【不貞慰謝料・請求された側】無視するとどうなるのか|放置の帰結
不貞慰謝料の問題に直面したとき、多くの方が最初に迷うのが「自分で相手方と話し合うか、弁護士に任せるか」という点です。調べてみると、自分でもできるという説明と、弁護士に依頼したほうがよいという説明の両方が見つかり、かえって決めきれないという声もよく聞きます。
この迷いが解けにくいのは、「できるかどうか」と「そのほうがよいかどうか」という別々の問いが一つに混ざっているためです。制度としてご自身で進めることは認められています。そのうえで、どこまでを自分で担い、どこから人に頼むのかは、進み方の場面ごとに答えが変わります。
この記事では、二つを並べて比べるのではなく、判断の分かれ目がどの場面に現れ、何を材料に決めればよいのかという順序で整理します。請求する側と請求を受けた側の双方の立場を扱います。
この記事で扱うこと・扱わないこと
最初に、この記事の範囲をはっきりさせておきます。
- 自分で進める場合と弁護士に任せる場合とで、何が変わり、何は変わらないのか。
- 判断の分かれ目が交渉のどの場面に現れるのか。
- 決める前に確かめておくとよいこと。
- 慰謝料の金額の水準、証拠の集め方と評価、内容証明を誰の名義で出すか、示談書の条項の設計、消滅時効の数え方については、それぞれ別の記事で扱います。
自分で交渉することは、制度として認められています
慰謝料の請求は、ご自身の権利についてご自身が相手方と話し合うことですから、これを行うために特別な資格は求められていません。話し合いがまとまらず裁判所の手続に進んだ場合も同じで、日本の民事訴訟では、代理人を立てずに当事者本人が手続を進めることが認められています。弁護士を立てなければ訴えを起こせないという仕組みにはなっていません。
一方で、自分の代わりに誰かに交渉してもらうという話になると、制度の扱いが変わります。訴訟で代理人を立てる場合、代理人となれるのは原則として弁護士に限られています(民事訴訟法54条1項本文)。簡易裁判所では、裁判所の許可を得て弁護士以外の方が代理人となる例外が設けられていますが(同条同項ただし書)、これは限られた場面の取扱いです。裁判外の交渉についても、争いのある請求について代理や和解などの法律事務を報酬を得る目的で業として扱うことは制限されています(弁護士法72条)。心細さから、事情を知っている友人や親族に代わりに話をしてもらおうと考える方がいらっしゃいますが、この点は慎重に検討する必要があります。
つまり、ここで制度が決めているのは「自分で進めてよいかどうか」ではありません。決まっているのは、ご自身で進めた場合には、話した内容も、示した金額も、書いた文章も、すべてご自身の主張としてそのまま残るということです。判断の実質はここから始まります。
「全部自分で」と「全部任せる」の間にはいくつかの段階があります
多くの解説は、自分でやる場合と弁護士に依頼する場合を一対にして、費用と負担を比べる形をとっています。ただ、実際のご相談では、この二つのどちらかしか選べないわけではありません。関わり方はいくつかの段階に分かれます。
| 関わり方 | 自分が担うこと | 検討されやすい場面 |
|---|---|---|
| 相談だけを受けて自分で進める | 相手方への連絡、書面の作成、条件の決定のすべて | 相手が事実を認めていて、話の見通しがついている場合 |
| 要所ごとに相談しながら自分で進める | 連絡と交渉は自分が行い、節目で内容を確認してもらう | 自分の言葉で伝えたいが、判断の分かれ目だけ確かめたい場合 |
| 交渉の段階から任せる | 方針の決定と、報告を受けたうえでの判断 | 相手方と直接やり取りすること自体の負担が大きい場合 |
| 裁判所の手続に入ってから任せる | それまでの経緯の説明と資料の引き継ぎ | 話し合いがまとまらず、調停や訴訟に進んだ場合 |
どの段階を選ぶかは固定されたものではなく、途中で移ることもできます。ただし、移る時期によって引き継げるものが変わります。この点は後の章で詳しく取り上げます。
判断の分かれ目は一度ではなく、進行に沿って何度も現れます
「自分でやるか、任せるか」は、最初に一度決めてしまえば終わりという性質のものではありません。相手の反応があるたびに、同じ問いが形を変えて現れます。そして、場面によって選び直しやすさが違います。
| 場面 | その時点で決めること | 後から選び直せるか |
|---|---|---|
| 請求する前 | 請求するかどうか、誰に対して請求するか | 選び直しやすい |
| 最初に連絡を取った後 | 相手の反応を見て、進め方を決める | 進め方は選び直せるが、伝えた内容は残る |
| 金額のやり取りが始まった後 | 条件をどこまで動かすか | 示した金額は出発点として扱われやすい |
| 合意の直前 | 署名するかどうか | 署名した後は原則として蒸し返せない |
| 裁判所の手続に入った後 | 主張と証拠をどう出すか | 期日ごとに期限があり、待つ余地が小さい |
「まず自分でやってみる」が成り立つ場面と成り立ちにくい場面
まず自分で試し、難しければ任せるという考え方は、それ自体が誤りというわけではありません。相手が事実を認めていて、金額の話に入る前の段階であれば、この進め方が機能することもあります。
成り立ちにくいのは、試している間に選択肢が減っていく場面です。すでに金額のやり取りに入っている場合、相手方に代理人がついている場合、裁判所から書面が届いている場合がこれにあたります。
判断材料は、自分の側よりも相手の出方にあります
解説記事の多くは、法律の知識があるか、交渉に慣れているかといった、ご自身の側の事情を判断材料として挙げています。これらも無関係ではありませんが、実際に進み方を左右しやすいのは、むしろ相手方がどう出ているかのほうです。
相手が事実を認めているか
相手が不貞の事実を認めているかどうかで、話し合いの中身が変わります。認めている場合、争点は金額と条件に絞られます。認めていない場合は、その手前の「そもそもあったのか」という段階で話が止まり、手持ちの資料で何をどこまで示せるのかという評価が必要になります。
連絡が続いているか
返事が来なくなった、届けた書面が戻ってきたという状況では、話し合いを続けるという前提そのものが崩れています。この場合に要るのは交渉の工夫ではなく、次にどの手続を選ぶかという判断です。
相手方に代理人がついているか
相手方が弁護士に依頼した場合、こちらの言い分は法的な枠組みに当てはめて読まれ、それを前提とした返答が返ってきます。ご自身で対応できないわけではありませんが、述べ方によっては意図していない内容として受け取られることがあります。相手方に代理人がついた時点は、進め方を見直す一つの区切りといえます。
相手が一人か、複数か
配偶者と不貞相手の双方に請求する場合、二人の言い分が食い違うことがあり、一方に伝えた内容が他方に渡ることもあります。誰に何をどの順で伝えるかを組み立てる必要が生じます。
自分で進めた内容は、後から任せても引き継がれます
見落とされやすいのがこの点です。ご自身で交渉した後に弁護士へ依頼しても、それまでのやり取りが白紙に戻るわけではありません。相手方の記憶にも記録にも残り、後の手続で持ち出されることもあります。
いったん口にした金額
交渉の初期に「このくらいで構わない」と伝えた金額は、その後の話し合いで上限として扱われやすくなります。請求を受けた側であれば、「これなら払える」と述べた金額が下限として扱われます。後から代理人が入っても、いったん出た数字を無かったことにするのは容易ではありません。
自分が説明した経緯と、そのときの言葉
感情が動いている場面で交わした言葉は、後から見返すと意図とは違う意味に読めることがあります。夫婦関係についての説明、いつから知っていたかという時期の話、別れる意思の有無などは、いずれも後の争点に直結します。
署名した書面と、受け渡したお金
とりわけ戻しにくいのが、合意して署名した書面です。和解は、当事者が互いに譲り合って争いをやめることを約束する契約であり、いったん和解が成立すると、後になって別の資料が出てきたとしても、原則としてその内容を覆すことはできないとされています(民法695条、696条)。署名の前であれば選択肢は多く残っていますが、署名の後は事情が変わります。
同じことは、支払いや受取りについてもいえます。金額の一部を支払った、あるいは受け取ったという事実は、後の話し合いで前提として扱われることがあります。弁護士に依頼するかどうかを迷っている段階では、署名と金銭の授受は、いったん保留にしておくのが無難です。
自分の判断とは関係なく進んでいく時間があります
迷っている間にも、こちらの意思とは関係なく動いている事柄があります。次の点は、判断を先延ばしにしにくくする要素です。
- 損害賠償を求める権利には消滅時効の定めがあり、交渉している間も期間は進みます。
- 相手方から訴状や支払督促が届いた場合、応答すべき期限は法律で決まっており、こちらの都合で動かせません。
- 相手が転居したり連絡先を変えたりすると、あらためて所在を確かめる手間が生じます。
- 時間が経つほど、事業者が保管している記録が保存期間を過ぎて取り出せなくなることがあります。
いずれも、様子を見るという選択が中立ではないことを示しています。決めないことも一つの選択であり、それによって動く事柄があるという前提で考えていただければと思います。
弁護士に任せた場合に、自分の側で起きること
依頼した場合の利点だけを並べても判断材料にはなりません。任せることで自分の側に生じる変化も見ておく必要があります。
相手方とのやり取りが自分の手を離れる
連絡の窓口が代理人に移るため、相手方と直接話す機会は減ります。負担が軽くなる一方で、報告を受けてから判断するという流れに変わります。すぐに動きたいと感じている方には、この間合いがもどかしく思われることもあります。
方針を決めるのは依頼した側のまま
「任せる」という言葉から、判断ごと預けることだと受け取られることがありますが、実際は違います。弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとされ(弁護士職務基本規程22条1項)、必要に応じて経過や結果に影響する事項を報告し、依頼者と協議しながら処理を進めることとされています(同規程36条)。和解に応じるかどうかといった重要な判断は、依頼した側が決める事柄です。決めなくてよくなるわけではなく、決めるための材料が整理された状態で示される、と考えていただくのが実際に近いといえます。
費用が生じ、見通しの立て方が変わる
依頼すれば費用が生じます。手元に残る金額を考えるうえでは、受け取れる見込みの額と費用を並べて検討することになります。費用の中身や、相手方に負担させられるかどうかは、別の記事で取り上げています。
費用を理由に迷っている場合に確かめておきたいこと
「費用が心配なので自分でやるしかない」という理由で決めておられる方は少なくありません。その場合、決める前に次の点を確かめておくと、判断の材料が増えます。
- 受任の際には、事件の見通しや処理の方針、弁護士報酬の説明を受けることとされており、委任契約書の作成も定められています(弁護士職務基本規程29条、30条)。金額と範囲を確かめたうえで検討できます。
- 弁護士は、事案に応じて法律扶助制度などの資力の乏しい方のための制度を説明するよう努めることとされています(同規程33条)。費用の立替えなどの制度が使えるかどうかを尋ねてみる価値はあります。
- 訴訟の準備や追行に必要な費用を支払う資力がない方などについては、申立てにより訴訟上の救助の決定がなされることがあります(民事訴訟法82条1項)。これは費用の支払いを猶予する仕組みであり、負担が消えるものではありませんが、選択肢として知っておく意味はあります。
- 依頼するかどうかを決める前に、相談だけを受けて自分で進めるという段階もあります。相談の段階と依頼の段階は別のものです。
請求を受けた側から見た「自分で交渉する」
ここまでは請求する側を中心に述べてきましたが、請求を受けた側の「自分で交渉する」は、同じ言葉でも構造が異なります。
時間の主導権が相手側にある
請求する側は、いつ動くかを自分で決められます。請求を受けた側は、届いた書面に期限が書かれていたり、裁判所の手続が始まっていたりして、こちらの準備が整うのを待ってもらえるとは限りません。同じ「まず自分でやってみる」でも、使える時間の余裕が違います。
最初の返答が、その後の前提になる
事実を認めるのか、争うのか、一部だけ認めるのか。最初の返答の仕方は、その後の話し合いの出発点になります。落ち着かせようとして述べた言葉が、事実を認めた内容として受け取られることもあります。急いで返答することと、期限内に返答することは別のことです。
相手方にだけ代理人がついている状態
相手方に代理人がつき、こちらは本人という状態は、やり取りの前提が対称ではありません。相手方の代理人は相手方のために職務を行うのであって、こちらの立場を代弁するわけではありません。説明が丁寧であっても、こちらの利益を守る役割ではないという点は押さえておく必要があります。
決める前に整理しておくとよいこと
最後に、判断の前に手元で整理しておくと役に立つ事柄を並べます。
- 相手方が事実を認めているか、否定しているか、まだ何も述べていないか。
- これまでに相手方へ伝えた内容と、伝えた日付。特に金額に触れた発言。
- 署名した書面、渡した書面、受け渡したお金があるかどうか。
- 相手方に代理人がついているか。裁判所からの書面が届いているか。
- 不貞を知った時期と、経緯が分かる資料の有無。
- 何をもって終わりとしたいのか。金銭の受取りなのか、関係を絶つことなのか、家庭の立て直しなのか。
この6点が整理できていれば、ご自身で進める場合も、どなたかに相談する場合も、最初のやり取りの中身が変わってきます。
よくあるご質問
途中まで自分でやってから依頼しても遅くはありませんか
段階によります。金額のやり取りに入る前であれば、方針を組み立て直す余地が残っていることが多いといえます。一方、すでに条件を提示し合っている場合や、書面に署名している場合は、そこまでの内容を前提として進めることになります。遅いか早いかというより、どこまで動かせる状態が残っているかで考えるとよいと思います。
相手が弁護士を立ててきたら、こちらも立てなければいけませんか
立てなければならないという決まりはありません。ご自身で対応することも制度上は可能です。ただし、こちらの述べたことが法的な枠組みで読まれる場面が増えるため、意図と受け取られ方がずれていないかを確かめる機会は持っておいたほうがよいでしょう。依頼まで進まなくとも、相談の段階で内容を確かめる方法もあります。
弁護士に依頼すると、話が大きくなってしまいませんか
依頼したからといって、当然に裁判になるわけではありません。どの手続をどの順で使うかは方針の問題であり、話し合いでの解決を目指す進め方もあります。前述のとおり方針は依頼した側が決める事柄ですので、穏便に済ませたいという希望があるのであれば、その点を最初に伝えておくことが大切です。
まとめ
- ご自身で交渉することは制度として認められており、代理人を立てずに裁判所の手続を進めることもできます。
- 一方で、代わりに交渉してもらう相手には制限があり、友人や親族に任せるという発想は慎重に検討する必要があります。
- 「全部自分で」と「全部任せる」の間には、相談だけを受ける段階、要所で確認する段階など、いくつかの関わり方があります。
- 判断の分かれ目は一度ではなく、請求前、最初の連絡の後、金額のやり取りの後、合意の直前、手続に入った後と、繰り返し現れます。
- 判断材料は自分の側の事情よりも、相手が事実を認めているか、連絡が続いているか、代理人がついているかといった相手の出方にあります。
- 自分で進めた内容は、後から依頼しても引き継がれます。示した金額、述べた経緯、署名した書面と金銭の授受は、とりわけ戻しにくい事柄です。
- 迷っている間にも消滅時効や手続の期限は進みます。決めないことも一つの選択であり、それによって動く事柄があります。
不貞慰謝料についてのご相談
当事務所では、不貞慰謝料に関するご相談をお受けしています。ご自身で進めるかどうかを含め、いまの状況で何が動かせて何が動かしにくいのかを整理するところからご相談いただけます。依頼するかどうかを決める前の段階でも構いません。
相手方から書面が届いている場合や、すでにやり取りが始まっている場合は、これまでの経緯が分かるものをお持ちいただけると、より具体的にお話しできます。池袋または新橋のいずれかの事務所にて承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。


