【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならない
本記事は2026年9月時点の法令と、消費者庁の公表資料、報道された裁判例に基づいて作成しています。個別の契約で誰にどのような権利や義務があるかは、契約書の文言と経緯によって異なります。
民間の自立支援サービスを利用している親御さんから、「費用を払っているのは自分なのに、子どもが施設でどう過ごしているのか教えてもらえない」というご相談を受けることがあります。反対に、「子どもが施設を出てしまったのに、契約は続いているので今月分も払ってほしいと言われた」というお話を伺うこともあります。
ひきこもりの自立支援の多くは、親御さんが契約して費用を支払い、支援を受けるのはお子さんという形をとります。「家族のための契約なのだから、親が決めるのは当然」と受け止められがちですし、その理解がすべて誤っているわけではありません。ただ、契約書に名前がない人のために結ばれる契約には、法律の上で特有のずれが生じます。このずれを知らないまま契約すると、支援の途中で思わぬ場面に直面することがあります。
この記事では、「契約するのは親、支援を受けるのは子」という構造そのものに焦点を当て、そこから生じるリスクを4つに分けて整理します。契約前の確認項目やクーリング・オフ、解約時の精算の計算は【親子問題】民間の自立支援施設を選ぶ前に確認すべきこと|契約・担い手・解約・本人の意思で、連れ出しをめぐる裁判例の詳細は【親子問題】連れ出し型の支援をめぐる裁判例|「引き出し屋」訴訟で示された判断の枠組みで扱っています。本稿では、それらの前提となる「誰が当事者で、誰が何を求められるのか」を整理します。
この構造を整理すると
契約書に名前があるのは親と事業者だけ
自立支援の契約で当事者になるのは、多くの場合、親御さんと事業者の2者です。お子さんは支援を受ける立場にありながら、契約書には署名していないのが一般的です。この違いが、権利や義務の置かれ方にそのまま表れます。
| 項目 | 親 | 子 |
|---|---|---|
| 契約の当事者か | 当事者 | 当事者ではないのが一般的 |
| 費用を支払う義務 | 負う | 負わない |
| 支援の内容について事業者に求める立場 | 契約に基づいて求められる | 契約に特別な定めがなければ持たない |
| 支援の状況の報告を求める立場 | 求められる(民法645条) | 契約上の立場はない |
| 契約を終わらせる立場 | 解約の申出ができる | 契約上の立場はない |
| 消費者として取消しなどを主張する立場 | 主張できる | 契約の当事者でないため主張できない |
支援の契約はどのような性質の契約か
自立支援の契約は、生活の指導や面談、就労に向けた援助といった事務を事業者に任せる内容のものが多く、法律の上では準委任(民法656条)として整理されることが多いといえます。寮での生活を伴う場合には、住まいの提供も含んだ複合的な契約になります。準委任の場合、事業者は依頼を受けた事務を注意深く行う義務を負いますが(同法644条、656条)、その義務を負う相手は契約の相手方である親御さんです。支援の直接の受け手はお子さんでも、契約上の約束が向いている先は親御さんという点が、以下のリスクの出発点になります。
リスク1 子の意思が契約のどこにも入っていない
親の同意は子の同意の代わりにならない
契約を結ぶ場面で確認されるのは、親御さんの意思です。お子さんが支援を望んでいるかどうかは、契約が成立するための条件になっていません。しかし、成人したお子さんがどこで誰と暮らすかは本人が決めることであり、親御さんが代わりに決められるものではありません。18歳以上のお子さんについて、親御さんは法律上の代理権を持っていないため(民法4条)、お子さんの名前で契約を結ぶこともできません。未成年の場合でも、親権は子の利益のために行使するものとされています(同法820条)。
親御さんが費用を払って契約していることは、お子さんの同意があることを意味しません。この点の考え方は【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないで詳しく解説しています。
入所時に子が署名する書類は「別の約束」になりうる
事業者によっては、入所の際にお子さん本人に同意書や誓約書への署名を求めることがあります。この場合、親御さんとの契約とは別に、お子さんと事業者との間でも何らかの約束が交わされることになります。書面に施設の規則を守る義務や、退所時の取り決めなどが書かれていれば、お子さん自身がその内容に拘束されるかどうかが問題になりえます。親御さんとしては、お子さんがどのような書類に署名を求められるのかを、契約前に事業者に確認しておくことが大切です。なお、報道によれば、入寮時の同意書への署名があっても連れ出しが違法とされた裁判例があります。
リスク2 費用を払う人の意向が優先されやすい
事業者から見た「依頼者」は親
事業者にとって、費用を支払い、継続するかどうかを決めるのは親御さんです。親御さんとお子さんの希望が一致していれば問題は表に出にくいのですが、「早く家を出てほしい」という親御さんの願いと、「家にいたい」というお子さんの意思が食い違う場面では、事業者が支払う側の意向に沿って動きやすい構造があります。本人の意思が置き去りにされたまま支援が進むことの背景には、個々の事業者の姿勢だけでなく、この構造そのものがあると考えられます。
依頼した親が責任を問われることもある
報道によれば、東京地裁は令和4年1月27日、本人の意に反する連れ出しを認めたうえで、連れ出しを依頼した母親についても事業者側との共謀を認め、連帯して賠償するよう命じました(民法719条1項)。費用を払う側であることは、責任を問われない側であることを意味しません。依頼する内容によっては、親御さん自身が法的な責任を負う可能性があることは、契約前に知っておいていただきたい点です。
リスク3 支援の中身が親から見えにくい
親は報告を求められる立場にある
準委任の契約では、受任者は委任者から求められればいつでも事務の状況を報告し、終了後には経過と結果を報告しなければならないとされています(民法645条、656条)。契約の当事者である親御さんは、支援がどのように行われているかの報告を事業者に求められる立場にあります。
ただし、報告の中身は子の個人情報
一方で、報告される内容は、お子さんの生活の様子や心身の状態、就労の状況といった、お子さん本人の個人情報です。事業者が個人情報を本人以外に伝えるには、原則として本人の同意が必要とされています(個人情報保護法27条1項)。成人したお子さんにとって、親御さんは「本人以外」にあたります。そのため、契約上は報告を求められるはずなのに、事業者から「本人の了解がないので詳しくは伝えられない」と説明されることがありえます。親御さんの知りたいという要望と、お子さんの情報を守るという要請が、同じ契約の中でぶつかることになります。
不十分な支援を親の側から示す難しさ
支援の実態を直接見ているのはお子さんで、費用を払って評価するのは親御さんです。支援が契約の内容に見合っていないと感じても、親御さんの手元には事業者からの報告しかないことが少なくありません。報道によれば、令和元年12月26日の東京地裁判決は、業務日誌の記載などをもとに支援が大部分において不十分だったと判断し、事業者に約500万円の支払いを命じています。契約で約束された支援が行われていないことを主張するには(民法415条)、報告の頻度や方法をあらかじめ契約で決め、受け取った報告や面談の記録を残しておくことが手がかりになります。
リスク4 やめたいときに「誰が」やめられるのか
子が「やめたい」と言っても契約は終わらない
お子さんが施設での生活を望まず、途中で出てしまうことがあります。しかし、お子さんは契約の当事者ではないため、お子さんが退所しても、親御さんと事業者との契約が自動的に終わるわけではありません。契約を終わらせるには、当事者である親御さんから解約の意思を伝える必要があります。お子さんが施設を出た後も費用が発生し続けるかどうかは契約の定めによるため、状況が変わったときは、解約を申し出た日付が残る方法で早めに伝えることが大切です。精算の考え方は、冒頭で紹介した施設選びの記事で扱っています。
親が解約すると、子の住まいがなくなることもある
反対に、親御さんが解約すると、寮で暮らしているお子さんは、施設にとどまる契約上の根拠を失うのが通常です。お子さんがその生活に慣れ、続けたいと考えていた場合でも同じです。契約をやめるかどうかの判断は、お子さんが次にどこで暮らし、どう生活費を得るのかという問題と切り離せません。解約を検討するときは、退所後の住まいや生活の見通しを並行して考えておく必要があります。
子に直接の権利を与える契約になっている場合
契約の中で、事業者がお子さんに対して直接支援を行う義務を負い、お子さんがその支援を求められると定められている場合には、「第三者のためにする契約」にあたる可能性があります(民法537条1項)。この場合、お子さんが支援を受ける意思を事業者に示した時点で、お子さん自身の権利が生じます(同条3項)。その後は、親御さんと事業者の合意だけでお子さんの権利を変更したり消滅させたりすることはできず(同法538条1項)、事業者が支援を行わないことを理由に親御さんが契約を解除するにも、お子さんの承諾が必要とされています(同条2項)。この規定は契約で異なる定めを置くこともできるため、どの形になっているかは契約書の文言を確認する必要があります。
構造のリスクを小さくするために親ができること
契約書で確認しておきたい点
この構造そのものを変えることは難しくても、契約書の段階で確認しておくことで、後に生じるずれを小さくすることはできます。次の点を、署名の前に書面で確かめておくことをおすすめします。
- 契約の当事者欄に誰の名前があり、お子さんが当事者として扱われているかどうか。
- お子さんに直接の権利を与える定めがあるかどうか。
- 支援の状況を誰に、どのくらいの頻度で、どのような方法で報告するのか。
- 報告にあたってお子さんの同意をどのように得るのか。
- お子さんが入所時などに署名を求められる書類があるか、その内容は何か。
- お子さんが退所を望んだときや、施設を出てしまったときに、契約と費用がどう扱われるのか。
- 解約の申出の方法と、解約後にお子さんがどう退所するのか。
契約の前に本人と話す順序を考える
お子さんに知らせないまま契約を進めると、支援の最初の場面が、お子さんにとって突然の出来事になります。その経験が親御さんへの不信につながり、支援が終わった後の親子関係に影響を残すこともあります。契約の前に、誰が、どのような言葉で、お子さんに説明するのかを考えておくことが、構造のずれを小さくする第一歩になります。親御さんが法的に関われる範囲については【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲をご覧ください。
当事務所の取り組み|親の側と子の側で担い手を分ける
弁護士は親の代理人であることを明確にする
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人としてお子さんと向き合います。弁護士が誰の代理人であるかを最初から明確にしているため、お子さんの意思を代わりに決めたり、お子さんを管理したりする立場には立ちません。そのうえで、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、カウンセラーがお子さんの側の住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理、悩みごとへの対応、親御さんへの報告などを担います。親御さんからいただいたご相談の内容の扱いについては、【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方で説明しています。
距離を取ることで生まれる変化
お子さんを孤立させたままでは自立は実現しにくいという考えから、親御さんとお子さんがそれぞれ自立できる形を目指しています。人が関わることである以上、結果をお約束することはできません。ただ、親子の物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が生じることがあります。取り組みの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応、弁護士が入ることで何が変わるのかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で説明しています。
よくあるご質問
子ども本人の名前で契約してもらえば、この構造の問題はなくなりますか
成人したお子さんが内容に納得し、自分で契約するのであれば、本人の意思が契約に入らないという問題は小さくなります。ただし、費用を親御さんが負担する場合には、支払う人と契約する人が分かれるという別のずれが残ります。また、親御さんがお子さんの名前を使って代わりに署名することは、お子さんから任されていない限りできません。
事業者に支援の様子を尋ねても、詳しく教えてもらえません
親御さんには契約上、報告を求める立場があります(民法645条、656条)。一方で、報告の中身がお子さんの個人情報にあたるため、事業者がお子さんの同意を確認している可能性もあります。どのような範囲なら報告できるのか、お子さんの同意をどう確認しているのかを事業者に尋ね、書面で回答を受け取っておくと、後で状況を振り返る手がかりになります。
子どもが施設を出てしまいました。契約はどうなりますか
お子さんが退所しても、親御さんと事業者との契約は当然には終わりません。今後の利用を続けないのであれば、解約の意思を、日付の残る方法で早めに伝えることが考えられます。すでに支払った費用の精算や返金については、消費者ホットライン(188)で最寄りの消費生活センターを案内してもらうこともできます。
まとめ
- 自立支援の契約の当事者は、多くの場合、親と事業者であり、支援を受ける子は契約の当事者ではない。
- 支援の契約は準委任として整理されることが多く、事業者の義務は契約の相手方である親に向いている(民法656条、644条)。
- 18歳以上の子について親は代理権を持たず、親の同意は子の同意の代わりにならない(民法4条、820条)。
- 連れ出しを依頼した親が、事業者と連帯して賠償を命じられた裁判例が報じられている(民法719条1項)。
- 親は報告を求められる立場にあるが、報告の中身は子の個人情報であり、本人の同意が問題になる(民法645条、個人情報保護法27条1項)。
- 子が退所しても契約は当然には終わらず、親が解約すると子は住まいを失うことがある。
- 子に直接の権利を与える契約では、子の意思表示の後は親と事業者だけで権利を変更・消滅させられない(民法537条、538条)。
民間の支援との契約をご検討中の方へ
ご家庭の状況を変えたいと願って契約を検討するほど、契約書に名前のないお子さんの立場は見落とされやすくなります。署名の前に、この契約でお子さんがどのような立場に置かれるのかを一度確かめていただければと思います。相談の前に整理しておくとよい事柄は【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報、遠方からのご依頼については【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際にまとめています。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ひきこもりや家庭内暴力など親子の問題に悩む親御さんからのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国のご家庭の問題に取り組んできました。これから契約を検討している方も、すでに契約していてお子さんとの関係や解約で困っている方も、契約書をお手元にご用意いただければ、確認するところからご一緒できます。


