別れた後も位置情報を見られている|共有アプリ・見守りアプリの解除と法的対応
妊娠を伝えた途端に返信が止まった、電話がつながらなくなった、SNSをブロックされた——。そうした相談は、決してめずらしいものではありません。
このとき多くの方が最初にぶつかるのは、「慰謝料を請求できるか」という問題よりも前の、そもそも相手に届かないという壁です。認知も養育費も、相手が誰で、どこにいるのかが分からなければ、手続きの入口に立てません。
この記事では、連絡が取れない・話し合いに応じない相手に対して、認知と養育費という結論にどうたどり着くかという一点に絞って、順を追って整理します。慰謝料が認められるケースや中絶費用の負担、金額の相場については別の解説に譲り、ここでは「動線」を扱います。
なお、認知を求める側だけでなく、「妊娠したと言われたが相手と連絡が取れない」「自分の子か分からないまま話が進んでいる」という立場の方にも関わる論点を、後半で取り上げます。
1. この問題は二つの段階に分かれている
行き詰まりやすいのは、二つの異なる問題が同時に押し寄せてくるからです。まず、これを切り分けます。
| 段階1:相手にたどり着く | 段階2:結論を出す | |
|---|---|---|
| 中心にある問い | 相手は誰か/どこにいるか | 認知させられるか/いくら払わせられるか |
| 主に使う手段 | 手がかりの整理、弁護士会照会、住民票・戸籍の附票の調査 | 交渉、認知調停、認知の訴え、養育費の調停・審判 |
| つまずき方 | 手がかりが登録情報にとどまり、現住所に届かない | 相手が応じない、出頭しない |
| 相手の協力 | なくても進められる場面がある | なくても進められる場面がある |
押さえておきたいのは、相手が応じないこと自体は、手続きが止まる理由にはならないという点です。認知も養育費も、最終的には裁判所の判断で決めることができる制度が用意されています。ただし、相手の氏名と住所が分からないままでは、その裁判所の手続きにも乗せられません。だからこそ、段階1を先に片づける必要があります。
逆に言えば、「連絡が取れないから何もできない」と考えて時間だけが過ぎてしまう状況は、避けられる可能性があります。
2. 先に時間の制約を確認する
動き方の優先順位は、期限のあるものから決まります。
出産するかどうかの判断には期限があります。
人工妊娠中絶が可能な期間は母体保護法上の制限があり、週数が進むほど身体的な負担も費用も増える傾向にあります。この判断は相手の返事を待って決められる性質のものではなく、まず医療機関を受診し、ご自身の状況を確認することが出発点になります(中絶費用の負担や同意書の扱いは別の解説をご覧ください)。
認知は出生前でも出生後でも求められます。
出生前の認知(胎児認知)は父が母の本籍地の市区町村に届け出て行いますが、母の承諾が必要です(民法783条1項)。出生後の任意認知に母の承諾は要りません(同779条)。
認知の訴えには期間の制限があります。
子やその法定代理人などは認知の訴えを起こせますが、父が亡くなった日から3年を過ぎるとできなくなります(同787条ただし書)。相手の生死や所在が分からない状態が長く続くことは、この点でもリスクになります。
養育費は、原則として請求した時点以降の分が対象と扱われる傾向にあります。
認知には出生時にさかのぼる効力があるため(同784条)、出生から認知までの過去分をさかのぼって請求できるかについては裁判所の考え方が分かれており、遡及を認めた高裁の決定(大阪高裁平成16年5月19日決定)もあります。いずれにしても、「請求した」という記録を早い段階で残しておくことが、後で効いてきます。
証拠は時間とともに失われます。
メッセージ、通話履歴、写真、相手の勤務先や車に関するメモなど、いま手元にあるものは削除せず保存してください。相手のアカウントが消される前に画面を保存しておくことにも意味があります。
3. 相手を特定する:できることと、できないこと
手元にある手がかりを棚卸しする
特定作業は、ゼロから探すのではなく、すでに持っている断片を数えるところから始まります。相談の場でも、まずここを確認します。
- 携帯電話番号、メールアドレス、LINEのID
- SNSのアカウント名、投稿から分かる勤務先・出身地・行動範囲
- 勤務先や職種、よく行く店、出会った場所や経緯
- 送金や立替の履歴(振込先口座、送金アプリの記録)
- 車のナンバー、名刺、写真、共通の知人
断片的に見えても、複数を組み合わせることで手続きに乗る場合があります。
弁護士会照会という制度と、その限界
弁護士が事件を受任したうえで所属弁護士会に申し出て、弁護士会から企業や役所などに情報を照会する制度があります(弁護士法23条の2)。携帯電話会社に対する契約者情報の照会などが典型です。
ただし、次の点は誤解されやすいので、あらかじめ知っておいてください。
- 照会の主体は弁護士会であり、審査を経て発出されます。適当でないと判断されれば拒絶されることがあります。
- 受任している事件があることが前提です。「調べるだけ」を依頼することはできません。
- 照会先は公務所や公私の団体であり、個人に対しては行えません(個人で営む事業所は対象になり得ます)。
- 照会を受けた側には報告すべき義務があると解されていますが、罰則によって強制される仕組みではなく、回答が得られないこともあります。
- 判明するのは契約時などの登録情報です。引っ越し後に変更手続をしていない相手であれば、現住所にはたどり着けません。
なお、日本郵便に対しては、2023年6月1日から、転居届に基づく新しい住所の情報が弁護士会照会に提供される取扱いが始まっています。ただし、DV・ストーカー・児童虐待の事案との関連がうかがわれない法的手続であると弁護士会が判断した照会に限られます。
探偵事務所の調査を利用する方法もあります。依頼すること自体が違法になるわけではありませんが、判明するのが登録上の情報にとどまる点や、費用がかかる点は同じです。
警察に探してもらえるか
認知・養育費・慰謝料は民事上の問題であり、連絡が取れないという事情だけで警察が相手を探すことは、原則として期待できません。もっとも、性行為に同意がなかった場合や、詐欺にあたる事情がある場合には、刑事の問題として相談する余地があります。
やらないほうがよいこと
特定を急ぐあまり、次のような行動に出てしまうと、ご自身が責任を問われる側に回りかねません。結果として、認知や養育費の交渉も進めにくくなります。
- 勤務先や実家への繰り返しの電話・訪問(業務妨害や住居侵入、つきまといにあたるおそれ)
- SNSでの実名の公表や、妊娠の経緯の投稿(名誉毀損にあたるおそれ)
- 共通の知人に相手の情報を強く求め、関係を悪化させること
伝えるべきことがあるなら、記録が残る形で一度だけ、事実と要求を簡潔に——これが後の手続きでも活きる残し方です。
4. 相手が応じない・出てこないままでも進む手続き
ここからが段階2です。相手が話し合いに応じない前提で、順に見ていきます。
① 弁護士名義の書面での連絡
実務上、当事者からの連絡には反応しなかった相手が、代理人からの書面には反応する、ということは起こります。まずここで解決する場合もあります。
② 認知調停
任意に認知届を出してもらえない場合、家庭裁判所の認知調停を申し立てます。人事に関する事件では、いきなり訴えを起こすのではなく、まず調停を申し立てる必要があるとされているためです(調停前置)。当事者が顔を合わせずに進められる運用が一般的です。
調停で父子関係について合意ができ、家庭裁判所が必要な調査を経てその合意を正当と認めれば、合意に相当する審判によって認知が実現します。
③ 認知の訴え
相手が調停で認知を拒み続けた場合や、期日に出頭しない場合には、認知の訴えを提起します(民法787条)。これは相手の同意を必要としない手続きで、証拠に基づいて裁判所が父子関係の有無を判断します。認める判決が確定すれば、相手の意思にかかわらず法律上の父子関係が生じます。
④ 書類が届かない場合
訴えを起こすには、訴状を相手に送達する必要があります。住民票上の住所にいるはずなのに受け取らない場合には付郵便送達、住所そのものが分からない場合には公示送達という方法があります。公示送達を使うには、住民票や戸籍の附票の取得、現地の調査などを尽くしたうえで、所在が分からないことを裁判所に説明する必要があります。なお、2026年5月に民事訴訟手続のデジタル化が全面施行され、公示の方法も見直されています。
もっとも、公示送達によって判決を得られたとしても、相手の居場所が分からないままでは実際の回収は別問題として残ります。ここでも、段階1で得た手がかりの厚みがものを言います。
⑤ DNA鑑定を拒まれたら
DNA鑑定は有力な証拠ですが、相手に強制することはできません。多くの鑑定機関も双方の同意を条件としています。
ただし、鑑定を頑なに拒む態度そのものが、父子関係を推認させる方向の事情として評価されることがあります。そのため、書面で鑑定を求め、拒否の回答や無視された経過を記録として残しておくことに意味があります。
⑥ 養育費の手続きは、認知の後
見落とされやすい順序があります。認知によって法律上の親子関係が生じていない段階では、養育費の調停や審判を申し立てることができません。相手が任意に払うと合意すれば受け取れますが、裁判所に支払いを命じてもらうには、先に認知にたどり着いている必要があります。
「まず認知、次に養育費」。この順序が、動線の背骨です。
5. 認知のあと:養育費をどう確保するか(2026年4月施行の改正を含む)
取り決めは書面で、できれば公正証書に
金額が決まったら、書面に残します。強制執行認諾文言のある公正証書にしておけば、支払いが止まったときに改めて裁判をせずに差押えの手続きに進めます。金額の目安は家庭裁判所が公表している算定表で確認できます。相手の提示額に即答せず、目安と照らしてから返答してください。
2026年4月1日施行の改正が関係します
2024年に成立した民法等の改正法が、2026年4月1日から施行されています。未婚のケースにも関わる内容が含まれます。
- 父母の責務の明確化:婚姻関係や親権の有無にかかわらず、父母が子を養育する責務を負うことが条文上明確にされました(民法817条の12)。
- 法定養育費:養育費の取り決めをしないまま離婚した場合に、法務省令で定める額(子1人あたり月2万円)を請求できる制度が新設され(同766条の3)、父が認知した場合にも準用されるとされています(同788条)。ただし、義務者が支払う資力を欠くことを証明した場合には支払いを拒めるとされており、あくまで取り決めができるまでの暫定的な最低保障という位置づけです。実際の相当額は、算定表に基づく金額がこれを上回ることが多いと考えられます。
- 先取特権:子の監護の費用が一般先取特権の対象に加えられ(同306条3号、308条の2)、債務名義がなくても差押えに進む余地が生まれました。対象額の上限は子1人あたり月8万円とされています。認知の場合を含む準用関係も省令で手当てされています。
- 執行手続の整備:収入情報の開示や、財産に関する情報を取得する手続の使い勝手も改善されています。
制度が始まってからまだ日が浅く、認知のケースでの具体的な運用は今後の積み重ねを待つ部分があります。それでも、「取り決めがないから何も言えない」「相手が応じなければ何も起きない」という従来の前提は、変わりつつあると言えます。
そしてこれらの制度も、認知が済んでいることと、差し押さえる先(勤務先や口座)が分かっていることを前提とします。特定という作業は、最後まで効いてきます。
6. 「請求される側」「連絡が取れなくなった側」から読む場合
この問題は、片方向だけのものではありません。
認知は、いったん行うと原則として取り消すことができません(民法785条)。事実に反する認知を争う手続きは別に用意されていますが、期間などの制限があります。したがって、子との血縁に確信が持てない状況で、その場の空気や強い要求に押されて認知届に署名することは、慎重に考える必要があります。関係を否定するのであれば、DNA鑑定に応じたうえで話を進めるほうが、結果的に双方の負担が小さくなることもあります。
一方で、認知したうえで子と関わりたいと考える方もいます。認知をした場合には、監護に関する事項について協議で定める規定が準用されるとされており、面会交流を含む取り決めを話し合う余地があります。
また、「妊娠したと言われたが、その後連絡が取れなくなった」という相談もあります。出生前の認知には母の承諾が必要であるため、この立場からできることは限られますが、経過を記録し、支払いや対応の申し出を書面で残しておくことは、後の紛争で意味を持ちます。
支払能力を大きく超える金額を求められている場合には、金額の妥当性という別の論点になります。この点は、養育費の相場や請求された側の対応を扱った解説をご覧ください。
7. よくある質問
Q. 本名も住所も分かりません。もう諦めるしかないのでしょうか。
手元にある手がかりの内容によります。携帯電話番号やメールアドレス、送金の記録などが残っていれば、受任した弁護士が弁護士会照会を通じて登録情報にたどり着ける場合があります。ただし、判明するのは登録上の情報であり、必ず現在の居場所が分かる制度ではありません。まずは、何が残っているかを整理したうえで見通しを確認することをおすすめします。
Q. 出産前から手続きを始められますか。
胎児認知の届出は可能です(母の承諾が必要です)。相手が応じない場合の調停・訴訟については、出生後に進めるのが一般的です。並行して、相手の特定や請求の意思を書面で伝えておく作業は、出産前から進められます。
Q. 「認知しない代わりに一切請求しない」と約束してしまいました。
認知を求める権利は子自身の権利であり、母と父の間の合意によって子の権利まで封じることはできないと考えられています。過去にそうしたやり取りがあったとしても、認知を求める余地は残ります。
8. まとめ
- 「相手にたどり着く」段階と「結論を出す」段階を分けて考えると、次の一手が見えやすくなります。
- 相手が応じないこと自体は、手続きが止まる理由にはなりません。認知は調停・訴えを通じて、相手の同意がなくても実現し得ます。
- 期限のあるものから動きます。出産の判断、胎児認知、認知の訴えの期間制限、そして「請求した記録」を早く残すこと。
- 弁護士会照会などの特定手段には限界があります。判明するのは登録情報であり、確実な制度ではありません。
- 養育費の手続きは、認知の後です。2026年4月施行の改正により、取り決めがない場合の最低保障や、差押えに進む道筋が整備されました。
- 勤務先や実家への押しかけ、SNSでの公表は、ご自身の立場を弱めます。記録を残す形での連絡にとどめてください。
ひとりで抱えたまま時間が過ぎることが、この問題では最も大きな不利益になりやすいと感じています。妊娠に関する不安そのものについては、全国妊娠SOSネットワークなどの相談窓口も利用できます。手続きの見通しについては、早い段階でご相談ください。


