【男女トラブル】元恋人が自己破産すると言い出したら、貸したお金はどうなる?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

本記事は、2026年10月時点の破産法の規定をもとに、交際していた相手にお金を貸していた方の立場から一般的な考え方を整理したものです。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえでご判断ください。


別れた恋人にお金を貸したまま返してもらえずにいたところ、相手から「自己破産するから、もう返せない」と告げられることがあります。突然そう言われると、貸したお金は全て戻らなくなるのか、これまでの催促は無駄だったのかと不安になる方も多いと思います。

 自己破産は、裁判所の手続を経て借金の支払義務を免れる制度です。ただ、「自己破産する」と口にした時点で直ちに返済義務がなくなるわけではありません。また、手続の中には、お金を貸した側が関わることのできる場面がいくつか用意されています。この記事では、元恋人が自己破産を言い出したときに貸したお金がどう扱われるのか、貸した側として何を確かめ、何を準備しておけばよいのかを順に整理します。

「自己破産する」と言われた段階で押さえておきたいこと

 まず区別しておきたいのは、相手が「自己破産するつもりだ」と言っている段階と、実際に裁判所で手続が始まっている段階は違うということです。自己破産は、本人(多くは代理人の弁護士)が裁判所に申立てを行い、裁判所が破産手続開始の決定を出すことで始まります。申立てをしていない段階では、法律上の返済義務はそのまま残っています。

 一方で、破産手続開始の決定が出た後は、個々の債権者が個別に取り立てたり、強制執行をしたりすることはできなくなります(破産法100条1項、42条1項)。手続が始まった後は、裁判所の手続の中で権利を主張していくことになります。

破産手続と免責手続は別のもの

 自己破産というと「借金がゼロになる」という印象が強いかもしれませんが、法律上は二つの手続に分かれています。一つは、借りた人の財産をお金に換えて債権者に分ける「破産手続」、もう一つは、分けきれずに残った借金の支払義務を免除するかどうかを判断する「免責手続」です。借金の支払義務を免れるのは免責許可の決定が確定したときであり(破産法253条1項)、免責が認められない場合や、免責の効果が及ばない債権もあります。

本当に手続が進んでいるのかを確かめる方法

 元恋人からLINEやメールで「破産手続中だから払えない」と伝えられるだけで、裁判所や弁護士からは何の連絡もない、というご相談は少なくありません。実際に手続が進んでいるかどうかは、次のような方法で確かめることが考えられます。

  • 相手に、自己破産を依頼している弁護士の名前と連絡先を尋ね、その事務所に債権者として連絡します。
  • 弁護士が依頼を受けると、把握している債権者には通常「受任通知」が送られます。届いていない場合は、債権者として把握されていない可能性があります。
  • 裁判所が破産手続開始の決定をすると、その内容は官報に掲載されます。氏名と時期の見当がつけば、官報で確認できることがあります。


 弁護士に依頼する前の段階で「するつもり」と言っているだけのこともあります。また、交際相手どうしの貸し借りは、借りた側が「借金ではない」と考えていて、債権者の一覧に入っていないこともあります。連絡が来ていない場合は待つだけでなく、こちらから代理人の弁護士に貸付の事実を伝えておくことが大切です。

手続の中で、貸した側ができること


債権者の一覧に載せてもらう

 自己破産の申立てでは、借りた人が債権者の一覧(債権者名簿)を裁判所に提出します。裁判所はこの名簿をもとに債権者へ通知を送り、意見を述べる機会などを設けます。元恋人からの借入れが名簿に載っていなければ通知が届かず、手続に関わる機会を逃すおそれがあります。代理人の弁護士に、貸した金額、貸した時期、返済を受けた額を書面で伝え、名簿への記載を求めておくとよいでしょう。

債権の届出と配当

 自己破産には、大きく分けて「同時廃止」と「管財事件」という二つの進み方があります。どちらになるかで、貸した側が受け取れるお金の見込みが変わります。

進み方どのような場合か貸した側への影響
同時廃止分けるほどの財産がないと判断された場合手続の開始と同時に破産手続が終わり、配当は行われません
管財事件一定の財産がある場合や、調査が必要な場合破産管財人が財産を換価し、届け出た債権者に債権額の割合に応じて配当されることがあります


 管財事件では、裁判所から届く書類に従って期限までに債権を届け出ることで、配当を受けられる可能性があります。ただし、配当は全ての債権者に債権額の割合で平等に分けるものなので、貸した金額の全額が戻ることは多くありません。

免責について意見を述べる

 債権者は、裁判所が定める期間内に、免責を認めるべきではない事情について意見を述べることができます(破産法251条)。法律は、免責を認めない理由(免責不許可事由)として、次のようなものを挙げています(破産法252条1項)。

  • 財産を隠したり、価値を不当に減らしたりしたこと。
  • 特定の債権者にだけ、義務のない時期や方法で返済するなど、他の債権者を害する目的で偏った返済をしたこと。
  • ギャンブルや収入に見合わない浪費によって、著しく財産を減らしたり、過大な借金をしたりしたこと。
  • 申立ての1年前から開始決定までの間に、返せない状態にあることを知りながら、それを隠すために偽って信用取引で財産を得たこと。
  • 虚偽の債権者名簿を提出したこと。


 たとえば、元恋人が「仕事の支払いに必要」と言って借りたお金を実際には遊興費に使っていた、といった事情は、意見の中で具体的に伝える材料になり得ます。もっとも、免責不許可事由があっても、裁判所が諸事情を考慮して免責を認めること(裁量免責、破産法252条2項)は少なくありません。意見を述べたからといって免責が止まるとは限らないため、どこまで労力をかけるかは、貸した金額や手元の資料と見比べて考えることになります。

免責された後も、返済を求められる場合

 免責が確定すると、原則として貸したお金を請求することはできなくなります。ただし、免責の効果が及ばない債権(非免責債権)があり、交際相手への貸し借りで問題になりやすいのは次の二つです(破産法253条1項)。

相手が知りながら債権者名簿に載せなかった場合

 借りた人が、借金があると知りながら債権者名簿に載せなかった債権は、免責の対象から外れます(同項6号)。ただし、貸した側が破産手続の開始を知っていた場合は除かれます。裁判例には、借用書を作り、何度も返済を求められていたのに名簿に載せなかった事情から、債権の存在を知っていたと認めたものがあります。元恋人が「あれは借金ではない」と考えて名簿から外していた場合でも、残っている記録によってはこの規定が問題になり得ます。

 反対に、手続が始まったことを知っていながら何もしなかった場合は、この規定による保護を受けにくくなります。手続を知った時点で、代理人の弁護士や裁判所に貸付の事実を伝えておくことが大切です。

だまし取られたといえる場合

 破産者が「悪意で加えた不法行為」に基づく損害賠償請求権も、免責の対象になりません(同項2号)。最初から返すつもりがないのに、うその理由を伝えてお金を受け取っていたような場合が考えられます。ただし、ここでいう「悪意」は、単に故意があるだけでなく、相手を害する積極的な意図まで必要と一般に解されており、認められる場面は限られます。返すつもりはあったが結果的に返せなかった、という事情であれば、この規定には当たらないことが多いと考えられます。

 なお、貸付に連帯保証人がいた場合、借りた本人が免責されても、保証人の責任には影響しません(破産法253条2項)。

交際相手どうしの貸し借りで気をつけたいこと


「もらったお金」と言われないための記録

 交際中のお金のやり取りは借用書を作らないことが多く、相手から「あれはもらったものだ」と言われることがあります。破産の手続の中でも、貸付であることを示せなければ、債権として扱われにくくなります。振込の記録、「必ず返す」「来月返す」といったメッセージ、一部を返してもらった記録などは、借用書がない場合の大切な資料になります。

破産の直前に返してもらったお金

 元恋人が支払えない状態になった後に、他の債権者を差し置いて自分だけが返済を受けると、破産管財人から、受け取ったお金を返すよう求められることがあります(否認、破産法162条)。親しい間柄だからこそ「あなたにだけは先に返す」と言われることもありますが、後から返還を求められる可能性がある点は知っておく必要があります。

手続中に新たなお金を求められたとき

 「破産しても、あなたにだけは返す。そのために費用が必要だ」と言われ、さらにお金を渡してしまったというご相談もあります。手続中の人が特定の債権者だけに返済を約束することには、ここまで見たような問題があり、追加でお金を渡しても、前に貸したお金が戻る保証にはなりません。新たな求めには応じず、まず相手の代理人の弁護士や、ご自身で相談する弁護士に状況を確認することをお勧めします。

催促の仕方と、相手の家族への請求

 貸金業者には、弁護士から受任通知を受けた後の取立てを禁じる規制がありますが(貸金業法21条1項9号)、個人どうしの貸し借りに直接当てはまるものではありません。とはいえ、手続開始後は個別に取り立てることができませんし、勤務先や家族に知らせると告げて支払いを迫ったり、深夜に何度も連絡したりすると、こちらが脅迫などの責任を問われるおそれがあります。また、元恋人の親やきょうだいは、保証人になっていない限り、代わりに返す義務を負いません。家族への請求は避け、手続の中で権利を主張する方向で考えるのが現実的です。

手元に残しておきたい資料

 相手の手続がどの段階であっても、次の資料をそろえておくと、債権の届出や意見の申述、弁護士への相談がしやすくなります。

  • お金を渡した日付と金額が分かる振込明細や通帳。
  • 借用書、念書、メモなど、貸し借りの合意が分かる書面。
  • 返済の約束や、借りた理由が書かれたLINE・メールの画面。
  • これまでに返済を受けた日付と金額の一覧。
  • 相手の代理人弁護士の名前と連絡先、裁判所から届いた書類。


よくあるご質問


自己破産されたら、貸したお金は1円も戻らないのですか

 同時廃止で終わり、免責が確定した場合は、原則として請求できなくなります。一方で、管財事件で配当がある場合や、非免責債権に当たる場合、連帯保証人がいる場合には、一部または全部の回収を検討できることがあります。

免責が確定した後に「返してほしい」と伝えてもよいですか

 免責された債務を、本人が自分の意思で支払うことは妨げられないと解されています。ただ、返済を迫る言動を続けると、新たなトラブルの原因になるおそれがあります。非免責債権に当たる可能性がある場合は、伝え方も含めて弁護士に相談してから動くことをお勧めします。

相手が自己破産ではなく個人再生を選んだ場合はどうなりますか

 個人再生は、借金を大きく減らしたうえで、原則3年(最長5年)で分割して返していく手続です。貸した側は、減額された後の金額について、他の債権者と同じ割合で返済を受けることになります。こちらも債権の届出が必要になるため、裁判所や代理人から届く書類を確認してください。

関連する解説記事



 元恋人から自己破産を告げられても、手続の段階によって取れる手立ては異なります。手続が本当に始まっているのかを確かめ、債権者として名簿に載っているかを確認し、貸付を示す記録を整えておくことが、手続の中で権利を主張する前提になります。催促を重ねるより、早めに状況を整理するほうが、結果として選べる道が広がることがあります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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