詐欺の疑いで銀行口座が凍結された|解除までの手順
他人の名前で携帯電話を契約してしまった、家族や知人の名義でローンやサービスの申込書を出してしまった――こうしたご相談は、ご本人が「名前を借りただけ」「あとで払うつもりだった」と考えていることが少なくありません。しかし刑事の場面では、一つの申込み行為が、文書の偽造・その行使・財産のだまし取りという複数の評価を受けることがあります。ここでは、他人になりすまして契約した場合にどの罪がどのように重なるのか、そして処分の見通しを考えるうえで押さえておきたい点を整理します。
契約の場面で問題になりやすい行為
「なりすまして契約した」といっても、実際のご相談は次のように幅があります。
・家族や知人の名前で携帯電話やインターネット回線を契約した
・他人の名義で申込書に署名し、商品を分割払いで購入した
・他人名義の預金口座を開設した、あるいは開設を申し込んだ
・他人のクレジットカードを本人になりすまして使用した
・借入れやリース、賃貸借の契約書に他人の名前を書いた
・勤務先や取引先で、権限のない他人名義の書面を作成して提出した
このうち、名義人にまったく無断で行った場合と、名義人の了解を得ていた場合とでは、法律上の評価が分かれることがあります。また、書面に署名や押印をしたのか、オンラインの入力だけで完結したのかによっても、問題になる条文が変わってきます。
「偽造」「行使」「詐欺」という三つの段階
他人になりすまして契約したという一連の流れは、実務上、次の三つの段階に分けて検討されます。
一つ目は、他人の名前で書面を作る段階です。刑法は、文書の内容が本当かどうかではなく、「その文書を作ったことになっている人(名義人)」と「実際に作った人」が一致しているかどうかを重く見ています。過去の判例でも、私文書偽造の本質は名義人と作成者との人格の同一性を偽る点にあるとされてきました。したがって、他人の名前を書いて申込書や契約書を作れば、内容そのものに虚偽がなくても、私文書偽造罪の問題が生じます。
二つ目は、その書面を相手方に提出する段階です。偽造した文書を、本物であるかのように相手に示したり交付したりすると、偽造私文書等行使罪が別に問題になります。窓口に出す、郵送する、写しを送信するといった行為が典型です。
三つ目は、それによって商品・サービス・金銭などを受け取る段階です。相手方の担当者が「契約者は名義人本人だ」と誤って信じたことにより財物や利益が交付されたと評価されれば、詐欺罪の問題になります。判例には、他人名義で預金口座の開設を申し込み、係員を誤信させて通帳の交付を受けた事案で、通帳は財物にあたるとして詐欺罪の成立を認めたものがあります(最高裁平成14年10月21日決定)。また、他人のクレジットカードを名義人本人になりすまして使用した事案でも、詐欺罪の成立が認められています。
主な罪名と法定刑
| 罪名 | 根拠条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 有印私文書偽造罪・同変造罪 | 刑法159条1項・2項 | 3か月以上5年以下の拘禁刑 |
| 無印私文書偽造罪・同変造罪 | 刑法159条3項 | 1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 |
| 偽造私文書等行使罪 | 刑法161条1項 | 偽造した場合と同じ刑(未遂も処罰) |
| 詐欺罪 | 刑法246条1項 | 10年以下の拘禁刑 |
| 電子計算機使用詐欺罪 | 刑法246条の2 | 10年以下の拘禁刑 |
| 有印公文書偽造罪 | 刑法155条1項 | 1年以上10年以下の拘禁刑 |
本人確認書類として運転免許証や住民票の写しを加工した場合は、私文書ではなく公文書の偽造という、より重い枠組みで扱われることになります。ここが、契約書だけを問題にしていた方にとって想定外になりやすい点です。
三つの罪が成立しても、刑が三つ分になるわけではない
罪名が三つ並ぶと、それだけで刑が三倍になるかのように感じられるかもしれません。しかし、偽造・行使・詐欺のように手段と目的の関係にある犯罪は、刑法54条1項後段の「牽連犯」として、最も重い罪の刑によって処断されます。他人名義の契約書を偽造して提出し商品を受け取ったという事案であれば、法定刑の枠としては詐欺罪のものが基準になると考えるのが一般的です。
もっとも、これは「軽く済む」という意味ではありません。行為が文書偽造を伴っている点は、犯情として量刑上考慮される事情になります。また、契約が複数あれば、そのぶん事件の数も増えていきます。携帯電話を数回線、あるいは複数の店舗で契約したというケースでは、一件ごとに被害者と被害額が観念されるため、全体像の把握と整理が早い段階で必要になります。
なお、公訴時効の期間は罪ごとに異なり、詐欺罪は7年、有印私文書偽造罪・同行使罪は5年とされています。時間が経過してから捜査の連絡が来ることも、実際にはあります。
署名や押印がない申込みは、どう扱われるのか
近年は、店頭で書面に署名するのではなく、画面上で氏名や生年月日を入力し、本人確認書類の画像を送信して完結する契約が増えています。この場合の扱いは、書面の場合と少し異なります。
まず、署名や押印を伴わない文書については、無印私文書偽造罪という、より軽い類型が問題になり得ます。ただし、判例上「署名」にはゴム印や印字による記名も含まれると解されており、氏名が表示されていれば有印として扱われる場面は少なくありません。
次に、人の判断が介在せず、コンピュータの処理だけで契約が成立し利益を得たと評価される場合には、詐欺罪ではなく電子計算機使用詐欺罪が検討されます。担当者が審査していたのか、システムが自動的に処理していたのかによって、適用条文が変わり得るということです。ご自身では同じ「ネット申込み」と感じていても、手続の実態によって評価が分かれる領域ですので、申込みの経緯を正確に思い出しておくことが役に立ちます。
名義人の承諾があった場合
「本人に了解をもらっていた」というご説明は、実際によくあります。私的な契約書などについては、名義人の承諾を得て代わりに署名したのであれば、名義人と作成者の人格の同一性に食い違いはないと考えられ、偽造にはあたらないのが原則です。いわゆる名義貸しと評価される場面がこれにあたります。
ただし、注意すべき点が二つあります。
一つは、文書の性質によっては、承諾があっても偽造とされる場合があることです。法令で厳格な本人確認が定められている書面については、名義人以外の者が作成することは許されないとして、あらかじめ承諾を得ていても私文書偽造罪の成立を認めた裁判例があります。
もう一つは、偽造にあたらないとしても、詐欺の問題が残り得ることです。判例は、名義人からカードの使用を許されていたと考えていた事案でも、正当な利用権限があるように装った以上は詐欺罪の成立が左右されないとしています。契約の相手方にとっては「誰が契約者か」が判断の前提になっているため、その点を偽ったこと自体が問題とされる、という構造です。
本人確認を定めた法律との重なり
契約の種類によっては、刑法とは別に、本人確認を義務づける法律が関わってきます。
・携帯電話不正利用防止法では、契約時に事業者が行う本人確認において、本人特定事項を隠蔽する目的で事実を偽った場合の罰則(罰金)が定められています
・犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)では、金融機関などの取引時確認において本人特定事項を隠蔽する目的で事実を偽った場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科もあり得ます)と定められています
携帯電話の契約や口座開設は、この二つの法律が正面から関わる場面です。刑法上の評価だけを見て見通しを立てると、想定と実際がずれることがあります。
関係者が二方向にいるという特徴
この類型で特徴的なのは、影響を受ける相手が一方向ではないことです。
・契約の相手方(携帯電話会社、販売店、金融機関、貸主など)は、代金や貸付金といった財産上の不利益を受けます
・名義を使われた本人は、身に覚えのない請求を受けたり、支払いの遅れが信用情報に記録されたり、解約や名義訂正の手続を強いられたりします
そのため、被害の回復を考える際も、契約相手方への弁済・原状回復と、名義人への説明と手当てという二方向を意識する必要があります。名義人がご家族である場合、感情面の問題が絡んで当事者同士では話が進みにくいこともあり、代理人を介して段取りを整えることが選択肢になります。
刑事手続のなかでは、被害の弁償や示談の成立が、起訴・不起訴の判断や量刑において考慮される事情の一つとされています。実際、被害を全額弁償し宥恕を得ていた点が有利な事情として評価された裁判例もあります。ただし、示談の成否は相手方の意向によるところが大きく、結果を約束できるものではありません。
契約そのものはどうなるのか
無断で他人の名義を用いて締結された契約は、名義人本人に効力が及ばないのが原則です。名義人が追認しない限り、本人が支払義務を負うことにはなりません。
もっとも、実際には請求書が名義人に届き、督促が続き、契約が残ったままになるという状態が先に生じます。事業者への申告、契約の解約や取消しの手続、信用情報の訂正といった民事上の後始末は、刑事手続とは別に進める必要があります。ここを放置すると、名義人の不利益が広がり、結果として刑事の場面でも不利な事情として受け止められかねません。
早い段階で整理しておきたいこと
捜査の連絡を受けた段階、あるいはご自身で問題に気づいた段階で、次の点を整理しておくと、その後の対応を組み立てやすくなります。
・いつ、どの事業者と、どの名義で、いくらの契約をしたのか(契約が複数ある場合はすべて)
・署名や押印をした書面があるのか、オンラインの入力だけだったのか
・本人確認書類として何を提示したのか、加工の有無
・名義人に事前の了解を得ていたのか、得ていたとすればどのような内容だったのか
・すでに支払った金額、残っている債務、端末や商品の所在
・名義人にどのような不利益が生じているか
事実関係の記憶は時間とともに曖昧になり、後から述べた内容が変わると、説明の信用性が問われる原因にもなります。取調べで問われるのは、行為そのものだけでなく、申込み当時に何を考えていたかという内心の事情でもあります。早い段階で経緯を時系列に沿って整理し、専門家に相談したうえで方針を決めることが、結果として本人にとっても名義人にとっても負担の小さい進め方につながります。
弁護士は、事実関係の整理、捜査機関への説明の組み立て、契約相手方や名義人との交渉、契約の後始末の道筋づけといった作業を一体として進めることができます。ご自身やご家族が同種の状況に置かれている場合は、判断を先送りにせず、まず相談してみることをお勧めします。


