郵便で届いた荷物を受け取った|輸入・譲受の認識の争い方

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

海外の通販サイトで注文した品物が届いた、知人から「荷物を預かってほしい」と頼まれて受け取った、身に覚えのない荷物が自分あてに届いた——その中身が規制薬物だったとして、警察や麻薬取締官から事情を聞かれている。郵送による薬物事件では、こうした形で捜査が始まることがあります。

 荷物を受け取ったという事実そのものは、配達記録や防犯カメラに残っていることが多く、後から動かしにくい部分です。そのため争点は、早い段階から「中身について何を、どこまで知っていたか」という点に集まります。ただ、この「知っていたか」は、当てはまる罪名によって問われ方が変わります。この記事では、郵便や宅配で薬物を受け取ったとされる場面で、どの罪名がどのような認識を要件としているのかを整理します。なお、責任を軽く見せるための説明の作り方は扱いません。

「受け取り」という罪名は法律にない


 法律に「荷物を受け取った罪」という規定はありません。捜査機関が見ているのは、その受け取りが輸入・譲受け・所持のどれに当たるのかという点です。そして、どれに当たるかによって、故意の対象となる事実も、刑の枠も変わります。

 大づかみにいえば、荷物が国外から届いたのであれば輸入が問題になり、国内から届いたのであれば譲受けと所持が問題になります。さらに、税関で中身が入れ替えられていた場合には、麻薬特例法という別の法律の罪が問題になります。

荷物の届き方主に問題になる罪認識の対象となる事実
国外から届いた各法律の輸入罪、関税法違反規制薬物が国外から国内に入ってくること
国内から届いた譲受け罪、所持罪受け取る物が規制薬物であること
中身が入れ替えられていた麻薬特例法違反規制薬物として受け取るつもりであったこと


自分が海外に行っていなくても輸入になり得る


 輸入というと、自分でスーツケースに入れて空港を通る場面を思い浮かべるかもしれません。ただ、海外の相手に注文して日本あてに送らせた場合、送った側と受け取る側が意思を通じていれば、国内にいる受取人も輸入の共同正犯として扱われることがあります。実際に国境をまたいだかどうかが分かれ目になるわけではありません。

 もっとも、どの罪名で立件されるかは、発送に至るまでにどの程度関与していたかによって変わります。注文も送金もしておらず届いた荷物を預かっただけという場合と、自分で注文して住所を伝えた場合とでは、見立てが同じにはなりません。

輸入の罪は、荷物が手元に届く前に成立している


 見落とされやすいのが、輸入の罪がいつ成立するかという点です。最高裁は昭和58年9月29日の判決で、輸入とは外国から来た物を日本の領土内に搬入する行為をいい、船舶によるときは陸揚げ、航空機によるときは機体からの取り下ろしがこれにあたるという考え方を示しています。

 この考え方によると、国際郵便で送られた薬物は、日本の空港や港で降ろされた時点で、薬物を取り締まる各法律にいう輸入は成立していることになります。税関の検査で見つかって荷物が止められた場合でも同じです。一方、関税法が定める輸入してはならない貨物を輸入する罪は、通関の手続を経て貨物が引き取られることを前提としているため、税関で止まった段階では未遂として整理されます。

 したがって、「受け取っていない」「不在票を放置した」「配達を断った」という事情だけで、当然に何も問題がなくなるわけではありません。もちろん、受け取らなかったという事実は、中身を知っていたかどうかを判断するうえでの材料にはなります。ただ、それは故意の判断の材料であって、罪が成立していないことを意味するのとは別の話です。

薬物の種類輸入を定めた規定刑の枠
覚醒剤覚醒剤取締法41条1項1年以上の有期拘禁刑
麻薬(2024年12月から大麻を含む)麻薬及び向精神薬取締法65条1項1年以上10年以下の拘禁刑
ヘロインなど麻薬及び向精神薬取締法64条1項1年以上の有期拘禁刑
向精神薬麻薬及び向精神薬取締法66条の3第1項5年以下の拘禁刑
指定薬物医薬品医療機器等法76条の4、84条3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金


 これに加えて、覚醒剤や麻薬などは関税法でも輸入してはならない貨物とされており、同法109条1項により10年以下の拘禁刑もしくは3000万円以下の罰金、またはその併科が定められています。営利の目的が認められた場合や、業として行ったと認められた場合には、さらに重い枠が用意されています。

 なお、同じ薬物でも、手元に置いていただけの所持と、国外から入れた輸入とでは刑の枠が異なります。覚醒剤でいえば、所持は10年以下の拘禁刑であるのに対し、輸入は1年以上の有期拘禁刑です。郵送で届いたという事情が、罪名の重さに直結する場面があるということです。

中身が入れ替えられていても罪になる場合がある


 税関の検査で郵便物の中から規制薬物が見つかったとき、その場で押収して終わりにせず、荷物を届けさせて受取人を確認するという捜査が行われることがあります。これはコントロールド・デリバリーと呼ばれ、麻薬特例法4条が根拠になっています。同条2項により、郵便物の中にある信書以外の物の検査で規制薬物が見つかった場合にも同じ扱いができるとされています。

 この捜査には二つの型があります。中身の薬物をそのままにして届けさせる型と、中身を小麦粉などの別の物に入れ替えて届けさせる型です。薬物が社会に出回ることを避ける観点から、入れ替える型がとられることが多いといわれています。

「物が出てこなかった」は決め手にならない


 中身が入れ替えられていれば、受け取った時点で手元にあるのは規制薬物ではありません。それでも処罰の対象になり得るのは、麻薬特例法8条が、規制薬物として受け取るつもりで別の物を受け取った行為そのものを罪としているためです。

 同条1項は、輸入・輸出について、規制薬物として交付を受け、または取得した物を輸入した場合を3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定めています。2項は、譲受けや所持について、規制薬物として受け取った物を所持した場合などを2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と定めています。本物の薬物についての罪より刑の枠は軽く設けられていますが、中身が薬物でなかったことは、それだけでは責任を否定する事情にならないという点は押さえておく必要があります。

 この規定があるため、「手元から薬物は出ていない」「調べても何も検出されなかった」という事情だけで見通しが決まるわけではありません。ここでも問われるのは、受け取る時点で何を受け取るつもりだったかという認識です。

「知らなかった」は、何を知らなかったのかで扱いが変わる


 薬物事件の故意については、その物が覚醒剤なら覚醒剤だと言い当てられる必要はないと考えられています。最高裁は平成2年2月9日の決定で、身体に有害で違法な薬物類であるという程度の認識があれば足りるという考え方を示しました。「違法な薬物かもしれないとは思ったが、何かまでは分からなかった」という説明は、故意を否定する方向には働きにくいということです。

別の薬物だと思っていた場合


 では、実際の中身と思っていた物が食い違っていた場合はどうなるか。最高裁は昭和54年3月27日の決定で、覚醒剤を麻薬と誤って認識して輸入した事案について、二つの罪の構成要件が重なり合う限度で、軽いほうの罪の故意犯が成立するという考え方を示しています。

 思っていた物と実際の物が違ったからといって何も成立しないわけではなく、重なり合う範囲で軽いほうの罪が残るという整理です。どの範囲で重なり合うといえるかは、事案ごとの検討が必要になる部分です。

「医薬品のつもりだった」場合


 海外の通販サイトで睡眠薬や精神安定剤を注文し、届いたところで問題になる例もあります。厚生労働省は、向精神薬について、医師から処方された本人が携帯して入国する場合を除き、一般の個人が輸入することは認められないとしています。本人が携帯せずに他の人に持ち込んでもらうことも、国際郵便などで海外から取り寄せることもできないという説明です。医療用の麻薬や医薬品覚醒剤原料についても同じ扱いとされています。

 「薬だから問題ないと思った」という受け止めは珍しくありませんが、これは中身についての事実の認識ではなく、規制の内容についての理解の問題です。両者は法律上の扱いが違うため、どちらを指して「知らなかった」と言っているのかは、早い段階で整理しておく必要があります。

認識は、荷物の外側に残った記録から見られる


 中身を知っていたかどうかは本人の内心の問題であり、直接に見ることはできません。そのため実際には、荷物にまつわる客観的な事情を積み重ねて判断されます。捜査機関が確認しているのは、たとえば次のような点です。

・注文や問い合わせのやり取りが残っているか、どのような言葉が使われていたか
・代金の支払いがあるか、その金額が表示された品物に見合うか
・宛先の氏名・住所・電話番号が誰のものか、なぜその宛先が使われたのか
・追跡番号を確認していたか、配達の日時を気にしていたか
・受け取り方(本人が受け取ったか、置き配だったか、別の場所を指定したか)
・受け取った後の行動(すぐ開けたか、封を開けずに人に渡したか、誰かに連絡したか)
・端末に残った検索履歴、通信アプリのやり取り、削除された形跡

 これらは、どれか一つで結論が決まるものではありません。ただ、複数が同じ方向を示していると、認識があったと見られやすくなります。反対に、説明のつく事情があるのであれば、記録が残っているうちに整理しておく意味があります。

取調べが「誰に頼まれたか」「いつ知ったか」に集中する理由


 この種の事件では、取調べの質問が受け取りの経緯と時期に繰り返し戻ってきます。理由は二つに分けて考えると分かりやすくなります。

 一つは、罪名と関与の範囲を確定するためです。発送の段階から関わっていたのなら輸入が問題になり、届いた荷物を受け取っただけなら譲受けや所持の枠で考えることになります。同じ「受け取った」でも、どこから関わっていたかで結論が変わるため、経緯が繰り返し確認されます。

 もう一つは、発送元をたどるためです。郵送による事件では、国外の発送者を直接に調べることが難しいことが多く、受取人から得られる情報が捜査の手がかりになります。連絡の手段、支払の方法、紹介した人物といった点が細かく聞かれるのはこのためです。

聞かれる前に整理しておきたいこと


 説明を求められたときに備えて、少なくとも次の点は自分の中で整理しておくと、話が前後しにくくなります。

・その荷物について、いつ、誰から、どのような話があったのか
・注文や送金をしたのか、していないのか
・自分の住所や名前が使われた経緯を説明できるか
・荷物を受け取った時点で、中身をどう思っていたのか
・受け取った後に何をしたのか

 一度した説明を後から変えると、変わったこと自体が判断の材料になります。分からないことを分かると答えたり、その場を収めるために話を合わせたりすると、後で修正するのが難しくなります。反対に、やり取りの記録を消すことは、証拠を隠したと受け取られかねません。

弁護士に相談する意味


 郵送による薬物事件は、罪名の見立てが定まらないうちに取調べが進みやすい類型です。輸入として扱われるのか、譲受けや所持として扱われるのか、あるいは中身が入れ替えられていた場合の罪として扱われるのかによって、説明すべき事実の重点が変わります。見立てが分からないまま供述を重ねると、後から整理するのが難しくなります。

 また、関係者が複数にわたることから、身柄の拘束が長引きやすい類型でもあります。早い段階で弁護人がつき、事実関係の整理と手続の説明を受けられるかどうかは、その後の進み方に影響します。

 弁護士法人若井綜合法律事務所は、東京都内に池袋と新橋の二つの拠点を構え、刑事事件のご相談をお受けしています。初回のご相談は無料で、24時間受付の体制をとっており、逮捕直後の即日接見にも対応しています。出頭や自首に弁護士が同行するご依頼は全国に対応しています(移動にかかる費用は別途申し受けます)。深夜・早朝についても、状況により対応できる場合があります。ご本人からのご相談はもちろん、ご家族からのご相談も承ります。

まとめ


・法律に「受け取った罪」はなく、輸入・譲受け・所持のどれに当たるかで認識の対象と刑の枠が変わる
・海外に行っていなくても、注文して送らせた場合は輸入の共同正犯として扱われることがある
・輸入の罪は、荷物が日本で降ろされた時点で成立していると考えられている
・税関で止められた場合、薬物を取り締まる各法律の輸入は既遂、関税法の輸入は未遂という整理になる
・中身が別の物に入れ替えられていても、麻薬特例法により処罰の対象になり得る
・故意は「身体に有害で違法な薬物類」という程度の認識で足りるとされている
・別の薬物だと思っていた場合は、重なり合う限度で軽いほうの罪が問題になる
・向精神薬や医療用麻薬は、国際郵便で個人が取り寄せることが認められていない
・認識は、注文・支払・宛先・受け取り方といった外側の記録から判断される

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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