【ストーカートラブル】冠婚葬祭など避けられない場で相手と会う|その日の備え

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2026年10月時点のストーカー行為等の規制等に関する法律(令和3年改正を反映)と、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(令和6年4月施行の改正を反映)を前提にしています。刑罰は、2025年6月に施行された拘禁刑の表記で記載しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。


「親族の葬儀に、つきまといをしていた元交際相手も参列するかもしれない。でも自分が欠席するわけにはいかない」「共通の友人から結婚式の招待状が届いたが、相手も招かれていると聞いた」。ストーカー被害のご相談では、このように、相手と同じ場に居合わせる日が近づいていることへの不安をうかがうことがあります。反対に、つきまといをしたとされる側から「禁止命令が出ているが、親の葬儀には出たい」と尋ねられることもあります。

 禁止命令や保護命令について解説したページでは、命令があっても偶然出会うことまでは防げないと説明されています。この説明自体は誤りではありません。ただ、冠婚葬祭は「偶然」の出会いとは少し性質が違い、日時と場所があらかじめ決まっていて、相手が来ることもある程度予想できる場です。予想できる以上、事前に整えられることは少なくありません。

 この記事では、被害を受けている方の立場から、冠婚葬祭など避けられない場で相手と会う可能性があるときの、出欠の判断、当日までの準備、会場での対応、行事の後に注意したいことを順に整理します。禁止命令の手続そのものや、住所を知られた場合の対策は、それぞれの記事に譲ります。

同じ場に居合わせること自体は違反になるのか

規制されるのは「目的をもった行為」

 ストーカー規制法が対象とする「つきまとい等」は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で行われる行為です(ストーカー規制法2条1項)。相手が親族として葬儀に参列する、友人として結婚式に出席するというだけでは、通常この目的があるとはいえません。禁止命令が禁じているのも「つきまとい等」であり、同じ会場にいること一般ではありません。

 一方で、会場で近づいて話しかける、面会や復縁を求める、帰り道についてくるといった行動があれば、評価は変わってきます。問題になるのは、同じ場にいることそのものではなく、その場で相手が何をするかです。なお、この規定は被害者本人だけでなく、同居の親族など社会生活で密接な関係にある人に対する行為も対象にしています。

令和3年改正で加わった「現に所在する場所」

 以前の規定は、住居や勤務先、学校など、普段いる場所の付近での見張りや押し掛けを主な対象としていました。令和3年の改正で、「現に所在する場所」も対象に加えられています(同法2条1項1号)。式場や斎場のように、その日だけ被害を受けている方がいる場所の付近で見張ったり、押し掛けたりする行為も、規制の対象になり得るということです。

 招かれていない相手が、行事の日時を知って会場の外で待っているといった場面は、この規定との関係で検討されることになります。

すでに講じている手段によって、当日の意味が違う

 当日の備え方は、相手との間にどのような手段がとられているかで変わります。主なものは次のとおりです。

手段当日との関係
ストーカー規制法の警告(同法4条)警察署長等による行政上の措置で、それ自体に罰則はありません。警告後の行動は禁止命令を判断する材料になります
ストーカー規制法の禁止命令(同法5条)公安委員会がつきまとい等を禁じる命令です。有効期間は1年で、必要があれば延長されます。違反には罰則があります
DV防止法の保護命令配偶者や元配偶者、生活の本拠を共にする交際相手などが対象です。接近禁止命令の期間は1年で、親族等への接近禁止命令もあります
民事の接近禁止の仮処分裁判所が個別に命じるもので、禁止する範囲を事案に合わせて求めることができます
合意書・示談書の接触禁止条項当事者間の約束です。違反があれば違約金の請求などで対応します


 禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(同法19条1項)、それ以外の禁止命令違反は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法20条)が定められています。各手段の違いは、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けとストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?で詳しく解説しています。

出欠を決める前に確かめておきたいこと

相手が来るかどうかを、誰に、どう確かめるか

 まずは、相手が出席するかどうかを主催者や近しい親族に確かめることになります。このとき気をつけたいのは、問い合わせたこと自体や、こちらの出欠の予定が、確かめた相手を通じて相手方に伝わる可能性があることです。

 尋ねる相手は、できるだけ相手方と距離のある人を選び、こちらの出欠や到着時刻は他の人に伝えないようお願いしておくと安心です。

欠席のほかにも選択肢がある

 「出るか、出ないか」の二択で考えると、負担の大きい判断になりがちです。実際には、次のように関わり方を調整できることもあります。

  • 葬儀では、通夜と告別式のどちらかに絞る、相手と時間帯をずらして焼香する。
  • 後日あらためて弔問や墓参をし、当日は供花・弔電・香典を送る形にする。
  • 結婚式では、挙式だけ、または披露宴だけに出席し、二次会は控える。
  • 出席を見送り、後日に個別にお祝いを伝える。


 どの形が適切かは、故人や新郎新婦との関係、相手方との関係、これまでの被害の内容によって変わります。ご自身の安全を優先した選択であれば、周囲に理解を求めることは不自然なことではありません。

主催者に事情をどこまで伝えるか

 慶弔の主催者は、当日は多くの対応を抱えています。事情を伝える場合は、被害の経緯を詳しく説明するよりも、相手方と接触できない事情があること、席を離してほしいこと、受付で気にかけてほしいことなど、当日にお願いしたい内容を絞って伝えるのが現実的です。主催者には、被害の詳細ではなく「当日に何をしてほしいか」を具体的に伝えるほうが、協力を得やすくなります。

 禁止命令が出ていることなど相手方に関する情報を伝えるかどうかは、相手方の名誉やプライバシーとの関係もあるため、必要な範囲にとどめるのが無難です。伝え方に迷う場合は、事前に弁護士へご相談ください。

当日までに整えておく準備

同行者と動線を決めておく

 当日は、できるだけ一人にならないことが基本です。事情を知っている同行者がいれば、相手方が近づいてきたときに間に入ってもらったり、その場を一緒に離れたりできます。あらかじめ、次の点を同行者と確かめておくと落ち着いて動けます。

  • 会場への到着時刻と、受付を済ませる順序。
  • 席の位置と、相手方の席から離れられるか。
  • 化粧室や喫煙所、駐車場など、一人になりやすい場所での行動。
  • 帰りの交通手段と、まっすぐ自宅に向かうかどうか。


警察と会場に事前に相談しておく

 これまでに相談している警察署があれば、行事の日時と場所、相手方が出席する見込みを事前に伝えておくことが考えられます。事前に相談しておくことで、当日に何かあったときに経緯の説明が短く済み、相談の記録としても残ります。

 式場や斎場の担当者にも、招待されていない人物が来た場合の対応を相談しておくとよいでしょう。入場を断ったり退出を求めたりするかどうかは、施設側や主催者の判断になりますが、事前に知っていれば対応しやすくなります。

持っていくもの

 当日に慌てないために、次のものを手元に用意しておくと役立ちます。

  • 禁止命令が出ている場合は、通知を受けた書面の写し、またはその内容が分かる控え。
  • 相談している警察署の担当者の氏名と連絡先。
  • 充電した携帯電話と、必要に応じて予備のバッテリー。
  • 相手方の言動を書き留められるメモ。


会場で相手が近づいてきたとき

応じず、その場を離れ、人のいる所へ移る

 相手方から話しかけられても、会話には応じず、短く「お話しすることはできません」と伝える程度にとどめ、同行者や会場スタッフのいる所へ移るのが基本です。その場で抗議したり、説得しようとしたりすると、やり取りが長引き、相手方を刺激することにもなりかねません。関係を断つときの基本的な考え方は、ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方もご参照ください。

通報を迷う場面の目安

 慶弔の場では、場の雰囲気を壊したくないという思いから、通報をためらう方が少なくありません。しかし、禁止命令が出ているのに近づいて話しかけられた、面会や復縁を求められた、会場の外で待たれていた、脅すような言葉をかけられたといった場合には、行事の最中であっても110番通報をためらう必要はありません。行事への配慮よりも、ご自身と周囲の安全を優先して判断してください。

 判断に迷う場合も、相談している警察署に連絡して指示を仰ぐことができます。

その場で残しておく記録

 相手方が近づいてきたときは、時刻、場所、相手方の言動、近くにいた人の名前を、できるだけその日のうちに書き留めておきます。録音ができる状況であれば、録音も有力な記録になります。写真や動画を撮る場合は、他の参列者や出席者が写り込むことへの配慮も必要です。記録の残し方は、証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで解説しています。

見落とされやすい「行事の後」のリスク

芳名帳・香典返し・引出物の配送で住所が伝わる

 葬儀や結婚式では、芳名帳に住所を書く慣習があり、香典返しや内祝いの送付先として住所を伝えることもあります。芳名帳は親族の間で回覧されることもあり、相手方やその関係者の目に触れる可能性があります。

 住所を知られたくない事情がある場合は、主催者に事情を話して名前だけの記帳で済ませる、返礼品は辞退するか手渡しにしてもらうなど、住所を残さない方法を相談しておくとよいでしょう。

集合写真やSNSへの投稿

 行事の後、出席者がSNSに写真を投稿することで、ご自身の近況や同伴者、立ち寄った場所などが伝わってしまうことがあります。親しい出席者には、ご自身が写った写真を投稿しないようお願いしておくと安心です。転居先を知られないための対策は、引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策もご覧ください。

当日の出来事を、次の手続につなげる

 当日に相手方が近づいてきた場合は、残した記録を警察に伝えておくことが大切です。警告しか出ていない段階であれば禁止命令を求める材料になり、禁止命令が出ている段階であれば、違反の有無の判断や、有効期間の延長を検討する際の材料になります(同法5条)。

 行事の場での出来事は、周囲への遠慮から報告が後回しになりがちです。一度の出来事でも、記録として積み重なれば、次の手続を進める根拠になります。

合意書で「避けられない場」の扱いを決めておく

「一切接触しない」という条項だけでは足りない理由

 相手方との間で合意書や示談書を交わす場合、「今後一切接触しない」という条項を入れるのが一般的です。ただ、共通の親族や友人がいる関係では、冠婚葬祭で同じ場に居合わせることがあり得ます。そのときに出席そのものが違反になるのか、どこからが違反なのかがはっきりしないと、当日の判断に迷うだけでなく、後で争いになるおそれもあります。

取り決めておける内容の例

 避けられない場が想定される場合は、次のような内容を合意書に盛り込むことが考えられます。

  • 双方に関係する冠婚葬祭については、出席の意向を代理人を通じて事前に伝え合う。
  • 同じ行事に出席する場合でも、話しかけず、席や参列の時間帯を離す。
  • 会場で相手方が近づいてきた場合は、速やかにその場を離れる。
  • 訃報など必要な連絡は、代理人または指定した第三者を通じて行う。
  • これらに違反した場合の違約金を定める。


 親族の葬儀のように、相手方にとっても出席が重い意味を持つ場面では、出席そのものを禁じる内容には合意が得られにくいこともあります。実効性のある合意にするには、出席を前提に、接触しないための具体的な行動を定めるという考え方が現実的です。当日の線引きを事前に文書にしておくことが、その日の安心につながります。

相手方からの「知らせ」が必要になる場面

 共通の親族が亡くなった場合など、相手方からこちらに知らせが必要になる場面もあります。直接の連絡を認めると、それが新たな接触のきっかけになることがあります。必要な連絡は代理人を通じて行うと決めておけば、知らせが届かないという問題と、接触が再開するという問題の両方を避けられます。代理人を立てる意味については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で解説しています。

よくあるご質問

相手方から「親族として出席するのは自由だ」と言われました。止める方法はないのでしょうか。

 親族の葬儀などへの出席そのものを法的に止めるのは、難しい場面が多いのが実情です。多くの場合は、相手方の出席を前提に、接触しないための準備を整えることになります。ただし、これまでの被害の内容から当日の危険が大きいと考えられる場合は、主催者や施設側との調整、警察への事前の相談、事案によっては民事の仮処分の検討など、とり得る手段を個別に考えることになります。

共通の友人から、相手方に欠席するよう伝えてもらってもよいですか。

 お願いすること自体が違法になるわけではありません。ただ、友人を板挟みにしてしまうことや、友人を通じてこちらの予定や様子が相手方に伝わること、相手方を刺激することも考えられます。相手方に何かを伝える必要がある場合は、弁護士を通じて伝える方法もご検討ください。

禁止命令の有効期間が切れた後に行事があります。どう備えればよいですか。

 禁止命令の有効期間は1年で、引き続き必要があると認められれば延長されることがあります(同法5条)。行事の日が有効期間の満了後になる場合は、期間内に、これまでの経過と行事の予定を警察に伝え、延長について相談しておくことが考えられます。延長されなかった場合に備えて、合意書の条項や当日の準備をあわせて整えておくと安心です。

まとめ


  1. つきまとい等は、好意の感情や怨恨の感情を充足する目的で行われる行為であり、相手方が同じ行事に出席すること自体は、通常それに当たりません(ストーカー規制法2条1項)。
  2. 令和3年の改正で「現に所在する場所」が加わり、式場や斎場の付近での見張りや押し掛けも規制の対象になり得ます(同法2条1項1号)。
  3. 禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金が定められています(同法19条1項)。
  4. 出欠は二択ではなく、時間帯をずらす、後日に弔問するなど、関わり方を調整できることがあります。
  5. 当日に向けては、同行者と動線を決め、警察と会場に事前に相談しておくことが役立ちます。
  6. 芳名帳や返礼品の送付先、SNSへの投稿など、行事の後に住所や近況が伝わる経路にも注意が必要です。
  7. 合意書には、冠婚葬祭での出席の調整や連絡の方法など、避けられない場の扱いを具体的に定めておくと、当日の判断がしやすくなります。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。冠婚葬祭のように日取りの決まった行事が控えている場合は、警察への事前の相談、主催者への伝え方、相手方との合意書の条項づくりなど、当日までに整えられることがあります。
行事の日が近づいて不安を感じている方も、すでに相手方との間で取り決めがあり、当日の行動の範囲を確かめたい方も、どうぞお早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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