受け子をしてしまった|自首・出頭の判断と弁護士同行の意味
この記事は、ストーカー規制法に基づく「警告」を警察から受けた側の方に向けたものです。ある日突然、警察署から連絡が来て警告書を渡された、あるいは自宅や勤務先に警察官が訪ねてきた、という状況を想定しています。
いちばん多い質問は「これで前科がつくのか」「このあと逮捕されるのか」の二つです。結論から言えば、警告そのものは刑罰ではないため、警告を受けただけで前科がつくことはありません。ただし、何も残らない・何も起きないという意味ではありません。
警告という手続がどういう性質のもので、どこに記録が残り、次にどの分岐があり得るのか。誤解が多い部分を、条文と警察の実務手続に沿って整理します。
まず結論|「警告」で前科はつかない
警告は刑罰ではなく、行政上の措置
警告は、ストーカー規制法第4条第1項に基づいて、警視総監・道府県警察本部長または警察署長が行うものです。内容は「更に反復してつきまとい等をしてはならない」という趣旨で、裁判所が言い渡す刑罰ではありません。
「前科」とは、一般に有罪判決が確定した記録を指します。刑事裁判を経ていない警告の段階では、この意味での前科はつきません。罰金も科されません。
「前歴」との関係
「前歴」は、犯罪の疑いで捜査の対象となった記録を指す言葉として使われます。警告は犯罪捜査そのものではなく行政上の措置ですから、警告を受けたことだけで当然に前歴になるわけではありません。
ただし、同じ事案について並行して捜査が行われていれば話は別です。この点はあとで詳しく触れます。
それでも「何も残らない」わけではない|警告の3つの残り方
前科がつかないという説明だけを受け取って安心してしまうと、判断を誤ることがあります。警告には、次の三つの現実的な効果があります。
1 警察の記録として登録される
各都道府県警察の事務要綱では、警告を行った場合、その内容を「ストーカー事案情報管理業務」と呼ばれるシステムに登録することとされています。相談の受理から警告・禁止命令等までの行政措置情報を一元的に管理する仕組みです。
つまり、警告は口頭の注意で終わる話ではなく、警察内部に記録として残ります。同じ相手方から次の相談があったとき、あるいは別の事案で警察が関与したときに、この記録が前提として参照されることになります。
2 銃砲刀剣類の所持許可の欠格事由になる
あまり知られていませんが、警告には法令上はっきりした不利益がひとつあります。
銃砲刀剣類所持等取締法第5条第1項第15号は、ストーカー規制法第4条第1項の警告を受けた日から起算して3年を経過していない者を、銃砲刀剣類の所持許可の欠格事由として定めています。禁止命令やその延長処分を受けた場合も同様です。
猟銃や空気銃を所持している方、これから許可を受けようとする方にとっては、警告そのものが直接の障害になります。狩猟・射撃を趣味とする方や、業務で銃砲を扱う方は、この点を早めに確認しておく必要があります。
3 次の判断の前提になる
警告は「一度限りの注意」ではなく、その後に禁止命令を出すかどうか、事件として立件するかどうかを判断するときの土台になります。警告を受けた後の行動は、警告前とは違う重さで評価されると考えておくのが現実的です。
警告を受けるとき、実際には何が行われるのか
警察の事務要綱では、警告の手続はおおむね次のように定められています。制度を知らないまま対応すると不安が増すため、流れを押さえておきましょう。
- 申出または職権による検討。従来は相手方からの申出が必要でしたが、2025年12月30日施行の改正で、申出がなくても警察の職権で警告ができるようになりました
- 事前調査。行為をしたと認められる方や関係者から事情を聴かれることがあります
- 警告書(国家公安委員会規則の様式)の作成
- 警告を受ける方に対し、理由を説明したうえで警告書を直接交付。申出があった場合は、原則として申出から1週間以内に行うこととされています
- 警告に違反したときは禁止命令等が行われる旨の説明
- 受領確認書の作成を求められる
- 警告を行った旨と日時が、申出をした側に通知される
緊急を要して警告書を交付する余裕がないときは、口頭で警告を行い、後から書面を交付する取扱いもあります。
受領確認書へのサインは断れるのか
実務上、警告書を受け取ったことを示す受領確認書の作成を求められます。これを拒否すること自体は可能ですが、拒否した場合は弁解等を聴取して事情聴取書が作成される、と要綱に定められています。
つまり、サインを拒んでも警告がなかったことにはならず、拒否したという事実と、そのとき述べた言い分が記録に残るという結果になります。事実関係に争いがあるなら、その場で感情的に反論するより、言うべきことを整理してから述べたほうが後々の材料になります。
警告に従う法的義務はあるのか
警告そのものには、違反した場合の罰則が定められていません。この点をとらえて「警告に法的拘束力はない」と説明されることがあり、法律の建て付けとしてはそのとおりです。
ただし、これを「従わなくてよい」と読むのは危険です。理由は二つあります。
理由1 禁止命令に進む
警告に従わず行為が続けば、次の段階として禁止命令等が検討されます。警告書を交付する際にも、その旨が説明されることになっています。禁止命令には罰則が付いています。
理由2 警告と刑事事件は別のルートで並行し得る
ここが最も誤解されやすい点です。警告は「事件にしない代わりの措置」ではありません。事務要綱にも、警告の事前調査を捜査と並行して行う場合や、捜査に着手したため事前調査を中断する場合が想定されています。
ストーカー規制法第18条は、つきまとい等を反復する「ストーカー行為」自体を処罰対象としています。警告が出されたということは、その時点で複数回の行為が確認されている可能性があるということでもあり、警告の有無にかかわらず立件され得ます。実務でも、警告や禁止命令の段階を踏まずに検挙に至るケースがあると説明されています。
警告と禁止命令はどう違うのか
| 項目 | 警告(第4条) | 禁止命令等(第5条) |
|---|---|---|
| 行う主体 | 警察本部長・警察署長 | 公安委員会(実務上は委任) |
| 事前手続 | 事前調査 | 原則として聴聞。緊急時は事後に意見の聴取 |
| 違反の罰則 | 定めなし | あり(下記) |
| 有効期間 | 定めなし | 命令の日から1年(延長あり) |
| 不服申立ての教示 | なし | 審査請求・取消訴訟ができる旨を教示 |
| 銃砲刀剣類の所持許可 | 3年間の欠格事由 | 3年間の欠格事由 |
罰則は次のとおりです(2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されています)。
- ストーカー行為をした場合=1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(第18条)
- 禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合=2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(第19条)
- 禁止命令等に違反した場合=6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(第20条)
次に何が起きるのか|4つの分岐
分岐1 行為をやめた場合
接触を完全に断ち、警告の内容に沿った状態が続けば、多くの場合はその段階で手続が先に進むことはありません。警告に有効期間の定めはありませんが、期間が満了して自動的に消えるものでもなく、行動が変わることが実質的な区切りになります。
分岐2 禁止命令へ進む場合
禁止命令等は、公安委員会が行う行政処分です。原則として聴聞の手続があり、意見を述べる機会が与えられます。緊急を要する場合には聴聞を経ずに発せられ、行われた日から15日以内に意見の聴取が行われる扱いです。
禁止命令等を交付する際には、審査請求や取消訴訟ができる旨が教示されます。警告と違い、争うための手続が制度として用意されている点が大きな違いです。
分岐3 刑事事件になる場合
被害届や告訴が出されれば、捜査が行われます。逮捕される場合もあれば、在宅のまま取調べを受ける場合もあります。検察官が起訴し、有罪判決が確定すれば、そこで初めて前科がつきます。
ストーカー行為罪は親告罪ではないため、告訴がなくても、また告訴が取り消されても、起訴されることはあり得ます。もっとも実務上、被害者との示談が成立し、処罰を求めない意思が示されていることは、起訴・不起訴の判断に影響する事情として扱われています。
分岐4 民事の請求
刑事手続とは別に、慰謝料の請求や、裁判所への接近禁止の仮処分の申立てがなされることもあります。刑事で不起訴になっても、民事の責任がなくなるわけではありません。
警告を受けたあとに避けたほうがよい行動
- 相手に直接連絡して誤解を解こうとする。事情がどうであれ、それ自体が新たな「つきまとい等」と評価されるおそれがあります
- 共通の知人や家族を介して伝言する。第三者経由でも同じ評価を受けることがあります
- 警告を取り下げるよう相手に求める。この働きかけ自体が問題視された例が指摘されています
- 相手のSNSを見に行く、別アカウントで様子を確認する
- 位置情報の共有設定を残したままにする、GPS機器や紛失防止タグを付けたままにする。2025年12月30日から、紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得も規制対象に加わりました
- やり取りの履歴を消す。事実関係を説明する材料まで失うことになりかねません
いま整理しておきたいこと
- 警告書の記載を正確に読む。誰に対する、どの行為についての警告なのかを確認します
- 接触経路を洗い出して遮断する。電話、メッセージアプリ、SNS、共通の知人、位置情報の共有、勤務先や自宅の周辺を通る動線まで含めて点検します
- これまでの経緯を時系列で書き出す。日付、場所、やり取りの内容を、記憶が新しいうちに整理しておきます
- 心当たりがない場合も、直接反論しない。相手に伝えるのではなく、記録と資料を整えます
- 銃砲刀剣類の所持許可がある場合は、期限や手続への影響を確認します
身に覚えがない・事実が違うと感じるとき
警告に納得できないという相談は少なくありません。制度上、押さえておくべき点が二つあります。
一つは、警告には取下げや撤回の規定がなく、警告を受けた側の申出によって取り消される仕組みが用意されていないことです。もう一つは、裁判で争えるかという問題です。この点については、警告は取消訴訟の対象となる行政処分には当たらないと判断した裁判例(大阪高裁令和6年6月26日判決)があります。警告に従う義務がないことの確認を求める訴えも認められませんでした。
もっとも、行政処分に当たらない場合でも、違法な行政指導によって損害を受けたとして国家賠償を求める道が閉ざされるわけではありません。また、禁止命令の段階に進んだ場合には、聴聞で意見を述べ、審査請求や取消訴訟で争う手続が用意されています。
いずれにしても、争う場合であっても相手方に直接接触しないという原則は変わりません。主張は、記録と資料を通じて、代理人を介して行うことになります。
会社や家族に知られるのか
警告を受けたこと自体を、警察が勤務先や学校に通知する仕組みは設けられていません。この点は過度に心配する必要はありません。
ただし、次のような場合は事情が異なります。
- 行為の舞台が勤務先や取引先である場合。相手方が社内で相談すれば、事実上知られる可能性があります
- 2025年12月30日施行の改正により、被害者に対する援助の努力義務の主体に、被害者を雇用する者や在学する学校の長が加えられました。相手方が勤務先・学校に相談し、勤務先側が対応する経路が制度として位置づけられています
- 逮捕・勾留に至った場合。身体拘束が長引けば、欠勤の説明が難しくなります
- 銃砲刀剣類の所持許可の更新や新規申請の場面では、欠格事由の確認を通じて表に出ます
なお、履歴書の賞罰欄は、一般に前科など有罪判決に関する事項を指すものとして扱われており、警告を受けたことがこれに当たるとは考えにくいところです。ただし、業種によって独自の申告事項が定められていることがあるため、迷う場合は個別に確認してください。
弁護士に相談する意味
この段階で弁護士に相談する実益は、大きく三つあります。
第一に、窓口を移せることです。本人が接触できない状況でも、代理人であれば謝罪や示談の申入れを行えます。直接接触というリスクを避けながら、解決に向けた働きかけができるのはこの点だけです。相手方が応じないこともありますが、その場合でも「接触せずに済む」状態を保てます。
第二に、見通しを立てられることです。警告だけで終わる事案なのか、禁止命令や立件まで想定すべき事案なのかは、行為の態様や回数、相手方の意向によって変わります。警察から任意の出頭を求められた場合の対応や、供述の際に注意すべき点についても、事前に整理しておけます。出頭に弁護士が同行することも可能で、当事務所では全国対応が可能です(移動にかかる費用は別途となります。深夜・早朝に対応できる場合もあります)。
第三に、相談内容が外に出ないことです。弁護士には守秘義務があり、相談したこと自体を含めて外部に漏らすことはありません。初回無料相談を設けており、受付は24時間対応しています。
よくある質問
警告はいつ消えますか
警告に有効期間の定めはなく、一定期間の経過で自動的に効力がなくなるという性質のものではありません。他方、銃砲刀剣類の所持許可との関係では、警告を受けた日から3年という期間が定められています。
相手に謝罪したいのですが
直接の連絡は避けてください。謝罪の意思がある場合は、弁護士を通じて伝える方法を検討することになります。相手方が受け取りを望まないこともあり、その場合は接触しないことがそのまま最善の対応になります。
警告を受けた後、引っ越せば終わりますか
距離を取ること自体は有効ですが、問題の本質は行為をやめることにあります。転居しても、連絡やSNSでの接触が続けば評価は変わりません。
相手からの申出がないのに警告されました
2025年12月30日施行の改正により、相手方からの申出がなくても、警察の職権で警告ができるようになりました。申出をためらう被害者への対応を想定した改正です。したがって、相手が申し出ていないはずだ、という理由だけで警告が違法になるわけではありません。
まとめ
- 警告は刑罰ではないため、警告を受けただけで前科はつかない
- ただし警察の記録には登録され、銃砲刀剣類の所持許可については3年間の欠格事由になる
- 警告違反自体に罰則はないが、禁止命令に進む道と、刑事事件として立件される道は別に存在し、並行し得る
- 禁止命令には罰則と有効期間(1年)があり、争うための手続も用意されている
- 警告後に最も避けたいのは、相手方への直接・間接の接触。争う場合も同じ
- 判断に迷う段階で相談しておくほうが、選べる選択肢は多い
警告を受けた直後は、事情を説明したい、誤解を解きたいという気持ちが強くなる時期です。その気持ちが、いちばん取り返しのつきにくい行動につながることがあります。まずは接触を止め、そのうえで何を、どこに、どう伝えるかを組み立ててください。


