時から5年、または行為の時から20年
不法行為による損害賠償損害と加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年


 「追認できる時」とは、困惑から脱した時などを指します(消費者契約法7条1項、不当寄附勧誘防止法9条、民法126条、同法724条)。支払いから年月がたっていても、本人が困惑から抜け出した時点から期間が数えられるため、手続の余地が残っている場合があります。親としては、振込の記録、子から送られてきたメッセージ、団体からの書面などを、日付が分かる形で保管しておくことが、将来の本人の選択肢を支えます。

相談先と、弁護士が入る意味

公的な相談窓口

 契約や支払いのトラブルについては、消費者ホットライン(188)から最寄りの消費生活センターにつながります。旧統一教会をめぐる問題については、法テラスに霊感商法等対応ダイヤル(0120-005931)が設けられていると政府のQ&Aで案内されています。また、不当な寄附の勧誘と考えられる行為の情報は、消費者庁の窓口に提供することができます。

家族が寄附を取り消せる場面は限られている

 不当寄附勧誘防止法では、扶養を受ける権利などを持つ家族が、本人に代わって寄附を取り消し、返還を求められるようにする特例が設けられました(同法10条)。ただし、これは本人に資力がないことに加え、扶養料などの具体的な額が協議や調停、審判で定まっていることなどが前提で、主に配偶者や未成熟の子が使う場面を想定したものです。親が成人した子の寄附を取り消す手段として使える場面は多くありません。

親の代理人として弁護士が入る形

 親が子に代わって支払いを止めることはできなくても、親自身への金銭の要求を弁護士が窓口となって断る、親の財産や名義を守るための手当てをする、といった形で関わることはできます。若井綜合法律事務所では、弁護士が親の代理人として子と向き合い、自立支援カウンセラーが子の生活の立て直しを支える形で親子の問題に取り組んでいます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で、ご相談の流れは【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問で紹介しています。

よくあるご質問

子が払ったお金を、親が団体に返すよう求めることはできますか。

 子が自分の財産から支払ったものであれば、取消しや損害賠償を求めるのは原則として子本人です。ただし、親の預金やカードが無断で使われた場合など、親自身の財産が支払いに充てられた場合は、親として返還や賠償を求められる可能性があります。

子が借金をして支払っています。親が返さなければなりませんか。

 保証人になっていない限り、子の借金を親が返す義務はありません。返済を肩代わりすると支払いの継続を支えることにもなりかねないため、応じる前に一度ご相談いただくことをおすすめします。

弁護士に相談したことは子に伝わりますか。

 弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容を親御さんの同意なく子に伝えることはありません。連絡の取り方も含めて、ご相談の段階で取り決めることができます。詳しくは【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方をご覧ください。

まとめ


  1. 成人した子が自分の財産をどう使うかは原則として本人の自由で、親が代わりに寄附や契約を取り消すことはできない(憲法13条・29条1項)。
  2. 子が18歳未満であれば、親権者の同意のない契約を取り消せる(民法5条2項)。
  3. 困惑させる勧誘による寄附や契約は、本人が取り消せる(不当寄附勧誘防止法4条・8条1項、消費者契約法4条3項)。
  4. 借入れや住居の処分で寄附の資金を作らせる要求は禁止されている(不当寄附勧誘防止法5条)。
  5. 献金勧誘の違法性は、判断への支障や生活への影響を総合的に考慮して判断される(最高裁令和6年7月11日判決)。
  6. 親が送金に応じる義務はなく、親の財産・名義・保証は親自身が守る。
  7. 取消しの期間は困惑から脱した時から数えるため、記録を残しておくことが本人の将来の選択肢を支える(消費者契約法7条1項、不当寄附勧誘防止法9条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子の金銭の要求や家庭内暴力、ひきこもりなど親子の問題について、親御さんからのご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方のご家庭からのご相談にも対応しています。

子の支払いが止まらず親の生活にまで影響が出ている方、子との話し合いが続かず次の一手が見えない方は、状況が大きく動く前に一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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