【刑事事件】弁護人と方針が合わない|途中で変更する場合の実務

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は、刑事訴訟法、刑事訴訟規則、弁護士職務基本規程および民法の規定に基づき、2026年9月時点の内容として整理したものです。個別の事件で何が最善かは、罪名、身体拘束の有無、手続の段階によって変わります。一般的な整理としてお読みください。


「弁護人に、言いたいことを言えていない気がする」。ご相談の場でよく伺う言葉です。接見に来てくれたことは分かっている、悪い人ではないとも思う。それでも、自分が一番気にしている点について話が噛み合わないまま日が過ぎていく、という状態です。

 ご家族からは、別の形の不安が寄せられます。「本人は納得していないようなのに、弁護人は示談を進めているらしい」「争えると思うのに、認める方向で話が固まっているように見える」。面会で断片的に聞くだけなので、全体像が分からず、余計に心配が募ります。

 インターネット上には「弁護士は途中でも変更できます」という説明が数多くあります。それ自体は誤りではありません。ただ、刑事事件では、国選弁護人か私選弁護人かで手続がまったく異なり、変更したこと自体が審理の進み方に影響する場面もあります。この記事では、変更の理由を「方針が合わない」という一点に絞って、何が本人の決めることで、何が弁護人の裁量に属するのか、そのうえで変更するとしたら手続はどう動くのかを整理します。国選と私選のどちらを選ぶかという制度比較そのものは国選と私選はどう違う|途中で切り替えられるのかに譲ります。

「方針が合わない」を三つに分けて考える

 同じ言葉でも、中身はかなり違います。変更が必要かどうかを考える前に、どの層のずれなのかを見分けておくと、その後の判断がぶれにくくなります。

一 本人が決めることについてのずれ

 事実を認めるのか争うのか、取調べで黙秘するのか話すのか、控訴するのかしないのか。これらは、本人が決める事柄です。弁護人は、見通しと不利益を説明し、助言する立場にあります。弁護士職務基本規程22条も、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとしています。

 したがって、本人が「争いたい」と言っているのに、弁護人の判断だけで認める方向に手続が進むという構図は、本来想定されていません。この層でずれが生じている場合は、まず「自分の意思がどこまで正確に伝わっているか」を確認するところから始めるのが順序です。接見の場で口頭だけで伝えていると、体調や時間の制約もあって、思った通りに伝わっていないことは珍しくありません。

二 手段の選び方についてのずれ

 示談交渉をいつ切り出すか、保釈請求を第1回公判の前に出すか後に回すか、どの証人を申請するか。こうした手段の選択は、法的な見通しと訴訟戦術の判断が混ざる領域で、弁護人の専門的な裁量に属する部分が大きくなります。

 ここでのずれは、方針そのものの対立というより、理由が共有されていないことから生じている場合があります。規程36条は、必要に応じて事件の経過や帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら処理を進めなければならないと定めています。「なぜ今はその手を選ばないのか」を説明してもらうだけで、対立が解消することもあります。

三 説明の量や連絡の頻度についてのずれ

 接見の回数が少ない、手紙の返事が来ない、家族への説明がない。不満として最も多い層ですが、方針の対立とは性質が異なります。事件の進み方によっては、動きがない時期が続くこともあり、それ自体が不適切とは限りません。

 もっとも、不安を抱えたまま公判を迎えることは、本人にとっても弁護活動にとっても良い状態ではありません。この層については、伝えることで改善する余地が最も大きい部分でもあります。

国選弁護人の場合|解任するのは裁判所

 国選弁護人は、被疑者・被告人と弁護士との契約で就いているわけではありません。裁判所または裁判官が選任したものですから、本人の意思だけで辞めてもらうことはできない仕組みになっています。

解任の事由は5つに限られている

 刑事訴訟法38条の3第1項は、裁判所が国選弁護人を解任できる場合として、次の5つを挙げています。

  • 30条の規定により弁護人が選任されたことその他の事由により、弁護人を付する必要がなくなったとき。
  • 被告人と弁護人との利益が相反する状況にあり、弁護人に職務を継続させることが相当でないとき。
  • 心身の故障その他の事由により、弁護人が職務を行うことができず、または職務を行うことが困難となったとき。
  • 弁護人がその任務に著しく反したことにより、職務を継続させることが相当でないとき。
  • 弁護人に対する暴行、脅迫その他の被告人の責めに帰すべき事由により、弁護人に職務を継続させることが相当でないとき。


 この5つの中に、「方針が合わない」という項目はありません。2号の「利益が相反する状況」も、弁護人が被告人と対立する立場に立つような場面を想定したもので、弁護活動の進め方について意見が食い違っているという意味ではないと解されています。解任にあたっては、あらかじめ弁護人の意見を聴かなければならず(同条2項)、被告人の権利を不当に制限しないようにしなければならないとされています(同条3項)。起訴前は裁判官が同様の手続で行います(同条4項)。

実際に使われているのは1号の道筋

 では国選弁護人を替える方法がないのかというと、そうではありません。私選弁護人を選任すれば、1号の「弁護人を付する必要がなくなったとき」に当たるとして、国選弁護人が解任されるのが実務上の一般的な流れです。刑事訴訟法36条も、被告人以外の者が選任した弁護人がある場合には国選弁護人を付さない旨を定めています。

 つまり、国選から別の弁護人に替わるという場面は、実質的には「私選弁護人を立てる」という選択とほぼ重なります。費用の負担が生じる以上、その点を含めて検討する必要があります。

国選弁護人の側から勧めることはできない

 ここで一つ、知っておくと理解が早くなる仕組みがあります。弁護士職務基本規程49条2項は、国選弁護人に選任された事件について、被告人その他の関係者に対し、その事件の私選弁護人に選任するよう働きかけてはならないと定めています。

 ですから、国選弁護人に「私選に切り替えたほうがよいでしょうか」と尋ねても、踏み込んだ答えが返ってこないことがあります。冷たい対応のように見えても、規程上そうならざるを得ない場面がある、ということです。

私選弁護人の場合|委任契約をどう終わらせるか

 私選弁護人は、本人やご家族と弁護士との間の委任契約に基づいて就いています。民法651条1項により、委任は各当事者がいつでも解除することができますから、解任について裁判所の判断を経る必要はありません。

解任と辞任のどちらの形をとるか

 実務上は、依頼者からの解任という形をとる場合と、事情を説明したうえで弁護人に辞任してもらう形をとる場合があります。規程43条は、依頼者との間に信頼関係が失われ、その回復が困難なときは、その旨を説明し、辞任その他の適切な措置をとらなければならないとしています。

 どちらの形でも効果は変わりませんが、引継ぎの円滑さという観点では、事前に率直に話したうえで進めたほうが、資料の受け渡しがスムーズになりやすい面はあります。規程44条は、委任の終了にあたって処理の状況や結果について説明しなければならないと定めており、規程45条は預り金や預り品を遅滞なく返還すべきものとしています。

届出の形式が決まっている

 刑事事件の弁護人選任は、書面による要式行為です。起訴前は、選任者と弁護人が連署した弁護人選任届を、当該被疑事件を取り扱う検察官または司法警察員に提出します(刑事訴訟規則17条)。起訴後は、同じく連署した書面を裁判所に提出します(同規則18条)。

 したがって、新しい弁護人に依頼したというだけでは手続上の交代は完了しません。新しい弁護人の選任届が提出され、前の弁護人の辞任または解任が届け出られて、はじめて捜査機関や裁判所の側で交代が認識されます。この間に期日や取調べが入っていると、連絡先が宙に浮くことがあるため、日程の確認は早めに行っておきたいところです。

控訴審は選任し直しが必要になる

 見落とされやすい点として、起訴後の弁護人選任は審級ごとに行う必要があります(刑事訴訟法32条2項)。第一審の弁護人の選任は、控訴審には当然には引き継がれません。

 裏を返せば、第一審の判決を受けた後は、もともと選任し直す場面ですから、弁護人を替えることによる手続上の負担が比較的小さいタイミングともいえます。控訴そのものの判断材料は判決に納得できない場合|控訴を検討する際の判断材料で整理しています。

変更が手続の進行に与える影響

 方針の対立が解消されるとしても、交代には時間の面での代償が伴います。どの段階での交代かによって、その大きさは変わります。

起訴前は時間の制約が最も強い

 逮捕・勾留の期間は法律で区切られており、その中で示談や身柄解放の働きかけを行うことになります。新しい弁護人が記録を読み込み、本人と接見して事実関係を確認するまでには一定の日数がかかりますから、残り期間が短い局面での交代は、その分だけ動ける時間を削ることになります

 逆に、捜査が始まって間もない時期であれば、交代の影響は相対的に小さくなります。段階ごとの時間の意味については弁護人を頼むタイミング|捜査段階で差がつく理由もあわせてご覧ください。

公判中は期日との関係を確認する

 死刑または無期もしくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件では、弁護人がいなければ開廷することができません(刑事訴訟法289条1項)。弁護人がいない状態になったときは、裁判長が職権で弁護人を付さなければならないとされています(同条2項)。

 期日が指定されている中での交代は、準備期間の確保のために期日の変更を求めることになる場合があります。裁判所がこれをどう扱うかは事案によりますので、新しい弁護人を探す段階で、次回期日がいつかを伝えておくことが実際的です。

公判前整理手続を経た事件では制約が残る

 公判前整理手続または期日間整理手続に付された事件では、やむを得ない事由によって手続中に請求することができなかったものを除き、手続が終わった後に証拠調べを請求することができません(刑事訴訟法316条の32第1項)。裁判所が必要と認めて職権で証拠調べをすることは妨げられません(同条2項)。

 この制限は、弁護人が交代したからといって当然にリセットされるものではありません。整理手続を終えた後で弁護人を替えても、前の弁護人が行った証拠請求の範囲が土台として残る点は、あらかじめ理解しておく必要があります。争点や証拠の整理が進んでいる事件ほど、交代の前に「今からできることの幅」を具体的に確認しておく意味は大きくなります。

替えずに解決する道も検討する

 変更は選択肢の一つであって、唯一の解決手段ではありません。対立の中身によっては、次のような方法のほうが結果として早いことがあります。

弁護人を追加するという方法

 被告人の弁護人の数には原則として制限がなく、裁判所は特別の事情があるときに3人までに制限することができるとされています(刑事訴訟法35条、刑事訴訟規則26条)。被疑者の弁護人は原則3人までで、特別の事情があると認められて許可を受けた場合は3人を超えることができます(同規則27条)。複数いる場合は主任弁護人を定めます(刑事訴訟法33条)。

 つまり、私選であれば、今の弁護人をそのままに、別の弁護士を加えるという形も制度上は可能です。ただし、国選弁護人が付いている状態で私選弁護人を選任すると、前述のとおり国選が解任されることになりますので、「国選はそのままで私選を追加する」という組み合わせは想定されていません。

セカンドオピニオンを取る

 規程40条は、受任している事件について依頼者が他の弁護士に依頼をしようとするときは、正当な理由なくこれを妨げてはならないと定めています。別の弁護士の見方を聞くこと自体は、後ろめたい行動ではありません。

 今の弁護人に伝えるかどうかの判断を含め、セカンドオピニオンの取り方|今の弁護士に伝えるべきかセカンドオピニオン|依頼中の弁護士の対応に不安があるときで具体的な進め方を扱っています。方針が本当にずれているのか、説明が足りていないだけなのかを見分ける材料になります。

費用の問題は紛議調停という窓口がある

 費用の清算について折り合いがつかない場合、所属弁護士会の紛議調停という手続があります(規程26条)。方針の対立と費用の争いは切り分けて考えたほうが、事件そのものへの対応が遅れずに済みます。制度の中身は紛議調停とは何か|弁護士会に申し立てる費用トラブルの解決手続で解説しています。

費用と引継ぎで確認しておくこと

 私選から私選へ替える場合、着手金の扱いが最初の論点になります。着手金は結果にかかわらず受任の対価として受け取るものとされているのが一般的で、途中解約の場合の精算方法は委任契約書の定めによります。

 新しい弁護人に依頼すれば、そこでも着手金が発生します。二重に負担する形になり得るという点は、交代を決める前に金額として把握しておくべき事柄です。具体的な清算の考え方は解任した場合の費用清算|着手金は返ってくるのかで扱っています。

 引継ぎについては、次のものを確認しておくと、新しい弁護人が動き出すまでの時間を短縮できます。

  • 開示を受けた証拠の謄写物と、開示請求の経過。
  • 被害者側とのやり取りの内容と、現在どこまで話が進んでいるか。
  • 提出済みの書面と、提出予定だった書面の下書き。
  • 次回期日と、その期日で予定されていた手続。
  • 預けている原本類と、預り金の残額。


 証拠の記録から何が分かるのかについては弁護人の記録閲覧・謄写でわかることが参考になります。示談交渉が進行中の場合は、相手方の心情に影響し得るため、引継ぎの伝え方にも配慮が要ります。この点は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で述べた考え方と共通します。

段階別に見た判断の目安

 あくまで一般的な整理ですが、段階ごとの特徴をまとめると次のようになります。

段階交代による影響特に確認したいこと
捜査の初期比較的小さい残りの勾留期間と、示談の着手状況
勾留期間の終盤時間の制約が大きい処分の決定見込みと、交代で失う日数
起訴後・第1回公判前中程度次回期日と、証拠意見の提出状況
公判前整理手続の途中・終了後証拠請求の制限が残る整理済みの争点と、請求済みの証拠の範囲
判決後・控訴審選任し直しの場面と重なる控訴期間と、控訴趣意書の提出期限


 公判がどのような流れで進むかは起訴されてから判決まで|期間と手続の流れで整理しています。認めるか争うかという判断そのものに迷いがある場合は、無実でも示談すべき?否認と示談のジレンマも判断の材料になります。

よくあるご質問


国選弁護人に不満があると裁判所に手紙を書けば、替えてもらえますか

 裁判所が解任できるのは刑事訴訟法38条の3第1項の5つの事由に当たる場合に限られており、方針が合わないという申出だけで解任に至ることは一般には想定されていません。実際に交代が実現している場面の多くは、私選弁護人を選任したことにより1号に当たるとして解任されるという流れです。

いったん私選に切り替えた後、また国選に戻れますか

 自動的に戻る仕組みではありません。国選弁護人は、貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときに付されるものですから(刑事訴訟法36条、37条の2)、改めて付されるかどうかは資力などの事情を踏まえた裁判所または裁判官の判断によります。切り替えを決める前に、この点は押さえておきたいところです。

家族が本人に無断で弁護人を替えることはできますか

 法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族および兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができます(刑事訴訟法30条2項)。もっとも、事実を認めるか争うかといった中心的な判断は本人の意思に属する事柄であり、本人の納得がないまま体制だけを替えても、方針のずれは解消しません。可能な限り、本人の意向を確認したうえで進めることをお勧めします。共犯者がいる事件で弁護人の体制を考える場合は共犯者がいる事件で弁護人を分ける理由もご覧ください。

まとめ


  1. 「方針が合わない」は、本人が決める事柄のずれ、手段の選び方のずれ、説明や連絡の量のずれの三つに分けて考えると判断しやすくなる。
  2. 認否や黙秘、控訴の可否は本人が決める事柄であり、弁護士職務基本規程22条も依頼者の意思の尊重を定めている。
  3. 国選弁護人の解任事由は刑事訴訟法38条の3第1項の5号に限られ、方針の不一致はそこに含まれていない。
  4. 実務上、国選から替わる場面は、私選弁護人の選任により同項1号に当たるとして解任される流れとほぼ重なる。
  5. 私選弁護人は民法651条1項により委任契約をいつでも解除できるが、選任・辞任の届出は書面による要式行為である(刑事訴訟規則17条、18条)。
  6. 起訴後の弁護人選任は審級ごとに行う必要があり(刑事訴訟法32条2項)、控訴審は選任し直しの場面と重なる。
  7. 公判前整理手続を経た事件では、証拠調べ請求の制限が交代後も残る(刑事訴訟法316条の32第1項)。
  8. 替えずに済ませる道として、私選であれば弁護人の追加(刑事訴訟法35条、刑事訴訟規則26条・27条)、セカンドオピニオン、費用面の紛議調停という選択肢がある。



弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。すでに弁護人が就いている事件について、方針の見方を別の角度から確認したいというご相談も承っています。

いま就いている弁護人を替えるべきかどうかは、事件の段階と残された時間によって答えが変わります。ご本人からでも、ご家族からでも構いません。次回の期日や処分の見込みなど、分かっている範囲の事情をお持ちのうえ、まずはご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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