保護観察付き執行猶予の遵守事項と、取り消される場面

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

執行猶予の判決を受け、あわせて保護観察が付いた。そのときに最初に気になるのは、「何を守ればよいのか」と「どうなると取り消されるのか」という二つだと思います。この二つは一続きの話のようでいて、実際には別々の仕組みで動いています。

 守るべきことは一つの決まりではなく、性質の異なる三つの層に分かれています。取り消される場面のほうにも、新しい罪による入口と、遵守事項を守らなかったことによる入口という、進み方の違う二つの入口があります。どちらの入口に立っているのかによって、判断するのが誰なのか、本人が意見を述べられる場面があるのかどうかまで変わってきます。

 この記事では、保護観察付きの執行猶予を言い渡された方とそのご家族に向けて、求められる内容と、取消しが問題になる場面、そこで進む手続の順序を順に整理します。

保護観察が付いているかどうかは判決の主文で分かる

 執行猶予の判決には、刑の全部の執行を猶予する期間が書かれます。保護観察が付く場合には、これに続けて、猶予の期間中は保護観察に付する、という趣旨の一文が主文に加わります。この一文があるかどうかが、保護観察付きかどうかの分かれ目です。

 初めて執行猶予を受ける場合、保護観察を付けるかどうかは裁判所の判断にゆだねられています。これに対し、前に刑の執行を猶予されたことのある人に重ねて執行猶予が言い渡される場合には、保護観察が付くことになっています。判決を聞いた場ではどちらだったか記憶があいまいになりやすいため、判決の内容を書面で確かめておくと後の確認が楽になります。

保護観察が始まるのは判決の確定後

 保護観察は、判決が確定した後に、住んでいる地域を管轄する保護観察所のもとで始まります。最初に保護観察所へ出向いて保護観察官と面接し、住居を届け出て、担当する保護司が決まる、という順序が一般的です。この最初の手続の場で、守るべき内容を記載した書面が交付されます。

守るべきことは三つの層に分かれている

 保護観察中の生活を枠づけているのは、一つの決まりではありません。次の三つは、定める人も、守れなかったときの位置づけも異なります。

決まりの種類誰が定めるか守れなかったときの位置づけ
一般遵守事項法律が対象者全員に共通して定めている執行猶予の取消しが問題になる対象に含まれる
特別遵守事項保護観察所の長が一人ずつ具体的に定める執行猶予の取消しが問題になる対象に含まれる
生活行動指針保護観察所の長が必要に応じて定める指針に即して生活するよう努める位置づけとされている


 上の二つはまとめて遵守事項と呼ばれ、後で述べる取消しの規定が直接に結び付いています。三つ目の生活行動指針は、生活や行動の目安を示すもので、これに即して生活し行動するよう努める、という書き方になっています。

生活行動指針は取消しの直接の理由とはされていない

 特別遵守事項を定める規定には、違反した場合に執行猶予の取消しなどの処分がされることがあることを踏まえて具体的に定める、という趣旨がはっきり書かれています。一方、生活行動指針の規定にはそのような結び付きが書かれていません。両者は同じように書面で示されるため混同されやすいのですが、取消しの場面で直接に問題になるのは遵守事項のほうです

 もっとも、生活行動指針に沿わない生活が続けば、保護観察官や保護司の指導の内容は変わっていきます。取消しの理由に直結しないことと、放っておいてよいこととは別だとお考えください。

一般遵守事項に書かれていること

 一般遵守事項は法律に定められており、対象者が誰であっても内容は同じです。おおまかには次の五つです。

  • 再び罪を犯すことがないよう、健全な生活態度を保つこと。
  • 保護観察官や保護司から呼出しや訪問を受けたときは、これに応じて面接を受けること。
  • 仕事や通学の状況、収入と支出の状況、家庭の状況、交友関係など、生活の実態を示す事実について、求められたときは申告し、資料を示すこと。
  • 保護観察に付されたときは速やかに住居を定め、その住居を保護観察所に届け出ること。
  • 届け出た住居に住むこと、および、転居するときや7日以上の旅行をするときは、あらかじめ保護観察所の長の許可を受けること。


住まいと長期の外出だけは事前の手続がいる

 このうち実務で問題になりやすいのが、住居に関する項目です。届け出た住居に住むこと自体が守るべき内容とされているため、引っ越しは事後の報告では足りず、あらかじめ許可を受ける形になっています。7日以上の旅行も同じ扱いです。

 仕事の都合で長期の出張が入る、実家に長く戻る、といった予定は、旅行という言葉から連想しにくい場面ですが、家を空ける期間が長ければ確認が必要になります。動く前に担当の保護司か保護観察所に相談しておくのが安全です。

特別遵守事項は判決の後に決まる

 特別遵守事項は、一人ひとりの事情に応じて具体的に定められるものです。ここで誤解が生じやすいのですが、特別遵守事項の内容そのものは判決で決まるわけではありません。保護観察の開始にあたり、保護観察所の長が、判決を言い渡した裁判所の意見を聴いたうえで定めます。

 定められる事項の種類は法律に列挙されており、おおよそ次のような内容です。

定められる事項の種類内容の例
特定の行動をしないこと犯罪性のある者との交際、いかがわしい場所への出入り、遊興による浪費、過度の飲酒など、犯罪に結び付くおそれのある行動をしないこと
特定の行動を実行し継続すること仕事に就いて働くこと、学校に通うことなど
あらかじめ申告すること7日未満の旅行、仕事を辞めること、身分関係の変動など
専門的な処遇を受けること定められた手順に基づく、特定の傾向を改善するためのプログラムを受けること
指定された場所に宿泊すること指定された施設などに一定の期間宿泊して指導監督を受けること
社会に役立つ活動を行うこと公共の場所の清掃など、社会貢献活動に従事すること


途中で追加も変更も取消しもある

 特別遵守事項は一度決まったら終わり、というものではありません。保護観察の実施状況に応じて、後から定めたり変更したりすることができます。開始時以外に定めたり変更したりする場合には、保護観察所の所在地を管轄する裁判所に内容を示して意見を聴く手続が置かれており、その裁判所が相当でないという意見を述べたものは除かれます。

 逆に、必要がなくなったと認められれば取り消されます。生活が落ち着いてきた段階で内容が軽くなることもある、ということです。

内容は書面で交付される

 一般遵守事項も特別遵守事項も、内容を記載した書面が交付されます。口頭の説明だけで終わることはありません。手元にないという場合は、まず書面を探すところから始めてください。何を守ることになっているのかが分からないままでは、後で述べる手続に入ったときに事実関係を説明できなくなります。

取り消される場面は二つの入口に分かれる

 執行猶予が取り消される場面は、大きく二つに分かれます。新しい罪を理由とするものと、遵守事項を守らなかったことを理由とするものです。

入口きっかけ取消しの扱い
新しい罪猶予の期間内に更に罪を犯して有罪の判決を受けた拘禁刑以上の刑で、その全部について執行猶予が付かなかったときは取り消される。罰金にとどまったときは取り消すことができるとされている
遵守事項違反遵守すべき事項を守らず、その情状が重いと判断された取り消すことができるとされている


 二つの入口は、判断される場所が違います。新しい罪の入口では、まず新しい事件の裁判で結論が出て、その結論に応じて取消しが問題になります。遵守事項違反の入口では、新しい罪がなくても、それだけを理由とする独立した手続が動きます。この点が意外に知られていません。

新しい罪を理由とする場合

 猶予の期間内に更に罪を犯し、拘禁刑以上の刑を言い渡されて、その刑の全部について執行猶予が付かなかったときは、前の執行猶予は取り消されることになっています。この場合には、前の刑と新しい刑の両方を服することになります。

 新しい事件が罰金で終わった場合は扱いが変わり、取り消すことができる、という書き方になっています。取り消さないという判断があり得るということです。

再度の執行猶予の余地は2025年6月に広がった

 なお、執行猶予中に罪を犯した場合でも、重ねて執行猶予が言い渡される余地はあります。この点は2025年6月1日に施行された改正で見直され、言い渡される刑の上限が引き上げられたほか、前の執行猶予に保護観察が付いていた場合の扱いも改められました。改正前の説明が残っている資料も見かけますので、時期の新しい情報で確認されることをおすすめします。

遵守事項を守らなかった場合は「情状が重いとき」

 保護観察付きの執行猶予に特有なのが、こちらの入口です。遵守すべき事項を守らず、その情状が重いときは、執行猶予の言渡しを取り消すことができるとされています。

一度守れなかっただけで直ちに取り消されるわけではない

 条文が「情状が重いとき」という絞りをかけていることからも分かるとおり、形式的に守れなかった事実があれば直ちに取消しになる、という組み立てにはなっていません。もともと保護観察は、社会の中で生活しながら立ち直りを図るのが相当だと判断されたからこそ付されたものです。軽微な行き違いで直ちに施設収容に切り替えるのでは、その判断の意味が失われてしまいます。

 実際の運用でも、まずは事情を確かめ、指導や措置を重ねる段階が置かれます。取消しが現実の問題になるのは、面接に応じない状態が続く、届け出た住居からいなくなる、定められたプログラムを受けないまま経過するなど、保護観察を続けても目的を果たせないと見られる状況になった場合です。

 逆にいえば、連絡が取れている限りは立て直しの余地が残ります。行けなかった日があったこと自体より、その後の対応のほうが結果を左右します。

遵守事項違反で進む手続は三つの段階に分かれる

 遵守事項違反を理由とする取消しは、保護観察所の判断だけで完結するものではありません。次の三つの段階を通ります。

  1. 保護観察所が事実を確かめ、必要な指導や措置を検討する段階。
  2. 保護観察所の長が、取り消すべきものと認めるときに検察官へ書面で申し出る段階。
  3. 申出を受けた検察官の請求により、裁判所が取り消すかどうかを決定する段階。


保護観察所の段階

 最初の段階では、面接や連絡を通じて事実関係が確かめられます。ここは行政の判断が中心で、本人からみれば、事情を説明し、生活を立て直す姿勢を示すことができる場面です。仕事の都合で面接に行けなかった、体調を崩していた、といった事情は、この段階で伝わっているかどうかで意味が変わります。

検察官への申出の段階

 保護観察所の長が取り消すべきものと認めたときは、検察官に対して書面で申し出ることになっています。そして遵守事項違反を理由とする取消しの請求は、この申出に基づいてされなければならないとされています。検察官が単独で切り出せる筋道ではない、ということです。

裁判所の段階

 請求を受けた裁判所は、猶予の言渡しを受けた本人またはその代理人の意見を聴いたうえで決定します。さらに、遵守事項違反を理由とする請求については、本人または代理人が求めたときは口頭弁論を経なければならないとされており、その場合には弁護人を選任することができます。決定に不服があるときは即時抗告が認められています。

 つまり、この入口には本人の側から働きかけられる場面が制度として用意されています。書面が届いた段階でそのまま経過を待つのと、意見を述べ、必要に応じて口頭弁論を求めるのとでは、進み方が変わります。

出頭に応じない状態が続くと身柄の拘束に進むことがある

 あまり知られていませんが、遵守事項違反の手続には身柄の拘束が組み込まれています。

 保護観察所の長は、職務を行うために必要があるときは出頭を命じることができます。そのうえで、正当な理由がないのに届け出た住居に住んでいないとき、または、遵守事項を守らなかったことを疑うに足りる十分な理由があり、正当な理由なく出頭の命令に応じないときなどには、裁判官があらかじめ発する引致状によって引致することができるとされています。引致状の執行は保護観察官が行い、それが難しいときは警察官に嘱託されます。

引致の後の留置には日数の上限がある

 引致された後、検察官への申出をするかどうかの審理を始める必要があると認められたときは、刑事施設または少年鑑別所に留置されることがあります。留置の期間は、引致された日から起算して10日以内が原則です。期間中でも留置の必要がなくなれば釈放されます。

 その後、裁判所への請求がされたときは決定の告知まで留置が続き得ますが、通算して20日を超えることはできません。口頭弁論を求めた場合には、裁判所の決定でさらに10日を限度に延長されることがあります。なお、最終的に執行猶予が取り消されたときは、留置された日数は刑期に算入されます

 ここまで進む前に連絡を回復できるかどうかが、実際には大きな分かれ目になります。住まいを移した、電話番号が変わった、という事情がそのままになっていると、意図せず「所在が分からない」状態として扱われることがあります。

保護観察が途中で仮に解除されることがある

 保護観察は、猶予の期間が終わるまで同じ形のまま続くとは限りません。行政官庁の処分によって、途中で仮に解除される仕組みがあります。手続としては、保護観察所の長の申出により、地方更生保護委員会が決定で行います。

 仮に解除されている間は、遵守事項や指導監督に関する規定、検察官への申出や留置に関する規定の適用がなくなります。そして刑法上も、遵守事項違反を理由とする取消しの規定の適用については、その処分が取り消されるまでの間は保護観察に付されなかったものとみなされます。つまり、二つの入口のうち遵守事項違反のほうは、いったん外れることになります。

 もっとも、これで終わりというわけではありません。その後の行状から再び保護観察を実施する必要があると認められたときは、仮解除の処分は取り消されます。また、仮に解除されても執行猶予そのものが終わるわけではなく、新しい罪による入口は残ったままです。

取消しが決まると何が起きるのか

 取消しの決定が確定すると、猶予されていた刑がそのまま執行されます。新しい罪を理由とする場合には、新しい事件の刑とあわせて服することになります。

 このとき、ほかにも執行猶予中の刑があれば、その猶予もあわせて取り消される定めが置かれています。複数の判決を受けている場合は、影響が一つの事件にとどまらない点に注意が必要です。

 なお、取り消されることなく猶予の期間を経過すれば、刑の言渡しは効力を失います。保護観察も期間の満了とともに終わります。ただし、有罪判決を受けたという経歴そのものが消えるわけではなく、資格の制限などが期間の経過を境に変わる点は別に整理が必要です。

迷ったときに早めにしておきたいこと

 保護観察中に不安が生じたとき、動きやすいのは次のような点です。

  • 交付された書面を手元にそろえ、一般遵守事項と特別遵守事項の内容を確かめておくこと。
  • 面接に行けない事情ができたときは、当日を過ぎる前に保護観察所か保護司に連絡しておくこと。
  • 転居や長期の旅行の予定が出たときは、動く前に許可の要否を確認しておくこと。
  • 仕事を辞めた、住まいを移したなど、生活に変化があったときは、そのままにせず申告しておくこと。
  • 出頭の命令や裁判所からの書面が届いたときは、期限のあるものが含まれるため、早い段階で弁護士に相談すること。


 ご家族から見て本人と連絡が取りにくくなっている場合も、早い段階でご相談ください。所在が分からない状態が続くことが、手続を先に進める理由の一つとされているためです。

当事務所の対応について

 弁護士法人若井綜合法律事務所は、東京の池袋と新橋に事務所を構え、刑事事件の弁護活動に注力しています。初回のご相談は無料で、24時間受け付けています。ご本人からのご相談はもちろん、ご家族からのご相談にも対応しています。

 保護観察付きの執行猶予に関するご相談では、交付された書面の内容の確認、保護観察所とのやり取りの整理、取消しの請求がされた場合の意見の提出や口頭弁論の対応まで、状況に応じて対応します。地方の事件についても全国対応が可能です。なお、遠方への移動を伴う場合は交通費等を別途申し受けます。

まとめ


  1. 保護観察が付いているかどうかは、判決の主文に保護観察に付する旨の一文があるかで分かる。
  2. 守るべきことは、一般遵守事項、特別遵守事項、生活行動指針の三つの層に分かれている。
  3. 取消しの場面で直接に問題になるのは遵守事項であり、生活行動指針はそれ自体が取消しの理由とはされていない。
  4. 一般遵守事項のうち、転居と7日以上の旅行はあらかじめ許可を受ける必要がある。
  5. 特別遵守事項の内容は判決ではなく保護観察の開始にあたって定められ、途中で追加や変更、取消しもある。
  6. 取り消される場面には、新しい罪による入口と、遵守事項違反による入口の二つがある。
  7. 遵守事項違反による取消しは「情状が重いとき」に限られ、保護観察所、検察官、裁判所という三つの段階を通る。
  8. 裁判所の段階では、意見を述べること、口頭弁論を求めること、弁護人を選任すること、即時抗告をすることが認められている。
  9. 出頭に応じない状態が続くと、引致とその後の留置に進むことがあり、留置の日数には上限が定められている。
  10. 保護観察は途中で仮に解除されることがあり、その間は遵守事項違反を理由とする取消しの適用から外れる。


保護観察付きの執行猶予でお悩みの方へ

 保護観察は、施設に入らずに社会の中で立ち直ることを前提とした仕組みです。取消しの規定が置かれているのは事実ですが、そこに至るまでには段階があり、途中には本人の側から説明し、働きかけられる場面が用意されています。

 面接に行けない日が続いてしまった、住まいを移したまま届け出ていない、保護観察所から連絡が来たがどう答えてよいか分からない。そうした段階でのご相談は早すぎるということはありません。状況を整理したうえで、今できることをお伝えします。まずはお気軽にご連絡ください。

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専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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