風俗の性犯罪で前科をつけない|不起訴処分を得るための示談の重要性
判決に納得できない場合|控訴を検討する際の判断材料
判決を言い渡されたその場では、内容を受け止めるだけで精いっぱいだったという方は少なくありません。帰り道や翌朝になって、「あの事実認定はおかしいのではないか」「刑が重すぎるのではないか」と考え始め、そこで初めて控訴という言葉を調べる、という順番になることもあります。
ただ、控訴は第一審をもう一度はじめからやり直してもらう手続ではありません。控訴審は、第一審で取り調べられた証拠をもとに、第一審判決の当否をあとから審査する仕組みになっています。そのうえ、控訴するかどうかを決められる期間は14日しかありません。
この記事では、性風俗の利用に関わる事件で第一審の判決を受けた方に向けて、控訴を検討するときに手元に置いておきたい判断材料を、条文と公表されている統計に沿って整理します。実際に控訴するかどうかは弁護人と相談したうえで決めることになりますが、材料の全体像を先に知っておくと、限られた14日の使い方が変わります。
この記事で扱う範囲
- 第一審の判決に不服がある場合の「控訴」という手続の位置づけ。
- 控訴を検討するときに確認したい5つの判断材料。
- 控訴とは別の手続になる場合(略式命令を受けたときなど)との区別。
- 判決の日から14日の間にしておきたいことと、避けたいこと。
量刑がどう決まるのか、示談をどう進めるのか、といった第一審までの話は、それぞれ別の解説に譲ります。ここでは判決が出たあとの局面に絞ります。
控訴は「やり直し」ではなく「第一審判決の審査」
地方裁判所または簡易裁判所の第一審判決に不服がある場合、高等裁判所に不服を申し立てることができます。これが控訴です(刑事訴訟法372条)。控訴審の判決にさらに不服があれば最高裁判所に上告できます(同法405条)。
ここで押さえておきたいのは、控訴審の審理の対象が事件そのものではなく、第一審判決の当否であるという点です。控訴裁判所は、控訴趣意書に書かれた事項を調査するのが原則で(同法392条1項)、判断の土台になるのは第一審で取り調べられた証拠です。控訴審で新たに事実の取調べをするのは、必要があると認められる場合に限られます(同法393条1項)。
「もう一度、一から話を聞いてもらえる場」を想像していると、実際の控訴審との間に大きなずれが生まれます。判断材料を集めるときは、この前提から出発することになります。
判断材料① 期限は14日。ただし14日で必要なのは申立書
控訴の提起期間は14日です(刑事訴訟法373条)。この期間は判決が告知された日から進行し(同法358条)、初日は算入しないため(同法55条1項)、判決の翌日から数えて14日目が末日になります。末日が土曜日、日曜日、祝日、1月2日・3日、12月29日から31日までに当たるときは、その日は期間に算入されません(同法55条3項)。
有罪判決を言い渡すときは、法廷で上訴期間と控訴申立書を差し出すべき裁判所が告げられます(刑事訴訟規則220条)。「明日から数えて14日以内」という言い方で告げられることが多く、聞き逃していても判決書や弁護人への確認で把握できます。
理由をまとめるのは、そのあとでよい
14日以内に提出するのは控訴申立書で、提出先は判決を出した第一審裁判所です(刑事訴訟法374条)。ここでは、どの判決に対して控訴するのかが分かれば足り、控訴の理由を詳しく書き上げる必要はありません。
控訴の理由は、そのあとに提出する控訴趣意書に書きます。第一審の記録が高等裁判所に送られると、控訴裁判所が控訴趣意書を差し出すべき最終日を指定して通知し(刑事訴訟規則236条1項)、その最終日までに提出することになります(刑事訴訟法376条1項)。期間内に提出されないときは、決定で控訴が棄却されることがあります(同法386条1項)。
つまり、14日で求められているのは「理由を固めること」ではなく「期限を切らさないこと」です。ここを取り違えると、迷っているうちに期間が過ぎ、判決が確定してしまいます。
| 時期 | 起きること・すべきこと | 根拠 |
|---|---|---|
| 判決宣告の日 | 上訴期間と控訴申立書を差し出す裁判所が法廷で告げられる | 刑事訴訟規則220条 |
| 翌日から14日以内 | 控訴申立書を第一審裁判所に提出する | 刑訴法373条・374条・358条・55条1項 |
| 末日が土日祝など | その日は期間に算入されない | 刑訴法55条3項 |
| 記録の送付後 | 控訴裁判所が控訴趣意書の差出最終日を指定して通知する | 刑事訴訟規則236条1項 |
| 指定された最終日まで | 控訴趣意書を控訴裁判所に提出する | 刑訴法376条1項 |
| 提出がないとき | 決定で控訴が棄却されることがある | 刑訴法386条1項 |
判断材料② 控訴すると刑が重くなるのか
控訴をためらう理由として、「不服を申し立てたことで、かえって重い刑になるのではないか」という不安がよく挙がります。この点については条文があります。
被告人が控訴をし、または被告人のために控訴をした事件については、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできません(刑事訴訟法402条)。不利益変更の禁止と呼ばれる規定で、被告人の側だけが控訴した事件で、第一審より重い刑になることはないという意味です。
ただし、これは検察官が控訴した場合には当てはまりません。検察官も控訴していれば、第一審より重い刑が言い渡される可能性が残ります。実際の内訳を見ると、令和5年に高等裁判所で終局処理された控訴事件のうち、被告人側のみの控訴申立てによるものが4,580人(98.7%)、検察官のみによるものが44人(0.9%)、双方によるものが13人(0.3%)でした(令和6年版犯罪白書)。多くは被告人側だけの控訴ですが、自分の事件がどちらなのかは、判決後に弁護人へ確認しておく事項になります。
なお、402条が禁じているのは刑を重くすることです。刑以外の判断が第一審と同じ内容にとどまるとは限らない点は、頭の片隅に置いておいてください。
判断材料③ 何が控訴の理由になるのか
控訴の申立ては、法律が定める控訴理由があることを理由とするときに限ってすることができます(刑事訴訟法384条)。「納得できない」という気持ちと、「控訴理由がある」という評価は、同じではありません。主な控訴理由は次のとおりです。
| 控訴理由 | どのような場合か | 条文 |
|---|---|---|
| 裁判所の構成などの違法 | 判決裁判所の構成の違法、審判の公開に関する規定の違反など | 377条 |
| 管轄・公訴受理・理由不備など | 判決に理由が付されていない、理由にくいちがいがあるなど | 378条 |
| 訴訟手続の法令違反 | 手続に法令違反があり、判決に影響を及ぼすことが明らかなとき | 379条 |
| 法令適用の誤り | 認定された事実への法令のあてはめを誤り、判決に影響を及ぼすことが明らかなとき | 380条 |
| 量刑不当 | 言い渡された刑が重すぎる(または軽すぎる)とき | 381条 |
| 事実誤認 | 認定された事実が証拠に合わず、判決に影響を及ぼすことが明らかなとき | 382条 |
| 再審事由など | 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があるときなど | 383条 |
新しい証拠を出せる場面は限られている
「第一審では言えなかったことがある」「あとから資料が見つかった」という相談は少なくありません。しかし、第一審の記録や取り調べられた証拠に現れていない事実を控訴趣意書で使えるのは、やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調べを請求できなかった証拠によって証明できる事実に限られます(刑事訴訟法382条の2第1項)。
第一審のときに提出できたはずの資料を、判決を見てから出し直す、という進め方は想定されていません。ここが、控訴審を「やり直しの場」と考えたときにいちばんずれが出る部分です。
判断材料④ 実際に結論が動いているのはどこか
控訴理由とは別に、控訴裁判所が職権で調べられる事項があります。控訴裁判所は、必要があると認めるときは、第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状について取り調べることができます(刑事訴訟法393条2項)。判決後の情状と呼ばれるもので、第一審の判決より後に生じた事情がこれにあたります。
その取調べの結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができます(同法397条2項)。ハードルは低くありませんが、控訴審で結論が変わる場面としては現実味のある道筋です。
公表されている数字
令和6年版犯罪白書によると、令和5年の状況は次のとおりです。
| 項目 | 人員 |
|---|---|
| 控訴審としての終局処理人員 | 4,639人 |
| うち破棄 | 406人 |
| 破棄理由のうち判決後の情状 | 277人 |
| 破棄理由のうち事実誤認 | 56人 |
| 破棄理由のうち量刑不当 | 49人 |
| 第一審の有罪判決が覆り無罪となった者 | 16人 |
破棄された406人の破棄理由を見ると、判決後の情状によるものが277人と多く、事実誤認や量刑不当を上回っています(二つ以上の破棄理由がある場合はそれぞれに計上されています)。この数字の読み方には注意が必要です。
- 全国の集計であり、個々の事件で結論がどうなるかを示す確率ではありません。
- 罪名も事情も異なる事件をまとめた数字で、性風俗に関わる事件だけを取り出したものではありません。
- 破棄理由は重複して計上されているため、単純な足し算にはなりません。
そのうえで、傾向として読み取れることがあります。控訴審で第一審判決が破棄される場合、第一審の判断の誤りを指摘して覆すよりも、判決後に生じた事情が評価される形のほうが多い、ということです。
風俗トラブルの事件でいえば
第一審の判決後に、店やキャストとの示談が成立した、被害弁償を終えた、といった事情がこれにあたり得ます。第一審の判決までに示談が間に合わなかった事件で、判決後に話がまとまったというケースは実際にあります。
示談が成立していれば結論が変わる、という単純な関係ではありませんが、控訴を検討するときに「第一審判決のあとに何が動いたか」「これから何を動かせるか」を弁護人と洗い出す意味は小さくありません。判決に納得できないという気持ちだけを材料にするより、検討の幅が広がります。
判断材料⑤ 控訴に伴う負担
控訴すると、その分だけ事件が終わる時期が後ろにずれます。裁判は確定した後に執行されるため(刑事訴訟法471条)、控訴している間は刑が執行されず、判決が確定する時期も遅くなります。前科として扱われる時期も同じく後ろにずれることになります。
一方で、次のような負担も生じます。
- 手続が続く期間が延び、家族や勤務先に知られない状態を保つ時間も、その分だけ長くなります。
- 実刑判決が宣告されると保釈はその効力を失うため(刑事訴訟法343条前段)、身体拘束が続く場合は控訴審で改めて保釈を請求することになります。
- 弁護人の選任は審級ごとに行う必要があり(同法32条2項)、控訴審の弁護費用が別に生じます。資力の関係で選任できないときは、控訴審でも国選弁護人の選任を請求できます(同法36条)。
- 身体拘束が続いている場合、控訴の申立て後の未決勾留日数の扱いは、控訴が棄却されたときと原判決が破棄されたときとで異なります(同法495条)。
金銭的な負担だけでなく、「いつ終わるのか分からない状態が続く」ことの負担も判断材料になります。ご家族に事件を伏せている方の場合、この点が結論を左右することもあります。
控訴しないという判断、いったん申し立てて取り下げるという選択
上訴は放棄することができ、申し立てたあとに取り下げることもできます(刑事訴訟法359条)。ただし、放棄または取下げをした人は、その事件について再び上訴することができません(同法361条)。取下げは後戻りのきかない判断になります。
判決の直後は、内容を落ち着いて検討する時間が足りないことがあります。14日という期間の中で結論を出しきれないときに、期限を切らさないために申し立てておき、記録を確認したうえで改めて判断するという進め方が採られることもあります。どちらが適切かは事件の内容によりますので、判決の当日か翌日に弁護人と話す時間をつくることが出発点になります。
そもそも控訴の話なのかを確認する
「判決に納得できない」という状況でも、手続の名前が控訴ではない場合があります。
略式命令を受けた場合
書類にサインして罰金の略式命令を受けた場合、不服を申し立てる手続は控訴ではなく正式裁判の請求です。略式命令の告知を受けた日から14日以内に、略式命令をした裁判所に請求します(刑事訴訟法465条1項)。盗撮など、罰金刑が定められている事件ではこの形になることがあります。
執行猶予付きの判決を受けた場合
執行猶予付きの判決も有罪判決ですので、事実関係を争う趣旨であれば控訴の対象になります。もっとも、被告人側だけが控訴した事件では刑が重くなることはない一方(同法402条)、審理が続く期間や負担は生じます。何を得るための控訴なのかを言葉にできるかどうかが、判断の分かれ目になります。
控訴審の判決にも不服がある場合
控訴審の判決に対しては上告ができますが、上告の理由は憲法違反や判例違反などに限られており(刑事訴訟法405条)、それ以外の事由で原判決を破棄できるのは、判決に影響を及ぼすべき法令違反や著しい量刑不当などがあり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合です(同法411条)。令和5年の上告事件1,591人の内訳は、上告棄却が1,338人、上告取下げが244人、破棄は3人でした(令和6年版犯罪白書)。控訴審とは間口の広さが異なります。
判決の日から14日の間にしておきたいこと
- 判決の言渡し日と、控訴期間の末日が何月何日になるかを紙に書き出す。
- 第一審の弁護人に連絡を取り、控訴の可否と見通しについて意見を聞く時間をつくる。
- 判決書の内容(認定された事実、量刑の理由)を確認する。
- 第一審判決のあとに動いた事情(示談、弁償、通院、就労など)を整理して弁護人に伝える。
- 控訴審を担当する弁護人の選任と費用について、早い段階で確認する。
避けたいこと
- 控訴の理由がまとまらないことを理由に、期限そのものを放置してしまうこと。
- 相手方や関係者に直接連絡を取り、判決後に自分で状況を動かそうとすること。
- 判決内容や事件の経緯をSNSなどに書き込むこと。
- 第一審で提出できたはずの資料を、控訴審で出せる前提で計画を立てること。
- 「控訴すれば結論が変わる」と決めてかかること、逆に「控訴しても意味がない」と一人で結論を出すこと。
まとめ
- 控訴審は第一審のやり直しではなく、第一審判決の当否を審査する手続です(刑事訴訟法392条1項・393条1項)。
- 控訴の提起期間は14日で、判決の翌日から起算します(同法373条・358条・55条1項)。
- 14日以内に必要なのは控訴申立書で、理由は後日の控訴趣意書に書きます(同法374条・376条1項)。
- 被告人側だけが控訴した事件で、第一審より重い刑が言い渡されることはありません(同法402条)。
- 控訴理由は法律で限定されており、新しい証拠を使える場面も限られています(同法384条・382条の2)。
- 実際に破棄された事件では、判決後の情状が理由として多く挙がっています(同法393条2項・397条2項、令和6年版犯罪白書)。
- 控訴には、期間が延びること、費用、身体拘束の扱いといった負担も伴います。
- 放棄・取下げをすると再び上訴できません(同法359条・361条)。
控訴するかどうかは、気持ちの強さではなく、期限・理由・材料・負担を並べたうえで決める判断です。判決を受けた直後に一人で結論を出す必要はありませんが、期間だけは待ってくれません。判決の内容に納得できない点がある場合は、控訴期間が残っているうちに弁護士に相談し、材料をそろえたうえで方針を決めることをおすすめします。


