愛人契約・関係解消時のトラブル|約束したお手当・マンションはどうなる
不貞行為、既婚であることを隠されたままの交際、婚約の一方的な破棄——慰謝料を請求しようと考えたとき、多くの方がまず調べるのが「内容証明」です。
インターネットには文例やテンプレートが数多く公開されており、書式をなぞるだけなら自分で作成することもできます。ただ実務の感覚でいうと、結果を左右するのは「どう書くか」よりも、何を書かないか、そして今このタイミングで送るかどうかであることが少なくありません。
この記事では、慰謝料を請求する側の立場から、内容証明の基本ルールと記載項目を整理したうえで、自分で送る前に知っておいていただきたい注意点をまとめます。
なお、本記事では男女間のトラブルにおける慰謝料請求を前提としています。
内容証明が証明すること・証明しないこと
内容証明郵便は、いつ・誰が・誰宛に・どのような文面の文書を差し出したかを日本郵便が証明する制度です。
ここで押さえておきたいのは、証明されるのは「その文面を出した」という事実だけだという点です。書かれている内容が正しいことも、相手に支払義務があることも、内容証明が証明してくれるわけではありません。
したがって、内容証明そのものに法的拘束力はなく、これを送っただけで相手の給与や預金を差し押さえられるようになるわけでもありません。相手が支払いに応じなければ、最終的には訴訟などの手続きが必要になります。
また、「相手に届いたこと」は内容証明では証明されません。到達を証明するには、差し出しの際に配達証明(350円)を付けておく必要があります。慰謝料請求のように到達時期が意味を持つ場面では、併せて利用することが一般的です。
もうひとつ、見落とされがちな点があります。差出人は差し出した日から5年以内に限り、郵便局に保存された謄本の閲覧を請求できます。裏を返せば、自分が書いた文面は5年間残るということです。後述しますが、これは書き方を考えるうえで重要な前提になります。
書き始める前に決めておきたい3つのこと
1.誰に送るのか
内容証明は、相手の氏名と住所がわからなければ差し出せません。SNSのアカウントや携帯番号しか把握していない段階では、文面を用意しても発送できないことになります。相手の特定から始める必要がある場合は、進め方そのものが変わります。
2.何を根拠に請求するのか
ひと口に慰謝料といっても、不貞行為を理由とするもの、既婚であることを隠されたことを理由とするもの(貞操権侵害)、婚約破棄を理由とするものでは、成立要件も相場観も異なります。根拠があいまいなまま金額だけを書いた通知は、相手に反論の材料を与えてしまいます。
3.今このタイミングで送るのが最善か
内容証明を送ると、相手はこちらが本気であることを知ります。それは交渉を前に進める力になる一方で、相手が証拠を消す、弁護士を立てて対応を硬化させる、こちらが把握していない事情を持ち出してくるといった動きにつながることもあります。
証拠が十分でない段階、時効が差し迫っている段階、相手の家庭や職場への波及を避けたい段階では、送る順番自体を検討したほうがよい場面があります。「まず内容証明」が常に最善とは限りません。
郵便局のルール(窓口・e内容証明)
窓口から差し出す場合の書式
謄本の字数・行数の制限は次のとおりです。
| 区別 | 字数・行数の制限 |
|---|---|
| 縦書きの場合 | 1行20字以内、1枚26行以内 |
| 横書きの場合 | 1行20字以内・1枚26行以内/1行13字以内・1枚40行以内/1行26字以内・1枚20行以内 |
この制限は郵便局に提出する謄本についてのもので、相手に届く内容文書自体に字数・行数の制限はありません。
そのほか、実務上つまずきやすいのは次の点です。
- 使えるのは仮名・漢字・数字・括弧・句読点・一般的な記号のほか、英字は固有名詞に限られる
- 記号は1個1字。丸数字は①で2字、⑩で3字。下線や傍点を施した部分は全体で1字と数える
- 文書以外のものは同封できない。証拠写真や返信用封筒を入れることはできない
- 訂正・挿入・削除をしたときは、その字数と箇所を欄外または末尾余白に記載して差出人の印を押す
- 2枚以上になるときは、つづり目に契印をする
- 一般書留として差し出す必要があり、取り扱っていない郵便局もあるため事前確認が必要
費用の目安
内容証明の加算料金は謄本1枚480円で、2枚目以降は1枚ごとに290円が加算されます(2枚770円、3枚1,060円)。これに定形郵便物の料金と一般書留の料金が加わります。日本郵便が示す計算例では、謄本1枚を定形郵便物で差し出す場合は480円+110円+480円で1,070円です。配達証明や速達を付ける場合は、その分が加算されます。
e内容証明(電子内容証明)
インターネットから24時間差し出せるサービスです。日本郵便指定のWord雛形を使う必要があり、最大5枚まで、文字は10.5ポイント以上、図や表は使用できず、装飾は太字と斜体のみといった規定があります。1枚あたりの文字数は窓口より多く取れる一方、料金体系は窓口と別に定められています。利用前に日本郵便の公式ページで最新の規定と料金をご確認ください。
記載する項目
慰謝料請求の通知書に決まった様式はありませんが、一般には次の要素で構成します。
- 作成日
- 表題(「通知書」とすることが多い。すでに合意があるのに支払われていない場合は「催告書」)
- 当事者の特定(差出人と受取人。誰の代理でもなく本人からの請求であること)
- 請求の前提となる事実
- その事実が不法行為にあたるという法的な位置づけ
- 請求する内容と金額
- 支払期限と振込先
- 期限までに対応がない場合の対応
このうち「請求の前提となる事実」と「請求する内容と金額」が、後から効いてくる部分です。
自分で書くときにつまずきやすい5つの点
1.裏付けのない事実を断定して書いてしまう
文例の多くは「具体的に書きましょう」と勧めます。特定は確かに必要ですが、手元の証拠で説明できる範囲を超えた記載は避けたほうが無難です。
先に触れたとおり、差し出した文面は謄本として5年間保存され、相手方も自分が受け取った文書を保管します。交渉が決裂して訴訟になれば、その文書はこちら側の主張として法廷に出てきます。回数や期間を実際より多く書いていた、証拠のない事情まで書き込んでいたという場合、相手方から「主張が変遷している」と指摘される余地を自分でつくることになります。
「わかっている事実を、わかっている範囲で書く」。これが結果的にいちばん強い書き方です。
2.金額に根拠がない
高い金額を書けば有利になるとは限りません。相場から大きく離れた金額を提示すると、相手が弁護士に依頼して態度を硬化させる、話し合い自体が始まらない、という展開になることがあります。
逆に、早く終わらせたい気持ちから低い金額を書いてしまうと、相手がその金額で応じてきた場合に、その水準で解決せざるを得なくなることもあります。金額は、事案の事情を踏まえて決めるべき部分です。
3.期限が短すぎる
「到達後1週間」といった文例もありますが、相手が内容を確認し、必要なら専門家に相談したうえで返答するには、ある程度の時間が必要です。極端に短い期限は、かえって無視される一因になります。2週間程度を目安に、相談の時間を織り込んだ設定にしておくほうが、返答を得やすい傾向があります。
4.感情の記述が中心になってしまう
心情を書きたくなるのは自然なことですが、通知書の目的は相手に対応を求めることです。責める言葉が長く続くほど、相手は防御的になり、話し合いのテーブルにつきにくくなります。
5.「応じない場合」の書き方
訴訟の提起など法的手続きを予告すること自体は、正当な権利行使の範囲内と考えられています。一方で、手続きとは関係のない不利益——勤務先や家族に知らせる、SNSで公表するといった内容を、支払いの条件として書き添えることは避けてください。
正当な請求であっても、要求の手段が社会通念上許される範囲を超えると、恐喝罪などの問題が生じうると判断された最高裁判例があります。請求する側が刑事的なリスクを負うことは、決して珍しい話ではありません。
送り先と封筒にも注意する
相手の勤務先や実家宛てに送ることは、原則として避けたほうがよいと考えます。第三者が開封する可能性があり、プライバシー侵害や名誉毀損を主張される余地を残すためです。相手から逆に損害賠償を請求され、本来の請求が進まなくなることもあります。
封筒についても、用件がわかるような記載はしないでおくのが無難です。
相手が受け取らなかったらどうなるか
内容証明は、受取拒否や長期不在によって差出人に返送されることがあります。ここはあまり触れられていない部分ですが、実務では重要です。
意思表示は、通知が相手方に到達した時から効力を生じます(民法97条1項)。また、相手方が正当な理由なく到達を妨げたときは、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(同条2項)。
最高裁は、内容証明郵便が不在のまま留置期間の満了により還付された事案について、受取人が了知可能な状態に置かれていたとして、遅くとも留置期間満了時に到達したものと認められると判断しています(最高裁平成10年6月11日判決)。
もっとも、返送されれば必ず到達扱いになる、と考えるのは危険です。到達が認められるかは、相手が内容を推知できたか、受け取れる状況にあったかといった事情によって判断されます。返送された場合には、あらためて別の方法で通知する、記録の残る方法を併用するなどの対応を検討することになります。
とくに時効が近い場合は注意が必要です。内容証明による催告には時効の完成を6か月猶予する効果がありますが(民法150条1項)、その効果は到達して初めて生じます。また、猶予されている間に重ねて催告をしても、さらに猶予されることはありません(同条2項)。期限が迫っている場面では、催告に頼らず訴訟提起などを視野に入れる必要があります。
送ったあとの3つの分かれ道
相手が支払いに応じる場合は、必ず合意書を作成してください。金額と支払方法だけでなく、清算条項や接触に関する取り決めを含めておかないと、後日蒸し返されるおそれがあります。
相手が争う場合は、事実関係や金額について交渉が続きます。ここで感情的なやり取りが重なると、解決が遠のきます。
無視された場合は、調停や訴訟に進むことになります。内容証明を再送しても状況が変わらないことは多く、次の手続きに移る判断が必要です。
弁護士に依頼した場合との違い
自分で送ることは可能ですし、それが不適切ということではありません。ただ、弁護士に依頼した場合には、次のような違いがあります。
- 代理人名義で通知するため、以後の連絡窓口が一本化され、相手からの直接連絡が止まりやすい
- 表現や記載範囲を、後の手続きを想定して調整できる
- 相手の住所が特定できない場合に、制度上の調査手段を検討できる
- 相手が弁護士を立てた場合も、そのまま交渉を続けられる
一方で費用はかかりますので、請求額や事案の性質と照らして判断していただくことになります。
まとめ
- 内容証明が証明するのは「その文面を出した事実」だけで、支払義務までは証明しない
- 到達を証明するには配達証明を併用する
- 書式(字数・行数・同封物・契印)と費用は日本郵便のルールに従う
- 自分が書いた文面は5年間残り、訴訟になればこちらの主張として扱われる
- 事実は手元の証拠で説明できる範囲で書き、金額と期限には根拠を持たせる
- 手続きの予告と、手続き外の不利益をちらつかせることは、まったく別の問題になる
- 勤務先・実家宛ての送付は避ける
- 受け取られずに返送された場合の扱いは事案によるため、時効が近いときは催告に頼らない
内容証明は、慰謝料請求の入口にすぎません。送る前に、証拠・法的根拠・金額・タイミングを一度整理しておくことが、結果的にいちばんの近道になります。判断に迷われる場合は、送る前の段階でご相談いただければと思います。


