【親子問題】子が親のネットバンキングに入れるかもしれない、どう守る?
本記事は、成人したひきこもり状態の子と同居している親御さんを想定しています。親御さんご自身の病状や治療については、主治医の判断を優先してください。
親の体調が悪く、通院や入院が続いているのに、同居しているひきこもりの子が声をかけてくることもなく、部屋から出てこない。そうした状況に、寂しさや不安、ときには怒りを感じている親御さんは少なくありません。「自分に何かあったら、この子はどうするのだろう」という心配が、体調の不安と重なって大きくなっていくこともあります。
この記事では、子が無関心に見えるときに子の側で起きていることがら、子に看病や介護を求めることの法的な位置づけ、そして子を頼らずに親の療養を支える段取りと、その間の子の生活をどう守るかを順に整理します。
「無関心」に見える子の側で起きていること
子が親の体調に触れないからといって、必ずしも親を大切に思っていないとは限りません。ひきこもりが長く続いている人は、気力が大きく落ちた状態にあることが多く、自分の生活を保つだけで手一杯になっている場合があります。
また、親の体調の悪化は、子にとって「この生活がいつまでも続くわけではない」という現実を突きつけるものです。その不安が大きすぎるために、見ないように、考えないようにしている結果として、無関心に見える態度になっていることもあります。何をすればよいのか分からず、声をかけるきっかけをつかめないまま時間が過ぎている、という子もいます。
一方で、子の内面を親が完全に読み取ることはできません。理由をあれこれ推し量って気持ちをすり減らすよりも、子の反応がどうであっても、親の療養が滞らない段取りを先に整えるという順序で考えるほうが、親御さんの負担は軽くなります。
子に看病や介護を求める法的な根拠はあるか
子が親を支える義務として民法が定めているのは、直系血族の扶養義務(民法877条1項)です。ただし、この扶養義務は、生活に困っている親に対して経済的な援助をする義務と考えられており、同居して身の回りの世話をする「介護」そのものを義務づけるものではありません。
さらに、扶養義務は、扶養する側に余力がある範囲で生じるものと考えられています。収入がなく、親の援助を受けて暮らしているひきこもりの子に、親の療養費の負担を法的に求めることは、現実には難しいのが通常です。
なお、病人などを保護する責任のある人がその保護を怠った場合には、保護責任者遺棄罪(刑法218条)が問題になることがあります。もっとも、同居しているというだけで直ちに保護責任が認められるわけではなく、それまでの関わり方などの具体的な事情によって判断されます。この罪名を子への説得材料に使うことは、関係をこじらせるおそれがあるため避けたほうがよいでしょう。
| 親が子に求めたいこと | 法的な位置づけ | 現実的な手立て |
|---|---|---|
| 看病・身の回りの世話 | 法律上の介護義務は定められていない | 介護保険サービス・訪問看護などを利用する |
| 療養費などの負担 | 扶養義務はあるが、子に余力がなければ求めにくい | 親自身の資産・保険・公的制度で組み立てる |
| 入院時の付き添い・連絡 | 子に義務づける規定はない | 緊急連絡先や身元保証の手当てを別に用意する |
法律が子に求めていることは限られている、と知っておくことは、子を責める気持ちから少し距離を置くためにも役立ちます。
子の無関心は、相続に影響するのか
親の体調を気にかけない子に、財産を残すべきかと迷う親御さんもいます。子は法律上の相続人であり、無関心であることだけを理由に、相続人の地位がなくなることはありません。
相続人の地位を失わせる手続として、相続廃除(民法892条)があります。ただし、対象となるのは、被相続人への虐待や重大な侮辱、著しい非行があった場合に限られ、家庭裁判所が慎重に判断します。看病をしてくれない、声をかけてくれないといった事情だけで認められることは、通常は考えにくいといえます。
一方で、遺言によって財産の分け方を決めておくことは、親の判断でできます。その場合も、子には遺留分(民法1042条)が認められる点に注意が必要です。また、収入のない子に財産をまったく残さない形にすると、親が亡くなった後の子の生活が成り立たなくなるおそれもあります。財産の分け方は、子への気持ちだけでなく、子がその後どう暮らしていくかという視点もあわせて考えることが大切です。
親の療養を、子を頼らずに整えておく
通院・入院の段取り
体調に不安がある段階で、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談しておくと、介護保険の申請や在宅サービスの利用につながりやすくなります。要介護認定を受ければ、ケアマネジャーが通院や在宅療養の段取りを一緒に考えてくれます。
入院の際には、病院から緊急連絡先や身元保証人を求められることがあります。同居の子に引き受けてもらうことが難しい場合には、別居している親族に依頼する、身元保証を扱う事業者を検討するなど、早めに病院の相談窓口(医療ソーシャルワーカー)に相談しておくと安心です。
倒れたときに気づいてもらう仕組み
同居していても、子が部屋から出てこない生活では、親が体調を崩したことに子がすぐ気づくとは限りません。気づいたとしても、救急車を呼ぶ、連絡をするといった行動に移せない場合も考えられます。
- 自治体の緊急通報システムや、民間の見守りサービスを利用します。
- 別居している家族や親しい知人と、定期的に連絡を取り合う約束をしておきます。
- かかりつけ医・服薬内容・緊急連絡先を一枚の紙にまとめ、目につく場所に置いておきます。
お金と手続を誰が扱うか
体調が悪くなると、預貯金の出し入れや支払い、各種の手続を自分で行うことが負担になります。その際、準備のないまま子に通帳やカードを預けることは、子にとっても重荷になりやすく、後の家族間のトラブルにつながるおそれもあります。
判断能力が十分なうちであれば、信頼できる第三者に財産管理を委ねる契約(財産管理委任契約)や、判断能力が落ちたときに備える任意後見契約を結んでおく方法があります。どの仕組みが合うかは、資産の内容やほかの家族の有無によって異なります。
親の療養中、家に残る子の生活をどう守るか
親が入院すると、子は家に一人で残ることになります。食事の確保、光熱費などの支払い、生活費の受け渡しをどうするのかが決まっていないと、子の生活が急に立ち行かなくなるおそれがあります。
こうした場面では、親の支援と子の支援を、それぞれ別の窓口が担うという考え方が役に立ちます。親の療養は地域包括支援センターや病院の相談窓口、子のことは保健所・精神保健福祉センター・ひきこもり地域支援センターなどが担当し、必要に応じて情報を共有する、という形です。市区町村によっては、複数の窓口をつなぐ重層的支援体制整備事業の仕組みが用意されています。
子が支援を拒んでいる場合でも、家族だけで相談を始めることはできます。入院の予定が分かった段階で、子の生活をどう回すかを相談窓口と一緒に考えておくと、急な入院にも対応しやすくなります。
子に体調のことをどう伝えるか
子が関心を示さないと、「親の体がこんな状態なのに」と言いたくなるのは自然なことです。ただ、責める形で伝えると、子はさらに部屋にこもり、必要なことが伝わらなくなるおそれがあります。
- 病名や見通しなど、伝えておく必要のある事実を短く伝えます。
- 子にお願いしたいことは、「このメモの番号に電話してほしい」など、ごく小さな具体的な行動に絞ります。
- 直接話すのが難しければ、手紙やメモで伝えても構いません。
- その場で返事がなくても、伝わっていないとは限らないと考えて、繰り返し問いただすことは控えます。
「親が死んだらどうするのか」といった言葉は、子の不安を強めるだけで行動にはつながりにくいとされています。将来の話をするときは、責める言葉ではなく、具体的な段取りの話として伝えるほうが受け止められやすくなります。
体調の変化を、暮らし方を見直すきっかけにする
親の体調の悪化は、親がこれまで担ってきた子の生活の支えが、いつまでも同じ形では続かないことを示すサインでもあります。今は大きな問題がなくても、親の入院や要介護、親が亡くなった後に、子がどう暮らしていくのかを考えておく必要があります。
見直しの方向は家庭によってさまざまです。同居を続けながら外部の支援を少しずつ入れていく家庭もあれば、親子が離れて暮らす形に移ることで、親は療養に専念でき、子は自分の生活を組み立て始めるという家庭もあります。どの形がよいかは、子の状態、親の体調、経済的な余力を踏まえて判断することになります。
弁護士に相談できること
当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力、お金の無心などに悩む親御さんから、親の代理人としてご依頼をお受けしています。民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、弁護士は親御さんの立場を守り、カウンセラーは子の生活の立て直しを支える、という役割分担で対応します。
親御さんの体調が思わしくない場合には、子と直接向き合う負担を親御さんが一人で背負わないことが大切です。子との話し合いの窓口を弁護士が担うこと、子が家を出て暮らす場合の住まい探しや生活の基盤づくりをカウンセラーが支えることなど、ご家庭の事情に合わせて方針を一緒に考えます。全国からのご相談に対応しています。
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親の体調が悪いときに子が無関心に見えても、それだけで親子関係を諦める必要はありません。まずは親御さんご自身の療養を守る段取りを整え、そのうえで子の生活をどう支えていくかを考えていくことが、親子それぞれにとっての次の一歩になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


