共犯者がいる事件で弁護人を分ける理由

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

複数の人が関わったとされる事件で弁護士を探し始めると、「共犯とされている相手と同じ弁護士に頼めないのか」「どうして別々に立てなければならないのか」という疑問に行き当たることがあります。費用が二重にかかりますし、ご家族の立場からは窓口を一つにまとめたいと考えるのが自然です。

 この記事では、共犯者がいる事件で弁護人を分けるのが通常とされているのはなぜかを、弁護士の側に置かれたルールと、刑事手続の仕組みの両面から整理します。あわせて、分けたあとに弁護人同士がどう動くのか、依頼する側が事前に整理しておくとよいことにも触れます。

 なお、ここで扱うのは弁護体制の話です。どのような関わり方をすれば共犯とされるのかという成立の問題は扱いません。

一人の弁護士にまとめて依頼できないのか

 まず前提として、一人の弁護士が複数の被疑者・被告人の弁護を担当することが、法令上一律に禁じられているわけではありません。刑事訴訟規則29条5項は、被告人または被疑者の利害が相反しないときは、同一の弁護人に数人の弁護をさせることができる、と定めています。

 もっとも、この規定には「利害が相反しないとき」という条件が付いています。裏を返せば、利害が相反する場面では、一人の弁護人がまとめて担当することは想定されていません。共犯者がいる事件では、この条件を満たしているかどうかが入口で問われることになります。

 そして実際の共犯事件では、利害が相反しない状態を最後まで保てるかどうかを、依頼の時点で見通すことが難しいという事情があります。そのため、はじめから弁護人を分けておく取扱いが通常になっています。

共犯者の間で利害が分かれるのはどこか

 「二人とも認めているのだから言い分は同じはずだ」と感じる方は少なくありません。しかし、事件そのものを認めているかどうかと、責任の重さについての説明が一致しているかどうかは、別の問題です。

役割の軽重をめぐる説明

 共犯事件では、誰が言い出したのか、誰が指示を出したのか、誰がどれだけの利益を得たのかが、処分や量刑を左右する要素になります。従った側としては「指示されて動いただけだ」と説明したいところですが、その説明は、指示したとされる側の責任を重くする方向に働きます。一方に有利な事情が、そのまま他方に不利な事情になるという構造です。

認めるか争うかの選択

 一方が事実を認め、他方が否認している場合、方針そのものが逆を向きます。認めている側の説明の中に他方の関わりが含まれていれば、その説明は他方の不利益に直結します。証拠に対する意見も、認めている側は同意し、争っている側は同意せず尋問を求める、というように分かれていきます。

供述の順番と内容

 取調べでは、先に話した人の説明が、その後の捜査の土台になっていきます。自分の記憶と食い違う内容が先に出ていれば、それを前提に質問が組み立てられることもあります。どの時期に何をどう説明するかは、それぞれの立場から個別に判断すべき事柄です。

被害弁償と示談の分担

 被害者がいる事件では、賠償をどう分担するかという問題も生じます。共犯者は被害者に対して損害の全額について責任を負うのが原則で、自分の負担部分を超えて支払った分は、他の共犯者に対して求めることができると考えられています。誰がいくら負担するのかは、共犯者どうしの利害が正面から向き合う場面です。

 ここまでを場面ごとに整理すると、次のようになります。

場面それぞれの立場一人の弁護人で受けることの難しさ
どちらも認めている同じ方向を向いているように見える役割の軽重で説明が分かれると一方の主張が他方の不利益になる
一方が認め、一方が否認方針が逆を向く証拠に対する意見や尋問の要否まで食い違う
上下関係や主従がある従った側は指示されたと説明したいその説明は指示した側の責任を重くする
双方が相手一人の犯行だと述べる正面から対立しているどちらの説明にも立つことができない
双方が黙秘している表面上は対立が見えない供述に転じた時点で対立が現れることがある


弁護士の側に置かれているルール

 弁護士には、依頼者との関係で職務を行えない場面を定めたルールがあります。弁護士職務基本規程28条3号は、依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件について、その職務を行ってはならないと定めています。共犯者の双方から依頼を受ける場面は、この規定が正面から問題になります。

 もっとも、同条にはただし書があり、3号については依頼者および他の依頼者のいずれもが同意した場合には禁止が解除される仕組みになっています。この部分だけを読めば、双方の了解があれば一人で受けられるようにも見えます。

 それでも刑事の共犯事件で分けるのが通常とされているのは、同意をした時点で対立が見えていなくても、後から現れることがあるからです。同規程42条は、依頼者相互の間に利害の対立が生じたときには、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならないとしています。対立が表面化した段階では、片方の弁護だけを辞めれば足りるとは限らず、双方から退くべきだと考えられています。そうなれば、どちらの依頼者も、途中で弁護人を失うことになります

今は言い分が一致していても、最初から分けておく理由

 弁護活動は、時間の経過とともに形を変えていきます。捜査が進んで新しい証拠が出てくる、共犯者の供述の中身が伝わってくる、処分や判決の見通しが具体的になる。そうした変化のたびに、それぞれにとって望ましい選択がずれていく可能性があります。

 もう一つ大きいのが、聞いた話の扱いです。弁護士は、職務上知り得た秘密を守る義務を負っています。双方から事情を聴いたあとで対立が表面化した場合、一方の弁護を続けようとしても、他方から聴いた話をどう扱うのかという問題が残ります。入口で分けておけば起きない問題が、後から分けようとすると避けにくくなる。これが、当初から分ける取扱いが実務で定着している理由です。

 「今は二人とも同じことを言っている」という状態は、対立がないことの証明ではなく、まだ表に出ていないだけである場合もあります。

弁護士費用を誰が負担するかという問題

 共犯事件では、主導的な立場にあるとされる側やそのご家族から、「こちらで費用を持つので、あの人の弁護もお願いしたい」という申し出が出ることがあります。負担してもらう側にとってはありがたい話ですが、ここには気をつけておきたい点があります。

 費用を出してもらっている相手に対しては、その意向に反する説明がしにくくなることがあります。「指示されて従っただけだ」という主張は、費用を負担している側の責任を重くする方向に働くため、口にしづらくなるかもしれません。費用の出どころが、説明の中身に影響しうるという構造です。

 弁護士は、委任の趣旨について依頼者本人の意思を尊重して職務を行うものとされています。費用を負担している人の意向ではなく、弁護を受ける本人の意思に従うのが基本です。その形を保つためにも、誰が費用を負担するのか、負担する人に何をどこまで伝えるのかは、依頼の段階ではっきりさせておいたほうがよい事柄です。

同じ事務所の別の弁護士ではどうか

 「弁護士は分けるとしても、同じ事務所の別の弁護士なら窓口が一つで済むのではないか」という考え方もあります。しかし弁護士職務基本規程57条は、同じ事務所に所属する他の弁護士が職務を行い得ない事件については、その事務所の弁護士も職務を行ってはならないと定めています。「職務の公正を保ち得る事由があるとき」というただし書は置かれていますが、原則として事務所単位で及ぶ設計です。弁護士法人についても、これに対応する規定があります。

 このことは、依頼の時期にも関わってきます。共犯者とされている人が先に同じ事務所へ相談していれば、その事務所には依頼できないことがあります。しかも弁護士には守秘義務があるため、断る理由をそのまま説明できない場合があります。理由が示されないまま受けられないと言われることがあるのは、そうした事情によるものです。

 問い合わせの段階で、共犯者とされている人の氏名を伝えてほしいと求められるのは、この確認のためです。

弁護人を分けると、連携できなくなるのか

 「分ける」という言葉から、弁護人同士が連絡を取らない状態を思い浮かべる方もいますが、実際はそうではありません。それぞれの依頼者の利益になる範囲で、弁護人同士が連絡を取り合うことは行われています。

 たとえば捜査段階では、証拠書類を見ることができません。手続がどこまで進んでいるのか、捜査官の関心がどこに向いているのかを知る手がかりは限られています。他の弁護人と情報を交換することで、見通しを立てやすくなる場面があります。

 被害者との示談についても同じです。弁護人がそれぞれ別に申入れをすれば、被害者は同じ事件について何度も対応を求められることになります。申入れの時期や内容について足並みをそろえたほうが、被害者の負担が軽くなり、話がまとまりやすいこともあります。

 ただし、伝え合えるのは守秘義務の枠内に収まる範囲に限られますし、被害者の受け止め方によっては、一緒に進めないほうがよい場合もあります。分けたうえで、必要な範囲で協力するというのが、実際の姿に近いといえます。

手続の側にも分ける仕組みがある


弁論の分離と併合

 共犯者が同じ裁判所に起訴されると、弁論が併合され、一つの手続でまとめて審理されることがあります。証拠が共通し、証人の負担も減り、量刑の均衡を図りやすいという利点があるためです。

 一方で刑事訴訟法313条1項は、裁判所が適当と認めるときに、請求により、または職権で弁論を分離できると定めています。さらに同条2項を受けた刑事訴訟規則210条は、被告人の防禦が互いに相反する等の事由があって被告人の権利を保護するため必要があると認めるときは、弁論を分離しなければならないとしています。

 ここで押さえておきたいのは、防禦が互いに相反しているというだけで、当然に分離されるわけではないという点です。条文は「必要があると認めるとき」としており、分離するかどうかは事案ごとの判断になります。分離を求めるかどうか、求めるとしてどう理由を示すかも、弁護活動の中身に含まれます。

 なお、共犯者を証人として尋問する必要がある場合に、弁論を分離したうえで尋問を行う運用もあります。

接見等禁止がつく場面

 共犯者がいる事件では、関係者との間で話を合わせることを防ぐという理由から、勾留に加えて接見等禁止の決定がされることがあります。刑事訴訟法81条に基づくもので、面会だけでなく、書類その他の物のやり取りも制限されます。ご家族が会えない状態が続くことも少なくありません。

 この決定を受けても、弁護人は制限の対象から外れており、面会することができます。共犯者がいる事件で早い段階に弁護人が入る意味の一つは、外部との接触が制限された状態でも、本人と直接話せる立場の人がいることにあります。

相談する前に整理しておきたいこと

 共犯者がいる事件で弁護士に相談するときは、次の点を整理しておくと話が進みやすくなります。

  1. 共犯者とされている人の氏名を伝える。事務所の側で受けられるかどうかの確認に必要です。
  2. 自分が見聞きしたことを、自分の言葉で時系列にまとめておく。他の人の説明に合わせる必要はありません。
  3. 弁護士費用を誰が負担するのかをはっきりさせておく。
  4. 共犯者やそのご家族と、事件の内容について話を合わせようとしない。話を合わせたと受け取られると、身柄の判断にも響きます。
  5. すでに他の関係者が相談している事務所があれば、その情報も伝える。


まとめ


  • 一人の弁護人が複数人を担当することは一律に禁じられていませんが、刑事訴訟規則は「利害が相反しないとき」という条件を置いています。
  • 共犯事件には、役割の軽重、認めるか争うかの選択、供述の内容、賠償の分担といった場面で利害が分かれやすい構造があります。
  • 弁護士職務基本規程は、依頼者どうしの利益が相反する事件の受任を制限し、対立が生じた場合にとるべき措置も定めています。
  • 対立が後から表面化すると、双方が弁護人を失うことになりかねないため、入口から分けておく取扱いが通常です。
  • 同じ事務所の別の弁護士にも原則として同じ制限が及ぶため、共犯者が先に相談していると依頼できないことがあります。
  • 弁護人を分けても、それぞれの依頼者の利益になる範囲での連携は行われています。


共犯者がいる事件でお困りの方へ

 共犯者がいる事件は、身柄についての判断が厳しくなりやすく、状況が動くのも早い傾向があります。誰がどう説明しているのかが見えないまま時間が過ぎると、選べる手が狭まっていくこともあります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件のご相談を24時間受け付けており、初回のご相談は無料でお受けしています。ご本人からのご相談はもちろん、ご家族からのご相談にも対応しています。まずは今の状況をお聞かせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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