【解決事例】不貞の示談成立後も続いた相手方夫からの追加請求・脅迫を弁護士介入で解決した事例
この記事は、2026年10月時点の民法・刑法の規定をもとに、婚姻していない交際相手との間で別れ際に交わした合意を前提に書いています。不貞慰謝料の示談や、離婚の際の合意は扱っていません。
「別れるときに話し合って金額も決めたのに、数か月たってから『やっぱり足りない』と連絡が来た」「約束どおり払ったのに、今度は引っ越し費用を出してほしいと言われている」。交際を終えたあとの金銭の話は、一度まとまったように見えても、別の名目で再び持ち出されることがあります。反対に、追加を求める側から「合意したときには知らなかった事情がある」というご相談を受けることもあります。
世間では「合意したのだから払う必要はない」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、別れ際の合意は書面になっていなかったり、何を終わらせたのかがはっきりしなかったりすることが多く、前回の合意で終わっているのかを確かめる作業を飛ばすと、断れるはずの要求に応じてしまったり、逆に応じるべきものまで拒んで話がこじれたりします。
この記事では、交際相手との別れ際の合意に絞って、追加の要求が前回の合意の範囲に入るかどうかの見分け方と、すでに一度応じてしまった場合の立て直し方を整理します。清算条項の文言の読み方は清算条項の意味|後から追加請求されないためにに、合意の形ごとの使い方は【不当要求対応】同じ相手から再び要求が来た|前回の合意をどう使うかに譲ります。
別れ際の合意は「何を終わらせたか」があいまいになりやすい
口頭やLINEでも合意は成立する
契約は、書面を作らなくても当事者の意思が合えば成立します(民法522条2項)。別れ話の場で「この金額を払うから、これで終わりにしよう」「分かった」と言い合い、LINEにも同じやり取りが残っていれば、それは合意として扱われる余地があります。書面がないことだけで、前回の話し合いがなかったことになるわけではありません。
お金・物・写真・連絡が一度に話し合われる
交際の終わりには、交際中に渡したお金の返還、預けた荷物、共同で使っていた物、撮影した写真や動画の扱い、今後の連絡のことなどが、一度の話し合いで決められがちです。離婚のように協議書の作り方が広く知られているわけでもないため、「お金のことは終わり」なのか「交際に関わることはすべて終わり」なのかが言葉として残っていないことが多く、ここが後の追加の要求の入り口になります。
追加の要求が来たときに最初に確かめたいのは、金額の当否ではなく、前回の合意が何を対象にしていたかです。
手元の記録で対象を確かめる
対象を確かめる材料には、合意書や誓約書があればその文面、LINEやメールのやり取り、支払いの振込記録、話し合いの録音などがあります。交際相手との間で作った書面の効力そのものについては【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で詳しく扱っています。
追加の要求を名目ごとに分けて考える
追加の要求は、名目によって前回の合意との関係が変わります。代表的なものを整理すると次のとおりです。
| 追加の要求の名目 | 前回の合意との関係 | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 解決金・慰謝料の上乗せ | 同じ交際の終わり方をめぐる金銭であれば、前回の合意の中に入ると考えやすい | 前回の金額が、交際の解消に関する金銭の全体を対象にしていたか |
| 交際中に渡したお金の返還 | 前回の話し合いで返還が話題に出ていたか、清算の言葉があるかで分かれる | 贈与か貸付かの整理が前回済んでいるか |
| 荷物・名義・携帯代などの精算 | 前回の話し合いで触れていなければ、合意の外に残っている場合がある | 物や契約の名義と、話し合いで触れたかどうか |
| 合意の後に分かったとする事情 | 合意のときに予想できたかどうかで評価が分かれる | その事情が本当に合意の後に生じたものか、裏づけはあるか |
| 謝罪・面会・説明など金銭以外 | 応じる法的な義務がないことが多い | 要求に脅しが混じっていないか |
表の上の2行は、前回の合意で終わっていると整理しやすい要求です。下の3行は、前回の合意だけでは結論が出ず、個別に確かめる必要がある要求です。交際中に渡したお金の性質については、別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いもあわせてご覧ください。
前回の合意の範囲内なら「終わった話」として扱える
和解には争いを終わらせる効力がある
当事者が互いに譲り合って争いをやめる約束は、民法上の和解にあたります(民法695条)。和解が成立すると、後から「本当はもっと請求できたはずだ」という確証が出てきても、和解で決めた内容が優先します(同法696条)。別れ際に金額を決めて支払いを済ませた場合、同じ交際の終わり方をめぐって金額を積み増す要求は、この効力によって退けられる方向で考えることになります。
「相場より安かった」「気持ちが収まらない」は理由になりにくい
追加の要求でよく持ち出されるのは、「あとで調べたら相場より低かった」「時間がたって気持ちが収まらなくなった」といった理由です。いずれも合意のときに判断できた事情か、合意した本人の気持ちの変化であり、合意をやり直す理由としては弱いものです。
合意の範囲内の要求であれば、応じない旨を一度、短く文面で伝えれば足ります。理由を何度も説明したり、相手の不満に一つずつ答えたりすると、かえって交渉が再開したような形になりがちです。追加の要求が繰り返される構造については「これで最後」が繰り返される構造|追加請求が止まらない理由で取り上げています。
追加の要求に理由がある場面もある
前回の話し合いで触れていなかった項目
前回の合意が「解決金を払う」という内容だけで、清算の言葉もなかった場合、話題に上らなかった荷物の引き渡しや、名義を貸していた携帯電話の料金などは、合意の外に残っていると評価されることがあります。この場合の要求は追加というより「まだ済んでいない精算」であり、内容を確かめたうえで個別に話し合うほうが、結果として早く終わることがあります。共有していた物の分け方は【男女トラブル】別れた後に共通のペット・車・家財をどう分けるかで扱っています。
合意のときに予想できなかった事情
交通事故の示談後に予想していなかった後遺症が出た事案で、最高裁は、示談で放棄したのは示談のときに予想していた損害に限られると判断しています(最高裁昭和43年3月15日判決)。男女間の合意にそのまま当てはまるわけではありませんが、合意の後に初めて分かった事情があるときは、それが前回の合意の対象に含まれていたのかが問題になりえます。もっとも、その事情が合意のときにすでに分かっていた、または予想できたものであれば、前回の合意の中で処理されたと考えるのが通常です。
こちらの支払いが終わっていない場合
分割払いの途中で残りの支払いを求められている場合、それは追加の要求ではなく、前回の合意どおりの請求です。これを蒸し返しとして断ると、こちらが合意を守っていない立場になります。前回の合意の中の請求か外の請求かの見分け方は、冒頭で挙げた「同じ相手から再び要求が来た」の記事でも整理しています。
「あのときの合意は無効だ」と言われたとき
相手が持ち出す理由
追加の要求とあわせて、「あのときは言わされた」「本当のことを知らされていなかった」として、前回の合意そのものを争われることがあります。民法には、詐欺や強迫による意思表示を取り消せる規定(民法96条1項)や、重要な点に錯誤があった場合に取り消せる規定(同法95条)があります。ただ、取消しを主張する側が、その事情を具体的に示す必要があります。
合意の後の行動と期間
取り消すことができる時以後に、異議をとどめずに合意どおりの支払いを受け取るなどした場合、合意を追認したものとみなされることがあります(民法125条)。また、取消権は、追認できる時から5年、合意の時から20年で行使できなくなります(同法126条)。相手が合意どおりの支払いを受け取り、その後しばらく何も言っていなかったといった経過は、合意が有効に続いていることを示す事情の一つになります。署名の経緯と効力の考え方は脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで詳しく扱っています。
一度「追加」に応じてしまった場合の立て直し方
追加の承諾も新しい合意になりうる
何度も連絡が来て面倒になり、「それくらいなら払う」と返事をしてしまうことがあります。この返事は、前回とは別の新しい合意として扱われる可能性があります。まだ支払っていない段階でも、承諾した事実は残るため、その後に断るには、なぜ応じないのかを整理して伝え直す必要が出てきます。
追加の要求への返事は、その場でせずにいったん持ち帰ることが大切です。
払ってしまったお金は取り戻せるか
払う義務がないと知りながら任意に支払ったお金は、原則として返還を求めることができません(民法705条)。ただ、脅されてやむを得ず支払った場合などは、この規定がそのまま当てはまらないと考えられています。いずれの場合も、支払いに至った経緯を示すやり取りを残しておくことが前提になります。返還請求の考え方は払ってしまった示談金・違約金は取り戻せるか?返金請求の可否をご覧ください。
今回を区切りにする書面を作る
追加に応じる判断をした場合も、応じない判断をした場合も、今回の分で終わりにすることを書面で確認しておくと、次の要求を断る根拠になります。前回の合意に清算の言葉がなかったのであれば、対象を「交際とその解消に関するすべての事項」と広くとり、連絡や接触をしない約束もあわせて入れる形が考えられます。書面の作り方は相手が要求を取り下げても終わりではない|再請求を防ぐ合意書の作り方で解説しています。
返事をする前に整えておきたいこと
追加の要求が届いたら、返事をする前に次の点を整えておくと、その後の判断がしやすくなります。
- 前回の合意の内容が分かる記録(書面、LINE、振込記録、録音)を一か所にまとめる。
- 追加の要求の内容と名目を、相手の文面のまま保存する。
- 前回の話し合いで触れた項目と、触れなかった項目を書き出す。
- 電話や対面では返事をせず、文面で受け取ったことだけを伝える。
- 相手と会って話す約束はしない。
別れ話の場での記録の残し方は【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方でも扱っています。
要求に脅しが混じっているとき
「払わなければ職場に話す」「家族に写真を見せる」といった言葉とともに追加の金銭を求められた場合、前回の合意の範囲かどうかとは別に、恐喝罪(刑法249条)や脅迫罪(同法222条)が問題になりうる行為です。この段階では、合意の内容を説明して相手を納得させようとするよりも、やり取りを保存したうえで、警察や弁護士に相談することを優先してください。別れ際の金銭の要求と恐喝の関係は別れ際に物を壊された・お金を要求された|器物損壊と恐喝で解説しています。
弁護士が間に入ると変わること
窓口が一本になり、直接のやり取りが止まる
弁護士が受任すると、相手に受任通知を送り、以後の連絡は弁護士宛てにするよう求めます。元交際相手からの連絡に一つずつ返事をする必要がなくなり、感情的なやり取りの中で新たな約束をしてしまうことを避けられます。
前回の合意を整理し、今回を区切る書面を作る
前回の合意が何を対象にしていたかを記録から整理し、追加の要求のうち応じる必要のないものと、話し合う余地のあるものを分けて回答します。そのうえで、今回の分で終わりにする合意書を作り、連絡や接触をしない約束も含めて区切りをつけます。示談の成立後も続いた追加の要求に弁護士が対応した例として【解決事例】不貞の示談成立後も続いた相手方夫からの追加請求・脅迫を弁護士介入で解決した事例があります。交際の解消をめぐる例としては【解決事例】別れ話に応じてもらえず連絡が止まらなかった男性|3年分割の提案を一括清算に切り替え、約1ヶ月で合意書を締結した事例もご覧ください。
よくあるご質問
相手の家族から追加の支払いを求められた場合も、前回の合意で断れますか。
前回の合意が元交際相手本人との間のものであれば、その家族が本人の代わりに同じ内容を求めてきても、本人との合意で終わった話として扱えます。ただし、家族が本人とは別に自分自身の請求として何かを求めている場合は、前回の合意の当事者ではないため、内容ごとに確かめる必要があります。家族が交渉に出てきたときの確かめ方は【男女トラブル】相手の家族が代わりに交渉に出てきた|代理権の有無の確かめ方で扱っています。
少額なら払って終わらせたほうが早いのではないでしょうか。
少額を払うこと自体が直ちに不利になるわけではありません。ただ、今回で終わりにする書面を作らずに払うと、「求めれば応じてもらえる」という受け止め方につながり、次の要求を招くことがあります。払う判断をする場合は、今回が最後であることを書面で確認できるかどうかを条件にすることをおすすめします。
合意してから時間がたっています。今からでも相談できますか。
相談できます。前回の合意から時間がたっていることは、合意の後に相手が何も言っていなかったという事情として、こちらの整理に役立つこともあります。合意の記録が手元に残っていれば、それをもとに整理を始められます。
まとめ
- 別れ際の合意は書面がなくても成立しうるため、まず前回の合意が何を対象にしていたかを記録から確かめる(民法522条2項)。
- 前回の合意の範囲内の上乗せの要求は、和解の効力によって退けられる方向で考える(民法695条・696条)。
- 話し合いで触れていなかった項目や、合意のときに予想できなかった事情は、合意の外に残っている場合がある(最高裁昭和43年3月15日判決)。
- 合意の取消しを主張する側は事情を具体的に示す必要があり、追認や期間の制限もある(民法95条・96条1項・125条・126条)。
- 追加に一度応じると新しい合意として扱われる可能性があるため、返事の前にいったん持ち帰る。
- 義務がないと知りながら払ったお金は、原則として取り戻せない(民法705条)。
- 脅しが混じる要求は、合意の説明よりも記録と相談を優先する(刑法222条・249条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。前回の合意の記録をお持ちいただければ、追加の要求が合意の範囲に入るかどうかの整理から始めます。
一度合意したのに追加の要求を受けている方も、合意の後に分かった事情があり話し合いをやり直したいとお考えの方も、お一人で返事をする前にご相談ください。


