ふざけ合いの延長でけがをさせた|「同意があった」は通るのか
被害を受けた方に謝罪の気持ちを伝えたいと考えたとき、多くの方が最初に迷うのが「手紙を誰の名前で出すのか」という点です。弁護士に依頼している場合、弁護士の名前で出す書面と、自分の名前で書く手紙のどちらを届けるべきなのか、あるいは両方なのかがはっきりしないまま、時間だけが過ぎてしまうことがあります。
この問いは、実際には一つの問題ではありません。封筒の差出人を誰にするか、示談の申し入れを誰の名前で行うか、謝罪の言葉を誰の名前で書くか、という三つの層が重なっています。層ごとに考え方が違うため、「弁護人名義か本人名義か」という二択で捉えると、判断がずれやすくなります。
この記事では、二つの名義がそれぞれ担っている役割を整理したうえで、実務で用いられている基本的な組み合わせと、本人名義の手紙を急がないほうがよい場面をまとめます。
この記事で扱うことと扱わないこと
この記事では、被害を受けた方へ書面を届けるときの名義の選び方に絞って説明します。次の点は別の記事で扱っています。
- 謝罪文そのものの構成要素と、書かないほうがよい記載。
- 罪名ごとの文例や雛形。
- 示談書の当事者欄や署名欄の書き方。
- 示談金の水準や支払方法。
- 被害を受けた方の連絡先が分からない場合の進め方。
また、事案の内容や相手方の意向によって適切な進め方は変わります。ここで示すのは考え方の枠組みであり、個別の事件については弁護人と相談しながら決めていくことになります。
「名義」には三つの層がある
「手紙を届ける」という一つの行為の中には、実際には性質の異なる書面と表示が含まれています。整理すると、次の三つです。
- 封筒の差出人表示。誰から届いた郵便物として相手の手元に着くか。
- 示談の申し入れをする書面。連絡の趣旨と、以後の窓口を伝えるための文書。
- 謝罪の手紙。出来事に対する受け止めを、書いた人の言葉で伝えるための文書。
このうち1と2は、弁護人が就いている事案では弁護人の名義で行われるのが通常です。名義の選択が問題になるのは主に3であり、しかもその選択は「どちらか一方」ではなく、出す・出さない・時期をずらすという形で現れます。
書面ごとの位置づけを一覧にすると、次のようになります。
| 書面・表示 | 一般的な名義 | 主な読み手 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 封筒の差出人 | 弁護士(事務所) | 被害を受けた方とその家族 | 誰からの郵便かを明らかにし、本人の住所を出さずに届ける |
| 示談の申し入れ書面 | 弁護人 | 被害を受けた方 | 連絡の趣旨と窓口を伝え、意向を尋ねる |
| 謝罪の手紙 | 本人 | 被害を受けた方 | 出来事への向き合い方を本人の言葉で伝える |
| 上申書・報告書 | 弁護人 | 検察官・裁判所 | 経過や事情を整理して伝える |
| 反省文 | 本人 | 検察官・裁判所 | 本人の受け止めと再発防止の取り組みを伝える |
同じ「手紙」という言葉で語られていても、読み手も役割も異なります。名義を考えるときは、まずどの書面の話をしているのかを分けることが出発点になります。
弁護人名義の書面が担っていること
連絡の窓口を一つにする
弁護人名義の書面には、これ以後の連絡先が弁護人であることを示す役割があります。被害を受けた方の側から見れば、誰に返事をすればよいのか、応じたくない場合にどこへ断りを伝えればよいのかがはっきりします。本人の連絡先が書かれていないこと自体が、直接の接触を避ける仕組みとして働きます。
捜査機関を通じて連絡先を教えてもらう場合も、開示先は弁護人であることが前提とされています。この点は、示談交渉を弁護人に任せる意味を扱った別の記事で詳しく説明しています。
それは申し入れであって謝罪ではない
弁護人名義の書面は、代理人が依頼者のために出す業務上の文書です。そこに謝罪の言葉を書き添えることはできますが、代理人の言葉として書かれた謝罪は、本人の謝罪とは受け止められにくいという限界があります。示談の申し入れだけが届き、本人からは何もないという状態は、相手方の受け止めを固くする方向に働くことがあります。
事実関係の説明は本人の言い分として読まれる
弁護人名義の書面は本人が作成した文書ではありません。もっとも、そこに書かれた出来事の説明は、依頼者から聞き取った内容として、本人の言い分と同じ重みで読まれます。後に本人の説明が変わると、その食い違いが指摘される場面が出てきます。申し入れの段階で事実関係を詳しく書き込むかどうかは、慎重に検討されます。
本人名義の手紙が担っていること
弁護人が代われない部分
被害を受けた方が知りたいのは、多くの場合、代理人の見解ではなく本人が何をどう受け止めているのかです。ここは弁護人が肩代わりできない部分であり、本人名義の手紙が用いられる理由もそこにあります。示談の話し合いに入る前に、まず謝罪の手紙を届ける進め方が採られることもあります。
記録に残る文書としての側面
本人が作成した書面は、刑事裁判では本人の供述を記載した書面として位置づけられ、証拠となり得るものとされています(刑事訴訟法322条1項)。手紙は被害を受けた方に宛てて書くものですが、内容は事実関係についての本人の説明としても読まれ得るということです。一度差し出した文書を後から書き直すことはできません。
自分の言葉であることが前提
本人名義の手紙は、本人が書いたものとして読まれます。文例をそのまま写した文面や、他人が作った文案に署名しただけの文面は、読み手に伝わりにくいだけでなく、後で本人の言葉として説明しにくくなります。弁護人が文案の作成に生成AIを用いたことが報じられ、議論になった例もあります。弁護人ができるのは、書かないほうがよい記載を指摘したり、伝わりにくい箇所を一緒に考えたりするところまでです。
基本形は「二つを一つの封筒で届ける」
実務でよく採られているのは、どちらか一方を選ぶ形ではありません。弁護人名義の送付書に本人名義の手紙を同封し、弁護人の事務所から発送する形です。名義の三つの層に当てはめると、封筒と申し入れは弁護人、中身の手紙は本人、という組み合わせになります。
送付書と手紙を分けておく
送付書には、誰の依頼で連絡しているか、何を同封しているか、返事をどこへどのように伝えればよいかを簡潔に書きます。手紙の中身に触れて要約する必要はありません。二つの文書を分けておくと、相手方が手紙を読むかどうかを自分で決められる状態になります。
封筒の表書きと差出人
封筒の差出人を弁護士事務所名にすると、本人の住所が相手方に伝わらずに済みます。一方で、同居のご家族に事件を知られたくないという事情が相手方にある場合もあり、封筒の表記や送付の時間帯に配慮が必要になることがあります。書留や配達方法の選択も含め、届け方は弁護人と決めておくとよい部分です。
渡す時期
早いほうがよいとされる一方で、相手方が受け取れる状態かどうかの確認が先になります。まず弁護人名義の書面で意向を尋ね、受け取ってもよいという返事を得てから手紙を届ける、という順序が採られることもあります。
本人名義の手紙を急がないほうがよい場面
次のような事情があるときは、本人名義の手紙を出す時期や範囲について、弁護人と相談したうえで判断することになります。
| 場面 | 名義と時期の考え方 | 理由 |
|---|---|---|
| 事実関係に争いがある | 争いのない範囲に限るか、時期を後にする | 認否として読まれ、後から書き直せないため |
| 受け取りたくないと伝えられている | 弁護人名義の書面で意向の確認にとどめる | 手紙が届くこと自体が負担になり得るため |
| 身体を拘束されている | 弁護人が預かって届ける形を検討する | 施設ごとの取扱いがあり、手続上の制約を受けるため |
| 相手方に代理人がついている | 宛先を代理人にする | 窓口が代理人に一本化されているため |
| 被害を受けた方が未成年 | 宛名と届け方を弁護人と相談する | 保護者の意向を確認する必要があるため |
いずれの場面でも、手紙を書くこと自体を止める必要はありません。書いたうえで、届ける時期と範囲を選ぶという考え方になります。
身体を拘束されている場合の制約
留置施設や拘置所にいる間は、手紙のやり取りに手続上の制約があります。法務省の案内では、未決拘禁者が発受する手紙は施設であらかじめ内容の検査が行われること、発信の回数は施設が定めることが説明されています。あわせて、刑事訴訟法の規定により手紙の発受が許されない場合があることも示されています。
その一つが接見等禁止です。逃亡や罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由があるときは、弁護人などを除く者との接見を禁じ、授受される書類を検閲したり、その授受を禁じたりすることができるとされています(刑事訴訟法81条。被疑者の勾留については同法207条1項により準用されます)。この決定が出ている間は、本人が被害を受けた方へ直接手紙を送ることはできません。
このような場合でも、書いた手紙を弁護人が接見の際に預かり、弁護人から届けるという形は残ります。名義は本人のまま、届ける経路だけを弁護人に置き換えるという整理です。
相手方に代理人がついたときの届け方
被害を受けた方が弁護士に依頼している場合、こちらからの連絡はその代理人に宛てて行います。弁護士については、相手方に代理人が選任されたときは、正当な理由なく代理人の承諾を得ずに直接相手方と交渉してはならないという職務上のルールがあります(弁護士職務基本規程52条)。
この規程が直接名宛てにしているのは弁護士ですが、本人が代理人を飛び越えて連絡を取れば、せっかく整えた窓口が機能しなくなります。本人名義の手紙を届ける場合も、宛名は被害を受けた方、送付先は代理人、という形になるのが通常です。
家族の名義で書いた手紙はどう扱われるか
ご家族が手紙を書きたいと申し出られることがあります。ご家族の名義の書面には、監督や再発防止についての約束を述べるという役割があり、これは刑事手続の中で提出される書面として意味を持ちます。
一方で、被害を受けた方へ宛てる手紙としては、本人からのものが先に届いていない段階でご家族の手紙だけが届くと、本人がどう受け止めているのかが見えにくくなります。ご家族の名義で届ける場合も、時期と順序を弁護人と相談したうえで決めることになります。
名義の選択を誤ったときに起きること
名義そのものは形式的な問題に見えますが、選び方によっては進め方全体に影響します。実際に問題になりやすいのは次のような場面です。
- 本人が調べた住所へ直接投函する。手紙の内容にかかわらず、接触したことが不利に評価される場面があります。
- 弁護人名義の書面に本人の言葉を多く盛り込む。誰の言葉なのかがあいまいになり、謝罪としても申し入れとしても伝わりにくくなります。
- 本人名義で出しながら、文案の作成を他人に任せる。読み手に伝わりにくく、後から本人の言葉として説明しにくくなります。
- 相手方の意向を確認せずに手紙を重ねて送る。受け取りたくないという意向が示されている場合、回数が重なること自体が負担になります。
受け取ってもらえなかったときに残るもの
手紙は、受け取りを断られたり、返送されたりすることがあります。その場合でも、書いた事実と時期は残ります。作成した日付を入れておくこと、写しを手元に置くこと、返送された封筒をそのまま保管しておくことが、後から経過を説明する材料になります。
届けられなかった手紙を弁護人が預かり、事件の記録として提出する取り扱いが採られることもあります。示談の申し入れ自体が断られた場合に何ができるかは、別の記事で扱っています。
名義を決める前に整理しておくこと
弁護人と相談する前に、次の点を整理しておくと話が早く進みます。
- 事実関係のうち、争うつもりがない部分と、説明を要すると考えている部分。
- 被害を受けた方に伝えたいことのうち、代理人では代われないと感じている内容。
- 相手方から受け取りについての意向が示されているかどうか。
- 現在の手続の段階と、身体を拘束されているかどうか。
- ご家族が手紙を書きたいと考えているかどうか。
- 自分の住所や勤務先など、相手方に伝わることを避けたい情報。
まとめ
名義の問題は、次のように整理できます。
- 「弁護人名義か本人名義か」は、封筒・申し入れ・謝罪の手紙という三つの層に分けて考える。
- 封筒と申し入れは弁護人名義、謝罪の手紙は本人名義という組み合わせが基本形になる。
- 弁護人名義の書面は窓口を一つにする役割を担い、本人の受け止めまでは代われない。
- 本人名義の手紙は本人が作成した書面として扱われ、後から書き直すことができない。
- 事実関係に争いがある場合や、相手方が受け取りを望んでいない場合は、時期と範囲を選ぶ。
- 身体を拘束されている場合や相手方に代理人がついている場合は、名義は本人のまま経路を弁護人に置き換える。
どの名義でどう届けるかは、事案の内容、手続の段階、相手方の意向によって変わります。手紙を書き上げてから届け方に迷うより、書き始める前に方針を決めておくほうが、結果として早く届けられることが多いところです。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件についてのご相談をお受けしています。書面の名義や届け方について迷われている段階でも、状況を伺ったうえで進め方をご説明いたしますので、お気軽にご相談ください。


