【男女トラブル】認知はするが養育費は払わないと言われた|いつからの分を、どの順番で求めるか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法・家事事件手続法・民事執行法にもとづいて書いています。2026年4月1日に施行された改正民法等(令和6年法律第33号)による「親の責務」の明文化、養育費の先取特権、法定養育費、情報開示命令などの新しい仕組みを反映しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご確認ください。


「認知はする。でも養育費は払わない」。交際相手との間に子どもが生まれた、あるいは妊娠を伝えた場面で、相手からこう告げられたというご相談があります。反対に、「認知には応じるつもりだが、毎月の支払いまでは約束したくない」と考えている男性側からのご相談もあります。

 認知をすれば法律上の父子関係が生まれ、養育費の支払義務が生じる、という説明は多くのサイトで目にします。それ自体は正しいのですが、実際に困るのは「払わないと言っている相手に、いつ、何を、どの順番で求めればよいのか」という点です。認知と養育費の金額は別々の手続で決まるため、認知だけが先に進み、お金の話が宙に浮いたまま時間が過ぎてしまうことが少なくありません。

 この記事では、「認知はするが払わない」と言われた局面に絞り、その言い分が法的にどう評価されるのか、なぜ早い段階で動いたほうがよいのか、取り決めから回収までの流れを整理します。妊娠が分かった段階の基礎知識は交際・パパ活相手の妊娠|認知・養育費・中絶同意書の基礎知識で、相手と連絡が取れなくなった場合の対応は妊娠を告げたら逃げられた・音信不通|相手を特定して認知・養育費にたどり着くまででご案内しています。

「認知はするが養育費は払わない」は法的に通るのか

認知によって扶養の義務が生じる

 婚姻していない男女の間に生まれた子と父親との法律上の親子関係は、認知によって生じます(民法779条)。認知の効力は子の出生の時にさかのぼり(同法784条)、認知をした父は、直系血族として子を扶養する義務を負います(同法877条1項)。

 さらに、2026年4月1日に施行された改正民法では、父母は子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならないことが明文で定められ(同法817条の12第1項)、子に関する義務の履行について、父母は婚姻関係の有無にかかわらず互いに協力しなければならないとされました(同条2項)。認知をしたうえで「養育費は払わない」という立場は、法律上の義務と食い違うものであり、そのまま通る主張とはいえません。

ただし、認知しただけでは支払いは始まらない

 一方で、認知届を出せば自動的に毎月の支払いが始まるわけではありません。養育費の金額や支払方法は、父母の協議で決めるか、協議がまとまらなければ家庭裁判所が定めます(民法788条が準用する766条1項・2項)。義務はあっても、具体的な金額が決まっていなければ、支払いを求める手がかりが乏しい状態が続きます。「認知はするが払わない」という言葉は、この隙間を前提にしたものと受け止めることもできます。

認知と養育費を交換条件にする取り決めの危うさ

 話し合いの中で、「認知する代わりに養育費は払わない」「養育費を払う代わりに認知は求めない」といった交換条件が出ることがあります。しかし、子が父に認知を求める権利は放棄できないとするのが判例です(最高裁昭和37年4月10日判決)。また、扶養を受ける権利は処分することができないと定められており(民法881条)、母親が「養育費は請求しない」と約束しても、子自身が扶養を求める道まで閉ざされるわけではないと考えられています。その場で決着したつもりでも、後から問題が再燃する可能性が残る点には注意が必要です。

相手が「認知はする」と言う理由と、言われた側が確認すべきこと

認知を拒んでも、最終的に裁判で認知が認められることがある

 父親が自ら認知しない場合でも、子や子の法定代理人である母親は、認知の調停や訴えを起こすことができます(民法787条)。DNA鑑定などで親子関係が認められれば、裁判によって認知が成立します。相手が「認知はする」と言うのは、拒んでも結局は認知されると考え、お金の部分だけを切り離そうとしている場合もあります。

「払わない」のか「払えない」のか

 相手の言い分が「払う気がない」のか、「収入が少なく払えない」のかで、話し合いの組み立ては変わります。養育費は双方の収入をもとに算定されるため、収入が低ければ金額も低くなりますが、ゼロになるとは限りません。働く能力があるのに働いていない場合には、実際の収入ではなく、働けば得られる収入を前提に算定されることもあります。相手に配偶者や別の子がいる場合には、その扶養の負担も考慮されます。

認知が実際に届け出られたかを確認する

 口では「認知する」と言っていても、認知届が提出されていなければ法律上の父子関係は生じていません。子の戸籍の身分事項欄に認知の記載があるかで確認できます。出生前に認知する胎児認知の場合は、母親の承諾が必要です(民法783条1項)。認知の届出を確認したうえで、金額を決める手続を早めに始めることが、言われた側の基本的な動き方になります。

時間が限られる理由|いつからの分を請求できるか

養育費は「請求した時」からが原則とされやすい

 家庭裁判所の実務では、養育費は請求の意思を明らかにした時点以降の分を認める扱いが多いとされています。過去の分をさかのぼって求めることが全くできないわけではありませんが、請求が遅れるほど、認められる範囲が狭くなるおそれがあります。

認知の場合は出生時までさかのぼった例もある

 認知の効力が出生時にさかのぼることから、出生後速やかに認知と養育費を求めた事案で、出生時からの養育費の分担を認めた裁判例があります(大阪高裁平成16年5月19日決定)。ただし、これは迅速に手続を進めたことが考慮された判断とされており、どのような事案でも出生時までさかのぼれるとは限りません。

 「払わない」と言われた段階で、請求する意思を記録に残る形で伝えておくことには意味があります。配達証明付きの内容証明郵便で請求の意思を伝える、家庭裁判所に調停を申し立てるといった方法が考えられます。相談の時期について迷う場合は、弁護士に相談するタイミング|早いほど選択肢が残る理由と「早すぎる相談」はあるのかも参考になります。

法定養育費の規定は認知の場合にも準用されている

 改正民法では、取り決めがなくても一定額(子1人当たり月額2万円)を請求できる「法定養育費」が設けられ(民法766条の3)、この規定は認知の場合にも準用されています(同法788条)。もっとも、法定養育費は離婚の場面を中心に組み立てられた制度で、認知の場面でいつから、どのような場合に発生するかの当てはめは、個別の事情に照らして確認が必要です。また、月額2万円は正式な取り決めまでの暫定的な最低限の額であり、標準的な養育費の水準を示すものではありません。

「払わない」と言われたときの進め方

 大まかな流れは次のとおりです。

  1. 認知の届出がされているかを戸籍で確認する。
  2. 請求の意思を書面で伝え、時期を記録に残す。
  3. 話し合いで金額・支払日・終期を決め、書面にする。
  4. まとまらなければ、家庭裁判所に養育費の調停を申し立てる。
  5. 調停で合意できなければ、審判で金額が定められる。


金額の目安は算定表で考える

 養育費の金額は、家庭裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」(令和元年に改定)を目安に、双方の収入、子の年齢と人数をもとに考えるのが一般的です。婚姻中に生まれた子か、認知された子かによって算定方法が変わることはありません。

話し合いでまとまったら、書面の形を選ぶ

 口約束だけでは、支払いが止まったときの手立てが限られます。強制執行を受け入れる旨の文言(執行認諾文言)を入れた公正証書にしておけば、裁判を経ずに差押えの手続に進むことができます(民事執行法22条5号)。公正証書を作る際の一般的な流れは【不貞慰謝料】公正証書の作り方・費用・当日の流れでも紹介しています。

 また、改正民法では、養育費の一定額について、他の債権者に優先して支払いを受けられる先取特権が認められました(民法306条3号、308条の2)。対象となるのは毎月の金額と支払期限を定めた定期金で、優先される額は子1人当たり月額8万円までとされています。公正証書でない合意書でも、この先取特権の存在を示す文書として差押えの手続に使える場合があるため、私的な合意書にする場合も「毎月○日までに○円」と期限と金額をはっきり書いておくことが大切です。

話し合いが難しいときは家庭裁判所の手続へ

 相手が話し合いに応じない場合は、子の監護に関する処分(養育費)として家庭裁判所に調停を申し立てます(家事事件手続法別表第二の3の項)。調停が不成立になれば審判に移り、裁判官が金額を定めます。改正により、家庭裁判所は当事者に収入や資産の状況の開示を命じることができるようになり、正当な理由なく開示しない場合や虚偽の開示をした場合には10万円以下の過料の対象となります(同法152条の2、258条3項)。「収入を明かさないから金額が決まらない」という状況は、以前より生じにくくなっています。交渉や調停を弁護士に依頼する場合の費用と流れは、男女トラブルを弁護士に依頼する費用相場と流れ|内訳・目安・確認しておきたいことで整理しています。

取り決めた後も払われないとき

家庭裁判所の履行勧告

 調停や審判で決まった養育費が払われない場合、家庭裁判所に申し出ると、相手に支払いを促す履行勧告をしてもらえます(家事事件手続法289条)。費用はかかりませんが、支払いを強制する効力はありません。

給与などの差押え

 公正証書や調停調書、審判書があれば、強制執行の手続に進むことができます。養育費の場合、給与の差押えは原則として手取り額の2分の1まで認められ(民事執行法152条3項)、一般の債権(原則4分の1)より広い範囲が対象になります。一部に不払いがあれば、まだ支払期限が来ていない将来分についても、給与などの継続的な債権の差押えができます(同法151条の2)。

 相手の勤務先や預金口座が分からない場合は、財産開示手続や第三者からの情報取得手続を使うことができます(同法197条、206条)。改正により、これらの申立てと同時に差押えの申立てをしたものとみなす仕組みも設けられました(同法167条の17)。

相手が自己破産した場合

 養育費の支払義務は、相手が自己破産しても免責されない債権とされています(破産法253条1項4号ハ)。破産を理由に「もう払わなくてよくなった」と言われた場合でも、そのまま受け入れる必要はありません。

「認知はするが払わない」と考えている側の方へ

払わない状態を続けた場合の見通し

 ここまで見てきたとおり、認知をした以上、養育費の支払義務を免れることは難しく、調停や審判で金額が定められれば、給与の差押えなどを受ける可能性があります。支払わない期間が長くなるほど未払い分が積み上がり、後からまとめて求められることもあります。収入や家庭の事情で支払いが難しいのであれば、それを前提に金額を協議するほうが、結果として負担を見通しやすくなります。

本当に自分の子か疑問がある場合

 認知は、いったんすると取り消すことができません(民法785条)。血縁関係がないことを理由に認知の無効を争う場合も、認知をした者は原則として認知の時から7年以内に訴えを起こす必要があります(同法786条1項2号)。疑問があるときは、認知をする前に、DNA鑑定の実施について相手と話し合うことが考えられます。

事情が変わったときは変更を求める道がある

 取り決めた後に、収入が大きく減った、扶養する家族が増えたといった事情の変化があれば、家庭裁判所に養育費の変更を求めることができます(民法788条が準用する766条3項)。一方的に支払いを止めると差押えにつながるおそれがあるため、変更を求める手続をとることが大切です。

よくあるご質問

相手に配偶者や別の家庭がある場合も、養育費は請求できますか?

 請求できます。認知によって父子関係が生じていれば、相手に家庭があるかどうかで扶養義務の有無は変わりません。ただし、算定にあたっては相手が扶養している配偶者や子の存在が考慮されるため、金額が調整されることがあります。相手が既婚者である場合の全体像は、不倫相手との妊娠|認知・養育費・中絶をめぐるトラブルで扱っています。

認知の前に受け取ったお金は、養育費として扱われますか?

 出産費用や生活費として受け取ったお金が、後の養育費の算定でどう扱われるかは、渡された趣旨や時期によって異なります。名目が曖昧なままだと、後で「すでに払っている」と主張されることもあるため、何の費用として、いつの分なのかを書面やメッセージで明らかにしておくと整理しやすくなります。

養育費をまとめて一括で受け取ることはできますか?

 双方が合意すれば、将来分を一括で受け取る取り決めも可能です。ただし、一括で受け取った後に事情が変わっても追加の請求が難しくなる場合があります。また、一括払いと引き換えに認知を求めないとする部分は無効と考えられているため、条件の組み立てには注意が必要です。

まとめ


  1. 認知によって法律上の父子関係が生じ、父は子を扶養する義務を負う(民法779条・784条・877条1項)。
  2. 改正民法で、父母は婚姻関係の有無にかかわらず子を扶養し協力する責務が明文化された(民法817条の12)。
  3. 認知しただけでは支払いは始まらず、金額は協議か家庭裁判所の手続で定める(民法788条・766条)。
  4. 認知を求める権利や子の扶養を受ける権利は放棄・処分できないとされ、交換条件の合意には危うさが残る(民法881条)。
  5. 養育費は請求時以降の分が原則とされやすく、請求の意思を早めに記録に残すことに意味がある。
  6. 公正証書や期限を定めた合意書、先取特権、情報開示命令、給与差押え(2分の1まで)など回収の手段が整ってきている(民法308条の2、民事執行法152条3項)。
  7. 支払う側も、払えない事情があれば協議や変更の手続で対応することが現実的である。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。「認知はするが養育費は払わない」と言われ、何から手を付ければよいか分からない方、相手とのやり取りを任せたい方は、時間がたつ前にご相談ください。

認知や養育費の支払いを求められていて、ご自身の収入や家庭の事情を踏まえてどう対応するかを考えたい方からのご相談もお受けしています。それぞれのお立場に応じて、取り得る選択肢を一緒に整理します。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【男女トラブル】認知はするが養育費は払わないと言われた|いつからの分を、どの順番で求めるか

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼