【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は2026年9月時点の法令に基づいています。賃貸物件の鍵の取扱いや費用負担は契約内容や管理会社の運用によって異なりますので、実際の対応は個別にご確認ください。


 別れて数か月が経つ。合鍵を返してほしいと伝えても、「もう捨てた」「今度会ったときに渡す」と言われたまま話が進まない。帰宅すると物の位置が少し違う気がする。確信はないけれど、鍵を持たれているという事実だけで落ち着かない。そうしたご相談を受けることがあります。

 この状況がやっかいなのは、まだ何も起きていない段階では動きにくいことだと思います。実際に入られたわけではないから警察に相談するほどでもない気がして、けれども放っておくのは怖い。その間に、返してもらうという目標だけが宙に浮いていきます。

 この記事では、鍵を持たれたままにしておくことの意味、返還を求めるときの伝え方と記録の残し方、返ってこない前提で鍵を替えるという判断、賃貸物件での手順と費用、そして実際に入られた形跡があるときに取れる手段を、順に整理します。

合鍵を持たれたままにしておくことの危うさ

 まず、法律上の位置づけを押さえておきます。

 正当な理由がないのに人の住居に侵入した者は処罰されるとされています(刑法130条前段)。ここでいう「侵入」について、最高裁は、管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであり、立入りを拒否する意思をあらかじめ積極的に明示していない場合であっても、建物の性質や使用目的、管理の状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入りを管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、罪の成立を免れないとしています(最高裁昭和58年4月8日判決)。

 つまり、合鍵を持っているかどうかと、入ってよいかどうかは別の話です。鍵を渡した経緯があっても、こちらの意思に反して入れば問題になり得ます。

それでも、伝えておく必要がある理由

 もっとも、元交際相手のケースには特有の事情があります。かつては出入りを認めていたわけですから、相手の側から「まだ入ってよいと思っていた」という言い分が出やすいのです。

 先ほどの判例の枠組みでも、容認していないと合理的に判断されるかどうかが問われます。ですから、立ち入らないでほしいという意思を、はっきりと、記録に残る形で伝えておくことに意味があります。これは鍵を返してもらうこととは別に、それ自体で価値のある作業です。

 なお、鍵に限らず、別れた後にこちらの生活が把握され続けている状態については、恋人に行動を監視される・スマホを覗かれる|プライバシー侵害と安全な別れ方で整理しています。

返還を求めるときの伝え方と、やり取りの残し方

 「鍵返して」とだけ送っても、話は進みません。伝える内容を分けて書くことをおすすめします。

  1. 鍵を返してほしいこと。期限と、受け渡しの方法。
  2. 今後、部屋に立ち入ることを承諾しないこと。
  3. 複製した鍵があれば、それも処分してほしいこと。
  4. 期限までに返却がない場合は、鍵を交換すること。


 このうち2番目が要です。1番目だけを伝えて相手が応じなかった場合、何も残りません。2番目まで書いておけば、返却が実現しなくても、立入りを拒否していた事実が記録に残ることになります。

「返してもらう」ことの限界

 ここで一つ、知っておいていただきたいことがあります。

 ご自身が渡した鍵は、もともとご自身の物ですから、返還を求めることができます。しかし、相手が自分で作った複製の鍵は、相手が費用を出して作った相手の物です。返還を求めるという枠組みには乗りにくく、処分をお願いするにとどまります。

 そして、複製が作られたかどうかを外から確認する方法はありません。「返してもらう」という目標には、この時点ですでに限界があるということになります。

記録の残し方

 やり取りは、メッセージアプリで行うのが現実的です。日時が自動で残り、送信した内容がそのまま証拠になります。電話で伝えた場合は、その後に「先ほどお伝えしたとおり」という形で同じ内容を文字で送っておいてください。

 応答がまったくない場合には、内容証明郵便を使うという選択もあります。ただし、相手を刺激する可能性もありますので、関係の経緯を踏まえて判断する必要があります。

受け渡しの方法

 直接会って受け取ることは、できれば避けてください。会う口実を与えることになりますし、その場でのやり取りが新たなトラブルの発端になることがあります。郵便受けへの投函、書留での郵送、共通の知人を介した受け渡しなど、二人きりにならない方法を先に指定しておくのが安全です。

返ってこない前提で、鍵を替えるという判断

 率直に申し上げると、鍵が返ってきたとしても、複製の有無は分かりません。安心を確実に取り戻す方法は、交換だけです。

交換を検討したほうがよい場面

 次のいずれかに当てはまる場合は、返却を待たずに交換することをおすすめしています。

  • 鍵を返してほしいと伝えてから、2週間以上進展がない。
  • 相手が部屋の中の状況を知っているような発言をしたことがある。
  • 過去に、留守中に入られたと思われることがある。
  • 別れ方が一方的で、相手が納得していない様子がある。
  • 自分が在宅していない時間帯を、相手が把握している。


交換の範囲と、あわせて考えること

 鍵の交換というと大がかりに感じられますが、多くの場合はシリンダーと呼ばれる鍵穴の部分を交換すれば足ります。国土交通省のガイドラインでも、鍵の紛失があった場合の工事の単位はシリンダーの交換とされています。ドアごと替える必要はありません。

 あわせて、次の点も見直しておくと効果が上がります。補助錠の追加、ドアスコープの内側からのふさぎ方、そしてスマートロックや共有アプリに残っている相手の権限の削除です。物理的な鍵だけを替えても、アプリの権限が残っていれば意味がありません。

 鍵以外に生活の情報が伝わり続ける経路については、スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるで整理しています。

賃貸物件で鍵を替える場合の手順と費用

 賃貸の場合、勝手に交換してよいかという問題が出てきます。

先に管理会社へ連絡する

 賃貸住宅の契約では、貸主の承諾なく建物の改造や模様替えを行ってはならないと定められているのが通常です。無断でシリンダーを交換すると、この点で問題になるおそれがあります。連絡してから進めてください。

 伝える内容は、元交際相手に合鍵を持たれているので交換したいという一点で足ります。関係の経緯まで説明する必要はありません。管理会社が動く根拠は、鍵の管理という建物の問題だからです。

費用は誰が負担するのか

 国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、鍵の取替えについて、破損や紛失がない場合は入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であるとして貸主の負担とすることが妥当とし、紛失または破損による取替えは借主の負担としています。

 もっとも、これは退去時の原状回復についての整理です。入居を続けたまま、こちらの事情で交換する場合は、借主の負担となることが多いのが実情です。金額は鍵の種類によって幅がありますので、見積もりを取ってから判断してください。

 あわせて、退去時に元のシリンダーへ戻すのか、交換したまま引き渡すのかを、この段階で管理会社と決めておくと、後の精算でもめずに済みます。

分譲や持ち家の場合

 玄関の鍵は自分の判断で交換できますが、オートロックの共用エントランス用のカードキーや暗証番号は管理組合の管理下にあります。相手がこれらを持っている可能性がある場合は、管理組合や管理会社に別途相談してください。

実際に入られた形跡があるときに取れる手段

 入られたかもしれないと感じたとき、まずやることは記録です。

形跡残し方注意点
物の位置が変わっている気づいた時点で撮影する片づける前に撮る
なくなっている物がある品名と最後に見た日を書き出す捜し終えてから判断する
置かれている物があるそのまま撮影し、袋に入れて保管する素手で触らない
玄関周りの傷や跡日付が分かる形で撮影する外側と内側の両方を撮る
共用部の出入り管理会社に映像の保存を依頼する上書きされる前に頼む


 防犯カメラの映像を出してもらう手順や、管理会社に頼めることについては、自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで詳しく整理しています。

警察と、民事の請求

 立ち入られたことが確認できる場合、住居侵入として警察に相談することが考えられます。物がなくなっていれば窃盗、壊されていれば器物損壊という別の問題も生じます。

 なお、親族の間では一定の財産に関する罪について刑が免除される特例がありますが、婚姻届を出していない元交際相手は、この特例の対象になりません。「元交際相手だから警察は動かない」ということにはなりません。

 民事の面では、無断で立ち入られたことについて損害賠償を求めることが考えられ、そのために支出した鍵の交換費用を請求の対象に含めることも検討できます。ただし、立入りの事実を示す材料が必要になりますので、やはり記録が出発点になります。

確かめに行かないこと

 相手が持っているかどうかを確かめるために、相手の家を訪ねる。この対応は避けてください。今度はご自身の立場が問われることになりかねません。確認は、記録と手続に委ねてください。

どの順で動くか

 最後に、順序を整理します。

  1. 返却と立入り拒否の意思を、記録に残る形で伝える。期限を切る。
  2. 期限を待つ間に、鍵の種類を調べ、交換の見積もりを取っておく。
  3. 賃貸であれば管理会社に連絡し、交換の可否と費用の扱いを確認する。
  4. 期限を過ぎたら、返却の有無にかかわらず交換する。
  5. スマートロックや共有サービスの権限を見直す。
  6. 入られた形跡があれば、片づける前に撮影し、警察への相談を検討する。


 2番目を先に置いたのは、返ってこなかったときに動き出しが遅れないようにするためです。待っている期間を、準備の期間として使ってください。

 鍵を持たれているという状態は、実害が出ていなくても、家にいる時間の落ち着きを削っていきます。返してもらうことにこだわりすぎず、自分の側で完結する手段に切り替えるほうが、結果として早く落ち着くことが多いと感じています。どこまでやるべきか判断がつかない段階でも、一度整理する機会をお持ちいただければと思います。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
 当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
 早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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