不貞の期間・回数はどこまで金額に響くのか
配偶者の不貞が分かり、相手方に慰謝料を請求しようと考えたとき、多くの方が最初に思い浮かべるのが内容証明郵便です。書き方の見本はいくつも見つかりますが、見本の空欄を埋めれば足りるかというと、そうとは限りません。内容証明は、書いた内容と差し出した時点がそのまま形に残り、その後の話し合いや裁判までついてくる書面だからです。
この記事では、不貞慰謝料の請求で内容証明を用いる場合について、「書き方」を三つの層に分けて整理したうえで、正面から語られることの少ない「いつ送るか」という論点を取り上げます。文例そのものよりも、文例をご自身の事案に当てはめるときに何を決めているのかが分かるように構成しました。
内容証明で証明されるもの・されないもの
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰宛てに差し出したのかを、差出人が郵便局に提出した謄本によって郵便局が証明する郵便です。証明の対象は文書の存在と差出しの事実であって、そこに書かれた事実が真実かどうかではありません。
この区別は、書き方を考えるうえでの出発点になります。
| 内容証明で証明されること | 内容証明では証明されないこと |
|---|---|
| その日にその文面の文書を差し出したこと | 文書に書いた不貞行為が実際にあったこと |
| 差出人と受取人が誰であるか | 請求している金額が相当であること |
| (配達証明を付けた場合)相手方に配達されたこと | 相手方に支払義務が生じたこと |
したがって、内容証明を送っただけで相手方に支払義務が発生するわけではありませんし、支払わない相手方の財産を直ちに差し押さえられるわけでもありません。内容証明が果たすのは、請求したという事実を、後から示せる形で残すという役割です。なお、届いたことまで証明したい場合は、配達証明を併せて申し込む必要があります。
「書き方」には三つの層がある
内容証明の書き方として語られていることは、実は出どころの違う三つの話が混ざっています。分けて考えると、どこは形式に従えばよく、どこは事案ごとの判断が要るのかが見えてきます。
| 層 | 決まりの出どころ | 外したときに起きること |
|---|---|---|
| 郵便の様式 | 日本郵便の取扱いの条件 | 窓口で受け付けてもらえない |
| 請求の書面としての記載事項 | 法律上の決まりはなく、請求の中身から決まる | 何を求めているのかが相手方に伝わらない |
| 後に不利にならない表現の選び方 | その後の交渉と裁判の見通し | 書いた内容が自分の側の負担になる |
一つ目と二つ目は、見本を参照すればおおむね埋まります。判断が要るのは三つ目で、ここが事案ごとに最も差の出るところです。
郵便の様式として決まっていること
同封できるものがない
内容証明として取り扱われるのは、文書1通のみを内容とする郵便物です。内容文書以外の物は同封できず、日本郵便は図面や返信用封筒を例として挙げています。為替証書や小切手等の有価証券についても同様です。
つまり、手元にある写真やメッセージの写しを一緒に送ることはできません。証拠に触れたい場合は、文書の中で言及するにとどまることになります。どこまで書くかは、後述する判断の対象になります。
使える文字と、字数・行数
使用できるのは、仮名、漢字、数字、固有名詞に限られる英字、括弧、句読点、その他一般に記号として使用されるものです。
字数と行数には制限がありますが、これは郵便局と差出人が保管する謄本についての制限であって、相手方に届く内容文書そのものに字数・行数の制限があるわけではありません。もっとも、実務では原本の写しをそのまま謄本とするため、結果として次の枠内で作ることになります。
| 区別 | 字数・行数の制限 |
|---|---|
| 縦書きの場合 | 1行20字以内、1枚26行以内 |
| 横書きの場合 | 1行20字以内で1枚26行以内、1行13字以内で1枚40行以内、1行26字以内で1枚20行以内のいずれか |
このほか、訂正の方法、2枚以上にわたる場合の綴じ目への契印、謄本末尾余白への差出人・受取人の住所氏名の付記についても取扱いが定められています。
差し出す場所と費用
内容証明はポストに投函することができず、取扱いのある郵便局の窓口で手続きします。すべての郵便局で扱っているわけではないため、事前の確認が必要です。窓口へ出向く時間が取りにくい場合には、インターネットから差し出せる電子内容証明の仕組みもあります。
費用は、郵便物の料金に、一般書留の加算料金と内容証明の加算料金を加えた額です。2026年8月時点では、謄本1枚の内容証明を定形郵便物で差し出す場合で1,070円、これに配達証明を付けると1,420円が目安となります。
記載事項は「何のために書くのか」で決まる
記載事項について法律上の決まりはありません。何を求めるかによって書くべきことが変わるため、項目を覚えるよりも、その一行が何のために置かれているのかを押さえておくほうが応用が利きます。
| 記載事項 | 何のために書くのか |
|---|---|
| 標題(通知書など) | 受け取った側に、書面の性格を最初に伝えるため |
| 作成日 | いつの時点の請求かを示すため |
| 受取人の住所・氏名 | 誰に宛てた請求かを特定するため |
| 差出人と配偶者との関係 | 請求する立場にあることを示すため |
| 不貞行為の内容と時期 | 何についての請求かを特定するため |
| 法律上の位置づけ | 請求の根拠を示すため(民法709条・710条) |
| 請求する金額 | 求めている内容を金額として示すため |
| 支払方法と支払期限 | 相手方が何をいつまでにすればよいかを示すため |
| 応じてもらえない場合に考えていること | 次の段階があることを伝えるため |
| 差出人の住所・氏名 | 返答の宛先を示すため |
文例の形は各所で紹介されていますが、同じ項目でも、事案によって書ける範囲と書かないほうがよい範囲が変わります。次の章はその話です。
書き方でつまずきやすい四つの点
ここからは、様式の話ではなく、後々まで残る内容の話になります。実際にご相談を受けていて、書き方の分かれ目になりやすいのは次の四点です。
確かめられた範囲を超えて書かない
書面に書いた事実は、その後の交渉や裁判でこちらの主張として扱われます。裏づけのないまま断定して書き、後にその部分が覆ると、他の記載の信用にも影響することがあります。
たとえば「本人が認めた」と書く場合、認めた経緯を示せるかどうかで意味合いが変わります。回数や期間についても、確認できている範囲を超えて書くと、相手方から食い違いを指摘される材料になりかねません。
不貞を知った時期の書き方
不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年で時効によって消滅するものとされています(民法724条1号)。ここで気をつけたいのは、書面に「いつ知ったか」を書き込むと、その起算点を自分の側から明らかにすることになるという点です。
知った経緯を丁寧に書くことは、請求の説得力を高める方向に働くこともあります。一方で、発覚から時間が経っている事案では、時効をめぐる争点を自ら作り出すことにもなり得ます。どちらに振れるかは事案によりますので、書き方を決める前に時期の関係を整理しておくことが望ましいといえます。
金額は後から動かしにくい
最初に示した金額は、その後の話し合いで上限のように扱われやすく、後から引き上げることは容易ではありません。逆に、事案から離れた高い金額を掲げると、相手方が交渉自体に応じにくくなることもあります。
金額をどのように組み立てるかは、それ自体が独立した論点です。ここでは、一度書いた金額はその後の交渉の枠になりやすいという点だけを押さえておいてください。
表現が別のトラブルを招くことがある
請求の書面である以上、支払いを求める記載や、応じてもらえない場合に法的手続を検討している旨の記載は、権利行使として通常想定される範囲のものです。他方で、相手方の勤務先や家族、交友関係に知らせることをほのめかす表現や、相手方を非難する言葉を並べた記載は、請求する側の責任が問われる場面に転じるおそれがあります。
感情を書き込みたくなる場面ではありますが、書面は請求の内容を伝えるものと割り切り、必要な事項に絞るほうが、結果として安全です。
送るタイミングを決める三つの物差し
「いつ送るか」は、書き方以上に後戻りのきかない判断です。判断の材料は、性質の異なる三つに分かれます。
①期限から決まるタイミング
一つ目は、時間の制約から決まるものです。不法行為に基づく損害賠償請求権には、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年という期間の定めがあります(民法724条)。
期間の満了が近い場合、裁判外で支払いを求める催告をすると、その時から6か月を経過するまでは時効が完成しません(民法150条1項)。ただし、ここには二つの限界があります。
- 猶予されるのは6か月であり、その間に訴訟の提起などをしなければ、期間が改めて進み直すわけではありません。
- 猶予されている間に再び催告をしても、そこからさらに6か月が加わることはありません(民法150条2項)。
協議を行う旨の合意による猶予という別の仕組みもありますが、催告による猶予中にされた合意にはその効力がなく、逆の順序でも同様とされています(民法151条3項)。つまり、6か月は積み増せる時間ではないという前提で予定を立てる必要があります。
②手元の材料から決まるタイミング
二つ目は、こちらの準備がどこまで整っているかです。内容証明が届いた時点で、相手方は請求されていることを知ります。それまで手元に残っていたかもしれない記録が、その後も同じ状態で残るとは限りません。また、相手方の氏名や住所が正確に分かっていなければ、そもそも差し出すことができません。
送る前に、少なくとも次の点が固まっているかを確認しておくと、その後の展開が読みやすくなります。
- 何をもって不貞行為があったと述べるのか、その裏づけが手元にあるか。
- 請求する相手方の氏名と住所を正確に把握しているか。
- 配偶者にも請求するのか、不貞相手だけに請求するのか。
証拠をどう集めるか、記録が失われる前に何ができるかは、それぞれ別の論点として扱っています。
③自分の側の方針から決まるタイミング
三つ目は、家庭の側の事情です。離婚を考えているのか、婚姻関係を続けるのかによって、請求の位置づけも、相手方に伝わってよい情報の範囲も変わります。配偶者と話し合う前に不貞相手へ請求すれば、配偶者が事態を知る経路も、こちらの手を離れます。
請求は、一度してしまうと「なかったこと」にはできません。相手方に代理人が就けば、以後のやり取りは代理人を通すことになり、直接話す機会は基本的になくなります。急ぐ理由が期限にあるのか、それとも気持ちの側にあるのかを、いったん分けて考えてみることをおすすめします。
基準になるのは「出した日」ではなく「届いた日」
見落とされやすいのが、効果が生じる時点です。相手方に向けた意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生じます(民法97条1項)。催告として時効の完成猶予を期待する場合も、基準になるのは差し出した日ではなく、届いた日です。
したがって、期間の満了直前に窓口へ持ち込むと、配達までの間に期間が過ぎてしまうおそれがあります。日数には余裕を見ておく必要があります。
なお、相手方が正当な理由なく到達を妨げたときは、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(民法97条2項)。実際に、不在のまま留置期間が満了して差出人に返された内容証明について、遅くとも留置期間が満了した時点で到達したと判断した最高裁の判例(最判平成10年6月11日)もあります。もっとも、事情によって結論が変わり得る場面ですので、受け取ってもらえないことを前提に予定を組むのは安全とはいえません。
送る前に決めておきたい五つのこと
書面を作り始める前に、次の五点を決めておくと、文面の迷いが減ります。
- 誰に送るのか(不貞相手のみか、配偶者にも送るのか)。
- どこへ送るのか(自宅か、それ以外か)。
- 何を求めるのか(金銭のみか、関係の解消なども含めるのか)。
- 回答の期限をいつに置くのか(相手方が検討し、必要なら弁護士に相談できる長さか)。
- その後の窓口を誰にするのか(ご自身で受けるのか、代理人を立てるのか)。
とりわけ見落とされやすいのが、差出人の住所と氏名が相手方に伝わるという点です。それまで接点のなかった相手に、ご自身の連絡先を知らせることになります。直接の連絡を避けたい事情がある場合には、窓口の置き方を先に決めておくほうがよいでしょう。
内容証明という形を選ぶかどうか
裁判外で支払いを求めること自体に、方式の決まりはありません。内容証明は、後から内容と差出しを示せる点で確実性の高い手段ですが、唯一の方法というわけではありません。
| 送り方 | 示せること | 受け取る側の受け止め方 |
|---|---|---|
| 内容証明+配達証明 | 文面・差出し・配達のいずれも | 正式な請求として受け止められやすい |
| 書留+配達証明 | 差出しと配達(文面は自分で控えを残す) | 内容証明ほど身構えられにくいことがある |
| 特定記録郵便 | 配達したこと | 通常の郵便に近い |
| 普通郵便・メッセージ | 記録として残りにくい | 届いたかどうか分からないこともある |
どれを選ぶかは、相手方との関係や、受け取りを避けそうかどうかによっても変わります。相手方の住所が分からない場合には、そもそも差し出すことができません。所在が分からないときのために公示による意思表示という仕組みも設けられていますが(民法98条)、要件が限られるため、まずは請求先を確定させることが先になります。
受け取った側は、何を読んでいるのか
送る側にとって参考になるのは、受け取った側がどこを見ているかです。請求を受けた側は、書かれていることよりも、書かれていないことに目を向けることが少なくありません。
| 受け取った側が確認する点 | 書面の側で問われること |
|---|---|
| 不貞行為の時期や態様がどこまで特定されているか | 確認できている範囲で書けているか |
| どのような裏づけを持っているとうかがえるか | 触れる範囲を選べているか |
| 金額がどのように導かれているか | 説明できる立て方になっているか |
| 回答の期限が現実的か | 検討する時間を織り込んでいるか |
回答の期限そのものに法的な拘束力はなく、期限までに返答がなかったからといって、それだけで支払義務が生じるものでもありません。ただし、反応がないまま時間が過ぎれば、送った側は次の段階を検討することになります。請求を受けた側の対応については、別の記事で取り上げています。
内容証明を送る前に、弁護士にご相談ください
内容証明は、様式さえ整えればご自身でも差し出せる書面です。難しいのは様式ではなく、何をどこまで書くかとどの時点で出すかの判断のほうにあります。いずれも、送ってしまった後では取り消すことができません。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料に関するご相談を、請求をお考えの方からも、請求を受けた方からもお受けしています。手元にある資料でどこまで書けるのか、いつ送るのが適切か、送った後にどのような展開が想定されるのかを整理したうえで、方針をご提案いたします。おひとりで抱え込まず、書面を作り始める前の段階でご相談ください。


