家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

家庭の中で相手に手が出てしまった、あるいは同居する家族が警察署へ連れて行かれた——そうした場面でまず気にかかるのが、「家庭内のことでも逮捕されるのか」という点だと思います。

「家庭内暴力」という言葉は、配偶者やパートナーからの暴力を指して使われることもあれば、子どもから親への暴力を指して使われることもあり、想定される場面が一つに定まっていません。そして、どの場面かによって、刑法以外に動き出す手続の種類が変わります。

この記事では、家族の間で手が出た場合に暴行罪・傷害罪がどのように働くのか、DV防止法(配偶者暴力防止法)とはどのような関係に立つのか、そして刑事手続と並行して進む手続として何があるのかを整理します。

「家庭内暴力」という言葉が指す範囲は一つではない


「家庭内暴力」は、法律上の定義がある言葉ではありません。相談の現場では配偶者間の暴力を指して使われることが多い一方、もともとは子どもから親に向けられる暴力を指す言葉としても用いられてきました。さらに、親から子へ、成人した子から高齢の親へ、同居するきょうだいの間で、といった場面も、いずれも家庭の中で起きた暴力です。

この言葉のあいまいさは、用語の問題にとどまりません。誰が誰に手を出したのかによって、刑法以外にどの法律の手続が動くかが変わるからです。まず、ご自身の状況がどの場面に当たるのかを切り分けると、見通しが立てやすくなります。

なお、配偶者間の場面について、警察庁が公表した令和7年の統計では、警察に相談を寄せた被害者のうち約3割(30.6パーセント)が男性でした。性別を問わず起こりうる問題として扱われています。

家庭の中でも、暴行罪・傷害罪の条文は同じように適用される


相手にけがを負わせるに至らなかった暴力は暴行罪(刑法208条)、けがを負わせた場合は傷害罪(刑法204条)に当たりえます。法定刑は、暴行罪が2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料、傷害罪が15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。凶器を示した場合や複数人で行った場合には、暴力行為等処罰法違反として扱われることもあります。

押さえておきたいのは、これらの条文に「家庭内の場合を除く」といった限定が置かれていないことです。刑法には親族間の特例として、窃盗や横領などの財産犯について刑を免除する規定(刑法244条など)がありますが、これは財産犯についてのものであり、暴行罪・傷害罪には対応する規定がありません。

また、暴行罪・傷害罪はいずれも親告罪ではないため、被害を受けた側の告訴がなくても捜査や起訴を行うことは可能です。「家族が処罰を望んでいないのだから事件にはならない」と当然に言えるわけではない、という点は誤解の多いところです。

誰に手が出たかで、動き出す手続が変わる


同じ「家庭内で手が出た」という出来事でも、相手が誰かによって、刑事手続の横で並行して動く手続が変わります。全体像を整理すると次のようになります。

手が出た相手刑法上の扱い刑事手続と並行して動きうる手続
配偶者・事実婚の相手・生活の本拠を共にする交際相手暴行罪・傷害罪など。家庭内であることによる特例はないDV防止法の保護命令。同居する子がいる場合は児童虐待としての通告
同居する18歳未満の子同じ児童虐待防止法に基づく通告、児童相談所の調査・一時保護、親権に関する家庭裁判所の手続
高齢の親、要介護の家族同じ高齢者虐待防止法に基づく通報と市町村の対応(障害のある家族の場合は障害者虐待防止法)
成人したきょうだいなど、上記以外の同居親族同じ専用の通報制度は直接には働かず、刑事手続と民事の請求が中心になる


これらは順番に進むものではなく、同時に走ります。刑事事件としての処分がまだ決まっていない段階で、保護命令の申立てや児童相談所の調査が先に動くことも珍しくありません。

DV防止法は、暴力そのものを処罰する法律ではない


「DV防止法違反で逮捕される」という表現を見かけることがありますが、正確ではありません。DV防止法は、相談や保護の体制を定めるとともに、裁判所が相手方に一定の行為を禁じる「保護命令」を出す仕組みを設けた法律です。同法の罰則は、この保護命令に違反した場合にかかります(同法29条。2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金)。暴力を振るったこと自体を処罰する条文は、DV防止法には置かれていません。

統計を見ると、この構造がはっきりします。警察庁が令和8年3月に公表した令和7年の資料では、配偶者からの暴力事案等に関連する刑法犯・他の特別法犯の検挙は8,358件で、内訳は暴行が4,498件、傷害が2,760件でした。これに対し、DV防止法の保護命令違反の検挙は88件です。

つまり、配偶者間の暴力が刑事事件になる場合、その大半は刑法の暴行罪・傷害罪として扱われています。DV防止法は処罰の入り口ではなく、被害を受けた側を物理的に遠ざけるための命令として、その横で働いていると理解するとよいでしょう。

保護命令が出た場合、生活にどのような制限がかかるか


命令の種類と期間


現在の保護命令は、次の6つの類型に整理されています。

・被害者への接近禁止命令(1年間)
・被害者への電話等禁止命令(面会の要求、無言電話、緊急時以外の連続した電話・文書・SNS等の送信、GPS機器等による位置情報の取得など)
・被害者と同居する子への接近禁止命令
・被害者と同居する子への電話等禁止命令
・被害者の親族等への接近禁止命令
・退去等命令(2か月間。住居の所有者または賃借人が被害者のみである場合、被害者の申立てにより6か月間)

令和7年12月30日に施行された改正では、いわゆる紛失防止タグを使って位置情報を取得する行為や、紛失防止タグを取り付ける行為なども、禁止される行為に加えられました。

命令に違反した場合


保護命令に違反すると、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象になります。令和7年の保護命令違反の検挙は88件で、前年の69件から増えました。裁判所から警察に通知された保護命令は1,061件で、そのうち接近禁止命令と電話等禁止命令が併せて出されたものが714件と最も多くなっています。

退去等命令が出ると、期間中は自宅に戻れません。荷物の持ち出しも自由にはできず、必要な調整は代理人などを介して行うことになります。「直接会って話せば分かってもらえる」と考えて自宅に立ち寄る行為が、それ自体で新たな事件になりうる点には、特に注意が必要です。

同居していることが、身柄の判断に影響しやすい理由


家庭内の事案では、帰る場所が被害を受けた側の生活の場そのものです。そのため、釈放後にどこで生活するのかという問題が、他の暴行・傷害事件よりも前面に出てきます。

証拠の面でも、家庭内の出来事は目撃者が家族に限られることが多く、当事者の説明が判断の中心になりやすい類型です。同じ家に戻ることが、その説明のやり取りに影響しうると評価される場面もあります。

実務では、別居先を確保できているか、監督する立場の親族がいるか、被害を受けた側との連絡を代理人経由に切り替えられているかといった事情が、身柄に関する判断の材料として説明されます。逆に言えば、住む場所の見通しが立たないまま時間が過ぎると、身体拘束が長引く方向に働きやすくなります。

子どもがその場にいた場合に起きること


夫婦の間の出来事であっても、同居する子どもがその場にいた場合、児童虐待防止法上は子どもに対する心理的虐待として扱われます。同法2条4号は、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力を、心理的虐待の一類型として明記しています。いわゆる面前DVです。

そして、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した人には、市町村や児童相談所へ通告する義務があります(同法6条1項)。警察が家庭に臨場した場合、刑事事件として扱うかどうかとは別に、この通告が行われます。

令和7年に警察から児童相談所へ通告された児童は12万2,588人で、うち心理的虐待が9万1,492人、そのなかで面前DVは5万2,719人を占めています。夫婦の間のことのつもりでも、子どものいる家庭では児童相談所という別の窓口が同時に動く、ということです。

通告を受けた児童相談所は家庭の状況を調査し、必要に応じて一時保護などの措置を検討します。刑事処分の見通しとは切り離して進むため、刑事事件が不起訴で終わったとしても、児童相談所の関与がそれで直ちに終わるとは限りません。

高齢の親や要介護の家族に手が出た場合


介護の負担が積み重なるなかで、同居する高齢の親に手が出てしまったという相談もあります。この場合、暴行罪・傷害罪とは別に、高齢者虐待防止法の通報の仕組みが動きます。

同法は、高齢者の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えることを身体的虐待としています(2条4項1号イ)。「生じるおそれ」も含まれるため、けがに至っていない場合でも身体的虐待として扱われうる点が、刑法上の評価とは異なります。

生命または身体に重大な危険が生じている場合には、これを発見した人に市町村への通報義務があり、そこに至らない場合にも通報の努力義務が定められています(同法7条1項・2項)。障害のある家族に対する場合には、障害者虐待防止法に同様の仕組みがあります。

通報を受けた市町村は事実確認を行い、必要に応じて高齢者と養護者を分ける措置や、介護サービスの調整を検討します。これも刑事手続とは別のレールで進みます。

手を出したのが同居の未成年の子だった場合


子どもから親への暴力の場合は、親が被害を受けた側であっても、少年事件として扱われます。14歳以上であれば犯罪少年、14歳未満であれば触法少年として、警察や児童相談所を経て家庭裁判所に送られることがあります。処分の目的が、処罰よりも保護と立ち直りに置かれている点で、成人の手続とは考え方が異なります。

親としては事件にしたくないと考える場面ですが、被害の申告を控えることで、支援につながる機会が失われることもあります。家庭内だけで抱え込まず、警察の相談窓口や自治体の相談機関、少年事件を扱う弁護士など、相談先を早い段階で確保しておくことが現実的です。

警察が家に来た場面で実際に行われること


110番通報などで警察官が臨場した場合、その場でただちに逮捕されるとは限りません。実務では、次のような対応が組み合わされます。

・当事者を分けたうえで、それぞれから事情を聴く
・けがの有無や痕の状態、室内の状況を確認し、記録に残す
・配偶者からの暴力に当たる場合、全国共通の様式による対応票が作成される
・被害を受けた側に、保護命令の制度や避難先についての説明が行われる
・手を出した側に対して、指導や警告が行われる
・事案の内容によっては、その場での逮捕や、後日の呼び出し・任意同行を経た逮捕に至る

令和7年の統計では、保護命令制度の説明が4万3,530件、加害者に対する指導警告が7万4,406件行われており、検挙に至った件数を大きく上回っています。逮捕という結果だけがすべてではない一方、対応の記録は残り、次に同種の通報があったときの判断材料になります。

家庭内の示談が、ほかの事件と同じようには進まない理由


暴行・傷害の事案では被害弁償や示談が処分の判断材料になりますが、家庭内の場合はいくつか特有の事情があります。

・生計を共にしている場合、金銭の授受が賠償として意味を持ちにくいことがある
・被害を受けた側が同じ家にいる状態では、示談の申入れ自体が接触と評価される場合がある
・保護命令が出ている場合、直接連絡を取ること自体が命令違反になりうる
・許すという意思表示(宥恕)については、その任意性が慎重に確認される
・離婚や親権の話し合いと同時に進むため、示談書の文言が家事事件の局面に影響することがある

こうした事情から、家庭内の事案では、当事者同士で直接まとめようとするより、代理人を介して連絡経路を一本化するほうが、結果として双方の負担が小さくなることが多いといえます。

取調べで気をつけたいこと


家庭内の事案は、当事者の説明が判断の中心になりやすい類型です。次の点は意識しておくとよいでしょう。

・その日の出来事と、これまでの経緯とを区別して説明する
・「日常的に」「いつも」といった言葉を、内容を確認しないまま調書に入れない
・記憶がはっきりしない部分を、話の流れで補わない
・相手の言動に触れる場合も、自分の行為についての説明と切り分けて述べる
・調書は読み聞かせを受けたうえで内容を確認し、違う部分があれば増減変更を申し立てることができる(刑事訴訟法198条4項)

曖昧なまま署名した一語が、その後の処分の判断や、離婚・親権の手続で引用されることもあります。分からない点は分からないまま述べておくほうが、後の説明と整合しやすくなります。

刑事手続が終わっても残る問題


親権の判断に働く場面


2026年4月1日に施行された改正民法では、離婚後の親権について、父母双方を親権者と定めることができる仕組みが導入されました。ただし民法819条7項は、父または母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき、あるいは、父母の一方が他方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無などを考慮して共同して親権を行うことが困難であると認められるときなど、双方を親権者と定めることが子の利益を害すると認められる場合には、一方を親権者と定めなければならないとしています。

家庭内で手が出たという事実は、刑事処分とは別に、離婚の際の親権の判断で正面から検討される事情になります。刑事事件が不起訴で終わったことが、この判断をそのまま左右するわけではありません。

このほか、慰謝料などの損害賠償の請求(民法709条・710条)は、刑事の結果とは別に成立します。刑事手続が終わった後に、民事の請求や離婚の調停が本格化するという経過をたどることもあります。

よくある質問


Q1 夫婦げんかの延長のつもりでした。それでも逮捕されることがありますか。

A 家庭内であることを理由に暴行罪や傷害罪の成立が否定される仕組みはないため、事件として扱われることはあります。もっとも、通報のあった事案がすべて逮捕に至るわけではなく、指導や警告にとどまる場合や、後日の呼び出しを経て在宅のまま捜査が進む場合もあります。分かれ目になりやすいのは、けがの程度、繰り返しの有無、当事者を分ける必要があるかどうかといった事情です。

Q2 相手が「被害届は出さない」と言っています。それで終わりますか。

A 暴行罪・傷害罪は親告罪ではないため、告訴や被害届がないことが、捜査ができない理由にはなりません。通報の記録や、臨場した警察官が確認した内容から事件として扱われることもあります。また、同居している相手がそのように述べていること自体、その置かれた状況を踏まえて評価されることがあります。

Q3 保護命令が出ましたが、子どものことで連絡を取りたい場合はどうすればよいですか。

A 禁止される行為の範囲は、命令書に記載された内容で決まります。自分の判断で連絡を取ると、それ自体が違反として扱われるおそれがあります。まず命令書の記載を確認したうえで、必要な連絡を代理人など命令の対象外の経路に通す方法を検討することになります。学校や自治体を介して調整が行われる場合もあります。

まとめ


家庭内で手が出た場合、動くのは刑事手続だけではありません。刑法の暴行罪・傷害罪という一本目のレールの横で、配偶者が相手であればDV防止法の保護命令が、子どもがいれば児童虐待としての通告が、高齢の親や要介護の家族が相手であれば高齢者虐待防止法の通報が、それぞれ別のレールとして同時に進みます。さらに、離婚や親権の判断は、刑事処分が終わった後まで残ります。

家庭内であることが有利にも不利にも働く、と一言で整理できるものではなく、相手が誰か、けがの有無、繰り返しの有無、同居を続けるのかどうかによって、注意すべき点は変わります。ご自身の状況がどのレールに乗っているのかが分からない段階でも、早めに弁護士に事実関係を整理してもらうことで、次に何が起きるのかの見通しは立てやすくなります。

なお、この記事をお読みの方が、家庭内で暴力を受けている側である場合には、各都道府県の配偶者暴力相談支援センターや、警察相談専用電話(#9110)に相談することができます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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