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配偶者の相手が同性だったとき、多くの方が最初に抱くのが「これは不貞行為にあたるのか」という疑問です。同じ問いに見えても、離婚を求める場面、慰謝料を請求する場面、示談書や誓約書に書かれた言葉の意味が問われる場面では、答えの出方が異なります。この記事では、その三つの場面を分けたうえで、実際に争いになりやすい点を整理します。なお、離婚そのものの手続きには立ち入りません。
「不貞行為にあたるのか」は場面ごとに答え方が変わる
「不貞行為」という言葉は、法律の条文でも日常会話でも使われますが、指している中身は同じではありません。まず、それがどの場面での問いなのかを分けておくと、考えるべきことがはっきりします。
| 場面 | 手がかりになるもの | そこで問われること |
|---|---|---|
| 離婚を求める | 民法770条1項1号 | 「不貞な行為」という離婚事由にあたるか |
| 慰謝料を請求する | 民法709条・710条 | 権利や法律上保護される利益が侵害されたか |
| 書面の約束を守らせる | 示談書・誓約書の文言 | その言葉が同性との関係も含んでいるか |
同性間の関係については、この三つで判断の道筋がそれぞれ違います。順に見ていきます。
離婚を求める場面での「不貞な行為」
民法770条1項1号は、配偶者に「不貞な行為」があったときを、離婚の訴えを起こせる場合の一つとしています。この「不貞な行為」について、最高裁判所昭和48年11月15日判決は、配偶者のある者が自由な意思にもとづいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうと述べました。
示された定義は、異性間の関係を念頭に置いたもの
この定義は離婚事由をめぐる事案の中で示されたもので、当時想定されていたのは異性間の性的関係でした。そのため、同性との関係が1号の文言にそのまま収まるのかについては、なお議論の余地があると説明されることがあります。
1号にあたらないとしても、主張が終わるわけではない
仮に1号にあたらないと判断されたとしても、民法770条1項には「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があるときという定めが置かれています。この場合は、同性との関係が夫婦の関係にどのような影響を与えたのかを、その後の経過も含めて示していく形になります。
なお、この規定は令和8年4月1日から施行された改正により条文の番号が変わり、従来5号とされていた「その他婚姻を継続し難い重大な事由」は4号になりました。古い解説では5号と書かれていることがあるため、引用する際にはご注意ください。
慰謝料を請求する場面での考え方
条文には「不貞行為」という言葉が出てこない
慰謝料の根拠になるのは民法709条と710条です。709条は、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者が損害を賠償する責任を負うと定めるもので、「不貞行為」という言葉自体は使われていません。この場面で問われているのは、行為が特定の呼び名にあてはまるかどうかではなく、何が侵害されたのかという点です。
守られているのは婚姻共同生活の平和
最高裁判所平成8年3月26日判決は、この場面で保護されているのが婚姻共同生活の平和の維持であるという考え方を前提としています。侵害された側から見たとき、相手が同性であるか異性であるかによって、家庭に生じる影響が当然に変わるわけではありません。
同性間の行為についても不貞行為にあたるとした裁判例
東京地方裁判所令和3年2月16日判決は、妻と性的な関係にあった同性の相手に対し、夫が損害賠償を求めた事案です。裁判所は、不貞行為を婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為ととらえたうえで、性行為(挿入行為)の存在が不可欠とはいえず、夫婦共同生活を破壊しうる性行為類似行為も含まれると述べ、同性間の行為についても不貞行為にあたるとして請求の一部を認めました。
あてはまるかどうかと、金額がどうなるかは別の問題
もっとも、この裁判例で認められた金額は、離婚に至っていないことなどの事情も考慮され、低い水準にとどまりました。一方で、同性間か異性間かで精神的な損害の程度が変わるといえるのかについては疑問を示す見方もあり、考え方が固まっているとまではいえない状況です。金額は個々の事情によって動くため、一つの裁判例の結果をそのままご自身の事案にあてはめることはできません。
書面に書かれた「不貞行為」という言葉はどこまで届くか
三つ目は、示談書・合意書・誓約書に書かれた言葉の意味が問われる場面です。ここでは法律の解釈ではなく、当事者が何を約束したのかが出発点になります。
「異性と二人きりで会わない」と書いてあった場合
再構築のための誓約書や、関係を持った相手との示談書には、接触や連絡を禁じる条項が置かれることがあります。その文言が「異性」を前提に書かれていると、同性との関係が生じたときに、約束の対象に含まれるのかどうかが争いになります。書いた側がどのような意図であったかにかかわらず、まずは文言から出発して読まれるという点に注意が必要です。
言葉の範囲を先に決めておく
こうした行き違いは、条項の中で言葉の意味を定めておくことで小さくできます。相手方の性別を限定しない書き方にするか、禁止したい行為を具体的に書き出すかのいずれかです。違約金の定めがある条項では、対象がはっきりしていないと、そもそも支払義務が生じたのかという入り口の段階で争いになります。
実際に争いになりやすいのは「同性かどうか」ではない
外形からの推認が一段働きにくい
異性間の事案では、二人でホテルに入った、宿泊を伴う旅行に行ったといった外形から、性的な関係があったと推し量る道筋が使われてきました。同性間の場合は、同じ外形について「親しい友人どうし」という説明が成り立つ余地が残りやすく、この道筋がそのままの形では働きにくくなります。
| 手元にある事実 | そこから言いやすいこと | 返ってきやすい説明 |
|---|---|---|
| 二人での宿泊 | 長い時間を二人で過ごしたこと | 友人としての旅行だった |
| 同じ部屋に長時間いた | 関係が親密であること | 悩みを聞いていただけだ |
| 身体的な接触が写った画像 | 接触があったこと | 挨拶や励ましの範囲だ |
| やり取りの文面 | 感情のやり取りがあったこと | 表現が大げさなだけだ |
一方で、対象となる行為の範囲は狭くない
先に触れた裁判例は、挿入を伴う性行為があったことを不可欠とはしていません。同性間の事案では、性行為そのものを直接示す材料がそろわないことが少なくありませんが、身体的な接触を含むやり取りの積み重ねから判断される余地が残されている点は、請求する側にとって現実的な意味を持ちます。
相手方に請求する場合は、知っていたかどうかが別に問われる
配偶者ではなく関係を持った相手方に請求するときは、その人が「相手には配偶者がいる」と知っていたか、知らないことに落ち度があったかが別に問われます。これは同性間かどうかとは関係なく必要になる要素です。
進め方によっては、請求する側が責任を問われることがある
性的指向は、本人の同意なく他人に伝えてよい事柄ではありません。勤務先や家族に知らせると告げて支払いを求めるような進め方は、請求そのものの当否とは別に、こちら側の責任が問われることにつながりかねません。
請求を受けた側が考えること
「同性だから不貞行為にあたらない」だけでは終わりにくい
以前は、不貞行為は異性との関係に限られるという前提で語られることがありました。しかし慰謝料の場面では、これまで見てきたとおり、侵害された利益の側から判断されるため、この言い分だけで結論が決まるとは考えにくくなっています。
争える点は場面ごとに違う
同性であることを正面から争うのではなく、次のような点を一つずつ確かめていくことになります。
- どこまでの行為があったといえるのか。
- 関係が始まった時点で、夫婦の関係がすでに破綻していたといえないか。
- 相手に配偶者がいることを知っていたか、知らないことに落ち度があったか。
- 請求できる期間が過ぎていないか(民法724条)。
その場で認めない、書面はよく読む
事実と違う内容をその場で認めてしまうと、後から取り消すことは簡単ではありません。示された書面に署名を求められた場合も、認める対象が何なのか、清算の範囲がどこまでなのかを確かめてからにしてください。
よくあるご質問
配偶者から「同性なのだから浮気ではない」と言われました
場面を分けて考える必要があります。慰謝料の場面では、同性であることだけを理由に責任が生じないとはいいにくくなっています。離婚を求める場面では、1号の「不貞な行為」として構成するか、婚姻を継続し難い重大な事由として構成するかという、主張の組み立ての問題になります。
誓約書に「異性と二人で会わない」とあります。同性の相手にも及びますか
文言をどう読むかの問題になり、当然に及ぶとはいい切れません。作り直す機会があるのであれば、性別を限定しない書き方に改めておくほうが、後の争いを避けやすくなります。
性的な関係があったとまでは示せません。それでも請求できますか
身体的な接触の内容や交際の程度によっては、婚姻共同生活の平穏を害したとして請求が認められる余地があります。ただし、どこまでの事情が必要かは事案によって幅があります。
相手が「既婚だと知らなかった」と言っています
知らなかったという主張自体は成り立ち得ますが、それが通るかどうかは、二人の関係の持ち方や、周囲の状況から気づける事情があったかどうかによって判断されます。
まとめ
- 「不貞行為にあたるのか」は、離婚を求める場面・慰謝料を請求する場面・書面の言葉が問われる場面で答え方が変わる。
- 離婚の場面では、1号の「不貞な行為」にあたらないとしても、婚姻を継続し難い重大な事由として主張する道が残されている。
- 慰謝料の場面で条文が問うのは行為の呼び名ではなく何が侵害されたかであり、同性か異性かで結論が分かれるとは考えにくくなっている。
- 同性間の行為についても不貞行為にあたるとした裁判例があり、挿入を伴う性行為があったことは不可欠とはされていない。
- 実際の争点は、同性かどうかよりも、どこまでの行為があったと示せるかに移りやすい。
- 示談書や誓約書では、対象となる関係の範囲を文言で決めておくと行き違いが減る。
- 請求を受けた側は、その場で認めず、争える点が場面ごとに違うことを踏まえて対応を決める。
同性間の関係と不貞行為についてのご相談
同性間の関係が絡む事案では、判断の枠組みが定まりきっていない部分があり、どの場面の問いとして組み立てるかによって、必要な準備も進め方も変わります。請求する側であれば、集めた材料が何を示せるものなのかを見極める必要がありますし、請求を受けた側であれば、争える点と争えない点を早い段階で切り分けることが大切です。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、慰謝料を請求したい方と請求を受けた方の双方からのご相談をお受けしています。事情を伺ったうえで、現時点で取り得る選択肢とその見通しを整理してお伝えします。おひとりで抱え込まず、どうぞお早めにご相談ください。


