【解決事例】風俗店の利用客からの借入れに端を発するトラブル|弁護士の介入により不当な利息請求を拒絶し動画消去・分割返済で関係を遮断した事例
配偶者の不貞を疑って探偵や調査会社に行動調査を依頼すると、その費用は数十万円に達し、事案によっては百万円を超えることもあります。「不貞がなければ支払う必要のなかった出費なのだから、相手に負担してほしい」と考えるのは自然なことです。もっとも、この点についての裁判所の判断は、近年むしろ慎重な方向で整理されつつあります。この記事では、調査費用の負担が争われるときに何がどの順序で判断されるのかを、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。
「請求できるか」は一つの問いではない
調査費用の話は、次の三つを混ぜてしまうと見通しが悪くなります。裁判所が損害として認めるか、損害としては認められなくても慰謝料の算定で考慮されるか、話し合いの中で相手が支払いに応じるかの三つです。
このうち、報道や広告で目にする「請求できた」という説明は、三つ目の話であることが少なくありません。裁判所の判断と、当事者の合意で決まる話とは、成り立ち方が違います。本記事では、まず裁判所がどう判断しているのかを整理し、そのうえで話し合いの場面での扱いに触れます。
裁判では二つの関門で判断される
不貞行為は民法上の不法行為にあたり、これによって生じた損害の賠償を求めることができます(民法709条、710条)。ただし、支出したお金がすべて「損害」として相手の負担になるわけではありません。賠償の対象になるのは、その不法行為と相当因果関係のある損害に限られます。
この相当因果関係は、実務上、次の二つの関門に分けて検討されます。
| 関門 | 何が問われるか | 近時の判断の傾向 |
|---|---|---|
| 通常生ずべき損害といえるか | 不貞行為があれば通常はその費用が生じる、という関係にあるか | 疑いが生じたときに直ちに調査会社を利用することが一般的とまではいえない、として否定する判断が示されている |
| 特別の事情による損害として予見できたか | 調査を利用することになると、不貞をした側が予見できたといえるか | 他の事情からも相手方を知り得たとみられる場合には、予見可能性も否定されやすい |
そして、この二つを越えて損害と認められた場合でも、支出額の全部ではなく、相当と認められる範囲に限られる、というのが三つ目の絞り込みになります。
近時の裁判所の見方
令和6年に東京高等裁判所が示した判断は、この問題を考えるうえで重要なものとされています。調査会社による調査は主として不貞行為の証拠を集めるために行われるものであるところ、配偶者に不貞の疑いが生じた場合に直ちに調査会社を利用することが一般的であるとまではいえず、どの範囲の調査を依頼するかも一義的に明らかとはいえない、として、調査費用は不貞行為から通常生ずべき損害にはあたらないと判断されました。あわせて、その事案では他の事情からも不貞の相手方を知り得たとみられることから、特別の事情による損害としての予見可能性も否定されています。
この事件の第一審は、不貞相手の氏名や住所の確認に要した部分も含めて調査費用の一部を損害と認めていました。控訴審でその判断が変更された形になります。同種の考え方は地方裁判所の裁判例にも見られ、支出額が高額であっても損害としては認めない、という判断が積み重なっています。
認められにくいとされるときの理由
裁判例で示される理由づけは、大きく三つの型に整理できます。
| 理由の型 | 述べられている内容 |
|---|---|
| 証拠を集める方法の選択は請求する側に委ねられている | どのような方法で証拠を収集するかは請求する側の判断によるものであり、支出額がそのまま相手方の負担になるとはいえないという整理 |
| 専門的な知見を要する調査とはいえない | 不貞行為の有無は性的関係があったかどうかという事実であって、その存否や関係者の確定のために専門的な知見に基づく調査や判断が必要とはいえないという整理 |
| 調査が立証に寄与した程度が低い | すでに他の証拠があった、相手方が当初から不貞を認めていた、といった事情から、調査の必要性が乏しかったとされる整理 |
三つ目は、調査を始めた時点で何をどこまで把握していたかという事実に左右されます。すでに確信を持っていた、家族も異変に気づいていた、相手方のSNSの投稿を把握していた、といった経緯が認定されると、調査の必要性が否定される方向に働きます。
一部でも認められた例に共通する事情
他方で、調査費用の一部を損害と認めた裁判例もあります。そうした事案には、次のような事情が重なっていることが多く見られます。
- 配偶者に問いただしたものの否定され、他に証拠を得る手立てがなかったこと。
- 自宅にカメラを設置するなどの方法を試みても、有力な証拠を得られなかったこと。
- 調査の結果、不貞行為やその相手方を裏づける具体的な資料が実際に得られたこと。
- 支出額が、調査の内容や期間に照らして過大とはいえないこと。
もっとも、これらがそろっている事案でも、認められるのは支出額の一部にとどまる例が多く、全額が認められた例は限られます。調査期間のうち不貞関係が確認できた期間の割合をもとに、範囲を絞る判断が示されることもあります。
弁護士費用は一部が認められるのに、調査費用は認められにくい
不法行為の被害者が訴えを提起せざるを得ず、訴訟追行を弁護士に委任した場合について、最高裁判所は、事案の難易、請求額、認容された額その他の事情を考慮して相当と認められる額の範囲内に限り、弁護士費用も不法行為と相当因果関係のある損害にあたると判断しています(最高裁昭和44年2月27日判決)。実務では、認容額の1割程度を目安とする運用が定着しているとされます。
同じ「請求のためにかかったお金」でありながら扱いが分かれるのは、その支出をせざるを得ないといえるかどうかの評価が違うためです。訴訟の追行については、一般の方が単独で十分な訴訟活動を行うことは難しく、弁護士に委任するのが通常だという前提が置かれています。これに対し、証拠の集め方には幅があり、調査会社の利用が当然の前提とまではみなされていない、という整理です。
損害として通らなくても、慰謝料の算定で考慮されることがある
調査費用を独立の損害としては認めない一方で、そのような出費をせざるを得なかったという事情を慰謝料の算定にあたって考慮すると述べた裁判例があります。調査を要したこと自体が、被った精神的苦痛の内容を示す事情として受け止められている、と読むことができます。
ただし、これは支出額がそのまま金額に上乗せされるという意味ではありません。慰謝料は複数の事情を総合して決められるため、考慮されたとしても、金額のどこにどれだけ反映されたのかは判決文からは判別できないのが通常です。調査費用をかけた分だけ回収できる、という見通しを前提に依頼を決めることは避けたほうがよいでしょう。
場面によって扱いが変わる
同じ調査費用でも、どの場面で議論するかによって扱いは変わります。
| 場面 | 調査費用の扱い | 留意点 |
|---|---|---|
| 判決 | 相当因果関係のある損害と認められた範囲に限られる | 近時は認められにくい方向で整理されている |
| 訴訟上の和解・調停 | 費目を分けず、解決金として一本にまとめられることが多い | 内訳が示されないため、調査費用が反映されたかどうかは判別しにくい |
| 示談交渉 | 当事者が合意すれば、金額に織り込むことができる | 相手方に応じる義務はなく、代理人がついている場合は裁判例を前提に断られることがある |
示談交渉では合意さえ成立すれば内容の自由度は高くなります。ただし、調査費用を別項目として明示すると論点が増え、交渉が長引くこともあります。総額を一本の解決金として提示し、その金額の中で調整するという進め方をとることもあります。
請求を受けた側から見た調査費用
慰謝料の請求とあわせて調査費用を求められた場合、慰謝料本体の話とは切り分けて検討することになります。確認したいのは次のような点です。
- 調査を始めた時点で、相手方が不貞をどの程度把握していたか。すでに認めていた、他の証拠があったという経緯であれば、必要性が争点になります。
- 調査の結果が、不貞行為やその相手方の特定に実際に結びついているか。
- 調査の期間や対象が、目的に照らして広すぎないか。不貞と無関係な期間の調査分まで含まれていないか。
- 支出額が、調査の内容に照らして相当といえる水準か。
- 請求されている金額の内訳。着手金、実費、成功報酬といった内訳が示されているか。
なお、調査費用の支払いに応じないという対応と、慰謝料の支払義務の有無とは別の問題です。調査費用の点だけを取り上げて交渉が止まってしまうことのないよう、全体の解決像を見ながら判断することをおすすめします。
調査を依頼する前に確認しておきたいこと
手元の資料で足りるかを先に見極める
すでに一定の資料がそろっている場合、追加の調査が結果として費用倒れになることがあります。何がどこまで示せているのかを整理したうえで、調査が必要な範囲を絞り込むという順序が現実的です。依頼の前に一度、弁護士に手持ちの資料を確認してもらうという方法もあります。
書面で内容と金額を確認する
探偵業者には、契約を締結しようとするときにあらかじめ重要事項を記載した書面を交付して説明する義務と、契約を締結したときに契約の内容を明らかにする書面を交付する義務があります(探偵業の業務の適正化に関する法律8条1項、2項)。契約時の書面には、調査の内容・期間・方法、報告の方法と期限、支払わなければならない金銭の額と支払時期・方法、契約の解除に関する定めなどを記載することとされています。
料金体系が成功報酬を含む場合には、何をもって「成功」とするのかを書面で確認しておくことが大切です。撮影はできたものの相手方の氏名や住所が分からない、という状態では慰謝料請求に進めないこともあります。
資料を保管しておく
契約書面、見積書、領収証、調査報告書は保管しておきます。調査費用を主張する場合はもちろん、金額の相当性が争われる場面でも、支出の内容を示す資料が手元にあるかどうかで説明のしやすさが変わります。
よくあるご質問
配偶者と不貞相手のどちらに請求するかで結論は変わりますか
調査費用が損害といえるかどうかの判断枠組み自体は共通しています。もっとも、不貞相手に対する請求では、その方から見て調査費用の支出を予見できたといえるかが問われる場面があり、この点が争点になることがあります。
示談書に調査費用の項目を入れれば支払ってもらえますか
合意が成立すれば、その内容に従った支払いを求めることができます。ただし、相手方が合意しない限り成立しません。裁判例の傾向を知っている代理人が就いている場合、調査費用の項目を分けて示すと難色を示されることもあります。
調査費用は慰謝料とは別に時効を考える必要がありますか
いずれも同じ不貞行為から生じる損害賠償の問題として扱われますので、時効の枠組みも共通して考えることになります。期間の数え方については、時効を扱った記事をご覧ください。
まとめ
- 調査費用が相手の負担になるかは、通常生ずべき損害といえるか、特別の事情による損害として予見できたか、という二つの関門で判断されます。
- 近時の裁判例は、疑いが生じたときに直ちに調査会社を利用することが一般的とまではいえない、として否定する方向で整理されています。
- 否定の理由は、方法の選択は請求する側に委ねられている、専門的な調査を要する事柄とはいえない、立証への寄与が低い、という三つの型に整理できます。
- 一部が認められた例では、問いただしても否定された、他に手立てがなかった、有意な成果が得られた、といった事情が重なっています。
- 損害として認められない場合でも、そのような出費を要したことが慰謝料の算定で考慮された例があります。
- 判決、和解・調停、示談交渉では扱いが異なり、話し合いの場面では合意の有無が結論を左右します。
- 依頼の前に手持ちの資料で足りるかを見極め、契約書面で調査の範囲と金額を確認しておくことが、費用倒れを避けることにつながります。
不貞慰謝料の請求・被請求をご検討中の方へ
調査費用をどう扱うかは、慰謝料の金額、証拠の内容、話し合いで進めるか裁判まで見据えるかといった要素と切り離せません。すでに調査を依頼された方も、これから検討される方も、現在お持ちの資料でどこまで示せるのかを確認したうえで方針を決めていただくのがよいと考えます。
当事務所では、不貞慰謝料を請求する立場の方からのご相談も、請求を受けた立場の方からのご相談もお受けしています。調査費用を含めた請求内容の見方や、今後の進め方について、お気軽にご相談ください。


