【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないとき
「親の介護は自分がやる」。ひきこもりの状態が続いている子からこう言われ、戸惑う親御さんは少なくありません。家にいる時間の長い子が身近で手を貸してくれるのは心強い一方で、介護は長く続き、体力や気力、お金の管理まで関わる負担の大きな役割です。任せてよいのか、任せるならどのような形にしておくべきか、迷うのは自然なことです。
この記事では、子が親の介護を担うときの法律上の位置づけ、任せる前に確かめておきたいこと、子だけに背負わせない仕組みのつくり方を、親の立場から整理します。
本記事は2026年10月時点の法令と制度をもとにしています。介護保険サービスの利用条件や支援の内容は自治体によって異なる場合があるため、具体的な手続はお住まいの市区町村や地域包括支援センターにご確認ください。
「介護をする」という申し出の受け止め方
子が介護を申し出る理由は一つではありません。親の役に立ちたいという気持ち、家にいることへの引け目を埋めたいという思い、親が倒れたら自分の生活はどうなるのかという不安など、いくつもの事情が重なっていることが多いものです。中には、介護を担うことで親の年金や家に頼り続ける形を整えたいという考えが含まれている場合もあります。
どの理由であっても、申し出をすぐに否定したり、反対に深く考えずに全面的に任せたりすると、後から修正しにくくなります。まずは申し出を受け止めたうえで、「どこまでを、どのように手伝ってもらうか」を一緒に考える姿勢で臨むと、話し合いの土台をつくりやすくなります。
介護が子にとって役割や生活の張りを取り戻すきっかけになることもあれば、家から出る機会がさらに減り、孤立が深まることもあります。どちらに向かうかは、任せ方によって大きく変わります。
法律上、子は親の介護をどこまで負うのか
扶養義務は「同居して世話をする義務」ではない
民法877条1項は、直系血族は互いに扶養をする義務があると定めており、親と子はこれにあたります。ただ、扶養の中心は経済的な援助と考えられており、同居して身の回りの世話をすることまで法律で強制されるものではありません。介護の中身は、介護保険サービスや施設の利用を含めて、家族の話し合いで決めていくのが基本です。
そのため、子が「介護をする」と言っても、親がそれを受け入れなければならないわけではありません。反対に、子が途中で「もう続けられない」と言った場合も、介護保険サービスなどへ切り替えることを前提に考えることになります。
引き受けた後は「養護者」として扱われる
一方で、子が実際に介護を担うようになると、法律上の立場が変わる点には注意が必要です。高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)は、高齢者を現に養護している家族などを「養護者」と位置づけ、養護者による虐待として次の類型を定めています。
| 類型 | 主な内容 |
|---|---|
| 身体的虐待 | 高齢者の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること |
| 介護等放棄 | 食事を与えない、長時間放置するなど、養護を著しく怠ること |
| 心理的虐待 | 著しい暴言や拒絶的な対応など、著しい心理的外傷を与える言動をすること |
| 性的虐待 | わいせつな行為をすること、またはさせること |
| 経済的虐待 | 高齢者の財産を不当に処分すること、不当に財産上の利益を得ること |
虐待を受けたと思われる高齢者を見つけた人には市町村への通報が求められており、通報を受けた市町村は事実の確認や保護のための対応を行います。また、介護を引き受けた後に必要な世話をせず放置した場合には、保護責任者遺棄等の罪(刑法218条)が問題となる場面もあります。
これは子を責めるための知識ではありません。介護を一人で抱え込んだ家族が追い詰められ、意図せず不適切な対応に至ってしまうことは、行政の調査でも介護疲れやストレスが要因として多く挙げられている点から読み取れます。子に任せる場合ほど、子が一人で抱え込まない仕組みを最初から用意しておくことが、親と子の双方を守ることにつながります。
任せる前に確かめておきたいこと
子の心身の状態と生活のリズム
介護は、決まった時間に食事や服薬、排せつの手助けをするなど、規則正しい生活が求められる役割です。昼夜が逆転している、体調に波がある、医療につながっていない不調があるといった状態のまま担うと、子の負担が限界を超えやすくなります。まずは子が今どのくらい動けるのかを、本人と一緒に確かめることが出発点になります。
介護の中身を具体的に決めているか
「介護をする」という言葉は、人によって思い浮かべる範囲が大きく異なります。買い物や通院の付き添いなのか、入浴や排せつの介助まで含むのか、夜間の見守りはどうするのかを分けて話し合っておくと、後のすれ違いを防ぎやすくなります。
お金の流れをどうするか
介護を担う子に生活費や謝礼を渡すのか、親の年金や預金を誰が管理するのかは、後で対立が起きやすい点です。曖昧なままにしておくと、親の財産と子の生活費の区別がつかなくなりがちです。
親自身とほかの家族の考え
親が誰にどこまで介護をしてほしいのか、施設の利用を望むのかは、親自身の意思として尊重されるべき事柄です。きょうだいなどほかの家族がいる場合には、一人の子に任せる方針を家族の間で共有しておくと、後になって「介護を押し付けた」「財産を独り占めした」といった対立が生じにくくなります。
話し合いの際は、次の点を一つずつ確認しておくと整理しやすくなります。
- 子の体調と生活リズムが、日々の介護を続けられる状態にあるかを確かめること。
- 子に任せる介護の範囲と、外部のサービスに任せる範囲を分けること。
- 介護にかかる費用と、子に渡すお金の扱いを決めること。
- 親の年金や預金を誰がどのように管理するかを決めること。
- 子が続けられなくなったときの切り替え先を決めておくこと。
- ほかの家族に方針を共有しておくこと。
子だけに任せない仕組みをつくる
地域包括支援センターとケアマネジャーに事情を伝える
介護保険サービスを使うには、市区町村で要介護認定を受け、ケアマネジャーとケアプランを作成するのが一般的な流れです。最初の窓口としては、地域ごとに設けられている地域包括支援センターを利用できます。
このとき、同居の子がひきこもりの状態にあることを伝えるかどうか迷う方もいます。ケアマネジャーの側からは、書類で家族構成は分かっても、同居の子の生活の実情までは見えにくいといわれます。子が介護を担う予定であること、ただし日中の活動や人との関わりに難しさがあることを率直に伝えておくと、子の負担を見込んだプランを組んでもらいやすくなります。
同居家族がいても生活援助を使える場合がある
訪問介護の掃除や調理などの生活援助は、同居家族がいると利用しにくいと聞くことがあります。ただ、国は、同居家族がいることだけを理由に一律に判断するのではなく、個々の事情を踏まえて判断するよう示しています。子の心身の状態などから家事を担うことが難しい事情があれば、その点をケアマネジャーに伝えて相談してみることをおすすめします。
子にとっての「外とのつながり」を残す
介護を理由に子が家から出る機会をさらに失うと、親が亡くなった後に子が一人で孤立するおそれが高まります。デイサービスやショートステイを組み込んで子が自分の時間を持てるようにすること、子自身の相談先とのつながりを保つことも、介護の計画の一部として考えておきたいところです。親の介護と並行して子の将来をどう設計するかについては、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで解説しています。
お金と財産の管理は分けておく
年金と預金の管理方法を決める
公的年金は、原則として本人名義の口座で受け取る仕組みです。子が親のキャッシュカードを預かって引き出しを任されるようになると、親の生活費と子の生活費が混ざり、後で使い道を説明できなくなることがあります。介護に使った費用の記録を残す、子に渡す金額をあらかじめ決めておく、通帳をほかの家族も確認できるようにしておくなど、外から見て分かる形にしておくことが大切です。年金の管理を子に任せるよう求められている場合は、【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくこともあわせてご覧ください。
親の判断能力が十分なうちであれば、財産管理を任せる範囲を定める財産管理委任契約や、判断能力が衰えた後に備える任意後見契約を結んでおく方法があります。任意後見契約は公正証書で作成し、効力が生じた後は家庭裁判所が選任する任意後見監督人が後見人の事務を確認します。社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を利用し、日々のお金の出し入れを第三者に手伝ってもらう方法もあります。仕組みの違いは、【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いで整理しています。
「介護したから家は自分のもの」という主張への備え
介護を担った子が、その分を相続で多く受け取りたいと考えることは珍しくありません。民法には、親の療養看護などによって財産の維持や増加に特別の寄与をした相続人について、寄与分を考慮する仕組みがあります(民法904条の2)。ただし、寄与分は相続人どうしの協議や家庭裁判所の調停・審判を通じて定められるもので、介護をしたことで当然に特定の財産を取得できるわけではありません。
介護と引き換えに、今のうちに家の名義を移すよう求められたり、遺言の内容を指定されたりする場面もあります。応じるかどうかは、ほかの家族への影響や、子が家を維持していけるかどうかも含めて考える必要があり、その場で決めずに時間をかけることをおすすめします。求めへの向き合い方は、【親子問題】生前贈与を迫られている|断り方と記録の残し方で解説しています。
任せた後に見直したほうがよい場面
子に介護を任せた後、次のような変化が見られる場合には、子だけに任せる形を見直す時期にきていると考えられます。
- ケアマネジャーやヘルパーの訪問を子が断るようになったこと。
- 通院や服薬がおろそかになっていること。
- 親の年金や預金の使い道が分からなくなっていること。
- 介護のことで子が親に暴言を向けたり、物に当たったりするようになったこと。
- 子の体調や睡眠が目に見えて崩れていること。
こうした変化は、子の怠けや悪意だけで起きるとは限らず、介護の負担が子の力を超えているサインであることも少なくありません。地域包括支援センターや市区町村の高齢者福祉の窓口に相談すると、サービスの見直しや、場合によっては親子が一時的に距離をとる手立てを検討してもらえます。親自身が相談しにくい場合は、ほかの家族やケアマネジャーから相談してもらうこともできます。行政の対応の仕組みは、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで解説しています。
弁護士に相談できること
介護の問題は福祉の窓口が中心になりますが、親子の間で話がまとまらない、お金の管理や財産の扱いで対立している、子からの要求が強く親だけでは断り切れないといった場面では、弁護士が関わる意味があります。
当事務所では、親の代理人として、介護の分担やお金の扱いについての取り決めを書面にすること、任意後見契約などの仕組みを整えること、ほかのきょうだいとの調整を行うことに対応しています。また、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、子の生活の立て直しや、親から離れて暮らすための準備を支える取り組みも行っています。介護を子に任せるかどうかを決める前の段階でも、家族の状況を整理するところからご相談いただけます。
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子からの「介護をする」という申し出は、受け止め方と任せ方次第で、親子それぞれの生活を支える力にもなります。子に任せるかどうかを一度に決めてしまうのではなく、範囲とお金の扱い、外部の支援との組み合わせを整えたうえで、少しずつ形をつくっていくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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