【不当要求対応】士業・専門職への懲戒請求をちらつかせた要求
「集まりに顔を出すたび、まとまった額を出すよう言われている」「親が団体への献金を続けていて、家計が立ち行かなくなってきた」。寄附や献金をめぐるご相談は、こうした形で持ち込まれることが少なくありません。求められている側からは断りにくく、家族の立場からは事情が見えにくい、という共通した難しさがあります。
一方で、「不当寄附勧誘防止法ができたのだから、渡したお金は取り戻せるはずだ」という説明を目にして相談に来られる方もいます。この説明自体が誤っているわけではありません。ただ、同法の取消権には、対象となる勧誘の型と、適用される時期の区切りがあり、長年にわたって重ねられた寄附のすべてがそのまま対象になるとは限りません。
この記事では、宗教団体をはじめとする団体を背景とする寄附・献金の要求について、どのような勧誘が法律上禁じられているのか、どの場面で寄附を取り消せるのか、取消しが使えない場合に何が残るのかを順に整理します。金額の水準や、特定の団体の当否には立ち入りません。
この記事で扱うこと・扱わないこと
本記事が扱うのは、次の範囲です。
- 団体から寄附・献金を求められている場面での、法律上の線引き。
- すでに渡したお金や財産について、返還を求めるときの組み立ての種類と期間。
- 家族が寄附を重ねている場合に、家族の立場から取り得る手段。
- 行政への情報提供と、返金を求める手続との関係。
他方で、教義や信仰そのものの評価には立ち入りません。また、団体を介さない個人どうしのお金のやり取りは、この記事で扱う法律の対象から外れ、民法の一般的なルールで検討することになります。
寄附・献金は法律上どう扱われるのか
無償で財産を移す行為として整理される
団体に対する献金やお布施は、法律の世界では、対価を伴わずに財産を移す行為として扱われます。その多くは贈与の契約に当たり(民法549条)、債務免除や遺贈のように相手方の承諾を要しない単独行為の形をとることもあります。法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律、いわゆる不当寄附勧誘防止法は、この双方をまとめて「寄附」として規制の対象に置いています(同法2条)。
対象となるのは「法人等」からの勧誘
同法が対象とするのは、法人や、代表者・管理人の定めがある団体からの勧誘です。宗教法人と雇用や委任の関係にない信者が勧誘した場合でも、団体との関係性の程度によっては団体の行為と評価されることがあります。名目上は個人あての寄附でも、実質が団体への寄附と評価される場合は同様です。
団体の側に求められている配慮義務
同法3条は、寄附の勧誘を行う法人等に対し、次の3点に十分に配慮するよう求めています。
- 勧誘が個人の自由な意思を抑圧し、寄附をするかどうかを適切に判断することが困難な状態に陥らせないようにすること。
- 寄附により、本人や配偶者、扶養義務を負う親族の生活の維持を困難にしないようにすること。
- 勧誘を行う法人等を特定するに足りる事項を明らかにし、財産の使途を誤認させるおそれがないようにすること。
配慮義務は、後で見る禁止行為のように行為の型を定めたものではなく、勧誘の結果として個人が置かれる状態に着目した規定です。この義務に反したこと自体が、直ちに返金を求める根拠になるわけではありませんが、団体が守るべき注意義務の内容を示す手がかりとして民事の判断で用いられることがあります。なお、生活の維持が困難といえるかの目安としては、給与の差押えの場面で用いられる月額33万円という基準額が参考になると説明されています(民事執行法152条1項)。
禁止されている6つの勧誘
同法4条は、寄附の勧誘をするに際して個人を困惑させる次の行為を禁じています。
| 禁じられている行為 | 条文 | 場面のイメージ |
|---|---|---|
| 帰ってほしいと伝えても帰らない | 4条1号 | 自宅や勤務先に来訪し、退去を求められても居座る |
| 帰りたいと伝えても帰さない | 4条2号 | 会場から出たいと告げても引き止め続ける |
| 目的を告げずに、退去が難しい場所へ同行する | 4条3号 | 勧誘だと伝えないまま遠方の施設へ連れて行き、その場で寄附を求める |
| 相談の連絡を、威迫する言動で妨げる | 4条4号 | 家族や弁護士に電話したいと告げたのに、威圧的な言動で妨げる |
| 好意の感情に乗じ、関係が壊れると告げる | 4条5号 | 恋愛感情の誤信に乗じ、寄附しなければ関係が終わると告げる |
| 霊感等による知見として不安をあおる | 4条6号 | 重大な不利益を告げ、これを避けるには寄附が必要不可欠だと告げる |
いずれの類型も、勧誘を受けた人が困惑したことまでが要件とされています。困惑とは、困り戸惑い、どうしてよいか分からなくなるような、精神的に自由な判断ができない状況をいい、おそれを抱く場合も含む広い概念だと説明されています。実際に寄附がされたかどうかは、禁止行為に当たるかどうかの判断には影響しません。
入信のころにさかのぼって評価されることがある
「寄附の勧誘をするに際し」とは、団体が接触してから実際に寄附が行われるまでの間を指します。数か月の間が空いた場合も含まれ、入信の前後から寄附に至るまでが一連の勧誘と判断できるときは、その全体が評価の対象となり得ます。また、6号の「不安を抱いていることに乗じて」という要件については、その不安を団体が作り出したことまでは求められていません。入信のころに抱いた不安が続いている状態に乗じた勧誘も、これに当たり得ると整理されています。
借入れや自宅の処分を求める行為
同法5条は、寄附のための資金を、借入れによって、あるいは一定の財産を処分することによって調達するよう要求する行為を禁じています。対象となる財産は、本人や配偶者・親族が現に住んでいる建物とその敷地と、生活の維持に欠かせない事業の継続に必要な資産です。売却だけでなく、抵当権の設定も処分に含まれると解されています。
ここで気をつけたいのは、資産そのものを寄附するよう求める行為は、この条文では禁じられていないという点です。換金という手間までかけさせて寄附を求める行為に着目した規定だからです。団体からの求めがないまま自発的に売却して寄附した場合も、この条文には触れません。ただし、家族も住んでいる不動産を寄附した場合などは、生活の維持に関する配慮義務の問題が残り得ます。
寄附を取り消せる場合と、その期間
取消しが認められる場面
4条各号の行為によって困惑し、それによって寄附の意思表示をしたときは、その意思表示を取り消すことができます(同法8条1項)。壺や印鑑の購入のように、やり取りが消費者契約に当たる場合には、消費者契約法の取消権によります。寄附は対価のない片方向の行為であるため消費者契約法の規定になじまない場面があり、そこを埋めるために置かれたのが不当寄附勧誘防止法8条の取消権です。
いわゆるマインドコントロールの下での寄附についても、消費者庁は、寄附をした当時は自分が困惑していると判断できない状態であったとしても、その状態から脱した後に本人が主張・立証して取消権を行使することは可能な場合があるとの考え方を示しています。他方で、困惑することなく信仰心や使命感のみに基づいて行われた寄附は、取消しの対象にはなりません。
期間は理由によって異なる
取消権には次の期間の定めがあります(同法9条)。
| 取消しの理由 | 短期の期間 | 長期の期間 |
|---|---|---|
| 4条6号(霊感等による告知)による困惑 | 追認をすることができる時から3年 | 寄附の意思表示から10年 |
| それ以外の号による困惑 | 追認をすることができる時から1年 | 寄附の意思表示から5年 |
施行日より前の寄附には使えない
見落とされやすいのが、この取消権は法律の施行日以後にされた寄附の意思表示に適用されるという点です(同法附則2条)。3号・4号を理由とする場合は令和5年6月1日以後、それ以外の号を理由とする場合は令和5年1月5日以後の寄附が対象になります。それより前の寄附は、次に述べる民法の組み立てで検討します。長年の献金の相談で時期ごとに主張の立て方を変える必要が生じるのは、この区切りがあるためです。
施行日より前の寄附は民法で組み立てる
契約そのものの効力を争う
勧誘の態様や金額の大きさによっては、公序良俗に反するものとして無効を主張したり(民法90条)、錯誤・詐欺・強迫を理由に取り消したりすることが考えられます(民法95条・96条)。強迫を理由とする取消しは、判断の自由を完全に失っていた場合に限られないと理解されています。
勧誘の違法性を理由に賠償を求める
もう一つの道が、勧誘行為そのものを違法として損害賠償を求める組み立てです(民法709条)。最高裁は令和6年7月11日の判決で、宗教法人の信者による献金の勧誘について判断の枠組みを示しました。害悪を具体的に告げていない、資産に照らして過大とはいえない、といった点だけで違法性を否定した原審の判断を認めず、寄附をするかどうかを適切に判断することに支障が生じた事情の有無と程度、生活の維持に支障が生じた事情の有無と程度などを総合的に考慮して、勧誘の在り方として社会通念上相当な範囲を逸脱するといえるかを検討すべきだとしたものです。
この判決は、参照する条文として不当寄附勧誘防止法3条1号・2号を挙げています。取消権が使えない時期の寄附であっても、配慮義務の内容が民事の判断の中で意味を持ち得ることを示した点に、実務上の意味があります。なお、この組み立てにも、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年という期間の制限があります(民法724条)。
「返金を求めない」と書いた書面の扱い
寄附の後に、返金や賠償を求めない旨の書面に署名を求められていた、という相談は珍しくありません。こうした書面があると、そこで話が終わると受け止められがちです。もっとも、前記の令和6年7月11日の判決は、信者が宗教法人に差し入れた、訴えを起こさない旨の合意について、事案の事情の下で公序良俗に反し無効であると判断しました。消費者庁の解説資料でも、困惑した状態で作成された、返金を求めない旨の念書や一部返金のみで和解する旨の合意は無効となり得ること、返金を避ける目的で念書を作らせたこと自体が勧誘の違法性を基礎づける要素になり得ることが示されています。署名した書面があることは、検討を打ち切る理由にはなりません。
家族の立場からできること
扶養を受ける権利を守るための特例
寄附を重ねた結果、配偶者や子が扶養を受けられなくなる場合に備えて、不当寄附勧誘防止法10条は債権者代位権の特例を置いています。民法では、期限の到来していない債権を保全するために代位権を行使することはできませんが(民法423条2項)、夫婦の協力扶助、婚姻費用の分担、子の監護に関する義務、扶養の義務に基づく定期金債権については、期限が到来していない部分を保全するために、本人に代わって取消権と、その行使によって生じる返還請求権を行使できるとされています。
もっとも、この特例が使えるのは寄附をした本人が無資力である場合に限られ、対象も金銭の寄附に限られます。期限が到来していない部分については、自分に支払うよう求めるのではなく、団体に供託させる形をとります。
代理人が困惑して寄附した場合
同法8条4項により、寄附に代理人が関与した場合には、困惑したかどうかは代理人について判断されます。たとえば、親権者が困惑して未成年の子の財産から寄附をしたときは、子の側から取り消す余地があります。一方で、親族であるというだけでは、本人の意思表示を取り消すことはできません。家族が動く場合には、前記の代位の枠組みに乗せられるかどうかを検討することになります。
行政への情報提供と、返金の請求は別の道
消費者庁は、配慮義務を守っていない法人等に対する勧告と公表(同法6条)、禁止行為をしている法人等に対する報告徴収・勧告・命令と公表(同法7条)の権限を持ちます。命令に違反した場合は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、報告をせず、または虚偽の報告をした場合は50万円以下の罰金の定めがあります(同法16条・17条)。消費者庁には、不当な寄附の勧誘と考えられる行為についての情報提供の窓口があり、相談先としては法テラスの霊感商法等対応ダイヤルも設けられています。
ただし、勧告の内容として、個別の返金をさせることまでは想定されていないと説明されています。行政の措置は勧誘の停止など将来に向けた是正が中心であり、すでに渡したお金の返還は、交渉や訴訟といった民事の手続で求めることになります。この法律には、運用に当たって学問の自由・信教の自由・政治活動の自由に十分配慮する旨の規定も置かれており(同法12条)、団体の活動であることをもって直ちに違法と評価されるわけではありません。
手元に残しておきたい記録
時期ごとに主張の立て方が変わるため、いつ、いくらを、どのような経緯で渡したかが分かる材料が重要になります。
- 振込の控えや通帳の記載、現金で渡した場合は受領書や領収証の有無。
- 勧誘を受けた日時・場所・同席者と、その場で告げられた内容のメモ。
- メッセージアプリや手紙のやり取り、団体から交付された書面。
- 署名した念書・確認書・合意書の写し。
- そのころの収入や生活費の状況が分かるもの。
記録がそろっていなくても相談は可能です。取引履歴の取り寄せなど、後から集められるものもあります。
よくあるご質問
自分の意思で出したつもりですが、それでも取消しを検討できますか
寄附の当時、自分が困惑していると気づいていなかった場合でも、その状態から離れた後に、勧誘の経過を主張・立証して取消権を行使できることがあると説明されています。逆に、困惑の要素がなく信仰心のみに基づく寄附は対象になりません。実際には、告げられた内容の記録がどこまで残っているかで見通しが変わります。
家族が寄附を続けています。本人が動かない場合はどうすればよいですか
本人が取消権を行使しない場合でも、扶養や婚姻費用などの定期金債権を持つ家族が、一定の要件の下で代わりに行使できる仕組みがあります。本人の無資力が要件となるため、家計の状況を把握することが出発点になります。本人と直接やり取りをすると関係がこじれることもあるため、進め方を含めてご相談ください。
返金を求めると、団体との関係が悪化しないか心配です
やり取りの窓口を代理人に移すことで、本人が直接応対しない形をつくることができます。求め方が度を超える場合には、脅迫や強要といった刑事の問題として扱われる余地もあります(刑法222条・223条)。
まとめ
- 団体への献金やお布施は、無償で財産を移す行為として、不当寄附勧誘防止法の「寄附」に含まれる(同法2条)。
- 法人等には、自由な意思の抑圧、生活の維持、勧誘者の明示と使途の3点について配慮義務がある(同法3条)。
- 退去しない、退去させない、目的を告げず同行する、相談の連絡を妨げる、好意に乗じる、霊感等により不安をあおるの6類型が禁じられている(同法4条)。
- 借入れや、居住用不動産・生活に不可欠な事業用資産の処分による資金調達の要求も禁じられている(同法5条)。
- 禁止行為により困惑して行った寄附は取り消せるが、期間は理由により異なり、施行日より前の寄附には適用されない(同法8条・9条、附則2条)。
- 施行日より前の寄附は、公序良俗違反や取消し、勧誘の違法性を理由とする賠償請求で検討する(民法90条・95条・96条・709条)。
- 扶養を受ける家族は、要件の下で本人に代わって取消権と返還請求権を行使できる(同法10条)。
- 行政の勧告や命令は将来に向けた是正が中心で、返金は民事の手続で求めることになる(同法6条・7条)。
寄附・献金の要求でお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不当な要求に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。寄附や献金をめぐる問題は、金額の大きさよりも、いつ、どのような場で、何を告げられて渡すことになったのかという経過が判断を分けます。時期によって使える組み立てが変わるため、早い段階で全体像を整理しておく意味があります。
求められている段階の方も、すでに渡した後の方も、また、ご家族の寄附について心配されている方も、お一人で抱え込まずにご相談ください。やり取りの窓口を代理人に移すことで、ご本人が直接応対しなくてよい形をつくることもできます。


