紛議調停とは何か|弁護士会に申し立てる費用トラブルの解決手続

若井亮

若井亮

テーマ:一般

弁護士に依頼したあとで、請求された報酬の額に納得がいかない、預けたお金や書類が返ってこない、辞任・解任にともなう精算で折り合いがつかない——そうした行き違いが起きることがあります。相手が法律の専門家であるだけに、当事者どうしの話し合いだけでは前に進みにくいと感じる方も少なくありません。

 このような場面で利用できる手続のひとつが、弁護士会が間に入る「紛議調停(ふんぎちょうてい)」です。あまり知られていない制度ですが、弁護士法に根拠があり、全国のすべての弁護士会に紛議調停委員会が置かれています。

 この記事では、紛議調停がどのような手続なのか、市民窓口や懲戒請求とどう違うのか、申立てから終了までに何が起きるのかを、依頼した側の視点で整理します。

紛議調停とは何か


弁護士法41条に根拠がある手続


 紛議調停は、弁護士法41条に定められた手続です。同条は、弁護士会は、弁護士の職務または弁護士法人の業務に関する紛議について、弁護士、弁護士法人または当事者その他関係人の請求により調停をすることができる、と定めています。

 手続の具体的な中身は法律には書かれていません。弁護士法33条2項12号が、会員の職務に関する紛議の調停に関する規定を弁護士会の会則に置くことを求めており、実際の運用は各弁護士会の会規と細則によって定められています。そのため、書類の部数や期日の進め方などの細かい点は、弁護士会ごとに違いがあります。

弁護士会が「裁く」手続ではない


 紛議調停は、弁護士会が事案の白黒を判定して結論を言い渡す手続ではありません。調停委員(多くは弁護士)が双方の言い分と資料を確認し、争点を整理しながら、合意ができないかを調整する場です。裁判所の民事調停に近いイメージだと考えると分かりやすいと思います。

 したがって、相手方が合意しなければ、手続は不成立で終わります。逆にいえば、話し合いの余地がある事案では、訴訟よりも早く、費用の負担も小さいまま決着する可能性があります。

費用と非公開の扱い


 申立てにかかる費用は、原則として無償とされています。ただし、弁護士会の会規によっては、特別に要した費用を当事者に負担してもらう余地を残しているところもありますので、申立先の弁護士会に確認しておくとよいでしょう。

 審理は非公開です。事件の中身や依頼者の事情に踏み込むことになるため、外部に内容が公表されることはありません。この点は、弁護士の側にとっても、守秘義務との関係で話しやすい場になるという意味を持っています。

どのような場面で使われているか


 紛議調停の申立てとして実際に多いのは、次のような内容です。

場面申立ての内容の例手元にあると役立つ書面
報酬額に納得できない請求されている報酬が高いので減額してほしい/支払った報酬のうち妥当な額を超える分を返してほしい委任契約書、報酬の請求書、事務所の報酬基準
着手金の精算着手金を支払ったのに手続が進んでいないので返してほしい委任契約書、着手時からの経過が分かる記録
預り金の返還相手方から回収されたお金が渡されない/精算の内容が分からない預り金の精算書、入出金の記録
書類・物の返還預けた資料や物を返してもらえない預けた際の受領書、預けた物の一覧
辞任・解任にともなう争い途中で終わった場合の費用の清算で折り合いがつかない委任契約書(中途終了時の清算の条項)、辞任通知・解任通知


中心にあるのは「お金」と「預かったもの」


 弁護士会の紛議調停委員会の紹介や、委員経験者による解説を見ると、申立ての多くは報酬額、着手金、預り金、預けた書類の返還に関するものです。とくに多いのが、報酬についての合意はあるものの、その条項の書き方が曖昧なために、弁護士の理解と依頼者の理解がずれているという類型だと指摘されています。

 言い換えると、契約書に何がどこまで書かれていたかが、紛議調停の中心的な争点になりやすいということです。

弁護士の側から申し立てられることもある


 紛議調停は依頼者だけの制度ではありません。弁護士が、合意した報酬が支払われないとして、元依頼者を相手方に申し立てることもあります。弁護士職務基本規程26条は、弁護士に対し、依頼者との間に紛議が生じたときは所属弁護士会の紛議調停で解決するよう努めることを求めており、同73条は弁護士どうしの紛議についても同様の趣旨を定めています。

 弁護士から通知が届いて紛議調停の相手方になった場合も、手続の流れは同じです。

市民窓口・懲戒請求との違い


 弁護士とのトラブルに関する窓口は、紛議調停だけではありません。日本弁護士連合会は、市民窓口・紛議調停・懲戒請求という三つの手続と、横領被害に対する依頼者見舞金制度を案内しています。目的が異なるため、どれを選ぶかで得られる結果が変わります。

制度どのような場面かこの手続から得られるもの
市民窓口弁護士の対応や報酬について疑問・苦情がある話を聞いたうえでの手続の案内。苦情を弁護士に伝えてもらえる場合がある
紛議調停報酬・預り金・書類の返還などで折り合いがつかない話し合いによる合意(成立した場合)
懲戒請求弁護士の非行について処分を求めたい弁護士会による調査と、事由が認められた場合の処分
依頼者見舞金制度預けていたお金を横領された日弁連からの見舞金(所定の手続と上限あり)


市民窓口はまず相談する窓口


 市民窓口は、全国の弁護士会に設けられている苦情の受付窓口です。東京弁護士会の説明によれば、業務処理の内容や報酬、言葉遣いや態度に関する疑問や苦情を電話で聞いたうえで、非行を理由に処分を求める場合は懲戒手続、報酬や預り金のトラブルは紛議調停手続を案内する、という位置づけになっています。

 ここで注意したいのは、市民窓口は事件そのものの法律相談を受ける窓口でも、セカンドオピニオンに応じる窓口でもないという点です。また、苦情の内容や、事件における弁護士の主張の是非を判断する窓口でもありません。どの手続を選ぶべきか迷う段階での相談先と考えるとよいと思います。

懲戒請求はお金の解決を目的とした手続ではない


 懲戒請求は、依頼者や相手方に限らず誰でも行うことができ、その弁護士の所属する弁護士会に請求します。処分は、戒告、2年以内の業務停止、退会命令、除名の4種類です。

 ただし、懲戒は弁護士に対する処分を求める手続であり、支払った報酬が戻ってくる制度ではありません。返金や減額を求めたいのであれば、紛議調停か、民事の手続を選ぶことになります。なお、懲戒の事由があったときから3年を経過すると懲戒の手続を開始できないとされている点にも注意が必要です。

依頼者見舞金制度は横領被害に限られた制度


 依頼者見舞金制度は、弁護士が預かり保管していた依頼者のお金を横領した場合に、日弁連が被害者に見舞金を支給するものです。2017年4月1日以降の横領であること、一部が填補された場合はその額を除いた被害額が30万円を超えることなどが条件とされています。

 申請は、その弁護士が当時所属していた弁護士会に対して行います。財産を失ったことを知った時から3年、対象行為の時から5年という期限が設けられており、支給額には被害者1人あたりの上限があります。日弁連自身が、お見舞い金という性格上、支給が確約されたものではなく、被害額の満額が支給されるとは限らないと説明しています。報酬の額をめぐる争いは、この制度の対象ではありません。

申し立てる前に確認しておきたいこと


まず本人に説明を求める


 弁護士職務基本規程は、受任にあたって費用や見通しについて適切に説明すること、事件の経過について依頼者に報告し協議しながら進めることを弁護士に求めています。請求の根拠が分からない、精算の内訳が見えないという段階であれば、まずは担当弁護士に対し、書面での説明を求めるところから始めるのが順序としては自然です。

 このやり取り自体が、後に紛議調停を申し立てる場合の資料にもなります。

委任契約書と報酬の基準を照らし合わせる


 日弁連の会規は、弁護士に報酬の基準を作成して事務所に備え置くことを求め、受任した際には報酬に関する事項を含む委任契約書を作成することを求めています。請求額に疑問があるときは、委任契約書に書かれた報酬の算定方法と、実際の請求書の内訳を突き合わせてみてください。

 中途で終わった場合の清算方法も、委任契約書の記載事項とされています。辞任・解任にともなう精算の争いでは、この条項がどう書かれているかが出発点になります。

市民窓口で手続の選び方を相談する


 どの手続が自分の状況に合うのか判断がつかない場合は、先に市民窓口へ相談する方法があります。相談したからといって紛議調停を申し立てなければならないわけではありませんし、話を整理するだけでも、次に何をすべきかが見えやすくなります。

誰が、どこに申し立てるのか


申立てができる人


 弁護士法41条は、申立てができる人を「弁護士、弁護士法人または当事者その他関係人」としています。誰でも請求できる懲戒請求とは異なり、対象が限定されている点が特徴です。

 東京弁護士会の会規では、申立人を会員、依頼者、または紛議について利害関係を有する者としています。対象となるのは弁護士の職務または弁護士法人の業務に関する紛議であり、職務と関係のない私的な事柄について申し立てることはできないと考えられています。

申立先はその弁護士の所属弁護士会


 申立先は、相手方となる弁護士が所属している弁護士会です。事務所の所在地ではなく所属会が基準になります。所属弁護士会が分からない場合は、日弁連の弁護士情報検索で調べることができます。

 東京には東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会の3会があり、同じ都内の事務所でも所属会は異なります。申立て先を間違えないよう、事前に確認しておくとよいでしょう。

申立てから終了までの流れ


 東京弁護士会が公開している手続の流れを例にとると、おおむね次のように進みます。

  1. 申立人が弁護士会に申立書と証拠書類を提出する
  2. 弁護士会が受理の手続を行う
  3. 受理された場合、紛議調停委員会に事件が委嘱され、担当委員が決まる
  4. 申立人に受理通知が届く
  5. 相手方に申立書と証拠の写しが送られ、答弁書の提出が求められる
  6. 双方に調停期日が通知される
  7. 調停期日が開かれ、担当委員が双方の話を聞いて調整する
  8. 成立・不成立などの形で手続が終了し、当事者に書面で通知される


申立ては書面で行う


 申立ては書面で行うこととされており、申立書には雛型が用意されています。提出部数にも定めがあり、東京弁護士会では申立書1通とその写し5通、証拠書類等の写しは6通とされています。提出した申立書と証拠書類は、原則として相手方に送られます。

 書き方に迷う場合は、事前に弁護士会の担当部署に問い合わせると、書式や部数について案内を受けられます。

申し立てれば手続が始まるとは限らない


 申立書を出せば当然に調停が開かれる、というわけではありません。東京弁護士会の手続では、受付後に会としての受理手続を経ることとされており、委員会へ委嘱されない場合もあると明記されています。

 また、委員会が「調停をしない旨」を議決する場合もあります。事件の性質上調停に適さないと判断された場合や、不当な目的でみだりに申立てがされたと認められる場合などが挙げられています。

調停期日では何が行われるか


本人が出席するのが原則


 調停期日には、代理人が選任されている場合を除き、本人が弁護士会館に出向くのが原則です。当事者が出頭できないからといって、調停委員が当事者のもとへ出向いて期日を開くという運用は行われていません。

 弁護士や弁護士法人以外の人を代理人に立てたい場合は、委任状を提出したうえで、部会または委員会の許可を得る必要があります。家族に代わりに出てもらう、といった対応を考えている場合は、事前の確認が要ります。

持参しておきたい資料


 期日で話が進みやすくなるのは、主張が資料で裏づけられている場合です。手元にあるものを整理しておくと、争点の確認がスムーズになります。

  • 委任契約書、報酬に関する説明書面、見積書
  • 報酬の請求書、領収書、精算書
  • 振込の記録や通帳の該当箇所
  • 弁護士とのやり取り(メール、書面、記録に残る形の連絡)
  • 依頼してから現在までの経過をまとめたA4一枚程度の時系列メモ


 時系列メモは、いつ何があったのかを日付順に並べただけのもので構いません。感情的な評価を書き込むよりも、事実と日付を淡々と並べたほうが、第三者である調停委員には伝わりやすくなります。

手続の終わり方は一つではない


 紛議調停の終わり方は、成立か不成立かの二択ではありません。東京弁護士会の会規では、次の5つが挙げられています。

  • 調停成立(合意内容を記載し、当事者または代理人が署名捺印した調停書を作成し、謄本が交付される)
  • 調停不成立(合意成立の見込みがないと認められる場合や、当事者が理由なく期日に3回以上出頭しない場合など)
  • 委員会が「調停をしない旨」を議決した場合
  • 取下げ(取下書の提出が必要)
  • 当事者である会員が存在しなくなったとき(死亡や懲戒処分による場合)


 手続が終了すると、委員会から弁護士会に報告がされ、弁護士会から当事者に対して、終了年月日と終了理由が書面で通知されます。

成立した場合・成立しなかった場合


調停書は「合意」であり、裁判所の調停調書とは効力が異なる


 ここは見落とされやすい点です。裁判所の民事調停や家事調停では、成立した調停調書に確定判決と同一の効力を認める規定が置かれており、そのまま強制執行の根拠(債務名義)になります。

 これに対して、弁護士法および弁護士会の会規には、紛議調停の調停書に確定判決と同一の効力を与える規定は置かれていません。成立した調停書は当事者間の合意としての意味を持つものであり、相手方が約束どおり支払わなかった場合に、その書面だけで直ちに差押えができるという性質のものではないと理解しておいたほうがよいでしょう。

 分割での支払いを取り決める場合など、履行の確保まで考えたいときは、合意の内容をどのような形で残すのがよいかを、あらかじめ検討しておく価値があります。

不成立でも別の道は残る


 紛議調停が不成立で終わっても、それで争いが終わるわけではありません。民事の訴訟や調停、弁護士会が運営する紛争解決センターの利用など、別の手続に進むことは可能です。

 一方で、紛議調停には、懲戒手続のような不服申立ての仕組みが設けられていません。不成立の結論について日弁連に上訴する、といった手続の定めはないと説明されています。

数字で見る紛議調停


 日弁連の弁護士白書によれば、全国の弁護士会における紛議調停事件の処理件数は、2023年で844件でした。内訳は、成立265件、不成立392件、取下げ147件、その他40件となっています。処理件数はおおむね年間700件から800件台で推移しており、成立に至るのは全体の3割前後という状況が続いています。

 この数字は、紛議調停が万能の手続ではないことを示しています。同時に、年間200件を超える事案が話し合いで決着しているという意味でもあります。過度な期待も、初めから諦めることも、どちらも実情に合っていないというのが率直なところです。

紛議調停で扱いにくいこと


 次のような事柄は、紛議調停の枠組みでは扱いにくい、あるいは対象外となります。

  • 弁護士の職務と関係のない私的な事柄
  • 事件そのものの結論(判決や和解の内容)の当否
  • 争っている相手方の代理人弁護士の言動に対する不満
  • 相手方が話し合いに応じる意思をまったく持たない事案


 このうち相手方代理人への不満については、そもそも自分と契約関係にない弁護士であるため、紛議調停で解決を図るのは筋が違うことが多く、自分の代理人を通じて対応するほうが実質的な解決につながります。

 また、紛議調停の申立てをしても、消滅時効や不服申立ての期限が止まるわけではありません。金銭の請求に期限が関わっている場合は、手続の選択自体を早めに検討する必要があります。

申し立てる前に整理しておきたい5点


  1. 何について、いくらの支払いや返還を求めたいのか(求める内容を数字で書けるか)
  2. その根拠となる書面はどれか(委任契約書のどの条項か、請求書のどの項目か)
  3. 担当弁護士に説明を求めたか、どのような回答があったか
  4. 求めているのは金銭の解決か、処分か、事実関係の説明か
  5. 時効や期限が関わっていないか


 4つ目は特に重要です。求めているものが金銭の解決であれば紛議調停や民事の手続、処分であれば懲戒請求、というように、目的によって選ぶべき手続が変わります。ここが曖昧なまま申し立てると、時間をかけたわりに求めていた結果が得られない、ということが起こりがちです。

おわりに


 紛議調停は、弁護士とのトラブルを弁護士会という第三者を交えて話し合いで解決するための手続です。申立費用は原則として無償で、審理は非公開、進め方は裁判所の調停に近いものの、成立した調停書の効力は裁判所の調停調書とは異なります。

 制度としては使いやすい部類に入りますが、話し合いの手続である以上、限界もあります。まずは担当弁護士に説明を求め、それでも折り合いがつかない場合に市民窓口へ相談し、そのうえで紛議調停か、懲戒請求か、民事の手続かを選ぶ——という順序で考えると、判断がしやすくなるはずです。

 なお、手続の細部は弁護士会ごとの会規・細則によって異なります。実際に申立てを検討する段階では、相手方となる弁護士の所属弁護士会に、書式・部数・費用の扱いを確認したうえで進めてください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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