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執行猶予の期間中に薬物事件で捜査を受け、「もう一度執行猶予がつくことはあるのか」と考えている方は少なくありません。制度としては、執行猶予の期間中に罪を犯した場合でも、もう一度刑の全部の執行を猶予する余地が残されています。これを「再度の執行猶予」といいます。
ただし、その要件は初めて執行猶予がつく場合よりも厳しく、薬物事件では特有の事情も重なります。さらに、2025年6月1日に施行された改正刑法で、この制度の要件と、猶予期間が経過した後の扱いが変わりました。ここでは、再度の執行猶予の要件、改正で変わった点、そして薬物事件で実際に壁になりやすい点を順に整理します。
再度の執行猶予とはどのような制度か
刑の全部の執行猶予は、前に拘禁刑以上の刑を受けたことがない方などを対象とする制度です(刑法25条1項)。これに対して、前の刑の執行を猶予されている期間中に罪を犯した場合でも、一定の要件を満たすときに限って、もう一度執行を猶予できると定めているのが刑法25条2項です。
条文上の要件は次の三つに整理できます。あわせて、薬物事件で問題になりやすい点を並べました。
| 要件 | 条文上の内容 | 薬物事件で問題になりやすい点 |
|---|---|---|
| 前の刑が猶予されていること | 前に拘禁刑に処せられたが、その刑の全部の執行を猶予された者であること | 前刑が実刑だった場合はこの規定の対象にならない |
| 今回の刑が2年以下であること | 2年以下の拘禁刑の言渡しを受けること | 複数の事実が同時に起訴されると、この枠に収まりにくくなる |
| 情状に特に酌量すべきものがあること | 通常の執行猶予より重い「特に」という限定が付く | 被害弁償という形を取りにくく、材料が生活面に限られる |
これらを満たす場合、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、刑の全部の執行が猶予されます。なお、再度の執行猶予がついたときは、猶予の期間中、必ず保護観察に付されます(刑法25条の2第1項)。初めての執行猶予では保護観察を付けるかどうかが裁判所の裁量に委ねられているのと異なる点です。
2025年6月の改正で変わった二つの点
令和4年の刑法改正(令和7年6月1日施行)により、再度の執行猶予の要件が緩和されました。変わったのは次の二点です。
・言渡しを受ける刑の上限が「1年以下」から「2年以下」に引き上げられた
・前の執行猶予に保護観察が付いていた場合でも、再度の執行猶予を付けられるようになった
改正前は、今回の判決で1年を超える刑が言い渡される事案では、再度の執行猶予という選択肢自体がありませんでした。改正によって、1年6月や2年の刑が言い渡される場合にも猶予の余地が生まれています。
また、改正前は、前の執行猶予に保護観察が付いていると、それだけで再度の執行猶予は認められませんでした。現在の条文で除外されているのは、再度の執行猶予によって保護観察に付された方が、その期間中に更に罪を犯した場合です。初めての執行猶予に保護観察が付いていた場合は、除外の対象から外れました。
どの事件に適用されるのか
改正法の適用範囲は経過措置で定められています。再度の執行猶予の要件については、前の刑が改正前の懲役・禁錮であった場合にも新しい規定を適用する旨の定めが置かれています。一方、後述する猶予期間の経過後の取扱いについては、施行日以後に執行猶予の言渡しがされた場合に適用されるとされています。前刑の判決がいつ言い渡されたものかによって結論が変わり得るため、判決書や前科調書で日付を確認しておくことが必要です。
最初の壁は「2年以下」に収まるかどうか
上限が2年に引き上げられたことで枠は広がりましたが、薬物事件では、この2年以下という枠に収まるかどうかが最初の分かれ目になります。薬物事件は、一つの事件で複数の事実が同時に起訴されやすい類型だからです。
次のような場合は、それぞれの事実が併合罪として処断され、刑が重くなる方向に働きます。
・所持と使用が併せて起訴されている
・使用の回数が複数にわたって起訴されている
・譲渡しや譲受けが含まれている
・営利の目的が付されている
・住居侵入や窃盗など、薬物以外の罪が同時に起訴されている
加えて、前刑と同じ種類の事件を繰り返している点は、量刑上、重く評価される事情として扱われます。逆に、起訴された事実の範囲が争いようのない形で確定しているのか、それとも訴因の一部について争う余地があるのかによって、宣告刑の見通しは変わってきます。まず何がどの範囲で起訴されようとしているのかを把握することが、この壁を検討する出発点になります。
なお、覚醒剤や麻薬の所持・使用について定められている刑は拘禁刑が中心で、罰金だけで終わる形は想定しにくい類型です。他の犯罪であれば「罰金にとどめて必要的な取消しを避ける」という道筋が検討されることもありますが、薬物事件ではその選択肢を取りにくいという事情があります。
二つ目の壁は「情状に特に酌量すべきもの」
初めての執行猶予は「情状により」猶予できると定められているのに対し、再度の執行猶予には「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という限定が付いています。前回すでに社会内での更生の機会が与えられ、その期間中に再び罪を犯したという経過があるため、判断はより厳しくなります。
猶予期間中に何があったかが見られる
見られるのは、今回の事件そのものだけではありません。前の判決を受けてから今回の事件に至るまでの期間を、どのように過ごしていたかが問われます。猶予期間の早い段階での再犯なのか、期間の大半を問題なく過ごした後の再犯なのか。前の裁判で述べた再発防止の内容が、その後どこまで実行されていたのか。こうした経過は、記録や関係者の証言という形で表れます。
判決の直前に整えた体制だけでは伝わりにくい
薬物事件には示談という手段がなく、被害弁償の形で情状を示すことができません。そのため、情状として示せる材料は、通院や相談の継続、生活や就労の状況、家族や勤務先による見守りといった生活面のものが中心になります。
この点で注意が必要なのは、判決に間に合わせて直前に作った体制は、それだけでは説得力を持ちにくいということです。いつから始まり、どの程度の頻度で続き、第三者がその事実を確認できる状態にあるのか。この三点が揃っているかどうかが、評価の分かれ目になります。
前の執行猶予に保護観察が付いていた場合
改正によって、保護観察付きの執行猶予中の再犯でも再度の執行猶予が可能になりました。もっとも、この場合には、新しい事件の裁判とは別に、前の執行猶予を取り消す手続が進むことがある点に注意が必要です。
保護観察に付された方が遵守すべき事項を守らず、その情状が重いときは、裁判所の裁量によって執行猶予が取り消されることがあります(刑法26条の2第2号)。この場合の取消しは、保護観察所の長の申出に基づいて検察官が裁判所に請求し、裁判所が決定で判断するという流れになります(刑事訴訟法349条)。
取消しの手続でも意見を述べる機会がある
この手続は判決とは別の「決定」の手続ですが、本人が何も言えないわけではありません。裁判所は、猶予の言渡しを受けた方またはその代理人の意見を聴いたうえで判断します。さらに、遵守事項違反を理由とする取消しの請求については、本人または代理人が請求したときは口頭弁論を経なければならないとされており、口頭弁論を経る場合には弁護人を選任することができます(刑事訴訟法349条の2)。取消しの決定に対しては即時抗告をすることもできます。
裁判所から意見を求める書面が届いた段階で、内容を確認しないまま回答してしまう例が見られます。この書面は、口頭弁論を求めるかどうかを選ぶ機会でもありますので、期限と記載内容を確認したうえで対応を決めることをおすすめします。
なお、保護観察は行政官庁の処分によって仮に解除されることがあり、仮解除されている間は、取消しや再度の執行猶予の要件との関係で保護観察に付されていなかったものとみなされます(刑法25条の2第2項、第3項)。
再度の執行猶予がつくかどうかで何が変わるか
今回の判決の内容によって、前の刑の執行猶予の扱いが変わります。
| 今回の判決 | 前の刑の執行猶予 | その後 |
|---|---|---|
| 実刑 | 必要的に取り消される(刑法26条1号) | 前の刑と今回の刑を続けて服役することになる |
| 罰金 | 裁量的取消しの対象にとどまる(刑法26条の2第1号) | 取り消されないこともあるが、薬物事件では選択肢になりにくい |
| 再度の執行猶予 | 必要的取消しの事由に当たらない | 社会内での生活を続けるが、猶予期間中は保護観察に付される |
つまり、再度の執行猶予が認められれば、今回の刑の執行が猶予されるだけでなく、前の刑の執行猶予も取り消されないという結果になります。実刑となった場合との差が大きいのは、この二重の効果があるためです。なお、執行猶予中の刑が複数ある場合には、一つの取消しが他の刑の猶予にも及ぶ定めが置かれています(刑法26条の3)。
猶予期間の満了が近い場合の扱い
執行猶予の期間を取り消されることなく経過すると、刑の言渡しは効力を失います(刑法27条1項)。この場合、次の判決は再度の執行猶予ではなく、初めての執行猶予と同じ枠組みで判断されることになり、猶予できる刑の上限も3年以下となります。
もっとも、2025年6月の改正で新しい仕組みが加わりました。猶予期間内に犯した罪について、期間内に起訴されているときは、期間が満了した後も一定の間は刑の言渡しの効力が続くものとされます(刑法27条2項)。判決を待つ間に猶予期間が満了することを見込んだ対応は、この改正によって難しくなりました。前述のとおり、この仕組みは施行日以後に執行猶予の言渡しがされた場合に適用されるとされています。
どちらの枠組みで判断されるかによって、検討すべき見通しは大きく変わります。前刑の確定日と猶予期間の満了日、今回の事件の日付、そして起訴の時期を並べて確認しておくことが重要です。
全部の猶予が難しい場合に検討される別の枠
刑の全部の執行を猶予することが難しい事案でも、刑の一部の執行を猶予するという枠組みがあります。刑期の一部を実際に服役し、残りの期間について執行を猶予する制度です。
薬物の使用等の罪については特則が設けられており、通常であれば対象にならない場合でも適用の余地があります。猶予の期間中は必ず保護観察に付され、依存からの回復に向けた処遇を受けることになります。ただし、これは実際に服役する部分を含む判決であり、全部の執行猶予より軽い判決ではありません。位置づけを取り違えないことが大切です。
捜査の段階から確認しておきたいこと
再度の執行猶予は、判決の直前に主張を組み立てて認められる種類のものではありません。捜査の段階から、次の点を確認しておくことが役に立ちます。
・前刑の確定日、猶予期間の満了日、保護観察の有無
・今回、どの事実がどの範囲で立件されようとしているのか
・通院や相談を続けている場合、その開始時期と継続状況が記録に残っているか
・生活の場所と就労の状況、日常的に関わる方がいるか
・取調べで説明した内容と、実際の経過に食い違いがないか
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けしており、24時間受付の体制を取っています。身柄を拘束されている場合の即日の接見や、出頭・自首への同行にも全国対応が可能です(移動にかかる費用は別途となります)。深夜や早朝でも、状況により対応できる場合があります。執行猶予中の事件は、手続が複数の方向で同時に進むことがあるため、早い段階でご相談いただくことをおすすめします。
まとめ
・執行猶予期間中の再犯でも、刑法25条2項の要件を満たせば再度の執行猶予の余地がある
・2025年6月1日施行の改正で、対象となる刑の上限が1年以下から2年以下に引き上げられた
・初めての執行猶予に保護観察が付いていた場合でも、再度の執行猶予を付けられるようになった
・薬物事件では複数の事実が同時に起訴されやすく、「2年以下」に収まるかどうかが最初の壁になる
・「情状に特に酌量すべきもの」は、猶予期間中の経過と、続いている取り組みの内容で判断される
・前の執行猶予が保護観察付きの場合、遵守事項違反を理由とする取消しの手続が別に進むことがある
・その手続でも意見を述べる機会があり、口頭弁論を求めれば弁護人を選任できる
・再度の執行猶予が認められれば、前の刑の執行猶予も取り消されない
・猶予期間内に起訴されているかどうかで、満了後の扱いが変わる


