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刑事事件で弁護人がつくと、「記録を取り寄せて確認します」と説明されることがあります。ここでいう記録とは、供述調書や実況見分調書、写真、鑑定書などをまとめたものを指します。閲覧とは中身を見ること、謄写とはその写しを受け取ることをいいます。
もっとも、この閲覧・謄写は、いつでも誰にでも認められているわけではありません。手続がどの段階にあるか、記録がどこに置かれているか、請求するのが弁護人か本人かによって、見られる範囲は変わります。同じ事件でも、時期が違えば見える量は大きく変わります。
この記事では、弁護人が記録を閲覧・謄写することで何がわかり、逆に何がわからないままなのかを、条文の枠組みに沿って整理します。ご本人が読む場合とご家族が読む場合の双方を想定した内容です。
この記事で扱う「記録」の範囲
刑事事件の記録と呼ばれるものには、次のような書類や資料が含まれます。
- 供述調書など、本人や関係者の話を書面にしたもの。
- 実況見分調書や検証調書など、現場の状況を記録したもの。
- 診断書や鑑定書など、専門的な判断を記載したもの。
- 写真、防犯カメラの映像、押収した物の一覧などの客観的な資料。
- 起訴状や公判調書など、裁判所の手続の中で作られる書類。
これらは事件ごとにひとまとまりで扱われ、捜査中は捜査機関、起訴後は検察庁と裁判所、確定後は検察庁というように置かれる場所が移ります。閲覧・謄写ができるかどうかは、この「今どこにあるのか」と結びついています。
記録は手続の段階ごとに見える範囲が変わる
| 段階 | 弁護人ができること | 本人ができること | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 起訴される前 | 原則としてできない | 原則としてできない | 刑事訴訟法47条 |
| 起訴された後 | 閲覧と謄写 | 閲覧の機会が中心 | 同法40条・299条1項 |
| 公判前整理手続に付された場合 | 閲覧と謄写 | 閲覧 | 同法316条の14第1項 |
| 判決の確定後 | 閲覧、謄写は許可を得て | 閲覧 | 同法53条1項・刑事確定訴訟記録法4条 |
表のとおり、記録を見られるかどうかは「誰が」「いつ」「どこにある記録を」の三つで決まります。弁護人であっても、選任されればただちに事件の全部を見られる仕組みにはなっていません。以下、段階ごとに見ていきます。
起訴される前は、原則として記録を見ることができない
公判が開かれる前は公にしない、という原則
刑事訴訟法47条は、訴訟に関する書類は公判の開廷前には公にしてはならないと定めています。関係者の名誉やプライバシーが害されることや、裁判に不当な影響が及ぶことを防ぐための規定です。ただし書で、公益上の必要その他の事由があって相当と認められる場合は例外とされています。
このため、捜査中の段階では、弁護人であっても、捜査機関が集めた証拠を制度として見せてもらうことはできません。取調べで示された書面の内容や、検察官が任意に説明した範囲から、状況を推し量っていくことになります。
例外にあたる証拠保全の手続
起訴前でも記録に触れられる場面として、証拠保全があります。あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使うことが困難な事情があるときは、被疑者・被告人・弁護人は、第1回の公判期日前に限り、裁判官に押収、捜索、検証、証人の尋問または鑑定の処分を請求できます(同法179条1項)。
この請求による処分に関する書類および証拠物は、裁判所において検察官と弁護人が閲覧・謄写できます(同法180条1項)。弁護人が証拠物を謄写するには裁判官の許可が必要です。本人が閲覧する場合も裁判官の許可を要し、弁護人がいるときは認められません。使える場面は限られますが、起訴前に記録が動く数少ない例外です。
起訴された後、弁護人が受け取る記録
条文が定めているのは「閲覧の機会」まで
検察官が証拠書類や証拠物の取調べを請求するときは、あらかじめ相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならないとされています(同法299条1項本文)。刑事訴訟規則178条の6第1項1号は、公訴の提起後なるべく速やかにその機会を与えるものとしています。
条文の文言は「閲覧」であり、謄写までは書かれていません。もっとも実務では、弁護人からの申出に応じて謄写が認められる取扱いが一般的で、弁護人はその写しをもとに、証拠に同意するかどうかの意見や、尋問の準備を組み立てていきます。
あわせて、公訴の提起後は、弁護人は裁判所において訴訟に関する書類および証拠物を閲覧し、謄写することができます(同法40条1項)。証拠物を謄写するには裁判長の許可が必要です。ビデオリンク方式で記録された映像の記録媒体は、閲覧はできても謄写はできないとされています(同条2項)。
公判前整理手続に付された場合
争いのある事件などで公判前整理手続に付されると、開示の順序と範囲が条文で細かく定められます。検察官が取調べを請求した証拠書類・証拠物については、閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与えるとされており(同法316条の14第1項1号)、謄写の機会が与えられるのは弁護人であることが条文上明らかです。
さらに、検察官請求証拠の開示を受けた後に請求すれば、検察官が保管する証拠の一覧表の交付を受けられます(同条2項)。一定の類型に当たる証拠(同法316条の15)や、弁護側の主張に関連する証拠(同法316条の20)についても、要件を満たせば開示を請求できます。
謄写には手間と実費がかかる
謄写は、弁護人が検察庁や裁判所の窓口で申請し、司法協会や謄写を扱う業者を通じて行われるのが一般的です。記録の分量が多い事件では枚数に応じた実費がまとまった額になることがあり、依頼者側の負担とされるのが通例です。委任契約の際に実費の扱いを確認しておくと、後の行き違いを避けられます。
記録を読むことで実際にわかること
検察官が何をどう立証しようとしているか
起訴状には、いつ、どこで、何をしたとされているかが簡潔に記載されます。記録を読むと、その事実を裏づけるために検察官がどの証拠を用意し、それぞれをどのような趣旨で使おうとしているかが見えてきます。争う場合にどこを検討し、認める場合にどの事情を補うのかという方針は、ここから組み立てられます。
自分が署名した調書に何が書かれているか
取調べで作成された供述調書は、その場で読み聞かせを受けて署名するものの、控えが手元に残るわけではありません。記録を読んで初めて、自分の説明がどのような文章として残っているかを確認できます。記憶とずれた表現や、意図と違うニュアンスが残っていることもあり、その場合は公判での説明の仕方を検討し直すことになります。
相手方や目撃者の説明の中身
被害を申告した人や目撃者がどのように述べているかは、記録を見るまでわかりません。日時や場所、行為の順序についてこちらの記憶と食い違う部分がないか、供述が途中で変わっていないか、客観的な資料と整合しているかを確かめます。示談を検討する場合も、相手の受け止めがどう記録されているかは判断材料になります。
量刑に関わる事情がどう記録されているか
前科・前歴に関する書面や、生活状況を聞き取った書面も記録に含まれます。被害額や被害品の特定、弁償の有無がどう記載されているかも確認します。事実を認めている事件では、争点よりもこうした事情のほうが結論に影響することがあります。
記録を読んでもわからないこと
| 記録から確かめやすいこと | 記録では確かめにくいこと |
|---|---|
| 検察官が取調べを請求する証拠の内容 | 請求されていない証拠の有無と中身 |
| 調書に残された供述の文言 | 取調べのやり取りの経過そのもの |
| 客観的な資料の記載内容 | 捜査機関が集めたが提出しない資料 |
| 起訴された事実の範囲 | 捜査の対象になった余罪の扱い |
開示されるのは検察官が請求する証拠が中心
通常の手続では、開示の対象は検察官が取調べを請求する証拠が基本になります。公判前整理手続に付されない事件では、類型証拠や主張関連証拠の開示を請求する規定は使えないため、それ以外の証拠については検察官との協議によることになります。
証拠の一覧表に載らないものがある
一覧表に記載されるのは検察官が保管する証拠であり、警察署に置かれたままの資料や、取調べの際のメモなどは含まれません。したがって、一覧表に書かれていないことは、その証拠が存在しないことを意味しません。必要と考える証拠は、一覧表の記載にかかわらず開示を求めていくことになります。
また、記載することによって人の身体や財産に害が及ぶおそれがあると認められる事項などは、一覧表に記載しないことができるとされています。
相手方の氏名などが伏せられる場合
性犯罪をはじめとする一定の事件では、被害者や証人を特定する事項が伏せられることがあります。検察官は、弁護人に対し、被害者特定事項を被告人その他の者に知られないようにすることを求められます(同法299条の3)。それでも防げないおそれがあると認めるときは、被告人と弁護人に氏名または住居を知る機会を与えず、代わりの呼称や連絡先を知らせる措置をとることもできます(同法299条の4)。
この措置に不服があるときは、裁判所に裁定を請求できます(同法299条の5)。最高裁判所は、この仕組みが憲法に違反しないとの判断を示しています(最高裁平成30年7月3日決定)。起訴状の段階でも、個人を特定する事項を記載しない抄本等を用いる仕組みがあります(同法271条の2)。
相手の氏名がわからない状態では、示談の申入れを直接行うことができません。この場合は、検察官を通じて相手方の意向を確認する方法などが検討されます。
弁護人が見た記録を、本人や家族はどこまで見られるか
複製の管理と目的外使用の禁止
弁護人は、検察官から閲覧または謄写の機会を与えられた証拠の複製等を適正に管理し、その保管をみだりに他人にゆだねてはならないとされています(同法281条の3)。
そのうえで、被告人もしくは弁護人またはこれらであった者は、この複製等を、その事件の審理や関連する手続、その準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、提示し、または電気通信回線を通じて提供してはならないとされています(同法281条の4第1項)。被告人または被告人であった者が違反したときは、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定められています(同法281条の5第1項)。
実務では、弁護人が謄写した記録の写しを本人に差し入れ、内容を確認してもらうことがあります。その際は、他人に見せたり渡したりしないよう注意を促したうえで渡すのが通例です。会員制交流サイトへの投稿や、事件と関係のない相手への転送は、この規定に触れ得る行為です。
本人には伝えられない情報がある場合
検察官は、弁護人に記録を閲覧する機会を与えたうえで、証人となる予定の人の氏名や住居を被告人に知らせてはならない旨の条件を付し、または知らせる時期や方法を指定できる場合があります(同法299条の2、299条の3)。
この条件が付くと、弁護人は記録の中身を知っていても、その部分を本人に伝えることができません。「弁護人は知っているのに教えてくれない」と受け取られやすい場面ですが、条文に基づく制限であり、弁護人の判断で外せるものではありません。どの範囲が制限されているのかは、説明を求めれば確認できます。
家族から「見せてほしい」と言われたとき
家族が状況を知りたいと考えるのは自然なことですが、開示された記録の複製は目的外使用の禁止の対象であり、家族に渡す扱いは慎重に判断されます。弁護人が家族に説明する場面では、記録そのものを渡すのではなく、手続の見通しや必要な準備を口頭で伝える形をとることが多くなります。
事件の内容をどこまで家族に伝えるかも、本人の意向を確認したうえで決められます。弁護士には守秘義務があり、家族であっても当然に説明を受けられる立場ではない点は、知っておくと行き違いが減ります。
判決が確定した後の記録
閲覧は原則として認められる
何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができるとされています(同法53条1項)。ここでいう終結後は、裁判が確定した後を指すと解されています。訴訟記録の保存や、裁判所もしくは検察庁の事務に支障があるときは、この限りではありません。
確定した記録は、第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官(保管検察官)が保管します(刑事確定訴訟記録法2条1項)。保管検察官は、請求があったときは、一定の場合を除いて保管記録を閲覧させなければならないとされています(同法4条1項)。もっとも、終結後3年を経過したときなどは閲覧させないものとされ、訴訟関係人や正当な理由があると認められる者からの請求はこの限りでないとされています。閲覧の手数料は記録1件につき1回150円です。
謄写は当然には認められない
53条や刑事確定訴訟記録法が定めているのは閲覧であり、謄写を請求する権利までは規定されていません。検察庁の内部規程では、閲覧を許す場合にその謄写を許すことができるとされ、必要性や生じ得る弊害を考慮して判断されます。当事者であった本人でも、写しを当然に受け取れるわけではない点は押さえておきたいところです。
不起訴で終わった事件の記録
不起訴となった事件では公判が開かれないため、記録は原則として公にされません(同法47条)。民事の紛争で必要になる場面では、弁護士会照会や文書送付嘱託といった手続を通じて、客観的な資料の一部の開示が認められる運用があります。いずれも当然に通るものではなく、何のために必要なのかの説明が求められます。
記録の扱いはこれから変わる見込み
2025年5月、刑事手続に情報通信技術を取り入れる法律(情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律)が成立し、公布されました。令状や証拠書類を電子的な記録として作成・管理する仕組みが導入され、記録の閲覧・謄写もオンラインで行えるようになることが想定されています。施行は段階的に進められ、全面施行は2026年度末までとされています。
紙の記録を窓口で謄写する現在の運用は、施行に伴って変わっていく見込みです。取扱いは施行の時期や庁によって異なり得るため、進行中の事件については、そのつど弁護人に確認しておくとよいでしょう。
相談の場で確認しておきたいこと
弁護士に相談する際、記録に関して聞いておくと見通しが立ちやすい項目を挙げます。
- 今の段階で記録を見られるのか、見られないのか。
- 記録の謄写を予定しているか、するとすればどの時期になるか。
- 謄写の実費が誰の負担になり、どの程度の分量が見込まれるか。
- 開示された記録を自分でも読める形で受け取れるか、説明を受けるにとどまるか。
- 相手方の氏名など、本人には伝えられない情報がある事件かどうか。
誤解されやすい点
- 弁護人がつけば、いつでも捜査記録を取り寄せられるわけではありません。
- 閲覧と謄写は別のもので、閲覧が認められても謄写まで認められるとは限りません。
- 証拠の一覧表に載っていないことは、その証拠が存在しないことを意味しません。
- 開示された記録の写しは、事件の準備以外の目的で他人に交付・提示することが禁じられています。
- 判決が確定すれば閲覧はできますが、写しを受け取れるかどうかは別に判断されます。
まとめ
- 起訴される前は、公判の開廷前は公にしないという原則から、記録を見ることは原則としてできません。
- 例外として、証拠保全の処分に関する書類や証拠物は、起訴前でも閲覧・謄写の対象になります。
- 起訴された後は、検察官が取調べを請求する証拠について閲覧の機会が与えられ、実務では弁護人の謄写が認められています。
- 公判前整理手続では、謄写の機会が与えられるのは弁護人であることが条文に明示されています。
- 開示された記録の複製は、事件の準備以外の目的で人に交付・提示することが禁じられています。
- 判決の確定後は閲覧が原則として認められますが、謄写は許可を得て行うものとされています。
記録を読むこと自体が、結論を動かす作業になるわけではありません。ただ、何が証拠として出てくるのかがわかると、どこを説明すべきか、何を準備しておくべきかがはっきりします。手続のどの段階にいるのか、次にどの記録が動くのかを弁護人と確認しながら進めることが、落ち着いた対応につながります。


