【親子問題】子の家庭内暴力を職場に相談できるか|親が仕事を続けるために

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の労働基準法、育児・介護休業法(令和7年4月1日施行の改正と、同日適用の「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」を含みます)、個人情報保護法、刑法の規定をもとに記載しています。勤務先ごとの休暇制度や就業規則の内容によって取扱いが異なる場合があります。


子からの暴力や暴言が続く家庭の親御さんから、「職場には迷惑をかけたくないので、何も言わずに働き続けてきた」というお話をよく伺います。その一方で、「休みが増えてきたので、会社に事情を話さなければいけないのか」「話したら仕事を続けにくくなるのではないか」と、伝えるかどうかで迷っている方も少なくありません。

 家庭内暴力について調べると、配偶者間のDVを前提にした情報や、自宅での安全確保についての説明が多く見つかります。それ自体は誤りではありませんが、成人した子から親への暴力を抱えながら働き続ける場面で、職場とどう向き合うかを整理した情報は多くありません。職場の休暇制度も、育児や高齢の親の介護を念頭に説明されることが多いため、自分の状況に当てはまるのかが分かりにくいところです。

 この記事では、子の家庭内暴力について職場に相談するかどうかの考え方、伝える範囲、使える休暇や働き方の制度、子が職場に連絡してくる場合の備えを取り上げます。自宅での安全確保と記録の残し方は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録で、一時的に親が家を離れる選択については【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で詳しく扱っています。

職場に伝えるかどうかを決める前に整理したいこと

 まず前提として、家庭の事情を勤務先に伝える法的な義務はありません。伝えるかどうかは、ご自身が選んでよいことです。ただ、伝えることで使いやすくなる制度や、職場の側で取れる備えもあるため、伝える・伝えないの二択ではなく「何のために、誰に、どこまで」を考えておくと判断しやすくなります。

伝えることで得られるもの

 職場に事情を伝える主な意味は、休みや勤務時間の調整を頼みやすくなることと、子が職場に連絡してきたときに会社が適切に対応できるようにすることの二つです。とくに後者は、事前に共有していないと、電話を受けた同僚が善意で取り次いだり、所在を答えてしまったりすることがあります。職場に伝える目的が「休むため」なのか「職場で自分を守るため」なのかによって、伝える相手と内容は変わります。

伝える相手と範囲を絞る

 事情を伝える相手は、直属の上司と人事担当者に限るのが一般的です。産業医や保健師がいる職場であれば、心身の不調を含めて相談先にすることも考えられます。伝える内容も、暴力の詳細まで話す必要はなく、次のような点に絞ると負担が少なくなります。

  • 家族の事情で、急な休みや遅刻が生じる可能性があること。
  • 子本人から職場に連絡が来た場合に、取り次がず所在も伝えないでほしいこと。
  • 社内で事情を共有する範囲を、必要な人に限ってほしいこと。


伝えた情報はどう扱われるか

 会社が従業員から取得した個人情報は、利用目的の範囲内で扱うことが求められます。病歴や、犯罪によって害を受けた事実は「要配慮個人情報」とされ、会社が取得するにも原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法2条3項、20条2項)。伝える際に「この話は誰まで共有されるのか」を確認し、共有範囲の希望をはっきり伝えておくことができます。相談したことが子に伝わるかどうかの不安については、弁護士に相談する場合の扱いを【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方で解説しています。

休むために使える制度を整理する

 子の家庭内暴力そのものを理由とした休暇制度は、日本の法律には設けられていません。そのため、既存の制度のうちどれが自分の状況に合うかを見ていくことになります。

制度主な内容理由の説明
年次有給休暇勤続期間に応じて付与。労使協定があれば時間単位でも取得可能(労働基準法39条4項)不要
介護休暇対象家族が要介護状態の場合、年5日(2人以上なら10日)。時間単位で取得可能要介護状態であることの申出が必要
介護休業対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて取得可能。雇用保険から介護休業給付金要介護状態であることの申出が必要
会社独自の制度特別休暇、時差出勤、在宅勤務など就業規則による


年次有給休暇は理由を伝えずに使える

 年次有給休暇をどのように使うかは労働者の自由であり、取得の理由を会社に説明する必要はないとされています(最高裁昭和48年3月2日判決)。会社は事業の正常な運営を妨げる場合に限って時季の変更を求めることができますが(労働基準法39条5項)、理由によって取得を拒むことはできません。家庭の事情を職場に話したくない場合でも、まずは年次有給休暇を使うことができます。

子の状態によっては介護休暇・介護休業の対象になり得る

 介護休暇や介護休業の対象家族には「子」が含まれており、子の年齢による制限はありません。対象となるのは、負傷や疾病、身体上または精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態にある場合です。令和7年4月から適用されている厚生労働省の判断基準では、障害のある子や成人を介護・支援する場合も含まれることが明確にされ、判断項目の中には乱暴な言動の有無や対処方法も含まれています。

 ただし、暴力があるというだけで直ちに対象になるわけではありません。子に精神疾患や障害があり、日常的な見守りや支援が欠かせない状態かどうかが判断の分かれ目になります。医療機関にかかっている場合は、主治医の意見も踏まえて会社の人事担当者に確認するとよいでしょう。医療につなぐかどうかの判断は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断もご参照ください。なお、令和7年4月からは、勤続6か月未満の労働者を労使協定で介護休暇の対象外とする仕組みが廃止されています。介護休業や介護休暇の取得を理由とする解雇などの不利益な取扱いは禁じられています(育児・介護休業法16条、16条の7)。

休みではなく働き方を調整するという選択

 休みを取るのではなく、時差出勤や在宅勤務、残業の免除などで勤務の形を調整する方法もあります。法律上の制度がない場合でも、会社の判断で配慮を受けられることがあります。要介護状態の家族を介護する労働者については、テレワークを選べるようにする措置が令和7年4月から事業主の努力義務とされました。ご自身がけがをしたり、心身の不調で働けなくなったりした場合は、健康保険の傷病手当金の対象となることもあります。けがの記録としての診断書については【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証で触れています。

子が職場に連絡してくる・押しかけてくる場合

 親が自宅から離れたり、連絡を絶ったりしたときに、子が親の勤務先に電話をかけたり、訪ねてきたりすることがあります。職場に事情を伝えておく意味が最もはっきり表れるのがこの場面です。

会社と事前に決めておくこと

 職場に連絡があった場合の対応を、あらかじめ上司や受付担当者と決めておくと、当日の混乱を避けやすくなります。具体的には、本人への取り次ぎをしないこと、在席や勤務予定を答えないこと、連絡があった日時と内容を記録しておくこと、来訪時には受付で対応して執務スペースに入れないこと、といった点です。会社は従業員の安全に配慮する義務を負っており(労働契約法5条)、こうした申出を受けて対応を検討することは、会社にとっても自然な対応といえます。

会社の業務に支障が出るとき

 大声で騒ぐ、繰り返し電話をかけて業務を妨げる、退去を求めても立ち去らないといった行為は、威力業務妨害罪や不退去罪に当たる可能性があります(刑法234条、130条)。この場合に被害を受けるのは会社であり、家族の間の問題とは別に扱われることがあります。職場への押しかけに対して取り得る対応については、職場・自宅に押しかけられた|住居侵入・不退去・業務妨害の使い方で整理しています。子から「会社にばらす」「職場に行く」と告げられている場合は、その言葉の性質について【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きも参考になります。

連絡の窓口を弁護士に移す

 子が親に連絡を取ろうとする理由の多くは、お金の要求や、親に戻ってきてほしいという訴えです。親の代理人として弁護士が入り、子からの連絡を弁護士に集約すると、子が職場に連絡する理由そのものが小さくなることがあります。職場を守るために、まず親と子のやり取りの窓口を整えるという順序も考えられます。窓口を代えることの意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で解説しています。

仕事を辞める前に考えておきたいこと

 家庭の状況が厳しくなると、「いっそ仕事を辞めて家のことに専念したほうがよいのでは」と考える方もいます。その判断を否定するものではありませんが、退職を選ぶ前に考えておきたい点があります。

収入は選択肢を支える

 一時的に親が家を出る、子が独立して暮らす準備を進める、専門家に依頼するといった対応には、いずれも費用がかかります。親の収入が途絶えると、取れる選択肢そのものが少なくなってしまうことがあります。また、仕事を辞めて在宅の時間が長くなると、子と向き合う時間も長くなり、関係がかえって近くなりすぎることもあります。

職場は家の外にある居場所でもある

 仕事は収入を得る場であると同時に、家庭の外で過ごす時間を確保する場でもあります。親子の距離を少し取るだけでも、双方に変化が生まれることがあります。距離という観点については【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点で取り上げています。退職を考える段階であれば、その前に休暇や働き方の調整で乗り切れないか、職場や専門家に相談してみることをおすすめします。

よくあるご質問

会社に相談したことが子に知られることはありますか

 会社が従業員から聞いた家庭の事情を、本人の同意なく家族に伝えることは通常想定されていません。ただ、子が職場に電話をかけてきた際に、事情を知らない同僚が対応してしまうことはあり得ます。共有範囲を絞りつつ、電話や来訪の対応をする人には最低限の情報を伝えておくと安心です。

休む理由を言わずに休み続けることはできますか

 年次有給休暇の範囲であれば、理由を説明せずに取得できます。ただし、年次有給休暇を使い切った後の欠勤や長期の休みについては、就業規則上の手続が必要になることが多く、ある程度の事情の説明を求められることがあります。年次有給休暇の残日数が少なくなってきた段階で、伝え方を考えておくとよいでしょう。

警察に相談したことを会社に伝えるべきですか

 伝える義務はありません。ただ、子が職場に押しかけるおそれがある場合には、警察に相談済みであることを会社と共有しておくと、会社が警察に通報する判断をしやすくなります。相談記録を残しておく意味については【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。

まとめ


  1. 家庭の事情を勤務先に伝える法的な義務はなく、伝える場合も相手と内容を絞ることができます。
  2. 病歴や犯罪により害を受けた事実は要配慮個人情報とされ、会社が取得するには原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法2条3項、20条2項)。
  3. 年次有給休暇は理由を説明せずに取得でき、会社は事業の正常な運営を妨げる場合に限り時季の変更を求めることができます(労働基準法39条5項)。
  4. 子が精神疾患や障害により常時介護を必要とする状態にあれば、成人した子でも介護休暇・介護休業の対象になり得ます(育児・介護休業法2条)。
  5. 介護休業・介護休暇の取得を理由とする不利益な取扱いは禁じられています(同法16条、16条の7)。
  6. 子が職場で業務を妨げる行為をした場合、威力業務妨害罪や不退去罪が問題になり得ます(刑法234条、130条)。
  7. 退職を考える前に、休暇や働き方の調整、連絡の窓口を弁護士に移すことなどを検討する余地があります。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の家庭内暴力やひきこもり、お金の要求などに悩む親御さんからのご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人として子とのやり取りの窓口となり、自立支援カウンセラーとチームを組んで、親と子それぞれの生活を立て直すお手伝いをしています。遠方の方からのご相談にも対応しています。

仕事を続けながら家庭の問題に向き合っている方も、職場に知られずに相談したい方も、まずは状況をお聞かせください。ご相談から解決までの流れは【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問で、サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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