旅行・デートを一方的にドタキャンされた|キャンセル料・立替は請求できる?
「男女トラブル」と一口に言っても、ご相談の中身は慰謝料の請求から、別れ方、別れた後の連絡、弁護士費用、そして「家族や職場に知られたくない」という不安まで、かなりの幅があります。似た言葉で語られていても、必要な対応はそれぞれ異なります。
このコラムでは、実際に寄せられることの多い疑問を20問に整理し、それぞれ「結論」と「まず確認したい視点」までを短くまとめました。個別の詳しい解説は別のコラムに譲り、ここでは全体の見取り図としてお読みいただければと思います。なお、財産分与や親権といった離婚に固有の論点は扱っていません。
はじめに|男女トラブルは三つのレーンが同時に走っている
ご相談を伺っていて行き違いが起きやすいのは、性質の違う三つの問題が同時に動いているためです。
- 関係のレーン=別れる、距離を置く、関係を清算する
- お金のレーン=慰謝料、貸したお金、費用の負担
- 安全のレーン=つきまとい、脅し、住まいの安全
この三つは連動しません。別れが成立してもお金の請求権は残りますし、お金を払ったからといって連絡が止まるとは限りません。逆に、連絡が途絶えても、時効が来るまで請求できる状態は続きます。
「これで全部終わったはずだ」という思い込みが、後になって一番大きな食い違いになります。以下の20問を読むときは、いまご自身が困っているのがどのレーンなのかを意識してみてください。
第1章|慰謝料とお金についての6問
Q1.恋人に浮気されました。慰謝料を請求できますか
双方が未婚の交際関係では、浮気を理由とする慰謝料請求は原則として認められにくいと考えられています。交際しているだけの男女について、貞操義務を定めた条文がないためです。
ただし例外があります。婚約が成立していた場合や、内縁(事実婚)と評価できる関係にあった場合には、保護される利益があるとして損害賠償が認められる余地があります。婚約や内縁にあたるかどうかは、当事者がそう呼んでいたかではなく、共同生活の実体があったか、結婚の合意があったかといった事情から判断されます。
Q2.相手が既婚者だと知りませんでした。それでも払う義務がありますか
不貞を理由とする慰謝料は不法行為(民法709条)の問題で、支払義務が生じるには故意または過失が必要です。既婚だと知っていた場合(故意)はもちろん、注意すれば知ることができたのに知らなかった場合(過失)にも義務が生じ得ます。
実務で争点になるのは、たいてい過失の有無です。本人確認のある婚活サービスで独身と登録されていた、自宅を訪ねたことがなく家庭をうかがわせる事情もなかった、といった事情は「知り得なかった」方向に働きます。逆に、職場が同じである、共通の知人がいるのに確認していない、といった事情は不利に働くことがあります。
Q3.相場はいくらですか。請求された金額は払わなければいけませんか
慰謝料には、法律で定められた算定表がありません。関係の期間や内容、婚姻関係への影響、双方の落ち度など複数の事情から個別に判断されるため、金額には幅があります。
押さえておきたいのは、請求された金額がそのまま支払義務の金額になるわけではないということです。通知書に書かれた数字は相手方の希望額であって、裁判所が認定した額ではありません。金額の妥当性を検討する前に、そもそも支払義務が生じる事案なのか(Q2)、時効が完成していないか(Q6)を先に確かめる順番が有効です。
Q4.「罰金」「手切れ金」「解決金」と言われました。名目で結論は変わりますか
名目そのものに法的な意味はほとんどありません。まず「罰金」は刑罰の名称であり、私人が誰かに罰金を科すことはできません。誓約書や約束事に「罰金○○万円」と書かれていても、それは違約金や損害賠償の俗称にすぎず、支払義務があるかどうかは別に検討することになります。
他方で、「手切れ金」「解決金」といった名目であっても、当事者が内容を理解したうえで合意すれば、合意としての拘束力は生じます。名前ではなく、何に対する、いくらの、どういう根拠のお金なのかという中身で判断してください。
Q5.交際中に渡したお金やプレゼントは、返してもらえますか
贈与だったのか貸付だったのかで結論が分かれます。贈与は口頭でも成立し(民法549条)、すでに渡し終えた部分は原則として一方的に取り戻せません(同550条ただし書)。デート代や誕生日のプレゼント、好意で負担した生活費は、通常この扱いになります。
貸付(消費貸借)は借用書がなくても成立しますが、貸したことを立証する責任は貸した側にあります。請求を受けた側で注意したいのは、「少しずつ返す」と答えたり一部を支払ったりすると、債務を認めた事実として記録に残る点です。名目が定まらないうちに金銭のやり取りをしないことが、双方にとって安全です。
Q6.いつまで請求できますか。時効は何年ですか
不法行為に基づく慰謝料は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年です(民法724条)。ただし、暴力によるけがなど生命・身体を害する不法行為については、3年ではなく5年になります(同724条の2)。貸したお金など契約に基づく請求は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年です(同166条1項)。
一つの出来事から、年数の違う複数の請求権が同時に走るのが男女トラブルの特徴です。示談書や判決で内容を確定させた後は、年数の数え方が変わることもあります。
第2章|別れ方についての6問
Q7.別れるのに、相手の同意や理由は必要ですか
交際関係を終わらせることについて、法律は手続きを定めていません。婚姻は届出によって成立し、協議離婚も届出を要しますが(民法739条1項、764条)、交際の開始と終了に決まった形式はありません。相手が納得しないことを理由に、別れそのものが無効になることはありません。
慎重な検討が要るのは、婚約や内縁が成立している場合です。この場合は、正当な理由のない一方的な解消として賠償が問題になる余地があります。
Q8.音信不通やブロックで終わらせてもよいですか
連絡を絶つこと自体を禁じる法律はありません。身の危険を感じている場面では、距離を取ることが優先されます。
一方で、音信不通は「別れが成立した」ことを意味しません。「何か月連絡がなければ自然消滅」という法的な基準は存在せず、後になって「別れたつもりはなかった」と食い違うことがあります。安全上の支障がなければ、関係を終える意思を一度だけ、記録の残る形で簡潔に伝えておくと、その後の整理がしやすくなります。
Q9.別れたら、お金や子どものことも終わりになりますか
関係が終わっても残るものがあります。
- 貸したお金・立て替えたお金(時効が来るまで請求権が残る)
- 連帯保証や名義を貸した契約(別れても契約上の責任は消えない)
- 妊娠・出産が関わる場合の認知と養育費
- 同棲していた住まいの賃料・原状回復・敷金の清算
- 共同で購入した家具や車、ペットの帰属
とくに子どもに関することは、男女の合意だけで処分できる領域ではありません。認知や養育費は子ども自身に関わる権利であり、当事者間の「請求しない」という約束によって当然に消えるものではないと考えられています。2026年4月からは、取決めがない場合の養育費について新しい仕組みも動き始めています。
Q10.「別れるなら死ぬ」「会社にバラす」と言われています
二つは別の問題として扱う必要があります。
自傷をほのめかされている場合は、相手の安全は専門の相談窓口につなぐ道を考えつつ、その言葉を理由に交際の継続や金銭の支払いを約束しない、という切り分けが要ります。追い詰められた状態でした約束について、後から取消しや無効を争う余地はありますが、争うこと自体に時間と費用がかかります。
「バラす」と言われて金銭を求められている場合は、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(同249条)の問題になり得ます。ただし、正当な権利として賠償を請求すること自体は違法ではありません。境界は、要求の中身と伝え方によって判断されます。やり取りは消さずに保存してください。
Q11.別れた後も連絡が続いています。どこからがストーカーですか
ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情や、それが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行われる「つきまとい等」を対象としています。SNSのメッセージや、拒まれたにもかかわらず連続して行われる連絡も含まれます。これが反復されると「ストーカー行為」として刑事罰の対象になります。
手続としては、警察への相談から、警告、公安委員会による禁止命令へと進みます。禁止命令を出すのは裁判所ではありません。他方、金銭の要求が中心で好意や怨恨の目的が乏しい場合には、この法律ではなく脅迫・恐喝・業務妨害といった枠組みで考えることになります。
Q12.同棲を解消したい。相手に出て行ってもらえますか。荷物はどうすれば
契約名義がご自身であっても、鍵を替える、荷物を捨てる、勝手に運び出すといった対応は避けてください。法律は自分の力で権利を実現すること(自力救済)を原則として認めておらず、かえってこちら側が賠償責任を負うおそれがあります。
実務では、退去の期限と費用の負担、荷物の引き渡し方法、賃貸契約の名義と連帯保証をどうするかを、書面で順に決めていく形になります。暴力を伴う場合には、保護命令など別の枠組みが用意されています。
第3章|手続きと弁護士費用についての4問
Q13.弁護士費用はいくらかかりますか。慰謝料とは別ですか
別枠です。相手に払う(相手から受け取る)慰謝料や解決金と、弁護士に払う費用は性質が異なります。弁護士費用は一般に、相談料・着手金・報酬金・日当・実費で構成され、着手金は結果にかかわらず発生し、報酬金は結果に応じて発生するのが通常です。
2004年に統一的な報酬基準が撤廃されたため、金額は事務所ごとに設定されています。契約の前に、内訳、追加費用が生じる場面(交渉から訴訟に移る場合など)、分割の可否を確認しておくと、後の食い違いを防ぎやすくなります。
Q14.請求された側でも費用はかかりますか
かかります。ここで押さえておきたいのが「経済的利益」の考え方です。請求する側は受け取った金額が経済的利益になりますが、請求された側は減額できた金額が経済的利益とされるのが一般的です。つまり、手元にお金が入らないまま報酬が発生する構造になります。
また、連絡をやめてもらう、画像を削除してもらう、書面を作るといった、金銭の増減では測れない依頼もあります。この場合は定額や手数料の方式が用いられることが多く、費用対効果も回収額では測れません。
Q15.自分で交渉してもよいですか。弁護士を入れると何が変わりますか
ご本人が交渉されること自体は可能です。弁護士に依頼した場合の最も大きな変化は、連絡窓口が代理人に一本化される点です。相手と直接やり取りしなくてよくなり、感情的なやり取りがそのまま記録として残るリスクも下がります。
ただし注意点があります。貸金業者などに対しては、代理人が就いたことを通知すると本人への直接の取立てが法律上制限されますが、私人同士の場合にそのような法律上の効果はありません。実際には多くの場合で連絡は代理人経由に移りますが、「通知を出せば必ず連絡が止まる」制度ではない、という理解が正確です。
Q16.相談の前に何を用意すればよいですか
- 時系列の整理(いつ、誰と、何があったか。1枚で足ります)
- 届いている書面(通知書、内容証明、訴状、支払督促。封筒も残す)
- やり取りの記録(メッセージ、メール、通話履歴。消さない、作り直さない)
- 金銭の記録(振込明細、領収書)
- ご自身が署名した書面の控え
録音については、自分が当事者として参加している会話を録音すること自体が、直ちに違法になるわけではありません。ただし、録ったものを第三者に見せたり公開したりするのは別の問題になります。
期限の書かれた書面がある場合は最優先です。とくに裁判所から届く支払督促は、受け取ってから2週間以内に督促異議を出さないと、相手方が強制執行に進める段階に入ります。
第4章|「知られたくない」についての4問
Q17.家族や職場に知られずに解決できますか
率直に申し上げると、「誰にも知られない」ことを保証する制度はありません。できるのは、知られる経路をできるだけ減らすことと、時期をこちら側で調整できる幅をつくることです。
実務的には、郵便物の宛先と受け取り方、連絡してよい時間帯と手段、勤務先や自宅への電話を避けること、書面に何を書き何を書かないかといった点を、依頼の入口で決めておくことになります。裁判所や捜査機関から届く書類の宛先のように、こちら側で変えられない部分もあります。
Q18.内容証明や裁判の書類で、同居の家族に知られませんか
内容証明郵便は書留として自宅に届くため、同居のご家族が受け取ることはあり得ます。差し出す側であれば、本人限定受取のオプションを付けて、相手のご家族の目に触れにくくする配慮も可能です。
訴訟になった場合、訴状などは原則としてご本人の住所宛てに送達されます。また、民事裁判は公開が原則で、訴訟記録は原則として誰でも閲覧を請求できます(民事訴訟法91条1項)。私生活上の重大な秘密については閲覧を当事者に限る決定の制度もありますが、その運用は限定的だと指摘されています。相手に住所や氏名を知られることで生活に著しい支障が生じる場合には、住所等を秘匿する制度(同133条以下)も設けられています。
Q19.弁護士に話した内容が、家族や警察に伝わることはありますか
弁護士には守秘義務があり(弁護士法23条)、ご相談の段階から、依頼に至らなかった場合も対象になります。また、弁護士に犯罪を通報する義務は課されていません。刑事訴訟法239条1項は「告発することができる」と定めるもので、義務ではないためです。
ただし、守秘義務は「弁護士が話さない」という制度であって、「誰にも知られない」ことを保証するものではありません。ご自身が別の場所で話したこと、交渉のために相手方へ伝える必要がある情報、裁判になった場合の記録までは、守秘義務では覆えません。何をどこまで相手方に出すかは、事前に線引きを相談しておけます。
Q20.「会社にバラす」と言われています。払えば止まりますか
いったん支払えば終わる、とは限りません。金銭を渡すことで「支払いに応じる相手だ」という前提ができ、名目を変えた追加の要求が続くことがあります。任意に支払ってしまったお金を後から取り戻すのは、法的には簡単ではありません。
支払いを検討する前に、次の三つを分けて考えてください。
- その請求に法的な根拠があるか
- 金額が根拠に見合っているか
- 支払えば本当に終わる形になっているか(清算条項があるか、蒸し返しへの備えがあるか)
脅しにあたる可能性のある発言は、消さずに保存しておいてください。
20問に共通する四つの視点
- いま困っているのが「関係」「お金」「安全」のどのレーンかを分ける
- 名目ではなく中身で判断する(罰金・手切れ金・解決金という言葉は結論を決めない)
- 期限のある書面を最優先にする(支払督促、回答期限のある通知)
- 記録を消さない、作り直さない
そしてもう一つ。男女トラブルでは、「知られたくない」という気持ちが判断の速度を上げてしまいます。急いで署名した書面、その場で渡したお金、感情のまま送った一通は、後から取り消すのに時間と費用がかかります。判断を一日遅らせることで失うものと、急いで確定させることで失うものを、いちど並べて比べてみてください。
おわりに
20問は、いずれも「結論と、まず確認したい視点」までにとどめています。実際の結論は、関係の性質、これまでの経過、手元に残っている記録によって変わります。同じ「慰謝料を請求された」でも、どのレーンの問題が主なのかによって、優先すべき対応は入れ替わります。
判断に迷う場面があれば、書面に署名する前、お金を渡す前の段階でご相談ください。動いた後よりも、動く前のほうが選べる手は多く残っています。


