【不貞慰謝料】三者間で示談する場合の設計
本記事は、2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。ストーカー規制法については、令和7年12月30日施行の改正(警察の職権による警告の創設、被害を受けている方の勤務先による援助の努力義務の追加など)を反映しています。
「アプリで知り合った相手に、自分から勤務先を話してしまった」「一度会っただけなのに、職場の名前を言い当てられた」。マッチングアプリをきっかけとするご相談では、まだ何も起きていない段階で、このような不安を打ち明けられる方が少なくありません。反対に、やり取りをやめた後に「職場に行く」と告げられ、急いでご相談に来られる方もいます。
インターネットで調べると、身バレを防ぐアプリの設定や、職場の人にアプリの利用を知られたときの受け答えを紹介する記事が数多く見つかります。それ自体は役に立つ情報ですが、相手に勤務先を知られた後、その情報が連絡や来訪、要求に使われるおそれがある場面で何ができるのかは、あまり整理されていません。
この記事では、アプリで知り合った相手に勤務先を知られた段階に絞り、相手の出方の見方、今のうちに整えておくこと、勤務先に伝えるかどうかの判断を解説します。実際に職場へ押しかけられた場合の対応や、「職場にバラす」と言われた場合の違法性は、それぞれ別の記事で詳しく扱っています。
勤務先を知られたこと自体は、まだトラブルではない
勤務先を知られたと気づくと、それだけで落ち着かなくなるものです。ただ、相手が勤務先を知っていること自体は、法的な問題ではありません。問題になるのは、その情報を使って連絡や来訪、要求が行われる場面です。まずは、どのような経路で知られたのかを振り返ることから始めます。
知られた経路を振り返る
ご相談で多い経路は、次のようなものです。
- 会話の中で、自分から会社名や業種、勤務地を話していた。
- アプリのプロフィールの職業欄や自己紹介から、勤務先が絞り込まれた。
- 会ったときに、名刺や社員証、制服、社名入りの持ち物を見られた。
- 本名や写真から、SNSや会社のウェブサイトを検索された。
- 会った後に後をつけられた、または位置情報を取得された。
経路によって、次に起きることの見立てが変わる
自分から話していた場合や、プロフィールから推測された場合は、相手が特別な行動をとったわけではありません。この場合は、今後の相手の出方を見ながら準備を整える段階といえます。
一方で、後をつけられた、位置情報を取得されたといった経路が疑われる場合は、その行為自体がストーカー規制法の規制対象となる可能性があります(ストーカー規制法2条1項1号、同条3項)。位置情報がどこから漏れているのか分からない場合は、【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるもあわせてご覧ください。知られた事実そのものよりも、どの経路で知られ、相手がその情報をどう使おうとしているかによって、とるべき対応が変わります。
相手の出方を4つの段階で見る
勤務先を知られた後の相手の出方は、おおむね次の4つの段階に分けて考えることができます。いま自分がどの段階にいるのかを把握しておくと、反応しすぎることも、対応が遅れることも避けやすくなります。
| 段階 | 相手の様子の例 | 対応の中心 |
|---|---|---|
| 知っているだけ | 勤務先の話題が出たが、それ以上の動きはない | 経緯を記録し、今後の連絡方針を決めておく |
| ほのめかし | 勤務先の名前や場所に、繰り返し触れてくる | 反応を抑え、やり取りを保存する |
| 予告 | 「職場に行く」「会社に電話する」と告げてくる | 警察や弁護士への相談、勤務先への共有を検討する |
| 要求との結びつき | 会わなければ、払わなければ職場に知らせると迫る | その場で応じず、相談を先にする |
ほのめかしの段階では、反応を抑える
勤務先の話題を繰り返し持ち出されると、つい「なぜ知っているのか」「職場には来ないでほしい」と強く反応したくなります。しかし、強い反応は相手に「この話題は効果がある」と伝えることにもなりかねません。この段階では、話題に深入りせず、やり取りを保存しておくことを優先します。
予告や要求と結びついたとき
「職場に行く」という予告に、交際の継続や面会、金銭の支払いの要求が結びついている場合は、状況が変わります。職場に知らせることで社会的な評価を下げると示して要求をすることは、内容や態様によって脅迫罪(刑法222条)、強要罪(同法223条)、恐喝罪(同法249条)に当たる可能性があります。告げられた内容ごとの違法性の考え方は、「家族と職場にバラす」と言われた|告知の中身別に見る違法性で詳しく解説しています。予告や要求が出てきた段階では、その場で答えを返さず、相談を先にすることが大切です。
職場への連絡や来訪に関わる法律
相手が実際に職場へ連絡したり来訪したりした場合、どのような法律が関わるのかを知っておくと、相談の際にも状況を整理しやすくなります。
ストーカー規制法は「勤務先」を明記している
ストーカー規制法は、規制の対象となる「つきまとい等」として、勤務先の付近での見張りや押しかけ、勤務先の付近をみだりにうろつくことを挙げています(ストーカー規制法2条1項1号)。面会や交際の要求(同項3号)、拒まれているのに続く電話やメッセージ(同項5号)も対象です。
この法律は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を満たす目的で行われる行為を対象としています(同法2条1項)。交際していたことは要件ではないため、アプリで数回やり取りをしただけの相手や、一度会っただけの相手でも対象になりえます。これらの行為を繰り返すと「ストーカー行為」として処罰の対象となります(同法18条)。
また、令和7年12月30日施行の改正により、警察は被害を受けている方からの申出がなくても、職権で警告ができるようになりました(同法4条)。
目的が金銭だけの場合は、別の法律で考える
好意の感情とは関係なく、金銭を得ることだけが目的と見られる場合は、ストーカー規制法の対象になりにくいことがあります。その場合でも、前に述べた恐喝罪などのほか、職場に虚偽の情報を伝えたり、大声を出して業務を妨げたりすれば、偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪(刑法233条、234条)、名誉毀損罪(同法230条)が問題になります。民事上も、損害賠償の請求(民法709条、710条)や、連絡・来訪の差止めを求める手続を検討できます。
実際に職場へ連絡や来訪があった後の対応は、元恋人が職場へ電話・押しかけ|会社を巻き込む嫌がらせへの対応と職場・自宅に押しかけられた|住居侵入・不退去・業務妨害の使い方で扱っています。交際の有無にかかわらず、勤務先での見張りや押しかけには法律上の対応手段があることを知っておくと、落ち着いて準備を進めやすくなります。
今のうちに整えておくこと
まだ大きな動きがない段階こそ、後から必要になる材料を整えておく時期です。何かが起きてから集めようとしても、アプリの仕組み上、残っていないことがあります。
やり取りと相手の情報を残す
アプリで知り合った相手は、本名や住所が分からないことも少なくありません。後で警察に相談したり、弁護士が相手を特定したりするときの手がかりになるよう、次のものを保存しておきます。
- 相手のプロフィール画面(ニックネーム、年齢、写真、自己紹介、表示されている会員番号など)。
- アプリ内のメッセージの全体(勤務先に触れた部分だけでなく、前後の流れも含めて)。
- LINEなど別の連絡手段に移っていれば、そのアカウント名やID、電話番号。
- 会った日時と場所、そのときの相手の様子。
- 勤務先を知られたと気づいた経緯を、日付とともに書いたメモ。
ブロックや退会をすると、それまでのやり取りが表示されなくなるアプリもあります。保存の順序については、【男女トラブル・マッチングアプリ】退会するとやり取りは消えるのか|証拠を残す順序が参考になります。相手の本名などが分からない場合の考え方は、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で解説しています。
連絡を終えるなら、一度だけ明確に伝える
やり取りを終えたい場合は、「今後は連絡をとるつもりはありません。勤務先への連絡や来訪も控えてください」といった形で、短く一度だけ伝えます。理由の説明を重ねたり、相手を責める言葉を返したりすると、かえってやり取りが長引くことがあります。反対に、相手をなだめるために会う約束をしたり、あいまいな返事を続けたりすることも避けたほうがよいでしょう。
ブロックは、保存を終えてから行います。連絡手段を断たれた相手が、勤務先に矛先を向けることも考えられますので、すでに予告がある場合は、ブロックの前に勤務先への共有や相談先を決めておくと安心です。
アプリの運営会社への通報
多くのアプリには、迷惑行為を運営会社に知らせる通報機能があります。通報によって相手のアカウントが利用停止になることはありますが、アプリの外での連絡や来訪まで止められるわけではありません。運営会社に何を求められるのかは、【男女トラブル・マッチングアプリ】アプリ運営会社に責任を問えるのか|利用規約と免責条項の読み方で扱っています。保存してからブロックする、通報はアプリの中の対策と位置づける、という順序を意識しておくと、後の手続で困りにくくなります。
勤務先に先に伝えておくかどうか
ご相談の中で迷われる方が多いのが、勤務先に事情を伝えるかどうかです。アプリの利用を職場に知られたくないという気持ちは自然なものですが、伝えておくことで防げることもあります。
伝えておくことで勤務先にお願いできること
事前に事情を共有しておけば、次のような対応を勤務先にお願いしやすくなります。
- 代表電話や受付で、在籍の有無や勤務時間を答えないようにしてもらう。
- 相手が来訪したときに一人で応対させず、必要に応じて警察へ連絡してもらう。
- 出退勤の時間や勤務場所、座席の位置などに配慮してもらう。
- 社員紹介ページなどに載っている氏名や写真の扱いを見直してもらう。
令和7年12月30日施行の改正により、ストーカー行為等を受けている方を雇用する者も、その方への援助に努めるべき立場に位置づけられました(ストーカー規制法9条3項)。具体的な措置を義務づけるものではありませんが、勤務先が警察と連携して従業員を守ることが、法律の上でも想定されるようになっています。会社側の対応については、【ストーカートラブル】職場や店舗で客からつきまとわれる|従業員を守るために会社ができることもご参照ください。
伝える相手と範囲を絞る
伝える場合でも、職場の全員に知らせる必要はありません。直属の上司や総務・人事の担当者など、対応をお願いしたい人に絞って伝えます。内容も、「個人的なトラブルの相手が勤務先を知っており、連絡や来訪のおそれがある」という事実と、相手の特徴、お願いしたい対応にとどめれば足ります。アプリで知り合った経緯や、やり取りの中身まで詳しく説明する必要は、通常はありません。
相手が勤務先を知っているだけで、ほかに動きがない段階であれば、伝えずに様子を見るという判断もありえます。予告が出てきた段階では、相手が動く前に共有しておくほうが、勤務先も落ち着いて対応しやすくなります。
警察と弁護士、どちらに相談するか
相談先は、いま何が起きているか、何を目指すかによって分けて考えます。両方に並行して相談することもできます。
警察への相談が向いている場面
勤務先の付近で待ち伏せされている、後をつけられているなど、身の安全に関わる場面では、まず警察に相談します。差し迫った危険があるときは110番、急ぎでなければ警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署に相談できます。保存しておいたやり取りや経緯のメモを持参すると、状況を伝えやすくなります。
弁護士への相談が向いている場面
相手からの連絡を止めたい、職場への連絡を思いとどまらせたい、金銭の要求にどう対応すべきか分からないといった場面では、弁護士にご相談ください。弁護士が代理人として連絡の窓口になれば、ご本人が相手と直接やり取りする必要がなくなります。今後の接触をしない旨の合意を結ぶことも考えられます(接触禁止条項の書き方|今後の連絡を止める設計)。本名を相手に知られていない場合の進め方は、本名を明かさずに示談できるか|代理人限りでの合意の可否で扱っています。
一度食事をしただけの相手から職場に知らせると迫られ、金銭を求められた事例としては、【解決事例】食事に行っただけで「妻と職場にバラす」と脅され約40万円を請求された事案を、支払いゼロで解決があります。代理人を立てる意味については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味もあわせてご覧ください。身の安全に関わることは警察へ、相手との交渉や合意の形づくりは弁護士へ、と役割を分けて考えると、相談先を選びやすくなります。
よくあるご質問
一度会っただけの相手でも、ストーカー規制法の対象になりますか。
ストーカー規制法は、交際していたことを要件としていません。好意の感情や、それが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で、勤務先での見張りや押しかけ、拒まれた後の連絡などが行われれば、一度会っただけの相手や、会ったことのない相手でも対象になりえます(ストーカー規制法2条1項)。
職場に知られたくないので、相手の要求に少しだけ応じてもよいですか。
要求に応じれば一時的に収まることもありますが、「応じれば言うことを聞く」と受け取られ、要求が続くきっかけになることもあります。特に、職場に知らせると示して金銭を求められている場合は、支払う前に一度ご相談ください。応じるかどうかを判断するのは、それからでも遅くありません。
勤務先を教えたのは自分なので、相手が職場に来ても仕方がないのでしょうか。
勤務先を相手に話したことは、職場への連絡や来訪を受け入れたことを意味しません。どのような経緯で知られたとしても、拒んでいるのに勤務先で見張りや押しかけが行われれば、法律上の対応を検討できます。ご自身を責めるよりも、いまできる準備に目を向けていただければと思います。
まとめ
- 勤務先を知られたこと自体は法的な問題ではなく、その情報を使った連絡や来訪、要求が問題になる。
- 後をつけられた、位置情報を取得されたといった経路は、それ自体が規制対象となる可能性がある(ストーカー規制法2条1項1号、同条3項)。
- 相手の出方は「知っているだけ」「ほのめかし」「予告」「要求との結びつき」の4段階で見ると、対応を決めやすい。
- 職場に知らせると示した要求は、脅迫罪・強要罪・恐喝罪が問題になりうる(刑法222条、223条、249条)。
- ストーカー規制法は勤務先での見張りや押しかけを明記し、交際の有無を問わない(ストーカー規制法2条1項)。
- やり取りと相手の情報は、ブロックや退会の前に保存しておく。
- 勤務先も被害を受けている従業員への援助に努める立場に位置づけられたため、予告があれば早めの共有を検討する(ストーカー規制法9条3項)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。アプリで知り合った相手との連絡の止め方や、勤務先への連絡を予告されたときの対応など、状況に応じた進め方をご一緒に考えます。
勤務先を知られて不安を感じている方も、すでに職場への連絡や金銭の要求を受けている方も、相手が動く前の段階からご相談いただけます。


