【不貞慰謝料・請求する側】相手が無視する・受け取りを拒否する場合

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

慰謝料を請求する書面を送ったのに、返事がない。郵便が受け取られないまま戻ってきた。不貞慰謝料の請求では、こうした場面は珍しくありません。

 このとき起きやすいのが、同じ書面を何度も送る、電話をかけ続ける、相手の周囲に連絡してしまうといった対応です。返事を引き出すことに時間を使っている間も、期限のほうは止まらずに進んでいきます。

 この記事では、相手が応じない場面を「そもそも届いていないのか、届いたうえで応じていないのか」から切り分けたうえで、次の段階に移す判断をどう組み立てるかを整理します。

この記事で扱うこと


  • 応答がない状態の中身を分けて考える方法。
  • 戻ってきた郵便物から読み取れること。
  • 返事がないことが法律上どう扱われるか。
  • 同じ書面を送り直すことの意味と限界。
  • 相手が受け取らない・出てこない場合に手続がどう進むか。
  • 次の段階へ移す時期の決め方。


 相手の氏名や住所が分からない場合、行方が分からない場合の調べ方は、別の記事で扱っています。この記事は、連絡先や住所はおおむね分かっているのに応答がないという場面を前提にしています。

「無視されている」の中身は一つではない

 返事がない状態は、外から見ると同じように見えます。しかし、その内側では性質の違うことが起きています。届いていないのか、届いたうえで応じていないのかによって、次に打てる手はまったく変わります。

状態手元で確かめられること次に考えること
そもそも届いていない郵便物が戻ってきているか、追跡や配達証明の記録あて先が合っているか。住所の確認からやり直す
届いたが返事がない配達された記録が残っているか回答期限の設定と、次の段階に移す時期
受け取りを拒まれた封筒に示された返還の理由届いたものとして扱えるかどうかの整理
受け取ったうえで応じないと言われた相手からの連絡の内容と日時争いの中心がどこにあるかの見極め


 この切り分けをしないまま「反応がない」とだけ受け止めると、住所が違っているのに督促を重ねる、あるいは相手が届いたことを認識しているのに待ち続ける、といった空回りが起きます。まず手元にある記録を並べ直すところから始めることになります。

戻ってきた封筒は捨てない

 書留や内容証明で送った郵便物が届かなかった場合、その郵便物は差出人のもとに返ってきます。封筒には返還の理由が示されており、ここに次の手を決める手がかりが残っています。

返還の理由によって意味が変わる


封筒に示された理由読み取れること次に考えること
受取拒絶あて先にその人がいて、受け取らない意思を示した到達をどう評価するかの整理。手続に移す判断がしやすい
保管期間経過不在通知は入ったが、受け取りに来なかったそこに住んでいるかどうかを別の方法で確かめる
あて所に尋ねあたりませんその住所に居住していない可能性がある住所の確認からやり直す


 郵便局が預かる期間は配達の翌日から7日間とされており、その間に受け取りがなければ差出人に返されます(日本郵便の案内)。つまり「保管期間経過」で戻ってきた場合、相手の郵便受けには不在の通知が入っていたことになります。受け取っていないことと、知る機会がなかったことは同じではありません。

受け取らなかったことで通知がなかったことになるわけではない

 意思表示は、相手に到達した時から効力を生じます(民法97条1項)。また、相手方が正当な理由なく到達を妨げたときは、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(同条2項)。留置期間が過ぎて差出人に戻された内容証明について、受取人が内容を知ることのできる状態に置かれていたとして到達を認めた最高裁の判断もあります。

 もっとも、これは後から争われたときに主張できる余地があるという話であって、放っておけば自動的に解決するという意味ではありません。戻ってきた封筒は開封せずに保管し、追跡の記録や配達証明とあわせて残しておくことになります。

返事がないこと自体は、法律上は何も決めない

 応答がない状態が続くと、こちらの請求が宙に浮いているように感じられます。ただ、法律上の扱いを整理すると、次のようになります。

  • 返事をしないことは、請求を受け入れたことにはなりません。黙っていることが承諾になるわけではないため、こちらの提示した金額で合意が成立することもありません。
  • 返事をしないことは、不貞の事実を認めたことにもなりません。交渉の段階での沈黙に、裁判手続のような擬制が働くわけではありません。
  • 一方で、返事がないからといって、こちらの請求権が消えるわけでもありません。応じないという態度は、権利の有無そのものには影響しません。


 言い換えると、返事を引き出すこと自体は目的にはなりません。返事があってもなくても、決めるべきことは「この請求をどこまで進めるか」であり、それを決める材料は相手の反応ではなく、こちらの手元にある証拠と残り時間です。

同じ書面をもう一度送ることの意味と限界

 応答がない場合に、期限を切り直して再度送るという対応はよく見られます。ただ、時効との関係では注意が必要です。

 催告があったときは、その時から6か月を経過するまで時効は完成しないとされています(民法150条1項)。しかし、この猶予の間にされた再度の催告には、同じ効力は認められません(同条2項)。書面を重ねて送っても、猶予の期間が積み増されるわけではないということです。

 したがって、送り直すこと自体に意味がないわけではありませんが、それは「相手に届く可能性を上げる」「やり取りの経過を記録に残す」という事実上の意味にとどまります。時間を確保する手段としては働きません。猶予されている6か月をどう使うかは、送り直すかどうかとは別に決めることになります。

連絡が取れないときにしないほうがよいこと

 相手が応じないと、届く方法を探したくなります。しかし、次のような手段は、請求そのものを不利にすることがあります。

  • 勤務先や実家に繰り返し連絡する。
  • 共通の知人を通じて伝えてもらう。
  • 不貞の事実をSNSなどに書く、または書くと伝える。
  • 短期間に何度も電話や訪問を重ねる。
  • 家族や職場に知らせることを条件のように持ち出す。


 これらが避けられるのは、主に三つの理由からです。第一に、名誉やプライバシーを侵害したとして、こちら側が責任を問われる場面があること。第二に、支払いを迫る言い方によっては、正当な請求の範囲を超えたものと評価されるおそれがあること。第三に、相手が身構えて交渉の窓口が閉じ、かえって解決が遠のくことです。

 なお、事実を周囲に伝えたことが問題になった場面や、請求の伝え方が脅迫的だと主張された場面については、別の記事で詳しく扱っています。

受け取らないままでも手続は進む

 交渉に応じない相手について、「訴えても受け取らなければ裁判が始まらないのではないか」と考える方がいます。実際にはそうなっていません。

裁判所からの書類は、受け取らないことで止まらない


  • 送達を受けるべき人が正当な理由なく受け取りを拒んだときは、その場所に書類を差し置くことができます(民事訴訟法106条3項)。
  • 通常の方法で送達ができない場合、裁判所書記官が書類を書留郵便等に付して発送することがあります(同法107条1項)。この場合、発送の時に送達があったものとみなされます(同条3項)。


 つまり、受け取りを拒む、あるいは受け取りに行かないという対応をとっても、手続の進行を止めることはできません。

ただし、調べて報告するのは請求する側

 もっとも、この流れは自動的に進むわけではありません。書留郵便等に付する送達をしてもらうには、相手がその住所に現に住んでいることを裏づける資料を裁判所に示す必要があります。実務では、住民票のほか、現地の様子を確認した報告書などが求められます。

 これは請求する側の負担です。相手が受け取らないことによって、手間と費用と時間がこちらに乗ってくる、という構造になっています。応答がない状態を長く放置するほど、この負担が生じる時期も後ろにずれていきます。

 なお、相手がその住所に住んでいない場合や所在が分からない場合は、別の手続の話になります。この点は、相手の特定を扱った記事で整理しています。

期日に出てこなかった場合

 訴訟が始まった後、相手が答弁書も出さず期日にも出頭しない場合、争わない趣旨とみなされて、そのまま判断に至ることがあります。ただし、これは「何を出しても通る」という意味ではありません。請求の内容を裏づける主張と証拠を出すのは、あくまで請求する側です。

相手が出てこないことを前提にすると、使える手続と使えない手続がある

 話し合いがまとまらない場合に選べる手続はいくつかありますが、相手が出てこないことを前提に置くと、向き不向きがはっきり分かれます

手続相手が応じない場合向いている場面
訴訟欠席のままでも判決に至ることがある支払いを命じる判断を得ておきたい場合
民事調停出席しなければ不成立で終わることが多い話し合いの余地がまだ残っている場合
支払督促送達できない相手には利用できない金額そのものは争われないと見込まれる場合


 不貞慰謝料を不貞相手に請求する場合の調停は、離婚調停のような家庭裁判所の手続ではなく、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所の民事調停になります(民事調停法3条)。呼出しを受けた関係人が正当な理由なく出頭しないときは過料の定めがありますが(同法34条)、実際に適用されることはまれだとされています。

 一方で、調停には知られていない使い道もあります。調停が成立する見込みがない場合に、裁判所が職権で解決のために必要な決定をすることがあり(同法17条)、告知から2週間以内に異議の申立てがなければ、その決定は裁判上の和解と同一の効力を持ちます(同法18条)。異議が出れば効力を失いますが、相手が最後まで何も言わない場合には、かえって結論が固まることがあるという点は知っておいてよい仕組みです。

 また、調停が不成立で終わった旨の通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起したときは、調停を申し立てた時に訴えの提起があったものとみなされます(同法19条)。時間を無駄にしないための規定ですが、期間が短いため、不成立の見込みが出た段階で次の準備を始めておく必要があります。

 支払督促については、公示送達によらずに送達できる場合に限って発付できるとされており(民事訴訟法382条ただし書)、送達できない相手には使えません。相手が督促異議を申し立てれば通常の訴訟に移りますので、争いのある事案では時間の短縮につながらないこともあります。

待っている間に動いているもの

 返事を待つという判断自体は、あってよいものです。ただ、その間も止まらずに動いているものがあります。

  • 時効の期間。損害と加害者を知った時から3年という期間があり、返事がないことは進行を止めません。
  • 遅延損害金。総額は増えていきますが、相手から回収できる金額が増えるとは限りません。
  • 記憶と記録。関係者の記憶は薄れ、事業者が保有している記録には保存期間があります。
  • 相手の生活状況。転居、退職、資産状況の変化は、後の回収に影響します。
  • こちらの生活。解決しない状態が続くこと自体の負担も、判断材料の一つです。


 時効の数え方や、期間が迫っている場合の対応については、別の記事で詳しく扱っています。

次の段階に移す時期をどう決めるか

 「あと何回送れば返事が来るか」を考えても、答えは出ません。決め方は、次の三つの物差しを組み合わせるほうが現実的です。

  1. 期限まで残っている時間。時効の期間と、催告による猶予がいつまでかを確認します。
  2. 手元にある材料。訴訟に進んだ場合に何を示せるかが、進むかどうかの前提になります。
  3. 使える時間と費用。手続に移せば、その分の負担と時間が生じます。回収の見通しと見合うかを考えます。


 そのうえで、一段上げる前に決めておきたいことがあります。どこまでの金額なら受け入れるのか、金銭以外に求めたいことがあるのか、そして配偶者本人にも請求するのかどうかです。相手が応じないまま手続に進むと、途中で条件を作り直す余裕がなくなることがあります。

請求を受けて返事をしていない側から見ると

 この記事は請求する側の視点で書いていますが、書面を受け取って何も返していない方にとっても、同じ仕組みが働きます。

  • 返事をしないこと自体は選べますが、そのことで支払義務がなくなるわけではありません。
  • 受け取りを拒んでも、その後の手続が止まるわけではありません。
  • 争える点、たとえば関係の有無や時期、認識の内容、期間の経過があるとしても、何も言わなければその主張を出す機会は失われていきます。
  • 交渉の段階であれば調整できたことが、手続に移った後では調整しにくくなります。


 届いた書面の内容に納得できないとしても、反論しないことと、反論する必要がないことは別です。事実関係に食い違いがあるのであれば、その内容を整理して伝えるほうが、結果として負担が小さくなることがあります。

まとめ


  • 応答がない状態は、届いていないのか、届いたうえで応じていないのかで切り分けます。
  • 戻ってきた郵便物の返還理由には、次の手を決める手がかりが残っています。
  • 返事がないことは、承諾にも自白にもならず、請求権を消すものでもありません。
  • 同じ書面を送り直しても、時効の猶予期間は積み増されません。
  • 勤務先や周囲への連絡、公表をほのめかす対応は、こちら側の責任につながることがあります。
  • 受け取りを拒んでも手続は止まりませんが、そのための調査と報告は請求する側の負担になります。
  • 相手が出てこないことを前提にすると、手続ごとに向き不向きがあります。
  • 次の段階に移す時期は、残り時間、手元の材料、使える時間と費用の三つで決めます。


相手が応じないまま時間が過ぎているとき

 返事が来ない状態は、どこまで待つべきなのか、いま何をしておくべきなのかが見えにくいものです。手元の記録を整理して、届いているのかどうかを確かめ、残っている期間を踏まえて進め方を決める。この作業は、状況を一度外から見てもらうことで進みやすくなります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料の請求について、書面を送った後の対応や、手続に移すかどうかの判断も含めてご相談を承っています。池袋・新橋の各事務所でお受けしていますので、対応に迷われている方はお気軽にご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【不貞慰謝料・請求する側】相手が無視する・受け取りを拒否する場合

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼