【解決事例】名義を貸した部屋から交際相手が退去しない場合の対処法|弁護士が交渉で明渡しを実現した事例
「マッチングアプリで知り合った相手にお金を渡してしまった。相手とは連絡が取れないが、運営会社に何も言えないのか」というご相談があります。反対に、「身に覚えのない理由でアカウントを止められ、購入したポイントも使えなくなった。問い合わせても定型の返信しか来ない」という形でご相談に来られる方もいます。
こうした場面では、「利用規約に責任を負わないと書いてあるのだから難しい」という説明と、「そんな条項は無効だから運営会社に請求できる」という説明の両方を目にします。どちらもそれ自体が誤りというわけではありません。ただ、この二つの説明の間には、実際の判断で効いてくる段階が抜けています。免責条項が働かないことと、運営会社が責任を負うことは、同じではないからです。
この記事では、マッチングアプリの利用規約と免責条項をどう読むか、どのような場面なら運営会社に責任を問う余地があるのかを整理します。相手の会員に対する慰謝料請求や返金請求そのものの進め方、刑事手続の流れについては扱いません。
「運営会社に責任を問えるのか」は、二つの問いに分かれる
この問いは、性質の違う二つの問いが重なったものです。分けて考えないと、話がかみ合わなくなります。
一つ目は、規約にどう書いてあり、その条項が有効かという問い
利用規約には、会員同士のトラブルについて運営会社は責任を負わないという趣旨の条項が置かれているのが通常です。この条項が契約の内容になっているのか、なっているとして法的に有効なのかが、一つ目の問いです。
二つ目は、そもそも運営会社に落ち度があったのかという問い
仮に免責条項が無効と判断されても、それによって運営会社の責任が生まれるわけではありません。免責条項が外れれば、原則どおりの判断に戻るだけです。原則とは、契約上の義務に違反したか、不法行為といえる行為があったかを個別に検討するということです。
免責条項の有効性は入口の議論にすぎず、責任の有無は運営会社が何をしたか、何をしなかったかで決まります。後半で紹介する裁判所の考え方も、この二段構えになっています。
契約は誰と誰の間にあるのか
責任の議論に入る前に、当事者の関係を確認しておきます。登場するのは三者ですが、契約関係は次のようになっています。
| 関係 | 契約の有無 |
|---|---|
| 自分と運営会社 | 利用規約に基づく利用契約がある |
| 自分と相手の会員 | 契約関係はない |
| 運営会社と相手の会員 | それぞれ別の利用契約がある |
運営会社は相手を雇っているわけではない
相手とやり取りをして会う約束をしても、そこから生じる貸し借りや不法行為は当事者二人の間の問題です。従業員が仕事中に他人に損害を与えたときは雇い主が責任を負う場合がありますが(民法715条)、会員は運営会社に雇われているわけでも、指揮監督を受けているわけでもありません。運営会社側が偽の会員を用意していたような例外的な場面を除けば、この規定を手がかりにするのは難しいのが実情です。
利用規約は「定型約款」として扱われる
不特定多数の相手方と同じ内容で契約を結ぶためにあらかじめ用意された条項の総体は、定型約款と呼ばれます(民法548条の2第1項)。マッチングアプリの利用規約は、これに当たると考えられます。
読んでいなくても、合意したものとして扱われる
定型約款を契約の内容とする旨の表示があって取引に入った場合、個別の条項についても合意したものとみなされます。登録時に画面をスクロールせずに同意ボタンを押していたとしても、それだけで条項の拘束を免れるわけではありません。
それでも、合意から外れる条項がある
相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項のうち、取引の実情や取引上の社会通念に照らして信義則に反し、相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、合意をしなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。規約に書いてあれば何でも通るという構造にはなっていません。
内容を示すよう求めることができる
定型約款を準備した側は、取引の前や取引後の相当の期間内に相手方から請求があれば、その内容を示さなければなりません(民法548条の3)。退会後に規約が読めなくなった、改定前の規約が確認できないという場面では、この規定が手がかりになります。変更にも要件が定められています(同法548条の4)。
免責条項はどこまで効くのか
事業者と消費者の間の契約では、消費者契約法が免責条項の効き方を制限しています。マッチングアプリの利用契約は、通常は消費者契約に当たります。
責任を全部免除する条項
債務不履行によって生じた損害の賠償責任を全部免除する条項や、事業者が自ら責任の有無を決められるとする条項は無効とされています(消費者契約法8条1項1号)。不法行為による責任も同じ扱いです(同項3号)。「いかなる場合も当社は責任を負いません」という書き方は、この規定に触れます。
上限額を定める条項
賠償額の上限を月額料金相当額とするような一部免除の条項は、事業者に故意または重大な過失がある場合には無効です(同項2号・4号)。逆にいえば、軽い過失にとどまる場面での上限設定まで否定されているわけではありません。
「法令で認められる範囲で」という書き方
責任の一部を免除する条項であって、重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは無効とされています(消費者契約法8条3項)。令和4年の改正で加えられ、令和5年6月1日から施行された規定です。「法令に反しない範囲で責任を負わない」といった古い書き方は、これによって効力を失う可能性があります。
このほか、法令の任意規定と比べて消費者の権利を制限し、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされています(同法10条)。ただし、条項が無効になるのは規約の盾がなくなるという意味にとどまり、請求が通るかどうかは次に述べる落ち度の有無で決まります。
外国の法律を準拠法とする条項
海外の会社が運営している場合、規約の末尾に外国の法律を準拠法とする条項が置かれていることがあります。もっとも消費者契約には特則があり、消費者が自分の常居所地法の中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を表示したときは、その規定も適用されます(法の適用に関する通則法11条1項)。裁判の管轄についても、消費者が事業者を訴える場合の特則が置かれています(民事訴訟法3条の4第1項、3条の7第5項)。
裁判所は、場を提供する事業者の責任をどう見てきたか
マッチングアプリそのものを扱った公表裁判例は多くありませんが、参考になる判断があります。インターネットオークションの利用者が出品者による詐欺の被害を受けたとして運営事業者を訴えた事案です(名古屋地方裁判所平成20年3月28日判決、名古屋高等裁判所平成20年11月11日判決)。
「場を提供しているだけ」という主張は、それだけでは通らなかった
裁判所は、取引のきっかけを提供するにすぎない旨がガイドラインに書かれていることを理由に利用者間の取引について何ら責任を負わないとする事業者の主張を、そのままでは採用しませんでした。そのうえで、利用契約における信義則上、事業者は利用者に対して欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務を負うと述べています。
義務の中身は、時期と負担のバランスで決まる
もっとも、その義務の中身は固定されていません。裁判所は、サービス提供当時の社会情勢、関連法規、システムの技術水準、構築と維持管理に要する費用、導入による効果、利用者の利便性などを総合考慮して判断すべきだとしました。この事案で利用者側が主張した義務と、裁判所の判断は次のとおりです。
| 主張された義務 | 判断 | 理由として挙げられた点 |
|---|---|---|
| 被害への注意喚起 | 義務はあるが違反はない | トラブル事例を紹介するページを設けるなどの措置がとられていた |
| 第三者機関による信用評価の導入 | 義務は認めない | 評価を行う第三者機関が存在せず、導入は相当な困難を強いる |
| 出品者情報の提供・開示 | 義務は認めない | 虚偽の情報が想定され予防効果を期待しにくく、開示にも法令上の制約がある |
| 代金を預かる仕組みの義務づけ | 義務は認めない | 利用者の費用負担への影響が大きく、事業の運営に困難を強いる |
| 補償制度の充実 | 義務は認めない | 事後の補償であり、被害の事前防止には結びつきにくい |
結論として、利用者側の請求は認められませんでした。義務がないと言い切られたのではなく、義務を認めたうえでその中身を絞り込んだ判断です。オークションの事案ですからマッチングアプリにそのまま当てはまるとは限りませんが、場をつなぐ事業者の責任を考えるときの枠組みとして参照されています。
場面によって、問い方が変わる
運営会社の責任といっても、何が起きたのかによって、向ける相手も手がかりになる考え方も変わります。
| 場面 | 主に責任が向く相手 | 手がかりとなる考え方 |
|---|---|---|
| 会員同士の金銭トラブル | 相手の会員 | 運営会社は契約の当事者ではない |
| 運営会社が偽の会員を用意していた | 運営会社 | 運営会社自身の不法行為 |
| 登録情報や本人確認書類の流出 | 運営会社 | 利用契約上の義務違反 |
| 通報しても対応がない | 場合による | 規約上の措置の定めと、法令上の義務の有無 |
| アカウントの停止・強制退会 | 運営会社 | 利用契約の内容と、条項の有効性 |
運営会社自身が仕組みに関与していた場合
運営側が用意した人物が会員を装ってやり取りを続け、有料のメッセージ交換を重ねさせるという類型の被害については、各地で被害者側の弁護団が活動しており、運営会社だけでなく代表者個人や決済に関与した業者の責任まで認めた裁判例が積み重なっています。この場合は会員同士のトラブルではなく、運営会社自身の行為が問題になります。
通報したのに対応がない、という場合
インターネット異性紹介事業の届出をした事業者には、児童を誘引する書き込みが行われていることを知ったときに、公衆が閲覧できない状態にする措置を講じる義務があります。ただしこれは児童の保護を目的とした限られた場面についての義務であり、会員から寄せられる通報全般に及ぶものではありません。規約上の措置も、運営会社の判断で行うことができるという書き方になっていることが多く、対応しなかったこと自体が直ちに義務違反になるとは限らないのが現状です。
アカウントを止められた、という場合
停止や退会処分は、利用契約に基づく問題です。理由が示されないまま処分されることもありますが、事業者が自らの判断だけで自由に決められるとする条項については、先に述べた民法548条の2第2項や消費者契約法10条に照らした検討の余地があります。
相手の情報を運営会社から開示してもらえるのか
被害の回復を考えるとき、相手が誰なのかが分からなければ先に進めません。ここで期待されがちなのが発信者情報開示請求ですが、この制度には対象の限定があります。
開示請求の対象になるのは、不特定の者によって受信されることを目的とする送信、いわゆる特定電気通信によって権利を侵害された場合です(情報流通プラットフォーム対処法2条1号、5条)。一対一のメッセージは送信者と受信者以外が見ることのできない通信ですから、この枠組みには入りません。会員登録をすれば誰でも閲覧できるプロフィール欄の記載については別に考える余地がありますが、メッセージの中身を根拠に相手の氏名や住所を出させることは想定されていない制度です。
弁護士会を通じた照会という方法もありますが、通信の内容や通信相手については開示できないとする対応方針を公表している事業者もあり、得られる情報には限りがあります。相手を特定する方法そのものは、別のコラムで扱います。
支払ったお金は戻るのか
有料会員料金やポイントの扱いも、規約の書きぶりだけでは決まりません。まず、インターネット上での申込みは通信販売に当たり、訪問販売などと違ってクーリング・オフの規定は置かれていません。返金の可否は、契約の内容と、取消しや無効を主張できる事情があるかどうかで決まります。
また、購入したポイントが資金決済に関する法律上の前払式支払手段に当たる場合、発行者は原則として保有者に払戻しをしてはならないとされています(同法20条5項)。返金に応じないという対応が、規約の書き方ではなく法律上の制約に基づいていることがあるということです。他方で、発行の業務を廃止した場合などには払戻しの手続が義務づけられていますから(同条1項)、サービス終了の告知が出たときは申出期間の有無を確認しておくとよいと思います。なお、アプリストアを経由して課金した場合は、決済の窓口が運営会社とは別になっていることがあります。
今の段階でしておけること
時間が経つほど、確認できる材料は減っていきます。次の点は早い段階で整えておくと、後の検討がしやすくなります。
- 運営会社への問い合わせは記録の残る方法で行い、送信内容と返信を保存する。
- 通報した日時、通報の理由、返ってきた回答を時系列で書き出しておく。
- やり取りの画面は、相手のアカウント名と日時が一緒に写る形で保存する。
- 課金の履歴は、決済の明細とアプリ内の購入履歴の両方を残す。
- 登録した当時の規約と、現在の規約の両方を保存する。
- 退会するとやり取りが見られなくなることがあるため、退会の前に保存を済ませる。
よくあるご質問
規約を読んだ記憶がありませんが、それでも拘束されますか
定型約款を契約の内容とする旨が示されて取引に入った以上、読んでいないことを理由に条項の拘束を免れるのは難しいのが原則です。もっとも、相手方の利益を一方的に害する条項は合意から外れます。読んだかどうかではなく、条項の中身が問題になります。
通報の結果を教えてほしいと求めましたが、答えてもらえません
通報を受けた事業者が調査の結果や措置の内容を通報者に伝える義務は、一般には定められていません。相手方の個人情報に当たるという理由で回答が控えられることもあります。回答が得られないこと自体を落ち度とみるのは難しいのが実情です。
登録した後で規約が変わっていました
定型約款の変更には要件が定められており、相手方の一般の利益に適合するか、契約の目的に反せず変更に係る事情に照らして合理的であることが求められます(民法548条の4)。変更の時期と内容が分かる形で保存しておくと、後の検討に役立ちます。
まとめ
- 利用規約は定型約款として扱われ、読んでいなくても合意したものとみなされるのが原則である(民法548条の2第1項)。
- 相手方の利益を一方的に害する条項は、合意から外れる(同条2項)。
- 責任を全部免除する条項は無効とされ、故意や重大な過失がある場合の一部免除も無効とされている(消費者契約法8条1項1号から4号)。
- 免除の範囲を明らかにしていない条項も無効となり得る(同条3項・令和5年6月1日施行)。
- 条項が無効でも責任が生まれるわけではなく、事業者に落ち度があったかが別に判断される。
- 場をつなぐ事業者には信義則上の義務が認められているが、その中身は当時の技術水準や費用対効果を踏まえて絞り込まれてきた。
- 一対一のメッセージは発信者情報開示請求の対象外である(情報流通プラットフォーム対処法2条1号)。
マッチングアプリのトラブルでお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。運営会社に責任を問えるかどうかは、規約の文言だけでは決まりません。何が起きたのか、どの段階でどのような対応がとられたのかを時系列に沿って確認することで、向けるべき相手と使える手がかりが見えてきます。
被害を受けて回復の方法を探している方も、身に覚えのない処分を受けて対応に迷っている方も、判断がつかない段階でご相談いただいて差し支えありません。手元にある記録が失われる前に、一度ご確認いただければと思います。


