示談書に必ず入れる条項と、入れると危険な条項
謝罪文を書こうとして手が止まっている、というご相談は少なくありません。何をどこまで書けばよいのか、書いたものがその後どう扱われるのかが分からないまま、白紙の便箋を前にして数日が過ぎてしまう。刑事事件では、そういう時間が結果に影響することもあります。
謝罪文は、被害を受けた方に向けた手紙であると同時に、刑事手続の中で読まれる書面にもなります。この二つの性格を分けないまま書くと、伝えたかったことが伝わらないばかりか、後の手続で自分の説明の幅を狭めてしまうことがあります。書いてはいけないと言われる事柄の理由も、ほとんどはこの二重性から説明できます。
この記事では、刑事事件で謝罪文を作成する場合の構成要素と、書かないほうがよい記載を整理します。そのまま書き写すための文例集ではなく、どこで判断が必要になるのかという観点でまとめました。
この記事で扱う範囲
- 被害を受けた方がいる事件で、加害者側が作成する謝罪文を扱います。
- 成人の事件を前提とし、少年事件に固有の手続には触れません。
- 書き写して使うための雛形は掲載しません。
- 事実を認めている場合と、争いがある場合の双方に触れます。
- すでに身柄を拘束されている場合は、書ける時期も届け方も大きく異なるため、個別のご相談をおすすめします。
謝罪文には二人の読み手がいる
謝罪文を渡す相手は、被害を受けた方です。一方で、その写しは、弁護人を通じて検察官や裁判所に提出されることがあります。一通の文書に、気持ちを受け取る読み手と、事実と経過を確認する読み手が同時に存在するということです。
感情に寄せて書けば記録として粗くなり、記録を意識して書けば手紙として冷たくなります。どちらか一方だけを見て書くと、もう一方の読み手にとって不自然な文書になります。
法律で書式が決まっている文書ではない
謝罪文の様式を定めた法律はありません。示談書が民法上の和解(民法695条)として当事者の権利義務を確定させる契約書であるのに対し、謝罪文はそれ自体が権利義務を動かす文書ではないからです。
書式が自由だということは、何を書き、何を書かないかの判断がすべて作成者に委ねられるということでもあります。自由であることと、何を書いてもよいことは別です。
記録に残る文書としての側面
刑事訴訟法322条1項は、被告人が作成した供述書について、その内容が被告人に不利益な事実の承認を内容とするときなどに、証拠とすることができると定めています。宛先が被害を受けた方であっても、事件の事実を認める記載を含む文書は、この「供述書」として扱われる余地があります。
条文の文言上、供述書には署名や押印がなくてもよいと解されています。手紙のつもりで書いた紙が、事実についての説明としても読まれ得る、という前提を持っておくことが出発点になります。
謝罪文・反省文・誓約書・示談書の違い
| 書面 | 主な読み手 | 主な役割 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 謝罪文 | 被害を受けた方 | お詫びを伝える | 写しが手続の記録に残ることがある |
| 反省文・上申書 | 検察官・裁判所 | 事件への向き合い方を伝える | 被害者に読まれる前提では書かれない |
| 誓約書 | 検察官・裁判所・家族 | 再発防止の約束を示す | 実行できない内容は逆に働く |
| 嘆願書 | 検察官・裁判所 | 周囲の受け入れ体制を示す | 本人以外の名義で作成される |
| 示談書 | 当事者双方 | 権利義務を清算する | 署名により法的な効果が生じる |
名称に決まった定義があるわけではなく、実務でも呼び方は一定しません。大切なのは名前ではなく、その文書を誰が読むのかです。読み手が違えば、書くべき内容も変わります。被害を受けた方に宛てた文書の中に、処分についての希望を書いてしまう失敗は、この区別があいまいなときに起こります。
書き始める前に決めておく三つのこと
事実関係に争いがあるか
認めている事件と、争いがある事件では、書ける範囲が変わります。ここを決めないまま書き始めると、争うつもりだった部分まで認める文章になったり、逆に、認めているのに読み手には不服そうに見える文章になったりします。
誰の名義で書くか
本人が書くものと、家族が書くものは役割が違います。家族の手紙は、本人の反省を示すものではなく、帰ってからの生活をどう支えるかを示すものです。本人が書けない事情があるからといって、家族が代わりに反省を述べても、代わりにはなりません。
いつ、どの経路で届けるか
処分の判断がされた後に届いた文書は、その判断の材料にはなりません。他方で、相手の気持ちが整理されていない時期に届けば、負担にしかならないこともあります。届ける前に、受け取っていただけるかどうかを第三者を通じて確認するのが実務の順序です。
謝罪文の構成要素
- 日付と宛名、そして冒頭のお詫びの言葉。
- 自分が何をしたのかという事実の特定。
- 相手が受けた被害や不安への言及。
- なぜそのような行為に至ったのかの説明。
- 現在の状況と、再発を防ぐために始めていること。
- 弁償の意思と、結びのお詫び、署名。
順番に決まりはありませんが、この六つが揃っているかどうかで、文書の印象は変わります。以下、判断が分かれやすいところを取り上げます。
事実の特定は、書ける範囲で具体的に
「このたびは大変ご迷惑をおかけしました」だけでは、何について謝っているのかが伝わりません。日時、場所、自分がした行為を、記憶にある範囲で書きます。
同時に、記憶が曖昧な部分を推測で埋めないことも大切です。埋めた部分が後の説明と食い違うと、話が変わったという評価につながります。書けないところは書かない、という選択肢があることを知っておいてください。
理由の説明と言い訳は紙一重
被害を受けた方が知りたいのは、なぜ自分がこの目に遭ったのか、という点です。その説明は必要です。
一方で、生い立ちの苦労、家庭の事情、その日の飲酒量などを長く書き連ねると、責任の所在を外に移した文章として読まれます。分量の目安として、事情の説明が、相手への言及より長くならないようにすると、バランスを取りやすくなります。
再発防止は、決意よりも始めたこと
「二度としません」は、誰にでも書けます。読み手にとって意味を持つのは、すでに起きた変化です。
通院を始めた、その場所に立ち寄らない生活に変えた、家族に事情を話して同居に戻った、勤務先の配置が変わった。こうした事実は、第三者が確かめられる形で残ります。逆に、実行するつもりのないことを書くと、後で守れなかったという事実のほうが残ります。
弁償の意思は書き、金額は書かない
償いをしたいという気持ちは書いてよい部分です。ただし、金額や支払時期まで踏み込むと、その後の話し合いの出発点が文書で固定されます。
金額の提示が、これで終わりにしてほしいという要求として読まれることもあります。具体的な条件は代理人から改めてご連絡します、という形でとどめておくのが一般的です。
弁償の申し出が民事で持つ意味
刑事の手続と、損害賠償という民事の問題は別々に進みます。同じ一通の文書が、両方の場面で使われることがあります。
支払う意思を書面で示す行為は、民事上は債務の承認と評価される場合があり、消滅時効の更新(民法152条1項)につながることがあります。これは、書かないほうがよいという意味ではありません。刑事の情状としての意味と、民事の債務としての意味が、同じ文章に同居しているという構造を知ったうえで書く、ということです。
金額や支払方法といった清算の中身は、示談書で定めるのが本来の役割分担です。謝罪文で扱う範囲を意識的に狭めておくと、後の交渉で身動きが取りやすくなります。
書いてはいけないこと
| 書かないほうがよい記載 | 理由 |
|---|---|
| 相手にも落ち度があったという趣旨の記載 | お詫びの文章の中で責任の一部を相手に戻す形になる |
| 「もし不快な思いをさせたのなら」という条件付きの表現 | 何について謝っているのかが定まらない |
| 記憶にない部分を推測で埋めた記載 | 後の説明と食い違い、話が変わったと評価されることがある |
| 示談金の額や支払方法の提示 | 交渉の出発点が固定され、要求と受け取られることがある |
| 寛大な処分を求める言葉 | 読み手が違う。処分の軽減が目的の文書だと読まれる |
| 返事や面会、話し合いを求める言葉 | 相手に対応を強いる形になり、接触の要求と受け取られる |
| 事件後に知った相手の氏名や勤務先などの情報 | どこで知ったのかという不安を新たに生む |
| 自分の家庭の事情や仕事上の不利益の強調 | 相手には関係のない事情で、同情を求める文章に読める |
| 文例をそのまま書き写した文章 | 事案と合わない記載が混ざり、内容の食い違いが生じる |
これらに共通しているのは、書いた本人の意図と、読み手が受け取る意味がずれるという点です。条件付きの表現も、家庭の事情も、書く側には誠実さの表れであっても、受け取る側には別の意味で届きます。自分の文章が相手にどう見えるかは、自分では判断しにくい部分です。
事実関係に争いがある場合
やっていないと考えている部分がある、一部だけ認めている、記憶が曖昧で分からない。こうした場合は、書き方の前に、そもそも今この文書を出す場面なのかという検討が必要です。
争っている部分について認める記載をすれば、先に触れた刑事訴訟法322条1項の書面として扱われる余地が生じます。全面的に争っている事件で謝罪文を出すことは、通常は想定されません。
一部に争いがある場合には、争いのない範囲に限って書くという選択もあります。相手に不安を与えたこと、時間を奪ったことなど、事実として動かない部分だけを書く形です。この線引きは事案ごとに違うので、弁護人が就いているなら、書き始める前に相談してください。
渡し方と時期
直接届けに行かない
事件の後に加害者側が被害を受けた方に直接接触することは、相手に新たな恐怖を与えます。加えて、捜査機関や裁判所からは、証拠を隠すための働きかけと見られることがあります。
家族が代わりに訪ねる場合も同じです。届け方についての判断は、事件に直接関わっていない第三者、実務上は弁護人が担うのが通例です。
受け取ってもらえない場合
受け取りたくないという意思が示されたときに、繰り返し届けようとすることは避けてください。断られたという事実も含めて、経過が記録に残ります。
渡せなかった文書は、作成日を記載したうえで保管し、弁護人に預けておきます。渡せたかどうかとは別に、いつの時点で何を考えていたかを示す資料にはなります。受け取りを断られた場合の弁済の方法については、別の記事で扱います。
形式で迷ったとき
手書きかパソコンかは、よく質問を受けるところです。手書きのほうが気持ちが伝わりやすいと言われますが、読みにくい文字で書くよりは、読みやすさを優先したほうがよい場面もあります。判断がつかないときは、弁護人に相手方の状況を確認してもらってください。
相手の氏名が分からないときは「被害者様」と書きます。何かの経緯で名前を知ってしまった場合も、あえて書かないほうが安全です。名前を知られていると分かること自体が、相手の不安につながります。
便箋に書いた場合も、渡す前に写しを取り、日付を記載しておきます。身柄を拘束されている間は、筆記具や便箋の差し入れ、手紙の発信の扱いに制約があるため、進め方を弁護人に確認しておくとよいでしょう。
一度渡した文書は取り消せない
手続の記録に入った書面は、後から差し替えることができません。書き直したものを追加で提出しても、前に出したものが消えるわけではありません。
だからこそ、書き上げてすぐに渡さず、一晩おいて読み返す時間を取ってください。可能であれば、事件に直接関わっていない第三者に読んでもらいます。自分の文章が相手にどう届くかは、書いた本人がいちばん見えにくいところです。
まとめ
- 謝罪文には、被害を受けた方と、手続の記録という二人の読み手がいる。
- 様式を定めた法律はないが、事実を認める記載を含む文書は供述書として扱われる余地がある(刑事訴訟法322条1項)。
- 謝罪文、反省文、誓約書、示談書は読み手も役割も異なるため、混ぜて書かない。
- 書き始める前に、争いの有無、名義、届ける時期と経路を決めておく。
- 事実は書ける範囲で具体的に書き、記憶にない部分は推測で埋めない。
- 再発防止は決意ではなく、すでに始めた変化を書く。
- 弁償の意思は書き、金額や支払方法は示談書で定める。
- 直接届けに行かず、受け取りの意思確認と届け方は第三者に委ねる。
書き方に迷う段階でのご相談も承っています。文面の検討だけでなく、届ける時期や経路も含めて、事案に応じた進め方をご説明します。


